満月が静かに照らす夜、帝都サクリファイスの東門に身なりの良い美少女が、大荷物を抱えて現れた。
ギャハギャハと聞こえる声は、門番たちが発しているようで、その門番たちは、ポーカーに夢中なようだ。
「こんばんわー!夜分遅くに申し訳無いのですが、どなたかいらっしゃいませんのー?」
声に気がついた門番は、監視室の窓から手だけを出して、追い払うようにひらひらと振ると、
「悪いけど今日は終いだよ、さぁ、帰った帰った!」
と酒焼けでガラガラの声で言い放つ。
「通常料金の倍をお支払いしますわ!おねがいです!中に入れてくださいまし!」
彼女がそう言うと、酔っ払った門番が、真っ赤な顔とふらつく足で監視室から出て、少女を舐め回すような目で見た。
「随分といい身なりじゃねぇか、お嬢ちゃんヨオ、ヒック…。でもなぁ、そんな簡単に中に入れるわけにゃいかねぇのさ。ヒック…。この先は、我らが賭博王国の帝都、サクリファイスだ。何かを賭けて、俺と勝負してもらわなきゃなぁ?例えば、嬢ちゃんのその綺麗な服とかをヨォ♪」
と言い、ニヤニヤしている。他の門番も、いいぞ、いいぞと盛り立てる。そんな中、彼女は、天使のように、にこりと微笑むと
「わかりましたわ。私は服を。あなたたちは、門を開ける権利を。それで、何で勝負しますの?」
と承諾した。門番達からの口笛が鳴り止まない。
「せっかくトランプがあるんだ。ヒック…。コレで俺達とひと勝負しようか。」
そう言うと、門番達は折りたたみ式のテーブルを広げ、新品のカードを開ける。
「やるのはジジ抜きだ。だが、ただのジジ抜きと思うなよ?ヒック…☆カードを配り切らないで、途中から増やすのさ…ヒック…」
「増やす?と言うと?」
美少女が尋ねると、まだ酔いが回りきっていない門番が答える。
「まず一人7枚ずつ配る。んで、当前のようにペアは捨てる。その時、捨てたペアの数の分だけ引いてくれ。全員が捨て終えたら、時計回りにジジ抜きを始める。このゲームでは、他人からカードを受け取る時、山から一枚取らなきゃいけない。ジジ抜きのジジがいつくるかもわからないし、途中で手札がなくなったら、山から3枚取らなきゃならない。ちょいと億劫だが、これがルールだ。わかったかい?お嬢ちゃん。まずは慣れるために俺と一戦…」
「いえ、結構ですわ。理解しました♪」
門番が言い終える前に断る。そして、嬉しそうに、
「さぁ、早くやりましょう。楽しみですわ♪」
と微笑んだ。
門番がジジを抜き取り、シャッフルする。7枚ずつ配り、それぞれ思い思いにカードを見る。酔いが回りきっていない門番、脂ぎった小太りな門番、酔っ払いの門番、そして美少女の順に時計回りでカードを引くことが決まり、いよいよ時は来た。
「準備はいいかい?嬢ちゃん。」
「えぇ、構いませんわ。ちゃっちゃと始めて下さいまし」
一枚引き、山から一枚取ることを繰り返す。しばらくはそればかりだ。門番もこの工程には飽きていたのだろう。
「それにしても嬢ちゃんよ、一体どこから来たんだ?」
と、美少女に質問を投げた。
「チェス村ですわ。亡きお母様の遺言で、生き別れのお父様が、帝都にいると言う情報だけを頼りに来たんですの。」
「やめてくれよ、お嬢ちゃん。俺はジョークは嫌いだぜ?」
「ジョークなんかじゃありませんわ!」
「わ、わりぃ!」
そんな中、美少女は違和感を覚えていた。
とあるカードが自分の元に何度も来ることを。
よく観察してみると、そのカードは綺麗に一周して戻って来ることを。
きっとまだペアが山にあるのだろう。
そう思って進めるも、なかなかでない上に、そのカードが門番にまわると、全員が嫌そうに顔になる事も。
彼女は行動に出た。本来引くべきカードを手渡しし始めた。そのカードは必ずペアになる為、最初は恐る恐る受け取っていた門番も、後半には喜んで受け取るようになった。そして、山がなくなった。
「さぁ、嬢ちゃん、ここからがバトルロイヤル…」
「あがりです♪」
彼女は最後の一枚を門番に渡した。次の瞬間、門番は青ざめた。そのカードは
「ジョーカー…」
「私の勝ち、ですわよね?ジジはジョーカーなんでしょう?さぁ、門を開けて下さいませんか?」
「おい、おまえ!まだジジはひらかれてないのに、なんでわかった⁉︎まさか、不正したんじゃないだろうな?」
「不正?何を仰いますの、不正をしていたのはあなた方でしょう?このジジ抜きはジジ抜きではなく、最初からババ抜きだったのでしょう?ジョークをやめろと仰ったのは、カードがジョーカーであると他の者に伝える為だったのでしょう?表情や意図が丸わかりですわ!」
「こんにゃろ…!!」
逆上して手を振り上げる門番。美少女が顔を腕で隠した次の瞬間、
「いででででで!」
一人の美少年が、大の大人の腕をひねりあげていた。
「やめたまえ、門番くん。レディに暴力を振るおうだなんて、男の風上にも置けんな」
「誰だお前、じゃまする…ぁ…あぁ…る…ルーク様…」
「門番、確か貴様は、俺に借金があったな?貴様の借金には高利子をつけてやる…覚悟しろ。さぁ、門けたまえ。通さぬと、全員の借金の利子をはねあげるぞ!!」
門番達はみな恐れおののいて、
重く閉ざした門を、やすやすと開いたのだった。