戦姫絶唱シンフォギア~黒紅の騎士~   作:みんふみ

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第四話 交錯

「よっ」

「あ、雄輝さん」

 

 ノイズの出現、そして立花響と出会ってから数日後。

 特異災害対策機動部二課に、再び立花が呼ばれた。

 この前行われたメディカルチェックの結果報告と、改めて二課への協力を要請するためだ。

 ……それにしても、この前夢で告げられたことはどういうことなのか。

 俺としちゃ、ノイズどもを殲滅できればそこまで細かいことにこだわることもないのだが、立花一人で状況が一変するような何かが起こるのだろうか。

 ペンダントを持っていないにもかかわらずギアをまとえたことが最大の謎だが、それが関係してるのか?

 

「あ、来たわね? それじゃ早速、この前のメディカルチェックの結果発表ね」

 

 立花をイスに座らせて、嬉しそうにしながらメディカルチェックの結果をスクリーンに映し出す櫻井女史。

 そういえばこの人、立花が現れてからどことなく毎日楽しそうというか、テンションが高めなんだよな。

 

「ギア装着初体験の不可は若干残ってはいるものの、身体への影響はほぼ見られませんでしたー♪ 良かったわね?」

「ほぼ、ですか……」

「そうよー。でも、響ちゃんが聞きたいのは、ここから先のことよね」

「そうですッ。教えて下さい、あの力は一体……」

「うむ……翼、雄輝君、響君にシンフォギアを見せてあげてくれ」

「了解っす」

 

 服の内側にしまってあるペンダントを取り出して、立花に見せる。

 翼先輩もペンダントを立花に見せているが、その視線は下を向いている。

 

「まずは翼のだ。あれは天羽々斬といって、第一号聖遺物だ」

「せいい、ぶつ?」

「聖遺物とは、世界各地の伝説に登場する、超古代の異端技術の結晶のことよ。現代の科学技術では製造不能なの。多くは遺跡から発掘されるんだけど、経年劣化の影響で、本来の力をそのまま現代に残している物はほとんどないの」

「翼の持つ天羽々斬も、元の刃のほんの一部に過ぎない。その欠片に残されたわずかな力を増幅して力に変えるのが、特定振幅の波動……つまり、歌だ」

「そういえばあの時も、胸の奥から歌が……」

「うむ。次に雄輝君のだが……彼のは少々特別というか、厄介でね」

「厄介……?」

 

 立花の視線が俺の方へ向けられた。

 そう、俺の持つギアは、従来のギアとは性質が異なる。

 司令が俺のことを見て小さく頷いたのを見て、立花に説明することにした。

 

「俺のギアの名前は『ムア・ガルト』。天羽々斬が刃の欠片なのに対して、俺のは1枚の羽根が使われてる」

「羽根……でも今、聖遺物の多くは遺跡から発掘されるってことでしたよね? その羽根も遺跡から……?」

「いや違う。コイツは偶然俺の目の前に現れたんだ。……2年前、ツヴァイウィングのライブ会場にな」

「えッ!?」

 

 ツヴァイウィングの名前が出て、立花が驚きの声をあげた。

 やはりそうか。

 立花や翼先輩が来る前、デスクの上に置かれていた、二課が調査した立花の経歴書を俺はチラッと見ていた。

 そこには2年間、重度の怪我で緊急手術を行ったことが記されていた。

 恐らく、立花もあの会場にいた。

 今の反応からすると、間違いないだろうな。

 

「雄輝さん、あの会場にいたんですか?」

「ああ。あそこで俺は、この力を手に入れた」

「そうだ。そして響君、それは君も同じなんだ」

「どういう、ことですか?」

「……これが何だか、響君なら分かるはずだ」

 

 そう言って司令が手元になったリモコンを操作すると、先ほどまでメディカルチェックの様々な数値が映し出されていたスクリーンに、別の画像が表示された。

 これは、胸部レントゲンの写真か?

 よく見ると、左胸、ちょうど心臓のあたりに、白っぽい欠片のようなものがいくつか確認できる。

 あれはいったい……?

 

「これ、2年前の怪我のやつです。確かお医者さんが、あれは心臓の近くに複雑に食い込んでいて、摘出できないって……」

「そう。そして調査の結果、この欠片は第三号聖遺物、ガングニールの破片であることが判明したの。2年前、奏ちゃんが使用していたギアの欠片が、ね」

「ッ!?」

 

 その櫻井女史の言葉を聞いて、翼先輩が手で顔を覆ったのが見えた。

 足は震え、身体を支えきれなくなり壁に身体を預けた翼先輩。

 

「先輩……」

「……ッ」

 

 翼先輩はよろよろと立ち直ると、一人部屋から出て行った。

 それもそうだろう。

 あの日以来、翼先輩は一人になった。

 俺が二課に入ったのはあの事件から2週間ほど経ってからだったが、当初の翼先輩はそれはもうヒドい状態だった。

 普段は落ち着いているように見えたが、それはあらゆる感情を押し殺した、機械のような状態だった。

 かと思えば、急に感情を爆発させて本部の中で大声で叫び、物を壊し、人目もはばからず泣きじゃくることもあった。

 

 2年が経ち、やっと精神的な落ち着きを取り戻しつつあったここにきて、奏さんの形見とも言えるガングニールの破片を身体に宿した立花が現れた。

 あんな風に気持ちが動転するのは分からなくない。

 それにしても……。

 

「あのー」

「ん、どうした雄輝君」

「えっと、立花がギアをまとえたのは、その身体に食い込んだ破片が原因、ってことで良いんですよね?」

「そうね」

「ってことは、立花の身体は、聖遺物と融合してる……そういう風に考えていいんですか? そんなこと、あり得るんですか?」

「あり得るかあり得ないかで言えば、あり得るわ。だって、響ちゃんがその証明でしょ?」

 

 た、確かに。

 理論的な話はともかく、目の前にそれを体現している人がいるのだから、あり得るかあり得ないかという話は意味がないか。

 

「流石の私でも、理論的な部分までは上手く説明できないわ。でも、実際の症例が存在している以上、あり得たとして今後研究するしかないわ。雄輝君のギアと同じく、特異な例としてね」

「……そういえば、雄輝さんの聖遺物も、さっき特異だって言ってましたよね」

「まぁな。翼先輩の持つ天羽々斬もそうなんだが、普通は力を増幅してギアをまとうのが普通だ。でも俺のは逆に、このペンダントに施したロックで力を抑制してるんだ」

「……?」

 

 よく分からないという表情を浮かべる立花。

 まぁ、俺もよく分かってないし、櫻井女史の解析力をもってしても、他の聖遺物より謎が多いんだがな。

 

「この羽根は、何が元になってるのか分からないんだ。だから、これが聖遺物の一部なのか、それとも経年劣化を免れた聖遺物そのものなのか、それすら分かっていない」

「一応、私の見解としては、羽根である以上、元々は鳥類の翼だったか、あるいは鳥類そのものだった、そう考えてる訳だけどね。雄輝君の持ってる羽根は、そこから抜け落ちた一部っていうのが、この天才である櫻井了子の持論よ」

「で、でもそれなら、翼さんのと同じで、力を増やすのが普通なんじゃ……」

「いや、雄輝君の羽根の持っている力は桁違いなのよ。ギアであえてロックを過剰に施すことで、無理やり出力を抑えてるの。そうでないと、彼の肉体と精神は10分ともたずに崩壊してしまうの」

「そ、そんなに強いんですか……」

「そうだ。だから我々二課は了子君と話し合った結果、雄輝君がギアを使用できるのは1週間に1回という制限を加えることにしたのだ。そうしないと、ギアを介した出力抑制があっても、雄輝君の身体がもたないと判断してな」

 

 まったく迷惑な話だ。

 この羽根が俺にもたらしてくれる力が強力なのは嬉しいことだが、それによって戦闘が制限されるってのはもどかしいものがある。

 まぁ、ついこの間はその決まりを破って週に2回目のギア使用を敢行したわけだが。

 

「そういう事情もあって、現状では翼がノイズ撃退の主戦力となっている。雄輝君は週に1度のギア装着以外は、基本的に裏方にまわってもらっている。そのため、我々の戦力としてはいまだ不十分なのだ」

「ま、俺は別に自分の命がどうなっても良いんだがな。ノイズどもを倒せればそれで」

「また君はそういうことを……。ともかく、立花響君、我々に君の持つ力を貸してはくれないか? ノイズに唯一立ち向かえるのは、シンフォギアをまとった装者だけなのだ。子供に対してこんなことをお願いするのは心苦しいが、協力してほしい」

 

 司令の言葉を聞いて、立花は視線を少し下に落とした。

 言うまでもなく、悩んでいるんだろう。

 ただ、普通の人ならここで承諾などするはずがない。

 翼先輩のように幼少のころから訓練を受けていたとか、俺みたいに身寄りがいないとか、そういった事情があれば別だろうが、立花は普通の女子高校生だ。

 家族もいるだろうし、友達だっているはずだ。

 

「このことは、誰にも言ってはいけない……んですよね?」

「シンフォギアのこと、そして君の身体に起こっている特異的なことを周囲の人間に話せば、君はもちろん、それを聞いた周りの人たちにも危険が及ぶことが考えられる。なにせ我々は、機密事項の塊だからな」

「響ちゃんの持っている力は、それだけ特別で、強大だってことね」

「……」

 

 立花の瞳は揺らいでいる。

 だが、俺たちが立花の意思決定を強制することはできない。

 俺だって、ノイズに復讐するため、自分で二課に所属することを決めた。

 動機がどうであれ、最終決定権は立花にしかない。

 

「立花、先輩の俺からも少しは言葉をかけておこうと思う。この仕事は楽じゃないのは分かるはずだ。シンフォギアを使えばノイズに触れても死にはしないが、体力と精神力が尽きればギアをまとえなくなる。そうすれば、待っているのは死だ。それに、今司令や櫻井女史からもあったけど、このことは不可抗力な事態を除いて、誰にも知られちゃいけない。周りに嘘をつき続けることになる」

「嘘……」

「もちろん、悪い面ばかりでもない。こういう話は生々しいし、司令は嫌がるかもしれないが、装者には特別手当が出る。高校生が手に入れるには少々大きい額がな。それになにより、立花がシンフォギアを使って何か成し遂げたいことがあるなら、それを実行できるかもしれない」

「雄輝さんは、何を心に秘めて、二課で日々戦ってるんですか?」

 

 俺が二課にいる理由、か。

 あまり褒められた理由ではないし、これを立花に話しても良いものだろうか。

 だが、今は立花の意思決定の重要な時だ。

 嘘を付いたりしてもしょうがないだろうな。

 

「さっきも言ったが、俺は2年前、ツヴァイウィングのライブ会場にいた……妹と一緒にな」

「ぁ……」

 

 立花が小さく声をあげた。

 俺の言いたいことが分かったのだろう。

 

「あの日、俺は天涯孤独になった。両親はすでにノイズに殺されていたし、頼れる身寄りもいなかった。そんな時、俺は二課に拾われた。二課は俺の住む場所や金銭的な援助を確約する代わりに、俺はこのムア・ガルトを使って戦う。俺の家族を、妹を殺したノイズたちに復讐する。そう心に誓った」

「復讐……」

「司令や二課の人たちは、俺の動機に100%理解を示してくれてる訳じゃない。でも、俺の気持ちは分かってもらえてるし、二課としてもノイズと戦う力がぜひとも欲しい。ま、利害の一致ってやつだ」

「それが、雄輝さんが心に秘めてる想い……」

「そうだ。人の為になりたいとか、そういう綺麗なものじゃなくてすまないな。……それで、立花の気持ちは?」

 

 俺の言葉を聞いていた立花は、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……私の力で、誰かを助けられるんですよね? なら、やりますッ!」

 

 誰かを助ける。

 それが、立花の想い。

 俺なんかとは全然違う、まっすぐで、よどみのない気持ち。

 立花響という人間の人間性が伝わってくる、決意表明だ。

 

「すまない。そしてありがとう、響君。さて、今日の話はここまでだ。上まで送るから、今日はしっかり休んで……」

 

 司令が言葉を言い切る前に、突如警報音が響き渡った。

 

「え、え?」

『ノイズが出現ッ!! 司令、指揮所までお戻りくださいッ!!』

「分かったすぐ行くッ!! 翼、聞こえているなッ!?」

『はいッ! 迎え撃ちますッ!!』

 

 司令が部屋の外にいる翼先輩に迎撃命令を出した。

 さて、退屈だが俺は指揮所で不測の事態に備えて、別命あるまで待機ってやつだ。

 

「雄輝君、響君、君たちは俺と一緒に指揮所まで……」

「いえ、私も行きますッ!!」

 

 だが、立花は血気盛んというべきか、まだ1回しかギアを使ったこともないのにいきなり志願してきた。

 

「いやしかし、君はまだ……」

「私の力が、誰かの助けになるのなら……行かない理由なんてありませんッ!!」

 

 そう立花は言い残して、出口の方へと走っていく。

 ……大丈夫なのか?

 

「どうします司令、俺もついて行った方が良いですかね?」

「……いや、雄輝君は普段通り、ここで待機だ。何か起こった場合は、俺が何とかする」

「流石、OTONAっすね」

 

 まぁここは司令の言うとおり、任せるとしよう。

 なんせ司令は、ノイズにこそ太刀打ちできないが、それ以外の存在にはおよそ負ける気がしないトンデモ司令だからな。

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

「翼ちゃん、ノイズとの交戦に入りましたッ!」

「響君はッ!?」

「あと2分ほどで現場に到着する模様ッ!!」

 

 指揮所の中は様々なモニターが絶え間なく点滅し、色々な情報が飛び交う。

 ノイズの出現場所、シンフォギア装者の位置、身体の状態、一般人の避難状況などなど。

 見ているだけで頭が痛くなってくるな。

 でも、ここにいるオペレーターの人たちは皆優秀だ。

 それは、この人たちから情報をもらって戦っている俺や翼先輩ならよく知っている。

 故に、この人たちが狼狽することがある場合は、完全に想定外の出来事が起こったことを意味する。

 

「……ッ!? 司令、ノイズとは異なるエネルギーを検知ッ!!」

「なにッ!?」

 

 なんて、俺がそんなことを考えたのが原因か、指揮所に動揺が広がる。

 

「まさか、またシンフォギアかッ!?」

「現在、波形を照合中……こ、これはッ!!??」

「画面に出せッ!!」

 

 中央モニターに、データベースとの照合を行った結果がアルファベットで表示される。

 そこに書かれていたものは……。

 

「な、なんだとぉッ!!??」

「ネフシュタンの……鎧」

 

 表示される照合結果に、指令所は静まり返った。

 ネフシュタンの鎧。

 俺も実物は見たことなく、資料でしかその名前は知らないが、二課の人たちにとっては特別な名前だ。

 2年前、あのツヴァイウィングのライブの日に行方不明となり、以後二課でその行方をずっと探していた代物。

 この世に存在する、数少ない完全聖遺物。

 それが今、このリディアンから遠くないところに姿を現した。

 

 そう、またしても2年前のあのライブ。

 俺がムア・ガルトの力を手にしたのも、立花がガングニールの破片をその身に宿したのも、ネフシュタンの鎧が行方知れずになったのも。

 そして、立花の覚醒とほぼ時を同じくして、ネフシュタンの鎧が姿を見せた。

 あの夢で声が言っていた、立花の覚醒がなんとかっていうのが、少しずつ現実味を帯びてきたってことか。

 

「位置はッ!?」

「リディアンから距離700ッ!!」

『叔父様、私が行きますッ!! 2年前、私の未熟さが招いた鎧の喪失……あの時の始末は私がつけますッ!!』

「だが翼、その数のノイズを響君に任せる訳にはいかないッ!」

『しかし……ッ!!』

「なら俺が行きますよ。司令、翼先輩」

 

 そう、ここは俺の出番だ。

 

「ダメだッ! 雄輝君はすでに2回もギアを使用している。これ以上は……ッ!」

「でも、メディカルチェックの結果は良好だったんですよね、櫻井女史?」

「え、ええ」

「なら良いじゃないですか。それに、ネフシュタンの鎧の反応は、翼先輩たちのいる場所とはリディアンをまたいでちょうど反対側……俺が出向いた方が早いっすよ」

『なら、雄輝がこちらに来いッ! 私が鎧のところへ行くッ!!』

 

 翼先輩は、口調や声の調子からして、かなり熱くなっているようだ。

 まぁ無理もない。

 でも、こんな状態の翼先輩を鎧のところに行かせて、冷静な判断ができるとは思えない。

 

「翼先輩は少し冷静になって下さいよ。そんなんじゃ、切れるモノも切れないっすよ。それでも来るっていうなら、そのノイズども全部ぶっ倒して、頭冷やしてからにしてください。それじゃあ司令、皆さん、サポートお願いしますね」

 

 俺は耳に無線機をつけながら、指令所に備え付けられている緊急エレベーターで地上へと向かう。

 

 何か運命的なものが交錯しているような気がしてならない。

 そう考えると、身体の奥底から力が湧きあがってくる。

 ネフシュタンの鎧……実物を見たことのない俺としては、未知の戦いだ。

 だが、ノイズよりは手ごたえがあるに違いない。

 鎧の装者の目的が何かなんて知ったこっちゃないが、せいぜい楽しませてくれよな?

 

 

 




今回は、雄輝の持つギアの説明がちょっとばかし入ってたのが見どころ……ですかね。

さて、次回は雄輝とネフシュタンの鎧が邂逅します。
鎧を装着しているのは、一体何音クリスなんだ……?
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