ダンジョンに狂気の芸術家がいるのは間違っているだろうか   作:.<ぼくの 絵 かっこいい

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ふと思いついたネタ。
タイトルは驚く程に適当ですごめんなさい。


白兎と奇才

 走れベル・クラネル。

 

 

 

 別に激怒しているわけじゃ無いのだが今ベルはとてもまずい状況に陥っている。絶賛全力疾走中であり、少しでも気を抜くと足が絡まってすっ転げそうだ。でも一度でも足を止めたら多分一瞬で葬り去られるだろう。

 後ろから雄叫びをあげて迫り来るミノタウロスに。

 

 あれは本来Lv.2の冒険者でも手を焼くモンスター。Lv.1どころか駆け出しもいいところの己が立ち向かうなどチワワがシェパードに立ち向かうようなものだ。確実に屠られる。

 

 道なんて分からないけれど逃げる以外の選択肢がないベルは、がむしゃらに角を曲がって、

 

「ハッ、ハァ、……か、壁!? そんな!」

 

 

 その先にあったのは無機質で無慈悲な壁。

 

 焦りに任せてそれに拳をぶつけるが効果などあるはずもなく、背後にズシンと重たい足音がした。全身からとめどない汗が吹き出る。

 

 ゆっくりと振り向いた先には、牛頭。

 

「、っ」

 

 壁に背をつけてへたり込む。ああもうダメだ。まさかこんな早く、こんな結末で死んでしまうなんて。ダンジョンに出会いを求めるなどと言っておきながら何も出来ずに死ぬのか。

 そんなベルの絶望などお構い無しに、ミノタウロスは頭上に巨大な腕を振り上げた。死と痛みの恐怖で反射的に強く目を瞑った。

 

 しかし直後聞こえてきたのは粉砕によって起きる轟音ではなく、ザシュッという乾いた斬撃音と低い悲鳴のような鳴き声。恐らくミノタウロスのものだ。

 

 恐る恐る目を開けて化物がいた地点に視線を向けると、そこに居たのは綺麗な金色の長髪と碧色の瞳を持つ小さな女の子と、その足元で倒れ伏すミノタウロスの亡骸だった。

 

「……え、女の子?」

 

 まさかこの子がミノタウロスをやったのか? 見るからに僕より小さな子。恐らく10歳程度なのではないだろうか。緑色のワンピースに青色のリボンスカーフというあどけないその姿を見て、どう考えてもあのモンスターをこの子がやった等と俄に信じられないのだが、その手には確に血濡れのパレットナイフと思われる特殊な形をした刃物が握られている。

 

 こちらを見る不思議そうな表情と手に握られた獲物のあまりの不釣り合いさにベルの頭の上でハテナマークが回っていた。

 

「終わったかメアリー」

 

 ふとその少女の背後から低い男の声が聞こえてくる。それにより漸く我に返ったベルの事など気にも留めずに、少女はその男へと声を返す。

 

「お父さん、この人が襲われてたみたい」

 

 小さい指の先をこちらに向けた"メアリー"と呼ばれる少女の横に、"お父さん"と呼ばれる人物が姿を現す。

 

 深海のように暗い藍色をしたボサボサな髪と生気の感じられない灰色の目。ゆっくりと動かされた瞳と目が合った。その異質さに息が詰まる。

 

「お父さん暗すぎ。また怖がられてる」

「小言は要らん。……そこのお前、怪我はないか」

 

 笑いながら話す少女に、男がじろりと視線を向けて冷たく言葉を返すという奇怪な風景に呆然としながらも、安否を確かめられてすぐに口を動かした。

 

「は、はい! 助けてくれて、ありがとうございます」

「……元はと言えば俺達のファミリアが起こした失態だ。お前が謝ることは───」

 

「ゲルテナ、終わった? ……その子は誰?」

 

 こちらの礼に何となく嫌そうな顔で否定した男が喋り終わる前に、後ろからまた新たな金色の髪をした女性が顔を出した。いや待てこの人、というか今……、

 

「今、ゲルテナって……え、えええええ!? ゲルテナってあの!?」

「……俺の他にその名を持つ奴は知らん。喧しい子供だ」

「……普通、驚く。ゲルテナを知らない人なんて居ないよ」

 

 間違いない。あの"奇才"ゲルテナだ。オラリオで二人しか居ないLv.7。挙句その隣にいるのは"剣姫"アイズ・ヴァレンシュタイン。ダンジョン初心者が一度に会って良いような人達では無い。

 

「立てる?」

 

 ワナワナと震えるベルにアイズの手が差し出さる。が、その手を取るという平然な行為が今のベルに出来る筈もなく。

 

「う、うわああああああ!」

 

 ベルはそれこそ脱兎の如く勢いよく立ち上がって逃げた。

 

 

 その場には、手を差し出した姿勢のままのアイズと、訳が分からんと顔を顰めるゲルテナと、ゲラゲラと腹を抱えて現状を笑うべートの声が残された。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 意味の分からない子供だった。

 

 

 事の発端はゲルテナの所属するロキファミリアの遠征の帰りでミノタウロスの群れを相手取った時から始まった。圧倒的戦力で攻撃を仕掛けられたミノタウロスの軍は、予想外に尻尾を巻いて逃走を図ったのだ。

 

 モンスターとしてあるまじき行為に全員が硬直を余儀なくされたが、上層階に逃げ込む奴らの姿を見て次の瞬間にはフィンの声がその場に響いた。当たり前だ。

 

 Lv.2でやっと手が出せるであろうモンスターが駆け出し共のいる上層に流れ込みなどすれば大惨事だ。それはファミリアにとって痛い失態となるだろう。

 

 自身まで走らされるとは思っていなかった。厄介ではないが面倒なイレギュラーに舌打ちが隠せない。

 

 大分群れが分散してしまったようで、仕方なく魔法を使用し「メアリー」を喚び出す。何やら"お絵かき"の途中であったと文句を言われたが、俺ではなくミノタウロスにその文句をぶつけてこいとその方向へ向かわせ、自身も別の個体を追う。

 

 

 まあ結果は言わずもがな簡単に屠れたが、犠牲者未遂をメアリーが助けたようで、心の中で間に合って良かったなと団長であるフィンに皮肉に似た言葉を送った。

 

 

 

 

 で、色々あって一目散に逃げ出した子供の奇怪な行動に眉を潜めながら、さっさと帰るぞとショックを受けるアイズと煩い笑い声をあげるべートに背を向けた。メアリーが着いてくる。

 

 最後の最後で面倒なことを起こしてしまったものだ。まあ今回の遠征は"新しい作品"の材料を豊富に収穫できたから満足ではあるが。その事に比べればミノタウロスの処理くらい赤子の手を捻る程度。

 それに、

 

(()()()()か)

 

 あのおかしな少年の"魂"。

 

 ゲルテナは人の魂を薔薇の色で視る。どこぞの美の女神が人間の魂を見分けられるという話は聞くが、それに近しいのかもしれない。何故人間がこのような特殊な表現で魂を視れるのかというメカニズムは本人である自分でも分かりはしないが。

 

 その目で視たあの白い頭の子供の魂は、確かに白い薔薇を象っていた。

 それは何の色さえ混じらない完全な純白。

 

 

 あそこまで混じり気のない色を見たのは初めてだった。

 

 

「……フン」

「お父さん嬉しそうだねー。何かあった?」

「何でもない。さっさと帰るぞ」

 

 自身に比べて歩幅のリーチが短い我が(作品)に軽く目をやって少し歩く速度を緩め、未だに脳裏に映るあの兎のような子供の姿を思い浮かべながら、芸術家はファミリアに合流せんとダンジョンを闊歩した。

 

 

 

 

 

 

 




設定は都合よく改変するよ。作者の好みの都合だよ。
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