咲き枯れて星いざないの詩   作:麻戸産チェーザレぬこ

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 神仏、大地の森に息衝く精霊、死者の魂など、これらと自由に交流し人間ではなしえぬ力をこの世に、行使する者達がいる。彼らはシャーマンと呼ばれた。
 幽霊といった者を刀とかに憑依させたり、死者蘇生や傷を治すなど色々。


 ねぎごと――神仏に祈願する事柄。願い事。

 


ももよぐさ
一 ()ぎごと


 

 三月のすえ、うららかな朝。少女はまだ(とお)のころ。

 両親と弟は出かけていて学校の友達とも遊ばない休みの日に、少女しか知らない木々が開けたところにいた。そよ風に揺れる花々はまるく広がり黄緑の絨毯のよう、そして調和をとりながら点々に笑顔を覗かせる白い野花たち。

 今日みたいな一人のときや一人になりたいときはここに訪れ、小動物たちといっしょに遊ぶ。

 

 なんとなく。

 誰とも遊ばずに一人ここで小動物たちと遊ぼうと前日の、公園で友達と遊んだあとの帰り道にて思った。

 

 少女はご飯を携えていた。

 

「ほれ、まんまだよ」

 

 匂いにつられてか猫や栗鼠、たぬきや可愛らしい動物たちが集まる。

 

「あ~こらこらいっぱいあるから、そういそがない!」

 

 背負っていたカバンには『三ノ輪(みのわ)(ぎん)』の名札がつけられている。

 

「……!? ちょっ、銀さんの指も食べるなってば~まったく。今だすからまってて」

 

 三ノ輪銀とはこの子のようだ。

 

 ご飯をあげつつ銀は三毛猫の首まわりをこしょこしょとかく。三毛猫のゆるんだ表情を見てか、それとも銀と遊びたいからか鳴き声をあげながら銀の脚や空いている手に頭を擦りつけたり、こつんこつん頭をあてる。

 見守る春の陽ざしが小動物たちを和ませる。

 

「ではっ、一列にならーベー」

 

 並ぶ気配は感じられない。

 分かってたけど――悪戯っ子のように舌をだす。

 

「ねぇ、ひとりいないけ、ど」

 

 ひとり。いつも我さきに銀に飛びつく白い小鳥と今日まだ会っていない。

 その小鳥がなつっこいのではなく逆である。銀が涙する日がつづいた時に寄り添ってくれたのだ。もちろんこれは銀の主観であり低木にて羽休みをしていたところ、しゃくりをあげながら木々の間からあらわれ、隣に座られたけど小鳥は静かにしていた。以来べったりだった。

 ここは静かなところだ。だが静かすぎて、鼓動の音が異様に速く感じてしまいウルサかった。

 雲が太陽を覆い隠してゆく。つい先ほどまで白く咲いていた野花は(こうべ)をたらし(しお)れていた。太陽が無くなったので本性というのか、花々の真実が現れてしまった。

 太陽が雲から脱出すれば、銀からはなれたところに白い鳥が横たわっていた。

 糸が切れた人形のように体の芯が通っておらず

 

「な、なんだそこにいたのか、夜ふかし? 驚かせるの銀さんキラいだなぁ」

 

 その小鳥へ足をすすめていった。ゆっくり、おぼつかない足で。

 小鳥の前で膝を曲げて、いつの間にか知らないうちに震えていたか細いゆびで頭をなでてあげた。なでる流れに沿うよう白いともだちを両手へのせる。

 影はすこぶる震えていた。

 見上げた銀の頬を、涙はつたう。そよ風が吹いた。

 ともだちの羽はひどく青いそらへ、高く吸い込まれてゆく―――――。

 

 

 

 

 ゆっくりまぶたを開けて、いつのまに、と銀。学校の遠足帰りのバスで、最後尾の座席に座りながら揺れていた。

 細い淑やかな(まつげ)は湿っていたため日に焼けた指で涙を拭きとる。

 学校に着いて、二人のともだちと帰り、そして別れてからあの子のお墓にいこうかなと、左窓の先の夕陽に少し顔を向けながら思う。

 

 二人のともだちとは銀の右隣に座ってねむる、誰よりも規律に厳しくも少しポンコツの気がありそこが可愛くて幼いながらも大和撫子なともだち(わし)()須美(すみ)

 須美の隣で口をちいさく開けながら須美の肩に頭をのせてねむり、結構な名家のお嬢様であり上品な顔立ちに似合わぬドジっ子だが、ある点において誰よりも頼もしく出来ぬ事は何も無い天才児なともだち乃木(のぎ)(その)()。気が置けない二人の大親友。

 

 見やり、微笑み――

 

 三人はずっと一緒――もしさ、私だけどこかにいっちゃっても………せなか、ちゃんとおしてあげるからね

 

 銀は、横に振ることができなかった。

 なぜ否定できなかったのか考えようとしたら背中に冷気が走った。 

 

「……夕陽の感傷。ッフ―――あっ」

 

 三人の『三』で銀は思いだした。今月は七月の二十三日が両親の結婚記念日であり、そろそろ準備にとりかからねばならないのだった。

 帰ったら弟の鉄男と作戦会議をしようと決める。すると、なぜか頬がゆるんできた。

 

 無事に学校に着いて担任である安芸が帰りの会を終わらせ、いつもの三人は寄り道をしながら帰った。普段ガミガミうるさい須美が何も言わなかったのでおそらく須美は遠足気分でいるに違いない、と園子と銀は耳打ちをしている。

 

「なっなに! わたしにも教えて!! 二人だけってずるいわっ、ず・る・いっ」

「わっし~なあんでもないよお~。ただわっしーかわいいねってミノさんと言ってただけだよ~ねーミノさん」

「まったくですな。どうする園子お? 須美さっき私らをズル呼ばわりしたぞこうなったらーー。どうされたい須美?」

「銀、途中で考えるのやめたでしょ。いけないわそれ。あとでお手本を銀の体と精神に叩き込むから」

「もしかしてあの時のきせかえコンテストみたいにミノさん泣かせるの~わっしー?」

「そのっち流石ね。銀が覚え悪かったら(ご褒美)として」

「ごめんなさい私が悪かったです須美さん」

 

 分かればよろしいのだよ銀くん、と須美が野太い声で言った。さながら部下に対して自身を誇示する上官であろうか。

 よそに園子が思いだしたかのように言う。

 

「二人とも知ってる? 〝神世記七不思議〟の一つの――」

「あーダメダメ! 園子ォ。今はたそがれ時だぞ、そんな怖いの言ってどうするの、夜一人で脱衣所にいれなくなるぞ!」

「もしかしてあの漫画?」

 

 銀が耳を塞ぎながら壊れるロボットのようにウギギと動きながらやめてよと訴えるが、須美にスイッチが入ってしまい二対一の構図になる。

 

「そうなんよ~。それがね~なんと~連載再開したんだって~」

「たしか二十年ぐらい前に最終回迎えたはずよね? ……神世記になる前の西暦二千年代の漫画で、新世紀元年からもずうっと描かれている〝股旅(またたび)(タマ)ネコたちへ〟。原作者は西暦の終わりを導いた〝死のウイルス事件〟を生き抜いた生き証人。〝ウイルス〟にかかったらしいのにも関わらず死なないで、むしろ生きることをウイルスか何者かに強いられている……」

「おかしな話しだよね~嘘っぱち臭ーい」

「そう! そんな大昔の人間が今の時代まで生きてるはずがない。トォセ、絵やセリフ回しが同じな人が書いてるに決まってるよ。まったくバカバカしい」

 

 今度は園子と須美が目くばせして、にやけながら頷いた。

 前の二人が夕日を背にしながら少しずつ首をひねり、ひねりきって、動かなくなったと思えば生あたたかい息を長く吐き、嗤った。

 

「ほぉんとおにぃ?」

「っひ、このアホ!」

 

 銀は頬を朱らめ、須美と園子は晴々した顔でなぐさめる。その時だ。顔つきが一変。

 なぜなら、不気味な静けさを感じとったのだ。

 

「時が、世界が止まったわ」

 

 この現象は、バーテックスという人類の敵が最後の人類生存圏である四国に侵入したとき、人々を守る神樹様という神が樹海と呼ばれる一種の空間結界を造り出したから。樹海化により生物も非生物も植物に覆われ同化する。そのような樹海を自由に動けるのは須美、園子、銀といった勇者だけだ。

 樹海化されることでバーテックスの攻撃で被害を受けることが無くなるけれども、時間が長引いたり神樹が攻撃されてしまうとその反動が現実に災いとなって降りかかる。

 

 三人は勇者専用端末を手に取り、勇者へとその姿を変えた。

 ちなみにだが勇者に選ばれるのは無垢な少女だけ。

 

「バーテックスはお呼びじゃないんだけどねぇ」

「も~せっかく楽しい遠足だったのに~。最後の最後でコレなんて無粋ってやつだよ~」

「遠足終わった後に来た分、マシじゃん」

「家に帰るまでが遠足なのよ、銀」

「先生か!」

「それじゃあ~行くよ~! なんたって今の私はひと味違うよ~」

 

 三人はバーテックスを撃退すべく駆け、樹海化の最中に生まれた細い丘を飛び越え、別の丘に着地してはまた飛び越える。

 園子は続けざまに、

 

「甘口じゃなくて、ビターな私だよ~!」

「よく言った園子。それでこそ男だ」

「緊張感!」

 

 そんな三人の勇者であったが、三人で一体をなんとか撃退できるくらいなのに三体のバーテックスが襲ってきた。

 初戦は善戦していたのだが最後に現れたバーテックスが不意討ちをしてきて、須美と園子を瀕死直前まで追いやる。

 須美と園子よりはマシだった銀はともだちを安全な処に寝かせて、――またね……と言い残し撃退しに往く。

 須美のぼやけた目に一人で全てを背負い込もうとする小さな背が映り、手をのばそうとしたが、力尽きてしまった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 西暦二千年の一月四日。

 去年の十一月に兄は十四歳を、妹はその年の二月に十二歳を無事に迎えた。

 

 二人の兄妹は四日前まで行われていたとある大会、シャーマンキングという名の地球を司る王、言いかえれば神様を決めるシャーマンファイトを本選敗退という結果で終えた。

 この世もあの世も全てを救う神様を生きている人間から選ぶ、侵してはならない儀式。最悪、負けたら命を落とす危険もあった――実のところ優勝し神へと成った者によりシャーマンファイトに関わった全ての人間が殺されて、生き返ったが――。また、優勝したとしても死ぬ運命(さだめ)

 

 例えるなら人柱のようなものだろうか。人が神に成るのだからこの点においては当然であろうし、ほとんどの参加者やその関係者もそれを理解していた。

 

 そしてすべてが終われば兄と妹は大会で出逢った友たちと宴会を楽しんでいた。

 

 友人たちのこれからを讃えあった宴も終わり、あしたの朝一番の新幹線に乗るから兄妹は東京のホテルで一泊する。

 

 ――どさり。部屋にはいるまで、自分のと妹の荷物をかついでいた兄は窓ぎわに置きにゆく。

 上半身を起こせば窓ガラスに、兄へと歩く妹が反射する。そして窓の外を見渡した。夜景が目障りだったのだろうか空を見上げてみたけれども首を振り、カーテンを閉めた。

 振り返れば、踏み外せば命を落とす氷の道を俯きながら、足をふらつかせて歩を進ませる妹、この世にもあの世にも一人しかいない妹を、兄はむかえにゆく。

 

「泣きやめよ、ピリカ」

「ない、てないもん……」

 

 ピリカは兄を大会に優勝させるために支え続けていた。

 そして、シャーマンファイトで死なせないよう、生きて笑顔が見られるよう兄を励ましていた。

 北の大地は北海道で、自然の温かさに厳しさを師として一緒にふんばった。兄を思った修行を考え、それを課せば地獄の如き修行だったので兄は泣き、そんな愛する兄を叱咤した。そして兄は妹と、今は亡き親友との思いを胸に抱いて、夢を叶える為に奮戦し、一時たりとも棄てなかった。

 兄の胸で泣くピリカ。

 

「おに、ぃっちゃん………」

「ありがとなピリカ。ピリカがいなかったら、オレぁ今、ここにはいなかったよ。本選に出る未来も無かった、予選も、大会参加資格も無かった、ピリカとこうしていることも無かった………ピリカ」

 

 ピリカは震えながらゆっくり、おにいちゃんの胸に自分の顔を押し付けつつ横にふる。

 湖に映る冬空のようなおなじ色――、兄とおなじ色彩の髪に温かい雫が、重なりあう。

 

 ありがとう

 

 目をほそめ妹の背中をさする。

 しだいに、抱きしめていった。

 

「ふろ、さきにはいりな」

 

 頷かない。

 おにいちゃんは頭をなでた。すると涙に消え入るような声がうっすら聴こえたので、顔をよせる。ピリカが何か言い、兄は微笑みながらうなずく。

 

「だな。ホロケウお兄ちゃんと久しぶりにはいるか……」

 

 頷くピリカ。

 ピリカの兄ホロケウがもう一度頭を撫でてやり道具を取りに行こうとしたけれども、ピリカは離さない。やはり、ホロケウも同じような思いがあったからなのか、ピリカとホロケウは離れずにいた。

 しばらくベッドに座りながら重なりあっていたけれども時間が来たので、ホロケウとピリカは脱衣所へ向かう。

 

「何だよピリカ」

「べつにぃーー」

 

 なぜか機嫌を悪くしてい、何か言おうとした時だった。

 

「ほう、兄妹仲睦まじく風呂か」

「て、てててめぇーはッ!?」

「は、ハオさんッ!?」

「『ハオさん』じゃない。シャーマンキングだ」

 

 艶がある黒髪をのばし日本人形ように整った顔立ちをした少年が例のシャーマンキングである。

 極度の人間嫌いであり、弟好きをこじらせていて、見た目からして年齢はホロケウと同じに見えるけれど千歳を超えている。

 

「いやおなじだろ」

「うるさい。おいピリカ、すまないがお前の兄を借りるぞ」

「ダメですッ。()()()()()()()をわたすなんて()デスッ。ハオさんそれでも神さまですか」

「まったくダッ。俺たちの時間邪魔すんじゃあねえ。この常識知らずのアホが」

「……ッフ。だが、僕という神がホロホロ((ホロケウ))に頼みにきているんだぞ?」

「んなこた知ってる。お前でも手に負えないってのがな。せっかくピリカとゆっくりできると思ったのによ」

「………せっかくお兄ちゃんといっしょなのに」

 

 ハオはため息をついた。

 

「しょうがない。お前の妹が寝付くまでの時間はやるさ。終わったらこの鈴を鳴らせ」

 

 鈴を投げ、そう言い残し消える。

 しばらく経ってからピリカとホロケウが米粒のような喧嘩をはじめるのだった。

 

 

 

 青空色の髪が血管をピクピクさせながら現れた。

 

「やぁ、碓氷(うすい)ホロケウ」

「おめぇ、ざけんなよ。あと、その名前で呼ぶんじゃねーつうの」

「だがお前の氷は解けたんだろ? カリムから聞いたぞ」

「あのブサイク野郎ォ……で、わざわざこのような人間をシャーマンキング様のコミューンに連れてきて何させるつもりだよ」

 

 ブサイク野郎とは言ったが彼に感謝の思いを忘れた刻はない。

 

 ホロホロはぎりぎり歯を鳴らし目の前の、さらさらした漆黒な長髪で女顔な美形少年を睨む。

 一人と一柱が相対する場所は辺りいちめん真っ白な世界であり静寂に包まれているが、ホロホロが召還されてから少し賑やかになっていた。

 

「お使いだよ。ここではない世界に行ってはくれまいか」

「何で俺なんだよ」

「キミが一番暇してるだろ?」

「……。お前たしか全知全能の神様になったんだよなァ? やっぱおめぇアホだよ」

 

 言うや否やホロホロの顎に隕石が衝突。

 戦闘モードに入っていたら簡単に避けられるのだが。

 

「ハオぉぉお、死にかけたぞ! どっちもどっちだけどッ」

「これから僕が言うことをよく聞け。まずだ、彼方(あちら)には協力者がいてな――」

「協力者? 協力者がいるならソイツらにやってもらえばいいんじゃ、いや違うか。ソイツら負傷でもしたか、()()()()()じゃあない、か」

「んー、まずまずな考えだが悪くはない。()()()()()()()()()のは彼彼女たちが二十代後半の時で、たしか既に全員米寿は迎えてぽっくり逝ったから……、あの子たちがいない二百すう十年を経た世界にキミは往くんだよ」

「待ていっ跳躍力高いって! お前がシャーマンキングになってから四日。彼岸と此岸や、異世界と今いる世界の時の流れにはズレ生じるって大衆向けの物語にあるが、詰めこみすぎよ? 頭が追いつかん」

「僕もここまでとは思わなかったさ……話を戻すね。初代の協力者はいないけど()は消えちゃあいない。次世代の人間がキミの生活面を陰ながら支えてくれる」

「へぇ、有り難い。でんも霊能力者じゃないのね」

「初代は霊的力を持っていたけど………。お使いといったがそこには人間たちが云う、いわゆる、そのなんだ、化け物が存在し…………まぁ、迷惑をかけているんだ」

他人(ひと)を助けようなんざ成長したな」

 

 褒めるなよ、照れるじゃないかとハオは微笑み、ハオが左手の人差し指だけをたたしホロホロの額にあてて小さくつぶやき始める。かろうじて聞き取れるけれども聞いたことが無い言葉たちだった。

 

 時は移ろい続ける。耳に聞こえてくるのはやはり、ハオの何かしらのささやくような詠唱。

 

 突如として、ホロホロにヴィジョンが浮かんだ。

 

 一人の少女がバカデカい生物、否、怪獣と双斧で戦っていた。普段は活気あっただろう可愛げな顔は睨みを利かせ、頬は空気に触れ、少し黒っぽく変色した切り傷に水ぶくれ。

 紅い戦闘服はところどころ破かれ、血は流れてゆきゆっくりと、時間をかけてゆっくりと、赤く、染めゆく。細いがしっかりとした瑞々しい小麦肌なる脚にはアオイ痣ができ、土埃を体に被り、ちいさなちいさなコンクリートの破片がいたる傷グチから中身に触れてい、肩で呼吸するだけでいたいけな少女の肉に。

 怪物から遠ざかろうと足は震えて下がりそうになるが、なんとかして後だけには下がるまいっ! 純白な歯を思う存分、にかっ――。

 

 気丈にふるまうような少女を、碓氷ホロケウは視ていた。

 ハオが確認を取りホロケウは、ああと一言発して消える。

 

「ホロホロ 碓氷ホロケウよ

 

  星祭りのゆめ紡ぐ 

 

  朝が歌は肴 水面(みなも)の月をうつは舞い

 

  小金の大地を結ばん ()えたる遣い

 

  汝 (きざ)す雨也

 

  ……さて、お前らのほうは枯れるを恐れず咲くだけか」

 

 コミューンには、誰もいない。

 

 

 

 

 

 樹海化は、少し解けていた。

 もの凄く高い山のような細い丘に立ち、紅い戦闘服をたなびかせる少女。

 

「っくっそーこれじゃカッコつかん」

 

 目の前で蔑んでくる一体のバーッテクッスを相手に三ノ輪銀はぼやく。バーテックスのペースに呑まれないために場違いなことを言ってみた。

 雑音が消えて視野は広くなった。やっぱやってみるもんだなと新たな発見をする。

 

 敵は他に二体いるが暫らくは地の底でお昼寝中である。

 

 一体だけでいい、今はこの、サソリの尾をもつバーテックスだけでも撃退出来れば善い。

 斧を中段に構える。呼吸を落ち着かせ、全身の力を抜き、糞野郎の糞呼吸を見極め、合わせ、挫く。

 

 己は殺す斧だ考えるな感じるな。

 

 すると何かがきらめく。

 

 銀の持つ斧が熱を帯びて蒸気を噴き出し白銀に輝きだす、銀のまわりの空気が熱くなり、蝕んでいた破片どもが上空へと打ち放たれ、……斧に(ひび)がはいっていく。

 

 風を切る韋駄天が怪物の首を狩りに飛びかかりバーテックスは一瞬にして消えた小娘を追い、見つけたかと思えば目前で頭を刎ねる構えが完遂。

 

 バーテックスは今までナメ腐っていた(われ)捨てて生意気を叩き潰す為、唸って爆風を発し銀に浴びさせた。緩んだ瞬間にこれもまた殺す準備が整った。

 

 銀は叫んだ。満身創痍それがどうした怪物野郎、緩んだだって? これは死に逝く者(星野郎)に対するただのメイドの土産だ――。 

 

「お前に……あたしはっ!! にんげんさまのおお――気合いって、ヤツをさああっっ」

 

 衝撃波がこの瞬間生まれる。

 上が騒がしいと思うも目の前の敵に全神経をもって集中する銀と、何故か泣きべそかきながら落下するホロホロが衝突したモノだ。

 

 ――にゃっぎっ!?

 ――イッ!?

 

 三ノ輪銀とホロホロの意識が少し飛び、反動でバーテックスの視界から消える。死に直結する攻撃を二人は回避した。

 

 意識不明の機会を見逃してやるほどの寛容さをバーテックスは持ち合わせておらず、そして、二体のバーテックスが起き上がり、サソリのバーテックスにむかう。

 三つの巨大な影が子ども二人を囲んでゆき三体は顔を天へとむけて()()をつくる。

 

 さきほどまで樹海は神秘的な明るさを有していたけれども、バーテックスが形成する黒い玉がソレを奪う。

 

 三ノ輪銀が起き上がり、スノーボードを背負い、白目をむき阿呆面した見知らぬホロホロを抱きかかえ十二分に距離をとった。

 視野に奴らがきっちり入るけれども身体は震え、倒れていた場所に置いてしまった斧を取りにゆけない。

 

 ――……バケモノはあそこにいるのにィ、ナニやられたんだ!

 

 嘲うかのようなバーテックスの頭上にはでかく闇を凝縮した弾がイカヅチを帯びてい、銀の体が完全に停止した。

 

 しかし、睨んでいた。

 睨み続けることしかできなくて、ボロボロな己を叱咤することもできなく、悔みがあり過ぎて。

 

 緑におおわれたアスファルトが少しづつ濡れてゆく。

 

 闇が静に迫ってくる。一つも残さず触れたものを歪ませ呑みこんでゆく。

 闇に喰われる時が近づくにつれ、銀に赤ん坊の弟の泣き声が届いた。

 戦わせてくれと願うが、指一本も動く気配がない。死が頭によぎった瞬間――――。

 

 こちらへ放たれた忌々しき砲弾が氷漬けになり、砕け散った。

 

ウォセ((遠吠え))…………」

 

 雪花弁は舞う。

 銀の瞳に映るは、吹雪のようにさびしい眼をしたホロケウ。右の手に身体が青く頭が縦に長い小人(?)を乗せている。

 

「ワルイが、とっととひかねえと凍傷するぜ?」

 

 突然、三体の図体がビクッと震えたかと思えば、カベの外へ退散していく。

 

「あ、……」

「通りすがりのアイヌなシャーマン、ホロホロさっ」

 

 ニッと歯を見せて笑った。

 

 

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