咲き枯れて星いざないの詩   作:麻戸産チェーザレぬこ

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・図太い神経の持ち主なためホロホロは下の名前をちゃん付けで呼んでいます
・『清らなり、枯れた花』その1

※不愉快に思われるかもしれません
※この物語にアンチ・ヘイトはございません


二 清らなり、枯れた花

 

 バーテックスが力を使い壁の外へすり抜けて撤退するなか、手すりを杖と見なし地に足をつけていた銀がくずれた。が、ホロホロが近くにいたので事なきをえる。銀に、ホロホロは肩を貸してやり、戦斧を拾いにゆこうとすると銀の短い悲鳴。足を止め歩道の転落防止柵へとすぐさま切りかえす。たぱん、たぱん、背中を叩くも向きを変えない。整われた小さな口がおもむろに開いたり閉じたりし、痛ましげな(ひとみ)が咎めの視線を投げる。

 唸りながら瓜ざね顔をぐっと近づけると、銀は、どこかひんやりする心地よさを感じた。

 そして眠ってはいけないのに、ホロホロに体を預けるのを許してしまいそう。

 

「病院のとこさ行くからさ、寝てな」

 

 アルカイックな笑みを向けられてしまえば痛みを忘るるために意識を手放してもよいかもと、暗い水面下から浮かびあがる。銀は従う。

 

 橋の柵まで来た。

 銀の負担にならないように抱き方を変えホロホロは空を飛翔した。久々に高く飛んだ彼は目を輝かせたまま、かるく息をつく。

 

「ころっ……ゥ゛、S(スピリット)O(オブ)R(レイン)オーバーソウルIN(イン)スノボ! 決めるぜ空中滑降」

 

 ぬいぐるみサイズの青い精霊が出てきたかと思えば、人魂になってスノーボードに憑依した。ホロホロは器用にそれへ乗り、巫力というシャーマンに必要な力を使いスノーボードから雪を放出して滑り降りる。雪の抵抗が落下速度を減速する役割をはたしていた。ホロホロに抱かれている銀は汗ばんだ髪を風に乱されながらぐっすり眠っている。

 波うつ海にばしゃんの音はたたなかった。

 深い青に揺れながら浜に向かい、ホロホロは自身を盾にし銀を風からかばう。

 

 しかしだった。銀の友達であり同じ勇者の鷲尾須美と乃木園子とすれ違いになってしまい、そこにたどり着き、息は途切れ咳き込みながら目にしたのは()()()()二挺の戦斧。

 

 

 ようやく砂浜についたホロホロは道路に出る。横を見やるとあの橋に多くのパトカーやら消防車やらが集まっていく。それとは対照的にこの場所は閑である。

 

 車道に向かって親指をたてると運よく一台の車が走ってくるも通りすぎる。次にまた現れるが通りすぎる。そして次は高級車が通りすぎていったホロホロが肩越しにチラと見やれば、ギンッといきなり止まった。車は一生懸命走りだそうとするけれども霊的力によって動かない。車の前にホロホロがヘアバンドを深くしながらおどりでる。

 主人は少年とにらめっこを強いられてしまう。ごくり唾飲む時間も無いままに少女と少年を乗せる。

 

「お前、いいモン持ってるのに運転下手だな」

「うっ、うっさいよ君ぃい!」

 

 静かにしなと少ししめっている銀を看ながら言いやった。銀の前に青い小人が浮かんでいる。

 存外、病院はすぐに診てくれた。しばらくいろいろすべきことがあり時間がかかるらしいから、一人で病院や周辺を巡りはじめる。あの青い小人は連れずに銀の側にいるよう頼んだ。S・O・Rは名の通りありとあらゆる水の力を持つ精霊であり応用することで、日本神話にみられるイザナギの禊のように穢れを祓え、かつ怪我を治せるようになる。ホロホロはさらに治癒力を高めるためお手製の儀礼用具にS・O・Rをオーバーソウル――霊を物体に憑依そして霊の力をこの世に具現化――。

 包帯に巻かれた頭をぽりぽりかく。

 

「あいつ頭かてぇんだよ」

 

 ホロホロも石頭に自信があるのだけれども前の世ではあんなに危険な頭の持ち主はいなかったはず。だが、あぶねぇー頭のヤツはたくさんいた。この世界でも命がすり減る危険を潜りたくないと思ったからなのか歩くのをやめて、緑の背もたれ椅子に深々もたれかかる。

 周りを見渡すも何も視えず、聴こえず。

 なにも手を施していない病院には、さまざまな死者の霊や生き霊が躍り遊んでいたり誰か呪っている。お祓いされている病院であれば少なくとも残りかすが漂い、浮遊霊も寄ってこない。ここはさきの二つに当てはまらず、浜にあがったときもカムイたちの霊力を借り銀の痛みをやわらげようと試みるもカムイたちは顕れなかった。ただ、あのバーテックスに驚き逃げたのだろう思っていたものの、全く逢わないとは不可解。

 未来王との初対面より肝冷えるっつうの――ここまで気味が悪いと感じるのはシャーマンをやっている彼でもそうそう無かったことである。

 そろそろ戻るか、と口にだし探索をやめた。

 

 

「――さァ、ん! ……ん? さん……3?」

 

 視界に入ってくるものがぼやけている。三度ほどまばたきをしてみればよく見える。白い天井、硝子の花瓶、季節外れでおかしな紋様のスノーボード、筒が片腕に組み込まれた青い小人、腕のかさぶた、風にたなびく日光に、耳をすませば波の音とそよ風が銀の側にいる。

 深く蒲団をかぶり意識を手ばなしていく、というも土台無理な話であり無視することは誰も出来ないだろう。目と目が合う。

 がらりとドアが開かれた。

 

「お? 気分どう」

「あのときの……、アレ? 痛み、ない。なにしたの」

「治療を手伝わしてもらった」

「ふぅうん、その青いの何?」

「ちっちぇえのはS(スピリット)O(オブ)R(レイン)って名の精霊、そいつの手にあるのはラマッタㇰイカヨㇷ゚((魂をよぶ宝矢筒))。お前の心と体が早く治りますように、とこめられたお祈り用具。視えんだ」

「今日が初めて、スピリットなんちゃらとラマがみててくれたんだ……ありがと」

 銀が青い精霊をなぜる。

 撫でるのをやめ口を覆う。

 

「まだ病み上がり、子供の薬は睡眠だぞ」

 

 微笑みながら目をこすりもぞもぞうなずいた、心地よい寝いきがつたわってくる。

 精霊が視えるのにこういう体験ははじめてとはますます頭がねじれてきた。たしかに、霊能力がある者でも神仏や霊との波長が合わなければ一生出逢えない(ためし)もある。ホロホロはこの世界の住人でないから視えず聴こえず触れずと云った事でも無いよう、銀の事例は謎を解く一つの鍵であって欲しい。S・O・Rが空で胡座をかきながらホロホロに顔を向ける。

 

「まず食わねばなんとかなるもんもなんともならねっ。っし! 香川県ってなにうめぇんかなっ」

 

 音符である。

 遅すぎる昼食を食べることはなかった。財布にはいっていたのは千円と『千年魔京、千年の都、僕がシャーマンキングになるまで千年。』と書かれたかみきれのみで、これらを見てホロホロは食べる気が失せたのだった。銀行のカードはというと彼が住む予定の家にあるらしいが病院からは遠すぎる。

 

「千がどうしたんだよ……!! あいつ前よりましてめんどくさい」

 

 銀の側で愚痴る。

 すると銀が目覚めた。

 

「んま? ずっと居てくれたの?」

「起こしたか。すまん」

「どれくらい寝てた」

「まだ今日の夜だ。あとよかったな、病院に空き部屋あってよ」

「………………よくない! あいつらが、まだあそこに。まってっる……!!! いかなきゃ」

「って、ヴぉい゛ィ」

 

 ホロホロが押さえつけようとするも力任せに銀は抜け出そうとした。ベッドは軋み揺れ動く。

 しばし格闘が続く。

 

「は な し て !」

「ッうおっ」

 

 目の前の邪魔な阿呆ヅラを押し返し病室から走り出した。ホロホロがころげるもすぐさま後を追う。二階建ての病院であり銀は見慣れているのだけれども、長く感じた。

 二人は夜の、病院の外に出る。人っ気が無い。そのため荒い行動をとっている二人というものは、患者や看護師などにありがたい程迷惑。

 出入口から少し離れた駐車場で逃げる銀であったが、病み上がりゆえに車止めブロックに足をもっていかれてしまった。ホロホロが跳び出し、銀の前まで腕を伸ばしてクッションになるよう一緒に倒れこんだ。ごつっとヤな音が、腕の中でもがき息を切らした銀の耳を刺激。これをよい事にホロホロの腕から逃げようとも少年から眼を背けようともしない。なぜならケガした弟を看る時の眼に、銀はなる。

 

「おま――」

「ったく。慌てんなよ。逃げなくても一緒に行くつもりだったんだぞ、今から」

「うそ……。ごめん、て、おい! 頭から血が」

「気にすんな。よくあることだ。ま、まずは病院に謝りに行くか。それからだ」

 

 今度はホロケウに妹をあやすような〝め〟をされたら、頭を横にふるワケにはいかなくて、そしてふと、見つめてしまう自分。

 この時の自分を知るのは、もう少し時間を費やさねばならないのだった。

 先にホロホロが歳よりくさく立ち上がり早く行くぞと促すも、彫刻のように動く気配が無く左手をさしだす。そこでやっと気がついたらしく恐る恐る手を掴み、あまり少年に負担をかけぬよう、ほんの一寸だけ控えめな臀部はアスファルトから離れる。

 こっぴどくしかられた後、夜中に二人はこっそり脱け出しコンビニで腹のたしなるものを探っていた。

 ――あのさ、銀が碓氷ホロケウに質問を投げる。

 

「碓氷くん、は勇者なのか。バーテックスを下がらせたし、氷がばぁアんって出て、精霊つかって治すし」

「勇者ねぇ。ふむ」

 

 ホロホロが銀から飲み物と軽食を受けとりレジに出し、千円を店員に渡せば減ってかえってきた。店を出ると、夜の空は赤い明るさであり、少年だけがため息をついた。

 銀は頭を少し前につきだしホロホロの顔をのぞくと空に視線を向けていたので、それにならってみるも今日はいつもより夜という感じがしない。でもまぁこんな夜もあるのだろうと銀は考える。

 

「……答えるが、こっちからもオーケー?」

「ん」

「その勇者ってのは幽霊や精霊、神を使役しばーてっくす(?)と面と向かうのか? 銀ちゃんの斧にばかでかい力を感じたんだけど」

「神様の力はつかってる。神樹様っていう神さま。わたしら勇者は神樹様をまもるために勇者になって、神樹様から力をもらって、いろいろしてる」

「ならオーバーソウルと同じシステムっぽい、か。……なぁあと一つ、さっきの斧だせる?」

「ちょっと待って。………レレ? ごめん、無理っぽい」

「ありがと。じゃ次俺が答える番。俺はシャーマンで、まぁ分かるだろ?」

「神さまをとらんす(?)して占ったり、交信したりってやつ?」

「んだ。それとさっき銀ちゃんが言った通り治療もできる」

 

 銀の肩にのっているチビ精霊が胸をはった。チビの頭を、銀は中指でなぜたらプルプルした様な面白くって不思議な触感を覚える。オーバーソウル状態のS・O・Rが肩にのっている理由は銀の怪我を癒しているから。

 ちなみに、人智をこえる心霊治療はシャーマンのなかで一二を争う高位な術であり、巫力や精神力を激しく消費する。ホロホロを見てみるが苦しい表情は窺えない。隣を歩くのは幼い顔に影をさす女の子であるため、不安にさせてはならないのだろう。

 話しはそれで終わった。銀はホロホロがどうやって勇者しかいないあの場に入ってきたのか、なぜ動けたのかを訊くより、そんなことよりも遙かに確かめたいモノがあった。

 歩きながらともだちの家の方向をのぞむ。――すみ、そのこ……――ホロホロには勿論、呟いた本人ですら気づいた様子はない。

 

「早くしないと親御さん心配の炎で焦げ焦げになっちゃうぞ? 心配させんのはほどほどになー」

「そう……だね」

 

 いつの間にかホロホロは先を歩き離れていたらしく、小走りで、空いた距離を詰める。

 横に並べば隣の少年があくびを漏らす。

 そう言えば〝あっち〟は夜で、〝コッチ〟に来てからもう夕方から夜となりまだ一睡もしていない。のびざかりな時期にあってはならぬ事態であり、ああ還ってきたらあのアホただじゃおかん、そう決めてまた大きく口を開いた。

 ホロホロの袖口を恥ずかしそうに、上目づかいでくいくい引く。

 

「ウチに泊まればいいんじゃない? えっとね、ウチ駆け込み寺ってやつらしいのさ。そう父さんが言ってた」

「嬉しいねぇ。でもよ、おれ十四の若造よ? 夕飯はもらえると思うがさすがに、って分けでもないか。こんな夜遅くに車で出歩くなんざ……何変な顔してんの」

「変なのってそっちじゃ……んんっ、自分を十四やらワカゾーとか言ってるけど碓氷くんまるっきり小学生だし、見たかんじ私と背丈一緒だよ」

「……マジ?」

「マジ」

「そうかー、どうりでコンビニの棚からモノ取りだすの苦労したわけだ。そうかそうか、俺小学生になっちゃったんだな……待てよ? あいつ生活面って言ったよな。普通、小学生って朝メシ食べたら小学校に行って勉強して遊んで帰ってくる……まさか、な。けどそれだと世間体はなんとかしてやるって言うよな。言えよ」

「こ、心の声なら口に出さない方がいいゾ。ぎ、銀さんちょっとブルってきたから」

「なぁ銀ちゃん」

 

 ホロホロが銀を睨んだ。

 

「ひゃっ! ひゃあい!」

 

 今日の銀は何度驚くのだろうか。また、この少年がある意味バーテックスや須美より怖いと思った。

 

「銀ちゃんのお陰で死なずにすみそうだ。ありがと」

 

 銀は視線を落とす。

 

「死ぬって、それは私こそだ。死ぬのが怖かったかどうか分からなかったけど、……私もっと生きたいっ、弟たちと遊んでたいっ……父さんと母さんに迷惑かけたくない……園子に須美と離れたくないッ……。どこか遠くにいっても、背中を押してあげるって思っていたど、コレって実はみんなを不幸にするんだっ――て。それに、私の夢も捨てちゃうことにもつながっちゃうのさ」

 

 夢のことを口にした途端、銀の頬が朱にそまる。

 

「………碓氷くんが助けてくれなかったら、家族に、園子に須美とにさ、ただいまって言えなかったよ。ありがとね」

 

 ――よかったな。とホロホロがやわらかく返せば――うん。と答える。

 夜風は髪を揺らすよう吹いている。

 りん。

 近くで風鈴が響いた。りん。二たび鳴るが煩わしくはない、また、どうやら一邸の(やしき)の所有物であり数は一つらしい。

 夜だからか、この邸の門前を通りすぎることに躊躇いを覚えてしまう。それでも二人はその路を歩いてその際に表札を目にする。

赤嶺(あかみね)家〟

 隷書体でそう彫られていた。

 赤嶺を過ぎてから、ホロケウが声のトーンを落として呟く。

 

「……臭う」

 

 後ろから聴こえ、眉をピクッとさせたあとに銀は歩調を速めた。

 

「やっぱり――ってどうしたよ?」

「な、何でもないけどさ。今臭うって――」

「燃えるようなニオイが、あっちから」

 

 心臓に悪いんだけど、そう口を尖らせながら指の示す先を追う。唾を飲んだ。

 

「気のせいだよ」

「はっはッはー、だよなー俺もそう思いたいけど……」

「碓氷くん寝てないからでしょ? 早く私ん家で休んだほういいよ」

「わかったわかった、そう睨むなってば! なっ」

 

 

 

 先ほどまでは固定電話に二人の携帯電話がたてつづけに鳴っていた。

 台所で横になりながら、黒髪の女は目をつむっていた。男はテーブルに突っ伏しその赤い手には灰となった紙が握られているのである。長男と次男は保育園の人達が面倒をみているはずで、長女はまだ学校から帰ってきていない。

 ボウ、ボウ燃やされる鍋や、強すぎる為なのか近くに置いてあった玉ねぎや椎茸等の具材に引火していた。流しに目を向ける。流しの上には電動式の乾燥機能付き食器棚があったが、流しに落ちていた。巻き添えとして蛇口が折れている。固定電話が置かれてる棚に五人が写った家族写真をはじめとした写真が黒ずんでい、黒は今でも侵食を止めないどころか勢いを増していた。

 ミシシ――ッ。女と男の上の天井から耳に障る音。白い天井は写真のように変色し、この家と同じく家族の将来も真っ暗になってしまうのか。

 突っ伏していた机がとうとうおじゃんになってしまい、男も自然の摂理に従ってベタり床に臥すしかなかった。男の肉が所々焦げ落ちているのだが、ようく見てみると不思議なことに男の肌に紫の紋様がなぞられていて、そこの部分は何事もないのである。対して女には火傷等の外傷が見当たらない。

 奇っ怪、女性と男性の顔は安堵の表情を浮かばせている。絶叫をあげるくらい熱く、咳き込み鼻や喉が焼けるほどのニオイに囚われているのに。

 電話の音は鳴らなくなったが報知機は懸命に主たちを呼びつづけ、消防車といった緊急自動車のサイレンが外からけたたましく叫んでた。外にいるのはそれらだけではなく、当然群れをなす野次馬がいれば、まこと心配して目に涙をためる人や泣き叫んで崩れる人もいる。それほど二人は慕われていたのだ。もしかすると、国の守り神である神樹様よりも。

 

「なーんて、あるわけないですよねぇ」

 

 悲しむ初老の男性の背中をさすりながら、仮面をつけた人が誰にも聞こえない程度の小ささでつぶやく。何が、あるわけないのだろう。

 その人は周りをぐるりと見渡せば、紋様は違えど同じく仮面をつけた人を捉えて、―――はぁ。ため息をもらすと同時に炎の勢いが増し、ずどぉおん――二階が落ちてその衝撃が(からだ)に突き刺さり、舞い上がった火の粉が降りかかる。『下がって!』警察官達が声を張りあげ前線を退かす。前から人が押されてきてその人は驚いたがドミノ倒しにはならなかったのでホッとした。もしそうなってしまってもその人の知り合いがなんとかしてくれるはず。彼も見物客として来ているのだから。

 流れに任せながら目を瞑る。黙祷に見えてしまう。

 

「無下……です。……はやく、終わらさねば」

 

 おもむろに目を開き、燃え盛る炎より遙か上の、星がのぞめない空を見あげて。

 夜が更けるにつれ、なんだなんだと寄ってくる人間が多くなる。前、後ろと人が徐々に密集してきたので男性の手をとり安全な処へ避難し、仮面のその人は現場を背にして南へと離れてゆく。

 同時に北の路から、赤く目を腫らしただならぬ形相で叫びながら走り狂う銀。人混みの近くにたどり着くと急に止まり、膝に手を置いたり俯く事をせず、燃える家を見上げ、嗚咽をあげている。

 汗と大量の涙で顔がぐしゃぐしゃだ。

 

「やだ、やだ、いやぁ……やぁ、やだやだやだ………」

 

 震えて疲労を訴える太腿、ふくらはぎ。足の感覚は消え失せていたが一歩、また一歩、足枷を引きずって進んだ。

 左手を伸ばす。そして虚をさまよう。

 いきなり後ろから左腕を掴まれ後ろに引かれた。

 

「いくなッ!」

 

 銀より汗だくなホロケウで、物陰に隠れこむ。

 銀を行かせないよう少女両腕を掴む手に力をいれるが銀は前へ突き進む。食いしばるなか銀が暴れて振り払おうとするが、感情に身を委ねている為に隙はがら空きで、そこをバッ、と銀に抱きつくように拘束した。

 腕の中でもがいては少年の足を踏み抜かんとす。一瞬ホロケウの顔が青ざめた。

 

「つぅ……! ゴメンな銀ちゃん――寝ろ!」

 

 突然銀の目の前にあの精霊が顕現。片腕から水玉を発射。睡眠作用があるそれをもろにくらう。

 そして、まばたきを何度もやるのは抵抗の証しか。

 

――ごめんなさい

 

 口を小さく動かし、気を失う。

 陶磁器を扱う様に銀をおんぶする途中、青の精霊がホロホロの襟を摘まみとある方向を指す。その先にあるはこれからホロホロとS・O・Rが住まう家。

 

「銀ちゃんも連れてくか?」

 

 精霊は頷く。

 

「捕まえる前によ、あの人混みん中に仮面つけたのが5、6人いた。アンタも不気味に感じたのか」

 

 もう一度こくり。

 

「そんじゃあ、案内たのむ」

 

 宙を漂う精霊にむかって軽く頭をさげた。精霊は目をぱちぱちさせ、ホロホロの頬をぺちぺち叩くとホロホロは顔をあげる。目と目があうと、精霊は目を細めた。

 そうして、誰にも気づかれずに、精霊と少年は家を目指す。

 

 

 

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