ドラムロールの音が響く
「第7回、乙女フェスティバル選抜総選挙… 栄えある第1位に輝いたのは……!」
割れんばかりの拍手と歓声が、超満員のアリーナに巻き起こり、栄冠を射止めた者を祝福する
年に1度、平和プロダクションに所属する全アイドルを対象に行われる人気投票
今、その開票結果の発表が、全ての対象アイドル立ち会いの元で始まったのだ
「続きまして第2位は……!」
人気投票の結果は全て、アイドル各人のこの1年の努力の成果と言える
彼女らにとってファンの声は絶対であり、勿論大いなる励みではあるが、同時にその生死与奪権を握る、冷酷な悪魔の呟きでもあるのだ
「第3位の発表です……!」
それを目に見える"人気投票"という形で周知する今日のこの日は、彼女らにとっては晴れの舞台と言うより、死刑執行当日と言ったニュアンスの方が強かった
「第4位は……!」
その理由は"選抜"の意味にあった
この人気投票は、人気上位者を連ねてユニットを結成する為の物でも、事務所の看板としてイチオシを得る為の物でもない
最不人気の1人を決めて、皆で嘲り、罵倒し、引退に追い込む為の物だからだ
「第5位~……!」
無論、その最不人気アイドルにも数少ないファンは居て、彼らは激しい憤りと悲しみに直面する事になる訳だが、"乙フェス"オタ達の理論では、それは彼らの"推し"の力が弱かったせいであり、全て自業自得と言う事になるのである
「第6位は何と何と……!」
要は、愛しい己の偶像を守りたければ、借金してでも"推せ"と言う事である
チョロくも阿漕な商売である
昨年最不人気に選出され、休憩時間に鼻をホジってその指を舐めている動画をこの場で公開され、強制引退したアイドルユニット銀河乙女団の某は、翌日近くの川面に変わり果てた姿で浮いており、ファンの文字通り"推しメンの命"を守る為の散財は、更にエスカレートしたのだった
「第7位……!」
基本的にユニットで構成される平和プロダクションのアイドル達
当然、ユニット内でも人気には格差が出る事となる
「第8位! じゃんピンガールズ、剛崎れいな!」
最新参とも言うべきじゃんピンガールズが上位に連なる事ができる程、平和プロダクションのアイドル層は薄くは無い
故にれいなの8位は大健闘と言っても良かった
「れいなさん、凄い!」
舞台の端の方に立っていたしいなは、親友の快挙を我事の様に喜んだ
「……?」
そんな彼女の視界の隅に、暗い影が見切れた
しいなの隣で力無く俯くショートカット
名前は確か… ナツ…
プロダクションでも最もちんちくりんと呼ばれる1人…
その彼女から、どんよりと暗いオーラが滲み出ており、しいなのオカルティーな第三の目がそれを影と捉えたのだ
「第21位… 鳴岡みいな!」
発表は進み、同胞みいなの名が呼ばれた
しいなはホッと胸を撫で下ろす
「第35位……」
戦国乙女団の脳筋ゴリラが呼ばれれ、ついに舞台の上にはしいなと、その隣のナツだけが残された
「…………………………」
正直に心の内を明かせば、しいなは心外であった
自分が一番かわいい、と抜かす程自惚れてはいないが、それでも清楚お嬢様キャラの自分なら、もう少し上に居ても良いと思った
本音を晒せば、みいなよりは少し上には居ると思っていた
「さぁ… ! 遂に今年の総選挙もクライマックス! 辱しめを受けて芸能界を去るのは… じゃんピンガールズ、能海しいなか~! それとも、南国歌劇団の日高ナツか~!」
司会の赤縁メガネの声は、今日一番嬉々としていた
「……グスッ」
「!?」
啜り泣きが聞こえた
「ナツ… アイドルやめたくない……」
消え去りそうな声でナツが呟いた
もう敗退を覚悟しているのだろうか
確かに客観的立場から見ても、流石に自分がナツに負けるとは思えない
否、彼女も十分キュートで魅力的なのである
あるのだが、例えばおっぱいのボリュームなど、己の方が圧倒している
アイドルオタクさん達はきっと、おっぱいの大きい女性が好きな筈である
可哀想ではあるが、この最不人気決定戦は、自分の勝ち抜けであろう
どうも彼女は大分前から、自分の最下位を予見していた様だ
アイドルを続けるには、彼女は余りにもピュア過ぎたのかも知れない
「……………………」
しいなは何か言葉を掛けようと思ったが、何を言っても嫌味にしかならないと思い、その言葉を飲み込んだ
「それでは本年度の、最不人気不細工糞豚アイドルは……」
再びドラムロールが高鳴る
ナツが胸の前に両手を握り合わせ、祈る姿を視界の隅に認めた
「……………日高ナツ!」
コールと共にナツは突っ伏した
わんわんと号泣した
「………………………」
その姿にしいなも胸を掻きむしられた
あの祈る横顔…
最後の最後まで望みを捨てられなかったのだろう…
彼女の胸中を思うと、しいなは居ても立っても居られず、思わず涙が溢れ出た
アイドルとはこんなにも辛く悲しい職業なのか…
しいなはほんの少し、この道に進んだ事を後悔した
「いや~ 残念でしたね~ 今年の恥ずかし固めで摘まんでポイッは、南国歌劇団の日高ナツさんでした!」
全く以て残念さの見えない赤縁メガネが、朗々とおふざけを宣いながら、しいなとナツの元へやって来た
「それでは皆様お待ちかね、日高ナツさんの恥ずかし画像です!」
そう言うと、赤縁メガネは舞台の奥に据えられた、巨大モニターを指さす
思わずしいなも視線を向ける
決して興味本位では無い
どれ程残酷な事を、このプロダクションは為せるのか、という確認の為である
『ドッキリ動画!!』
けばけばしい極彩色で彩られた8文字
しいなは何の事か理解できず、小首を傾げる
「能海しいなさん! お誕生日おめでとう! ……まだ分かりませんか? ドッキリです! 貴女がターゲットのドッキリ!」
「えっ? ……私の誕生日は再来月……」
「しいなさん、いい表情見せてくれましたねぇ! ホント、虫の一匹も殺せない様な顔をして~!」
舞台袖のアイドル達や、アリーナの観客達が、ニヤニヤとしながらしいなを見詰める
「それではみんなでもう一度見て見ましょう! ナツさんがコールされた時の、この腹黒女を顔をっ! 醜い本性が現れる瞬間ですっ!!」
「えっ? えっ?」
モニターには、つい先刻の、あの高鳴るドラムロールと、祈るナツの姿…
そしてそれを脇目にする己の姿…
(……………日高ナツ!)
その瞬間、しいなの顔がドアップで抜かれた
「そ、そんなっ!! ち、違います、そんな違いますっ!!」
そこに映るのは、鼻の穴を広げ、口角を吊り上げ、若干仰け反り、満足そうな笑みを浮かべて、突っ伏すナツを勝ち誇った視線で見下ろしている、己の信じられない表情だった
「これは酷いっ! これぞ腹黒アイドル! 身体も臭いが心も臭い! これは来月の本選挙は大苦戦必至でしょう!!」
「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ウソですぅぅぅぅぅぅっ!! これは何かの間違いですぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
しいなは目の前が白くなっていくのを感じながら、必死に弁明を繰り返し、舞台の上を右往左往した
あんな表情などした記憶は無いが、絶対にあり得ないと言い切れない自分が怖かった
「……しいな、アンタとの付き合い方、少し考えるわ……」
「しいなちゃん、怖いですぅ…… 悪魔みたいですぅ……」
「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
その己の絶叫で、しいなはベッドから飛び起きた