かわいすぎるしいなは世界の合言葉   作:新六毛

7 / 9
猛き女王の為のヴァンクェット

赤いマニキュアを施した、白くて長い彼女の指が、カクテルグラスの括れを摘まんで擡げると、満たされた桃色の中に気泡の波が沸き立った

 

「……と言う訳だったのよ~」

 

頬もほんのり桃色に染める彼女は頗る上機嫌で、この日5度目となる若き日の色恋話を語り終えると、手にしたそれを一気に煽った

 

「ま、まどかさん… ちょっと飲み過ぎなんじゃ… ないですか…?」

 

直前にその杯に酌をした、ショートヘアーの少女… ブラックワンズのアキが、恐る恐る彼女… 事務所の大先輩、風上まどかの飲酒量を嗜めた

 

「ふぇ? 何言ってますのよ? まだ唇濡らしでしてよ? ……どうしましたの貴女方? 何時までもジュースなんか飲んでないで、アルコールいきなさいな」

 

まどかに見渡された面々は、バツの悪そうに俯いて、互いの視線を探り合う

 

「……いや、あの… まどか姉さん… だからその… アタシ達みんな… まだ未成年… かな~って……」

 

じゃんピンガールズの乱闘生、怖いもの知らずのれいな

そんな筈の彼女の声は、まるで拾われてきた子猫の様に甘えていて、媚を売るかの様だった

 

「あらイヤだ… わたくしだけ年増のおばさんなのね~」

「い、いえそんな! まどか姉さんはホント若くてお綺麗です! ねっ!?」

 

助けを求める様に、れいなは他の面々にクルクルと視線を向ける

 

「ホ、ホントだねっ!」

「み、みぃもそう思うですぅ!」

 

慌てて賛同の声を上げる列席者

 

「オホホ… 若いのにお世辞が上手ですわね~ ……さっ ご褒美に一杯…」

 

酒瓶を傾けるまどか

 

「あっ… いえ… アタシはジュースで……」

「あら? わたくしのお酒は飲めません事…?」

「い、いえそんな! た、ただ… ほら、未成年なもので……」

 

「…………飲め」

 

「はいっ!!」

 

れいなはグラスになみなみと注がれたウイスキーを、反射的にエイッと飲み干す

 

『ガダンッ!』

 

酒瓶をテーブルに叩き突ける音が響いた

そのテーブルに居並ぶ6人が、まるでそれに弾かれたかの様に、一斉に小さく飛び跳ねて見えた

 

((……………………))

 

完全にマズイ雰囲気である

明らかに機嫌を損ねた感である

末席に座するしいなは、背中に冷たい汗が流れるのを感じた

 

 

 

 

 

じゃんピンガールズとブラックワンズ…

平和プロダクションの新星アイドルユニットは、デビュー時期も近かった事もあり、事ある毎に対立していた

正確に言えば、れいなとブラックワンズが犬猿の仲であった

今日この日も、レッスンルーム脇の休憩室で、一組しかないテーブルを取り合って火花を散らしていた

そこに偶々やって来たのが、平和プロダクションの大御所、三姉妹ユニット"風上シスターズ"の長姉、風上まどかである

そのデビューが平和プロダクション設立のきっかけであり、会長との愛人関係が公然の秘密である彼女の存在は、他の所属アイドルにとっては文字通り神にも等しかった

そんな彼女が、若手ユニット2組の確執を知る事となり、その仲裁に乗り出したのだ

 

……手打ちの親懇会……

 

彼女だけが私用を許される貴賓室での飲み会

参加を求められた6名は、思わず顔を顰める

 

"鬼酒乱のまどか"

 

その酒癖の悪さは、平和プロダクションのみならず芸能界でも有名であり、彼女との酒席でのエピソードは、お笑いタレントの話ネタの定番でもあった

ただ、当然同事務所に所属する若手アイドル達にとってそれは、微塵も笑う事のできない災禍の権現でしかなかった

そして当然、その参加の要請は事実上の命令であり、まるで冤罪不当逮捕極刑判決の様な衝撃と絶望をもたらすのだった

 

 

 

 

 

「良い飲みっぷりですわね~ れいむ! 気に入りましたわあ~」

 

一同の予想に反して、まどかは上機嫌のままであった

 

「あ、ありがとうございます… あ、あと… アタシの名前は… その… れいな……」

 

この鬼酒乱は当然酒好きであり、酒豪であり、事ある毎に酒席を設けようとする

それを何とか逃れるのが、他の所属アイドル達の日々のテーマでもある

そんな訳で、久しぶり(1週間)に開催されたまどか会(彼女主催の飲み会)… 不幸中の幸いか、彼女の機嫌が悪くなる要素は無かった

 

「……ま、まどかのお姉さん… アタイ達、明日早いんで… そろそろ……」

 

ブラックワンズのリョーコだった

 

(裏切り者!)

 

そんな視線をじゃんピンガールズの面々は向ける

 

「……明日何かありますの?」

「あ… えっと… 明日、大阪のミニシアターでライブが……」

「んなもの~ サボっちゃいなさいな たまには骨休めも必要ですわよ~」

「いやぁ…… でも流石に… ドタキャンは~……」

 

「…………サボれ」

 

「はい!!」

 

再び酒瓶がテーブルに叩き突けられた

 

「……何だか面白くありませんわね~……」

 

6人は竦み上がった

今度は明らかにまどかの顔色が変わっていた

最も恐れていた事態

鬼酒乱の本性が現れ始めた

 

「おい… そこのお前…… 名前は?」

 

いきなり据わり始めたまどかの目

指を差されたブラックワンズのルカは、ビクリと身体を震わし、激しい瞬きを繰り返す

 

「ル、ルカ… ブラックワンズのルカ… と申します……」

 

この日3回目の自己紹介

 

「そんな事聞いちゃいないわよっ!! なんでお前はそんなにチンチクリンなのかって聞いてんのよっ!!」

 

始まってしまった…

不幸な当事者を除く5名は、テーブルの下で足の裏に力を込めた

 

「こっちに来い」

「……はい」

 

ルカは素早く立ち上がり、まどかの側に正座する

 

「ここに座れ」

 

自らも膝を正し、その上を叩くまどか

 

「……えっ? ……あの?」

「早くしろっ!!」

 

電源を受けたかの様に、ルカはその細い腰でまどかの膝の上に飛び乗る

 

「……お前、名前は?」

「……ル、ルカ と… 申します……」

 

間近に鬼酒乱の顔を見て、もう半分涙声のルカ

 

「お前、男は居るのか?」

「い… おりません」

「処女か?」

「……は、はい……」

「そんなんだから、こんなチンチクリンなのよっ!!」

 

いきなりルカの蕾の様な小さな両乳房を、人差し指と親指で挟むまどか

 

「ぎゃぁっ!?」

 

激痛と恥辱に悲鳴を上げるルカ

 

「んふっ 可愛いわね~」

 

その口がまどかに吸われ、悲鳴はくぐもった

 

((うわぁ…………))

 

まるで女郎蜘蛛に補食されるシジミチョウ

そんな地獄絵図を見せつけられた面々は、芸能界は弱肉強食の縮図と教えられたその意味を、今改めて身につまされた

 

「はぅ……! ふふぅ……!」

「ぺちゃっ… ぬちゃっ……」

 

なんとか捕縛から逃れ様とする獲物の悲痛な呻きと、その肉汁を貪る補食者の卑猥な舐めずり…

それが広くはない貴賓室に寒々と響いた

やがて満足したのか、凌辱の限りを尽くされた獲物が放り投げられ、這う這うの体で席に戻る

 

「……そこのお前」

 

口直しとばかりに飲み掛けのウオッカを煽ったまどかは、今度はじゃんピンガールズの方に据わった目を向ける

 

「……み、みぃは… ここには居ないですぅ……」

 

現実を認めたくないみいなが、譫言の様に悲しい呟きを聞かせる

 

「こっちに来い」

「はいですぅ……」

 

命令には絶対である

今度はみいながまどかの側に正座する

 

「あれの物まね、やれ」

「……あ、あれ?」

「あれよ、あれ… ほら、あれよ」

「……???」

「やれよっ!!」

 

酒瓶を振りかざすまどか

弾かれた様にみいなは、貴賓室の柱の一本にしがみ付く

 

「み~んみ~んみいな~… み~んみ~んみいな~…」

 

多分、蝉の物まねだろう

どうしてそれをやろうと思ったのかは分からない

ただ、自分が同じ立場なら、きっと似た様な事をしていたに違いない

もう訳が分からないのだ

5人は皆、そう心に思いながら、哀れなミンミンゼミの高鳴く後ろ姿を見詰めた

 

「おい、お前… あとお前…」

 

完全に無視、と言うか数秒前の己の言動を忘れて、今度はしいなとリョーコが手招きされた

とうとう来てしまった

しいなはゴクリと唾を飲む

今となっては、ミンミンゼミの真似で許されそうなみいなが恨めしい

 

「相撲取れ」

「はい」

「はい」

 

反問など無意味である

しいなとリョーコは、少し離れたら場所で互いに組み合う

 

「おいおい、ちょっとまて~…」

 

少しおちゃらけた鬼酒乱の口調

 

「お前ら、相撲見た事あるのか~…」

 

「…………?」

「…………?」

 

「裸でやれよ~… 裸でやりなさいよ~…」

 

どうかそれだけは…

しいなとリョーコは土下座をし、他の無事な2人も追従してくれた

結果、何とか全裸は許され、下着姿で取り組みに望む事となった

ただしその代わり、折った割りばしを口から鼻の穴に指し、もう1本をパンツとお尻の間に挟み、お尻の割りばしを折るか、鼻の穴から割りばしが抜けた方の負け、と言うどちらにせよ勝者の存在しない特別ルールが適用された

 

「はっけよ~い…」

 

行司れいながスルメの軍配を差し出す

 

「……のこった!」

 

凡そアイドルとは思えない様相のしいなとリョーコが、露出した白い肌をぶつけ合う

 

「のこった! のこった!」

 

この取組の先に、いったい何が残ると言うのか…?

相手のパンツの紐に手を伸ばし、がっぷり四つのアイドル2人

鼻の割りばしのささくれが、粘膜をチクチクと刺激して耐えられない

肉にめり込こむお尻の割りばしが、今にも凶器になりそうでヒヤヒヤする

だがそれ以上に、こんな姿で相撲をしている自分に気が狂いそうだった

 

(お父様、お母様、ごめんなさい…)

 

しいなは心の中で懺悔した

 

「のこった! のこった!」

「み~んみ~んみいな~ み~んみ~んみいな~」

 

結局、今回のまどか会は日付の変わるまで続き、そしてこの後、じゃんピンガールズとブラックワンズが反目する事は2度と無かった…

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。