「あ、お兄ちゃん❤」
「夕香」
俺は病院に来ていた。夕香のお見舞いだが、夕香は明後日には退院出来る。けれど、明後日まで待てない。
ようやく……ようやく夕香が目覚めたんだ。なるべく側に居てやりたい。
「もー、もうすぐ退院できるんだからそんな毎日来なくてもいいんだよ? 私は嬉しいけど❤」
夕香は椅子に座った俺に抱きついてくる。そしてしばらく抱き締めた後、俺の上に座り直す。
俺は、両腕を夕香の前にまわす。
「んふふふ……ねえお兄ちゃん」
「なんだ」
「遅くなったけど、優勝おめでとう!」
「……あぁ」
そう、俺たちはフットボールフロンティアで優勝した。
未来からの刺客であるオーガ学園を、同じく未来からきた仲間たちとともに倒したんだ。本当に苦しい戦いだった。
だが―――だからこそ、一度はサッカーを止めようとしていた俺も、影山に苦しめられた鬼道も、心から優勝を喜べたんだ。
「ねえねえ、お兄ちゃん」
「なんだ」
「決勝戦のお兄ちゃん、すっごくすっごくすーっごくカッコよかったよ! マキシマムファイアも、プライムレジェンドも!」
「……そうか」
「私も近くで見たい!」
「……」
思わず、まわした腕に力を込めてしまう。ごめんな夕香。あれは……マキシマムファイアは……。
「えっと……もしかして、使えないの?」
「……!」
そう。マキシマムファイアも、プライムレジェンドも、あのオーガ学園との戦い以降一度も成功していない。
どれだけやっても。どれだけ自分を追い込んでも。
あの炎の剣は出なかった。
「そっか……」
「出来ない訳では無いでしょうけどねー」
「!?」
俺と夕香の世界に割り込んできたのは目金欠流。車椅子に乗って悠々と部屋に入ってきた。
「失礼しますよ」
「ほんとに失礼。出てって」
「まあまあ落ち着いてくだ―――」
「出てって」
「……」
目金の言葉を遮る夕香。上からだとうまく見えないが、怒っているのは分かる。
そんなに俺と話したかったのか……。気付けば俺は夕香の頭を撫でていた。
「んにっ!? ……うへへへぇ……❤」
「……なんと言うんでしょうかね、この決定的にすれ違っているのにハッピーエンドな感じは……」
目金が小声で何か呟いているが夕香には聞こえていないようだし、俺は幸せなら良いと思う。
「ごほん。まぁすぐに出てきますよ。それで豪炎寺君がマキシマムファイアをうてない理由なんですが」
夕香を撫でる手を止める。俺には分からなかった理由だが、目金なら分かるのだろう。こいつの観察眼はかなりのものだ。おかげで俺が雷門イレブンで孤立する事が無かった。
「恐らく、ボールが遅いのでしょう」
「は?」
夕香がドスの効いた声を出す。だがそれでも可愛らしさが抜けきれていない。可愛い。
「……えっとですね。オーガとのサッカーでは、マキシマムファイアは未来から来た仲間のシュートに重ねる形で使ってました。ですが今の僕たちでは、例えばタイガードライブのような強いシュートが使えないんです」
「だったらおじさんがそのタイガードライブとかいうのを使えるようにしてよ。お兄ちゃんのマキシマムファイアの為に!」
「あっはっはっ、無茶言わないでくださいよ。……多分、イナズマブレイクを死神返しすればマキシマムファイアやプライムレジェンドを使えるでしょうけど―――」
この状態ではねー、と目金は車椅子を動かす。その両足にはギプスが巻かれている。
「じゃあさっさと治してよ」
「勿論、僕は目金欠流ですよ? すぐに退院してやりますよ。……でなきゃ帝国の人たちに絡まれてしまうし」
そう言えばまだ帝国のメンバーの一部はこの病院に居るんだったな。目金の交友関係は想像以上に広い。
―――それにしても、夕香は目金に随分となついているな。
夕香は普段俺には見せないような顔を、目金には見せている。
強いて言うならば悪友といった雰囲気。やだやだ言いながらも何処か信頼している感じ。
「あのー、そんなに睨まれても何も出ませんよ豪炎寺君」
「え? おじさん、何でお兄ちゃんは怒ってるの?」
「分かってるのに油を注がないでくださいよ!」
ひぇーと悲鳴をあげながら目金は部屋から退散する。
残ったのは俺と夕香だけ。
「……お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「なんだ」
「私が好きなのはお兄ちゃんだけだからね。私はお兄ちゃんと結婚するからね。私はお兄ちゃんだけを見続けるからね。だから、お兄ちゃんも私を愛してね。私だけを見ててね。私と一緒に居てね。約束」
「……あぁ。約束しよう」
そのぐらい。そのぐらい、なんてことない。
さっき豪炎寺君に言った推測は、実は大きな穴があるんです。
それは、円堂君のオメガ・ザ・ハンド。あれはGKの必殺技なのでシュート技の威力に関係ないのですが……円堂君はまだオメガ・ザ・ハンドを使えません。
どういうことなんでしょうね。バタップ君に聞けばすぐに分かるんでしょうが、まぁこんなの些事ですから。