どうして豪炎寺君がフィールドに居たのか。
これはさっきマネージャー君に聞いた話ですけど……どうやら染岡君がボロボロの体を引きずって豪炎寺君に頼み込んだらしいです。あのプライドの高い染岡君が、ですか。見てみたかったですね。
「よ、良かったでヤンス~!」
「やりましたね!」
今は取り敢えず、帝国を追い返した事にほっとしておきましょう。
あ~こんなに疲れたのは久方ぶりですね。もう動きたく無いです。だけどまだやることがあるんですよね。
「やぁ、初めまして。僕は目金欠流と言います。豪炎寺君ですよね? 知ってますよ」
「……」
無言ですか。『よろしく』とかなんとか言えばまだとっつきやすいのに……お互い損する性格ですねぇ。
「僕もFWなんですけど……どうです? 背番号はそんなのより10番の方が着たくないですか?」
「別に」
「そうですか。……でもねぇ、ちゃんと君のシュートは見たんですよ。僕としては、後からユニフォームを交換しろとか面倒なんですよねぇ」
意訳・僕より強いFWなんですから10番のユニフォームあげます。
「……それで?」
「今のうちに上下関係を教えてあげようじゃないですか」
突然の喧嘩に周りがざわつく。よーし、雰囲気出てきましたね。これで豪炎寺君は嫌でもこの申し出を受けなくちゃいけない。……念のためにもう一押ししておきますかね。
「その」
「まーさーかー逃げないですよね? ここで逃げたら炎のエースストライカーの名が泣きますよ?」
これでよし。まさか僕が勝つ訳が無いので、豪炎寺君は確実に10番の背番号を手に入れます。そしてそれはすなわち、豪炎寺君のサッカー部加入の確定となるのです。
変わった歴史を微修正しなおかつサッカー部への加入を促す、まさに一石二鳥!
「さあ、やるならさっさとグラウンドへ行きましょう。円堂君そのボール借りますよ」
「あ、あぁ」
じゃあどんな勝負にしましょうかね。やっぱりボールコントロール? 僕の実力も知れて良いですね。
ふと、ちゃんと着いてきているか気になって振り向きましたけど……ちゃんと来てますね。
「僕のボールを取ったら君の勝ち、君を抜いたら僕の勝ちで良いですね」
「……あぁ」
本当に口数少ないですね。
「それじゃあ始めますよ」
ドリブル。まあ、まずは普通にやって―――
「あ、あれ?」
豪炎寺君、微動だにせず。労せず抜いてしまいました。
「これで良いだろ」
そう言ってその場を立ち去ろうと……うぎぎ、それは困るんですよ。ずっとベンチの10番なんて嫌ですからね!
しかし、やりますね。これじゃあ僕が豪炎寺君に突っかかって空回りしたみたいに見えます。
「良いわけ無いじゃないですか! 真面目にやってください!」
「……」
「あーもうっ! だったら今度は逆です! 僕がディフェンスするので君が抜いてください!」
「……分かった」
豪炎寺君にボールを渡す。くぅ……帝国なんかよりもよっぽど疲れます。
「ふざけるのは無しですからね。逃げるのも無し!」
「……」
「さあ、いつでもどうぞ!」
豪炎寺君がゆっくりとドリブルを始める。……隙だらけですね。酷いものです。
「……」
「……」
豪炎寺君は歩くようにドリブルし、僕の横を通り過ぎた。
「これでおあいこです。……さあ、今度こそちゃんとしてくれます? 正直なところ、そんな姿を見たら……失望しますよ?」
「っ!?」
はったりをかける。豪炎寺君の情報はちゃんと集めてますからね。
元木戸川清修のサッカー部員
炎のエースストライカー。
何故か急にサッカーを止めた。
エースストライカーになるくらいサッカー好きなんですから、サッカーを止めたのと同時期になんらかの事故が起きたと考えられます。そして本人に怪我は無いので事故が起きたのは豪炎寺君の周りの人。
―――まあ、予想だけなら他にもありますけど。カマかけに引っ掛かったんですからこれが濃厚でしょう。
「さあ、全力を見せてください」
「…………」
スライディングで豪炎寺君のボールを取りにいく。
これで取れるのなら、その程度。僕が10番でもなんら問題は無いです。染岡君と僕のツートップ、豪炎寺君はベンチ入り。
まあ、その心配は無くなりましたけど。
「これで良いな?」
「まったく……来るのも遅いですし本気を出すのも遅いですね。仕方無い、10番のユニフォームは君のものです」
いやー。疲れました。今日はもう帰って、眼鏡を新調しましょう。
ユニフォームを脱いで、豪炎寺君に渡す。
「それじゃあ、僕は帰りますね。いい加減疲れたので」
ふわぁ~と欠伸する。おっと、ちゃんと手で口元を押さえてますよ。
「おうっ! 目金、ありがとな!」
「いえ、それほどでも」
実際、僕何かしましたっけ?
そして夜。
「兄さん」
「ん? なんだい一斗」
親にサッカー部員になったと報告したら出てきた赤飯を食べ終え、自室に戻ったのですけど。
ノックもせずに双子の弟が入ってきた。一斗、もしも僕がちょっと言えないような事をしていたらどうするんです?
「なんで全力を出さなかったのさ。兄さんなら帝国なんてもっと簡単に―――」
「それじゃあ意味がないからですよ」
分かってませんね。一斗は僕なんかよりもサッカーの適正があるのですけど……如何せん、個人プレーにこだわり過ぎなんですよね。
まぁ、高飛車な性格のせいでサッカーの相手が僕しかいないというのが一番の原因ですけど。
「サッカーはチームプレーです。チームワークが上手くいかないと勝てないんですよ? そもそも、僕なんかがあの帝国に勝てる訳無いじゃないですか」
「……いつもそうだ。兄さんは謙遜し過ぎなんだよ! 僕相手に手加減して負けて、それで『強くなったなぁ』って、馬鹿にしてるの!?」
おや、そう思ってたんですか? それは僕のすみませんね。……っていうか、最近は手加減なんて一切してないんですけど。
「いえいえ、まさか。実際強くなってるじゃないですか。少し思い詰め過ぎですよ、一斗」
しかし、弟に見栄を張ってしまうのは、兄としての本能ですかねぇ。
「~~っ! 兄さんなんか知らないっ! このオタク!」
一斗は怒って荒々しく部屋を出ていった。
「はぁ……期待しすぎですってば」
ベッドに寝そべる。
僕は目金欠流。超次元なサッカーに追い付いていられるか不安な、ただの中学生です。
目下の目標は、ヘディングの時に顔面を使わないことです。
これで本編終了となります。読了お疲れ様でした。
番外編として、豪炎寺君目線の短編を書くかもしれません。
感想評価、よろしくお願いします。