「かんぱ~い!」
「かんぱいですぅ!」
今回もライブは大盛況のうちに幕を閉じ、そして恒例である焼き肉屋での打ち上げ
れいなとみいなとは対照的に、しいなは一人浮かない顔をしていた
「どうしたの、しいな?」
「一緒にかんぱいするですぅ!」
「か… かんぱい……」
脇をギュッと締め、上半身を伸ばしてグラスを掲げる
その格好は頗る不格好に映った
「………………しいな」
そのグラスに応えず、みいなは射る様な視線をしいなに向けた
「何か今日のしいな、おかしいよ? ライブ中も立ち位置離れてるし、今だってそんな遠くに… 何かアタシ達に不満があるなら、はっきり言ってよ!」
快活な性格の彼女は遠慮も容赦も知らなかった
「…………しいなちゃん?」
能天気なみいなも、場の空気に凍り付く
「………………だって……」
暫く俯いていたしいなは、このままでは在らぬ誤解を生じさせかねないと悟り、勇気を出して言葉を紡いだ
「……だって私… 今日もいっぱい汗かいちゃって… だから… その……」
しいなの膝頭にポツリと透明な滴が垂れた
乙女しいなには、そこまでが限界だった
だけどそれは、例え自分が嫌われても、みんなを嫌っているしいなとは思われたくは無い、という彼女の仲間に対する実直さが現れ、そして絞り出した言葉だった
臭い自分を嫌っても構いません、でも私はみんなが大好きなんです
それが言いたかったのだ
「……しいな、頑張ったんじゃん」
「………えっ?」
「しいなちゃんはがんばりやさんですぅ」
「みいなさん……」
先程とは違う成分を持つ滴が、しいなの頬を伝った
何と自分は愚かな人間だったのだろうか…
ありのまま、自分の全てを受け入れてくれる仲間達を、何故心の底から信頼できなかったのだろうか…
「さっ! もう一度かんぱい、仕切り直し!」
「かんぱいは何度やっても楽しいですぅ!」
「…………うん!」
二人に促され、しいなは再びグラスを取った
もうその脇の下は、引き締められる事は無かった
「「「かんぱ~い!!」」」
その夜のカルビは、これまでのどんな物より極上に思えた
その夜、次のライブ会場に向かうワゴン車の中、しいなは一睡も出来なかった
いや、れいなとみいなも一睡も出来なかった
高速道路を疾走するワゴン車の窓が全開に開け放たれ、冷たい夜風が車内に渦を巻いていた為である
確認できただけで、みいなは3回、車外に嘔吐した
れいなはひたすらハンカチを鼻に押し当てていた
しいなは車窓を流れる光の群れを、ずっと静かに眺めていた