唐突だが、俺は千反田えるに恋をしている。生き雛祭りのときからだ。何故かはわからない。1年のころには惚れていて、あのとき自覚したのかもしれない。よくわからないが現状、俺は千反田えるに惚れている。
一緒に書店に行ったあとも当然何も変わるわけでもなく、いつも通り放課後部室に行き、雑談したりと普通に過ごした。文集の俺の担当分はすでに終了しているため、何もすることがないのだ。伊原と里志は備品のパソコンとにらめっこしてあーでもないこーでもないと騒いでいた。千反田は俺が勧めた(というかいつの間にか買っていた)ラノベを楽しそうに読んでいる。それにしてもなんでそれなんだ?なんで『サクラダリセット』なんだ?まあべつに気にすることではないか。
今年の文化祭は特にトラブルもなく終わった。まああったといえばあったのだが、それはまた別の話である。総務委員の仕事があるから先に行っててと里志が抜け、それを待つからと伊原が抜け、残ったのは俺と千反田。今から千反田邸で古典部の打ち上げなのだ。陣出まで、二人並んで歩く。俺は言った。
「千反田。ちょっといいか?」
周囲には誰もいない。千反田が言う。
「実は私も折木さんに話があります」
俺は言った。
「同時に言うか?」
千反田が言う。
「では行きましょう」
いっせーので。
「俺はお前が好きだ」
「私、折木さんが好きです」
同時に言って同時に互いの顔を見た。俺は言った。
「なっ・・・そうなのか?」
千反田が言う。
「そうだったんですか」
俺は言った。
「じゃあ、付き合うか‼」
千反田の表情が驚きから喜びに変わる。初恋は実らないと聞いたことがあるが全くそんなことはなかったと知った日だった。
「おや?二人ともずいぶんと嬉しそうじゃないかい。何か良いことでもあったかい?」
里志がそう言う。そんなに顔に出てるかね。千反田は俺でも分かるほどに喜色が表情に出まくっている。だが俺はそこまで表情には出ていないはずだ。千反田が言う。
「ふふふ。そう見えますか?」
見たまんまそう見えるよ。十人中十人が『何か嬉しいことでもあったの?』て聞くに違いない。現に伊原が言った。
「なんかいいことあったでしょ?」
千反田が言う。
「まあ、はい」
打ち上げはそれなりに盛り上がり、結局千反田邸に泊まっていくことになった。千反田が自室に入り、俺たちは千反田の言葉に甘えて一人一室ずつ使わせてもらった。俺はすぐに寝たが、隣の部屋ではなにかやっていたようだ。何かまでは知らないがな。
何があったわけでもなく、朝食までご馳走になって俺は自宅に帰った。リビングに足を踏み入れるや否や、
「おかえり。奉太郎。あんた彼女できたんだって?」
朝っぱらからご挨拶である。血を分けた姉貴とは思えんな。俺は言った。
「まあな」
何故知っていると聞くべきなのだろうが、大方里志あたりから聞いたのだろう。姉貴が言う。
「いやー。まさかあんたに彼女ができるなんてね。意外意外」
甚だ失礼である。俺が恋愛に全く興味がないとでも思ったか。思ってたんでしょうね。ええ。
その後何度かデートを重ね、大学卒業後、俺とえるは死ぬまで結ばれた。