チートそうでチートじゃない、けどあったら便利。そんな個性 作:八神っち
私はメールの差出人……まあ心操なんだが。それがA組寮の前に居るので会いに行った。気になった人が数人開けっ放しのドアから見守っている。
「おーす心操。どーよ?この服?」
どや顔の私に対して心操は苦笑いを返す。そこに照れは無い。
「似合ってるじゃないか。綺麗だ。うん。誕生日おめでとう」
「そいつはどーも。賑やかな誕生日になったよ」
「プレゼントは貰ったのか?」
「ああ、貰ったぞ。それで?心操は?」
短い会話を重ねてさっさと本題に切り出す。
「俺のはまた後日だ。C組のやつもな」
「ん。そうか」
「なあ物見、この誕生日会は楽しかったか?」
「楽しかったよ。勿論だ」
「そうか……物見」
ちょいちょいと手招きされる。流石に心操は分かってるか。
近づいた私は心操に全体重を預ける様に抱きしめる。心操も私が落ちない様にとしっかりと支える。
後ろから黄色い声が飛び交っているが、私の耳には届かない。
「まだ……他の奴には無理か?」
「ああ……流石に……な」
「そうか……じゃあ、もう休め。説明はしておく」
「悪いな……任……せ…………………………」
私は心操に全てを委ねて……意識を手放した。
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相変わらず無茶する奴だ……こいつは。仕方ない事なんだが。
俺に全部を任せて、規則正しい呼吸をする物見。寝た瞬間には残っていた黒髪が全て白色に変わっている。
「え?モノミン?どうしたの!?」
「直さん!?」
「心操、状況は?」
物見の事態にいち早く反応したのは3名。うち一人は俺を鍛えてくれている相澤先生。てか物見、担任にすら話していなかったのか。
「見ての通り、体力切れです。元々無理して起きてたみたいで」
「え!?嘘!モノミン何も言ってなかったよ!?」
「確かに疲れを見せていましたが……無理という感じでは……」
「物見はそういう奴なんだ」
他者の前では倒れそうな素振りすら見せなかっただろう。他者の前で倒れる事を誰よりも恐れるのだから。それにコイツは無駄に空気を読んでいる。他者が楽しそうにしている空間を壊さない。
「体力が尽きたら、大体半日は気を失う。目が覚めたら丸一日動けない。その間は本当に無防備。だから絶対に何もしないと思える相手の前じゃないと休めない」
「絶対に何もしない……か。そこに心操。お前も含まれている訳か」
「というよりも、俺が知る限りじゃ、俺と物見の両親だけですよ。A組で、倒れない……無理をするって事はそういう事です」
大雑把でパサパサしていて大抵の事は受け流す性格だが、物見の実際の内面は凄くデリケートだ。それを悟られない様に演じるのが巧い。
「それで心操が来たから安心して寝たって訳か」
「どんだけ信頼されてるんだ……」
「てか本当に他に居ないのか?」
首を横に振る。少なくとも中学の間には居なかった。
「それで心操。結局倒れた物見はどう対応すればいい?」
相澤先生が尋ねて来る。少し考えて、対応は1つ2つでは済まないと思い、A組寮に上がらせて貰い、要点をまとめたメモを書く。
なお、物見は、女子達に頼み部屋に運び楽な格好に着替えさせてベッドに寝かせられた。
「倒れた物見は世話というよりも介護に近い」
「介護……?」
「自力で立てない時点で察して下さい」
「あ、ああ……分かった。対応は女性に頼むか」
「俺が立ち会えるならそれが一番、物見にとって安心なんですがね」
難色を示す相澤先生。男女2人を……と考えているのか。それ以前に物見が眠るのは女子寮だ。恋人持ちとはいえ他の女子達が良い顔をしないだろう。
「女子でも人選気を付けてください。いえ女子だからこそ気を付けて下さい」
「それはどういう……?」
「コレ見れば分かると思います」
そう言って要点を纏めた紙を相澤先生に見せる。
…………………………
物見介護要点メモ
・起きるのは倒れてから半日後。そのあとは起きて腕をどうにか動かせる程度の力しかない。
・携帯を枕元に。腕は動かせるからコ-ルがかかる。……俺に。
・起きたのを確認したら、トイレに叩き込む(生理用品も一緒に渡しておけば二度手間無し)。30分は我慢は出来るがそれ以上は無理
・もし漏らしていたら何も言わずに対処。本人は死にそうな顔をしている
・トイレは大体2、3時間おき
・トイレから出させたら、飯をあげる(うどんや粥などの軽い物)。あとは飲み物をお盆にでも乗せておく
・あとは物見の指示に従っておけばOK。無理に構うと寝れない
・眠りについたら起こさない。大体3時間は寝てる
・ずっと一人で診るのなら暇つぶし道具を持って行く事を推奨
最重要!・起きている時に許可なく体に触るのは絶対にNG。トラウマあり
…………………………
「…………………………なるほどな」
無理に構いすぎる連中には無理だ。スキンシップとしてノリで体を触ろうものなら、どんだけ好かれていようが好感度が最下層まで下がる。
「これなら……適役は蛙吹か」
「それ以前に明日は授業です」
「……時間がある女性教員に話をつけておく。心操メモ感謝する」
「お役に立てて何よりです」
「てか、お前はこれを3年間ずっとしていたのか」
「頼まれましたから。ご両親と、何よりアイツ自身に」
「そうか……ま、次からは俺たちも力になる」
お願いしますよ相澤先生。
物見介護検定1級資格持ちの心操でした。ちなみに生理周期まで完全に把握してるガチっぷりです。主人公本人が教えましたから。