そんな目金君はアレスの天秤に出てくる事はできるのか!?
何だか人生で一度しかない晴れ舞台を誰にも見てもらえなかった―――そんな空虚な感覚が胸の中を占めています。
何故か……それは勿論この間の秋葉名戸とのサッカーの結果があるからでしょう。
メガネクラッシュ出来なかったのがなんだか不完全燃焼で、心の中でしこりとして残っているんです。
切り替えなきゃなぁ。なんせ明日はあの帝国学園との試合なんですから。
そんな事を考えながら日直の仕事を終わらせます。正直勉強は簡単で詰まらないんですよね。
そうしてようやく部活へと参戦しようとしたのに。
おやおや? 明日は帝国戦だというのになんで皆練習をしていないんですか?
僕は練習をしにきたんですが、何故か皆何もしていません。ふーむ。
日直で遅れたのを怒っているんですかね。……いや、あのサッカー星人の円堂君がそんなことする訳が無いですね。っていうかその円堂君も居ませんし。
うーむ、こういうのはマネージャーに事情を聞くのが一番なんですけど……うーん。うーーーん。……仕方無いです。
大丈夫大丈夫、僕は目金欠流。オタクの天敵である夏未さんさえ居なければ僕は女の子にだって話し掛けられます。
……中身ン十歳のおじさんなのに女の子に話し掛けるのに緊張するって……。
「秋君。これは一体?」
「あ、目金君。……そのね」
――― なん……だと……!? あの土門君が帝国学園を裏切ったぁっ!?
しかも冬海先生も帝国学園のスパイだったぁっ!?
いやぁ、驚きです。これはビックリ満天イナズマ落としですよ。
「まさか冬海先生にバスのブレーキをどうにか出来るような知識があるなんて!」
「え、そこ?」
そりゃそうですよ。この世界ではまだスマホなんてありませんし学校のパソコンはWi-Fiに繋がっていませんし、一体どう調べたらそんな事が……いや、そうか。帝国学園で車に詳しい人が居たのか。
オタク特有の自己解決、ありますよね。
「つまりそこの風丸君たちは土門君と冬海先生をどう処分するか考えている、と?」
「なんでそうなるの!? そうじゃなくて、監督をどうしようかって」
「あぁ、そっちですか」
円堂君と何人かがこの場に居ないのは円堂君に監督の伝手があるかららしいです。
……となればやる事は決まっているじゃないですか。
「ところで土門君の処分はどうなったんですか?」
「それは……改心してこのまま雷門でサッカーを続けるって」
「ほほう」
そう言えば秋君は土門君と知り合いとか言ってましたね。まあ、どうでもいいですけど。
「では円堂君に変わり僕が指示します。土門君は僕とお話、他の人たちにはいつもの練習をさせてください。帝国戦は明日なんですから」
「うん!」
秋君が走っていきます。はぁ、なんで僕が参謀役なんかしなくちゃいけないのか……。せめて豪炎寺君が他の人と喋ってくれればなぁ。思い返してみれば、予選の間の作戦説明はほとんどの割合で僕が補足説明をしていましたね。
円堂君の説明は擬音ばかりで恐らく僕と豪炎寺君、秋君程度しか理解してなかったですし、珍しく豪炎寺君が作戦を皆に教えようとしてたから見ていたらホワイトボードの上でマグネットを動かして終わり。
一年組と染岡君は作戦なんてこれっぽっちも立てられなくて、半田君と風丸君の作戦は攻めず守らずの微妙なもの。
結果、円堂君と豪炎寺君(それとたまに土門君)の作戦の妥協点を僕が見つけ出して皆に説明する事になってます。
「それで勝てているんですから良いんですけどね」
問題は次の帝国学園戦。その強さは身に染みているし、滅茶苦茶悪ぶってたおにみち……もとい鬼道君はあれでも天才ゲームメイカーですから、こちらの稚拙な作戦なんかあっさり突破してのけるでしょう。
「……なんだよ、目金」
「そんなに睨まないでくださいよ土門君」
となれば、僕に出来るのはただ一つ。法を犯さない程度に情報収集するだけです。その為なら嫌われる事だって辞さない。
「
やっぱり嫌われるのは無しの方向で。やだなぁ、そんな心臓に悪い事なんてしませんよ。
だって僕は目金欠流。へたれオタクなんですから無茶はしませんよ。ほら、土門君がスパイだったって事は過去の事だよ、って感じで『元』を強調したんです。偉いでしょう?
ふふふ、これこそ僕が雷門のブレインと呼ばれる事となる第一歩なのだ!
「……えぇとだな。残念だが俺も今の帝国学園がどんなフォーメーションで来るかとかは分からないぜ?」
「それで良いです。鬼道君がどんな戦法を得意としているかなんてある程度は調べて分かってますから、誰がどんな必殺技を使うのか、その必殺技はどんなものなのか教えてくれれば良いんです。特に鬼道君の必殺技は気になりますね。あの気付いたら抜いてるあれなんか特に知りたいです」
あれだけは何度見返しても理解できなくてですね、と肩を竦めてみせる。土門君はこめかみを押さえています。
「……鬼道さんが円堂と豪炎寺よりも警戒しろって言ってた意味が、ようやく分かったぜ」
「はい? 鬼道君がそこまで僕の事を? 照れますね」
思わず誤魔化してしまう。照れる……訳がない。むしろ怖いです。え、なんで僕相手にそこまで警戒しているんですか? 天才なら天才らしくサッカー星人の円堂君を警戒しててくださいよ。僕なんて得点元にすらならないんですよ? FWなのに。
自分で言ってて悲しくなりますけど、事実なんですよねぇ。世の中世知辛い。
「おーい! 新しい監督が見つかったぞー!」
「速!?」
おっと、ちょうど円堂君たちも戻ってきたようですね。監督も見つかったようですし、これで憂い無しですね。明日の試合は絶対に負けられないんですし練習をしましょう。
その日の夜。
「すみません、鬼道さん。これからは雷門の一員としてサッカーをやらせて貰います」
『……そうか』
土門は鬼道に最後の連絡を行っていた。
「では、これで」
『待て』
報告を終わらせ通話を切ろうとした土門だが寸前で鬼道に止められる。
「なんですか?」
『雷門でのサッカーは……楽しいか?』
「はい。笑っちまうぐらいにバカばっかで、逆に」
『……そうか』
今度こそ通話は切られた。