主人公にならないと 作:舎遍路
時が過ぎ、ついに僕も学院に通う時が来た。貴族の子息と、一部の魔力を多く保有する平民は一二歳になると王都にある王立学園に通うのが習いとなっている。
魔力保有量が一定以上の平民は入学試験が免除されるが、僕にはもちろん関係なく、厳しい入学試験を乗り越えこの日を無事迎えることができた。
「ここが王立学院かあ……。まるでお城みたいに立派な門ね……」
僕が彼女に出会ったのはその入学式の日だった。
学院の立派な門に見とれた彼女に僕は見とれていたのだ。
長い黒髪に綺麗な横顔。憧れを含んだその顔は世界が祝福に満ちていると信じて疑わないかのようだった。
学院指定の制服ですらも彼女を引き立てる要因となった。
溢れんばかりの魔力は陽光にきらめき、彼女をこの世ならざる存在たらしめていた。
僕はこのとき、彼女に
そうして、まるで熱に浮かされたかのように彼女に声をかけていた。
「この門、本当に立派だよね。貴族がたくさん通うから見た目がしっかりしてなきゃいけないらしいよ」
「えっと……? そうなんですか……?」
そう答える彼女の目は僕を怪しいものとして見ていたけれど、その時の僕は気づかないでいた。
「そう。貴族の間では有名な話だよ。君は多分平民だよね? 魔力が体から溢れているから」
僕はエトワール・ド・ラヴラン。同じ新入生としてこれからよろしくね。
そう言って自分よがりに差し出された手を見ながらこのとき彼女は何を考えていただろうか。
「わ、私の名前はカメリアです。よろしくお願いします!」
とりあえず、差し出した手を握り返してくれてほっとしたことだけは覚えている。
入学式が終わり、新入生はそれぞれのクラスに向かうことになった。
「今年は日属性と月属性の両方が入学したらしいよ」
「それも日属性は平民らしい。なんか生意気かも」
日属性と月属性はその希少性から妬み嫉みを受けやすい。その点を配慮してか僕とカメリアは一緒のクラスだった。
「やあ、カメリア。同じクラスだったね。これから改めてよろしくね」
「エトワール君! 一緒のクラスだったんだ。私こそよろしくね」
彼女の席に向かいつつ声をかけると、きらめくような笑顔を向けられてそんなことを言われた。しかも、黄金の魔力光が体から溢れている。まだ、制御しきれていないらしい。
心情的にも物理的にも眩しい彼女から目を逸らしつつ「そろそろ、先生が来るかな」と話も逸らして逃げた。
「もうみんな知っているかもしれないが、今日はとりあえず自分の魔力特性について知ってもらう」
自己紹介もそこそこに先生はそんなことを言い出した。
僕のクラスを担当するアリスト先生は相当自由な先生らしい。自分の名前のみを告げるとさっさと授業に入ってしまった。授業! しかも入学一日目にもかかわらず!
「お前らの中には何故初日からそんなことをしなきゃいけないのか、疑問に思う奴もいるだろう。だが、自分の魔力特性を知ることはそれだけ重要なんだ。分かったら早くしろ」
まるで僕の心を読んだかのような注意に思わずどきっとした。
そうだ。僕はあの優秀な
話を聞くと、どうやら一人一人前に立って魔力を手に集めて魔力光の色を見るらしい。おそらく先生は解析の魔法を使えるのだろう。
解析の魔法は人の魔力光の色の組成を見分けることに使える魔法だ。日と月を除く五属性の魔力を持つ人は普通複数の魔力が混ざっていることが多いのだ。
解析の魔法は難しいとよく聞くし、やはり優秀な先生ではあるのだろう。
「はい、次っ!」
先生に急かされて学生たちが次々に前に向かう。それを見ていると、やはりこのクラスには扱いの難しい学生を集めているのだろう。
「次、ラヴラン。来い!」
考え事に集中しているうちに僕の番になった。僕が前に行こうとすると、
「おい、あれが
「あのソレイユ様の弟の……」
「あの人の弟ってことはさぞかし優秀なんだろうな!」
「でも、あまり噂はきかないし、ソレイユ様ほどではないんじゃ」
「うるさい! 静かにしろ!」
クラスのざわめきに対して一喝すると、先生は僕をせかした。
「おい、ラヴラン。はやく前に来い」
どうやら、乱暴な素振りに対して悪い先生じゃないらしい。
集中して、魔力を手に集める。
普段からやっていることだが、見られていると思うとやはり緊張する。
僕の手から白銀の光が溢れ出す。やはり、何度見ても好きになれない色だ。けれども、周りは初めて見る月属性の魔力に魅了されているらしい。
少し茶目っ気を出して光を小鳥の形にしてまるで生きているかのように動かした。
「おおー」
簡単な魔力操作だけれど、見た目の綺麗さに感嘆の声が上がった。これは
「サービス精神旺盛だな」
先生が呆れたように言ってくるので、自信満々な笑みを浮かべてこう返した。
「プロですから」
いや、何のプロなのかと自分でも思うが。これも
ついにカメリアの番になった。前で緊張でガチガチに固まる彼女からはすでに魔力がこぼれている。周りの目から見ても明らかなように彼女が日属性の持ち主だろう。
自分の暗い感情を自覚しながらも彼女に小さく手を振り、エールを送った。
彼女はそれに頷いて返すと、「いきます!」と気合を入れると、大きく息を吸って魔力を集めた。
その瞬間、世界が黄金に染まった。
光が治まるかと思うと、彼女がバツの悪そうな顔をしていた。どうやら魔力操作をあやまったらしい。
「目が、目がああ」
アリスト先生は解析魔法を発動していたからか、いきなりの強い光に目がやられたらしい。
僕たちは思わずそれに笑い声をあげてしまった。
学園生活は退屈しないらしい。
僕より教室を盛り上げた彼女への嫉妬から目を背けつつ、僕はそうひとりごちた。