チートそうでチートじゃない、けどあったら便利。そんな個性 作:八神っち
緑谷達から帰ると連絡を貰って1時間。そろそろ私も帰るかと思っていると、突如遠くから聞こえる爆発音。
「うわーマジか」
鳴り響くサイレン音。それは紛れも無いヴィランの襲来を意味していた。それを聞き逃げ惑う民衆。誘導を促すも聞く耳を持つ事は無い。
埒が明かないと仕事道具を取りにロッカーに向かいながら、私は携帯を取り出しヒーローの応援を要請。
「待ってろよ」
2分も経たずに着くロッカールーム。買い物は雑に放り入れ、誰も居ない事を確認しスカートを変え軍服の上だけを羽織る。
その他小物とポーチを付けて準備完了である。いざ出陣!
………………………………
あらゆる物が破壊されて炎に包まれているショッピングモール。人々に突き飛ばされて逃げ遅れた一人の少女。逃げた集団から孤立し目立ってしまう事態に陥る。
「おぉーいいねぇその泣き顔。そういうのを見たかった」
この惨状を引き起こした元凶は歪んだ笑みを浮かべて少女を見る。状況に頭が追いつかず、真っ青な顔で泣いていた。
ヴィランはへたり込んでいるその少女が嫌々と首を振る姿を見て更に笑みを深める。
「やっぱり映像より実物の方が何倍もいいねぇ!興奮する!!これに痛みを加えれば一層良い顔するよなぁ!」
ヴィランはそこら辺にある落ちていた欠片を拾い、そして———
「良い顔見せてくれよぉ!」
一度握った欠片を投げてその個性を発動させようとする。
「ひぃ……っいやぁ……誰かぁ……助けっ……!!オールマイトぉ!!」
少女は今は居ない英雄の名を叫んでしまう。来ないのは分かっているが呼んでしまう。
強く目を瞑り数舜後に訪れる脅威から目を離す。
そして……鼓膜を刺す様な爆発音が轟く。
だが
ただそれだけであった。
————————警戒していた脅威は訪れる事は無かった。
変化に気付き目を開くと白いモチモチした何かが視界を覆っていた。
何が起こったのかと視界を確保するために、白い何かから体をずらして見る。
「もう大丈夫だ……何故かって?」
少女の視界が開いた瞬間映った物は、辺りの炎の中で輝く金色の髪と、大きく見える女性の背中。そして振り返ると見える瞳は美しい青色だった。
「——————私が居るから」
先程のヴィランと違い温かく安心させる微笑み、そして力強い女性の声。
「うぅ……ぅ……オールマイトぉぉぉぉ……!!」
あふれる涙で視界がボヤけて、より金髪の女性の姿が英雄と重なってしまい、その名前を呼んでしまっていた。
…………………………………………………
何故にオールマイト……と思ったが今金髪でしたね。完全に忘れてました。
「てめぇ……その装備は再建の旗か……!!」
「そうだが?じゃあ用件は分かってんな?」
不敵に笑うが余り余裕は無い。私にとっては初の個人での防衛戦だ。しかも見た限り敵の個性は……
「爆破系の個性か」
私が一度も勝った事の無い爆破系の個性だ。しかも厄介な類の物である。
「ヴィラン……テメェの罪を数えろ」
かつての英雄らしく……絶対守り抜いてやらぁ!
そうして私は銃の引き金を引き、それが戦闘の合図であった。
「流石に当たらねぇか……!」
銃口から逃げるように体を動かし弾を避けていくヴィラン。そして反撃が飛んでくる。
「やっぱり……手に触れたモンを爆弾に変える能力か!」
手に触れた物を爆弾にして指パッチンで対象を爆破する。どの辺りまでが爆弾の対象になるかは分からない。
「爆風がうざってぇな!」
手榴弾を投げても、地面を爆破させて強引に軌道を変えて来る。その影響で粉塵もヴィランにまで辿り着かない。
そうかと思ったらこちらに突っ込んで来るのを見て壁を生み出すも、壁ごと爆弾に変えて来る。
「うわー相性悪っ!」
復元した物が全て爆弾になって襲い掛かる状態だ。
後ろの子に被害が行かない様にあっちこっちと走り回る訳にも行かねぇから余計にキツい。
間合いに入られて相手が狙うのは私の服であった。
「まずっ!」
服に触られると内側からの爆破でお陀仏だ。何でヴィランの能力はどいつもこいつも殺意高いんだよ!
「ドラァ!」
体を捻り突き出した手の平を躱して腕を取り背負い投げる。
地面に叩きつけられた衝撃で空気を吐き出すヴィラン。私は距離を取りマガジンを変えて弾を撃とうとするが、目の前が爆発し視界が塞がれる。
「空気も爆弾に変えるとか厄介だなホント!」
私はお構いなしに弾をヴィランに撃つが、手元付近が爆発し銃口がブレる。装備が優秀故に手に怪我は無い。
「チッ」
銃は銃口をずらされ、壁は爆破されてあまり効果無し。
舌打ちしながらプランを切り変えて、起き上がろうとするヴィランに、こちらから急接近する。
ヴィランも気付いたのか思ったより早くに起き上がり、周囲を触って爆弾の壁を作る。
「っ……!」
爆弾の壁に構わず突っ込む。容赦なく爆破が行われるが、顔を含む体中を襲う熱さを耐えて直進し拳を握り
「歯ぁ食いしばれぇ!」
破れかぶれで突き出そうとした腕を見切り、顔面に全体重を乗せたカウンターを叩き込む。
「ッッラァ!」
殴られたヴィランが床に沈み動く気配は無い。
「ハァ……ハァ……ッ!」
顔を襲う熱さと痛みを我慢して右手を空に突き上げる。
次の瞬間
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
逃げていた野次馬たちから歓声が上がる。これで終わりだったら楽だったんだけどね。
「むしろここからが仕事なんだよね……」
今なお燃えている周りの惨状を見て溜息。数分後に遅れてやって来たヒーローと警察にヴィランを引き渡し私は炎の中に向かっていった。
こうして修復ヒーロー『2R』の伝説は新たに生まれていき続けていくのであった。
……金髪バージョン(ファン通称オールライト)のフィギュアの発売と一緒に。
終わり