戦姫絶唱シンフォギア~黒紅の騎士~   作:みんふみ

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第五話 衝動

「よっと」

 

 俺は今、建物の屋上を次々に飛び移りながら、ネフシュタンの鎧の反応があった場所へ向かっている。

 もちろん、ギアはすでに装着済みだ。

 ギアなしじゃ、こんな芸当はできないからな。

 

 それにしても、普段より気持ちが高ぶっているのを感じる。

 ネフシュタンの鎧という完全聖遺物に初めてお目にかかれるからか、それともこれが週に3度目になるムア・ガルトの装着だからだろうか。

 メディカルチェックでは特段の変化は無かったわけだが、ギアをまとう度に湧きあがる破壊衝動が思った以上に蓄積していたか。

 まぁ、そんなことを気にしている場合じゃない。

 もし完全聖遺物と一戦交えることになるのなら、反動を恐れて力を出し惜しむ訳にはいかない。

 

『雄輝君、鎧の反応はそこから少し東に行ったところにある、片側2車線の国道付近から確認されている。翼と響君にも、ノイズ撃退次第合流するように伝えてある。無茶だけはするなよッ!』

「了解っす司令。目的は鎧の存在確認と、可能であれば回収……それで良いですよね?」

『頼む。鎧回収時には、装者も一緒に二課まで同行してもらえると非常に助かるが……優先度は低い』

「ういっす。そろそろ反応のあるっていう幹線道路……ん?」

 

 10階建てくらいのマンションの屋上から国道を見下ろしていた俺は、一人の人物が道路のほぼ真ん中に立っているのを確認する。

 ここからでは良くは見えないが、普通の服装でないことはなんとなく分かる。

 あれが、ネフシュタンの鎧か?

 

「それじゃ、ツラを拝ませてもらうとしますか……ねッ!」

 

 マンションの屋上から飛び降りると、そのままその人物の背後に着地した。

 地面から足に向かってものすごい衝撃が走るが、ギアの脚部ユニットがそのほとんどを分散・解放する。

 ものすごい着地音がするが、その人物は驚いた様子を見せることなく、ゆっくりと俺の方を振り向いた。

 

「来たか……黒紅の騎士」

「女……?」

 

 ネフシュタンの鎧の装者は、女だった。

 それも、雰囲気的に若い。

 全身は鎧、顔の上半分はバイザーで覆われていてハッキリとは見えないが、10代後半から20代前半くらいだろう。

 

「女で悪かったなぁ。男の方が好みだったか?」

 

 口調は、ハッキリ言って悪い。

 なんとなくだが、話し合いでどうこうなる相手ではないような気がする。

 無論、俺とて望むところではあるが。

 

「いやいや、女で大歓迎さ。だが、俺は女でも容赦はしない。ネフシュタンの鎧は返してもらう」

「そうそう上手くいくかねぇ? アンタのそのギアの力……見せてもらおうかッ!!」

 

 女はそう叫ぶと、左肩からトゲが生えた鞭のようなものを繰り出し、そのまま俺をなぎ払いにきた。

 

「そんなもので……フッ!!」

 

 俺は右手にナイトフェンサーを宿すと、そのままつばぜり合いに持ち込むのではなく、鞭を一太刀のもとに切り伏せた。

 鞭は真っ二つになり、地面に落ちた切断面が赤く光って熱を帯びている。

 

「おいおいなんて切れ味だよ。これを真っ二つに切っちまうなんて」

「俺のことをどこまで知っているか知らないが、このギアの力を甘く見ないでもらおうか。完全聖遺物だろうが、ムア・ガルトの絶対たる力の前には優位じゃないってことを教えてやるよ」

「随分自信家じゃねーか。普段からノイズをぶった切って調子に乗ってるんだろうが、あたしがその伸びた鼻へし折ってやるよッ!!」

 

 気付けば、切断したはずの左肩から伸びる突起が再生していた。

 そういや確か、ネフシュタンの鎧には再生能力があるってことだったな。

 こうなれば、あの女にダメージを与えて気絶させるしかない。

 いくら鎧が無限に再生しようと、装者が動けなければ意味がない。

 

「考え事かぁッ!? あたしをどうこうすることより、自分の身のこと考えろよッ!!」

 

 今度は、両肩の突起を鞭のように俺の方へ繰り出してくる女。

 なら、最短で背後を取るまでッ!!

 

「ハッ!!」

 

 鞭が俺の身体を捕らえようとしたその瞬間、俺は女の頭上めがけて跳ぶ。

 このまま女の頭の上を通り越して背後を取り、一気に沈めるッ!

 

「ちょせぇッ!!」

「ッ!?」

 

 だが、やり過ごしたはずの突起が、跳んでいる俺の背後からものすごい速さで伸びてくると、俺の脚に絡みついた。

 

「こんなもの……ッ!!」

「おせぇよッ!!」

 

 ナイトフェンサーで絡みつく鞭を切断しようとしたが、それより先に鞭に引っ張られ、コンクリートの地面に叩きつけられた。

 

「ガハッ!!」

 

 全身に痛みが走る。

 ギアをまとっているとはいえ、すべてのダメージを無視できる訳ではない。

 ノイズとの戦いではほとんど経験したことのない痛みに、呼吸が一瞬止まる。

 

「おいおいこの程度かぁ?」

「冗談ッ!!」

 

 なんかコイツのペースにのせられている気がしないでもないが、そんなことはどうでもいい。

 ノイズとは違う、人間同士の戦い。

 普段は殲滅することが戦いの目的だが、今回は相手を徹底的に叩き潰し、一本を取ることが目的。

 ならば、普段はあまり使わない技を出すこともためらわない。

 

「コイツをプレゼントだッ!!」

 

 左手に力を込めると、手のひらから少し浮いたところに真っ赤な火球を作り出す。

 俺の武器はナイトフェンサーだが、他に手段がない訳じゃない。

 

「ガンブレイズ……投擲ッ!!」

 

 俺の手から放たれた火球は、弧を描くようにして鎧の女の方へ向かう。

 

「遠距離攻撃も可能って訳か。でも、軌道が見え見えじゃなぁッ!!」

 

 ネフシュタンの鎧の女は肩の突起を鞭のようにふるうと、迫る火球を打ち払おうとする。

 が、それこそ俺の思うつぼだ。

 鞭が火球に触れた瞬間、手榴弾のようにその場で爆発を引き起こした。

 

「くそッ、そんな仕掛けが……ッ!?」

 

 この機は逃さない。

 地面を蹴り、空中で何とか着地姿勢を取ろうとする女との間合いを一気に詰める。

 そんな俺に対し、女は左右から挟むようにして鞭をしならせてくる。

 よく見ると、右肩から伸びてくる鞭の方が遅れている。

 微妙な時間差をつけて、両方の鞭が同時に切断されるのを防ごうって魂胆か。

 だが、それならそれでやりようはある。

 

「おらッ!!」

 

 まず、先行してくる左肩の鞭は利き手側でもあるので、そのままナイトフェンサーで一刀両断する。

 すぐさまもう片方の鞭が来るが、これはナイトフェンサーは間に合わない。

 だから俺は、これを左手で掴む。

 

「掴まれたッ!?」

「この鞭はお前の身体とつながってる。だから、こうすることもできるッ!!」

 

 掴んだ左手をそのまま思いっきりこちら側に引くと、鎧の女の身体も俺の方へと引っ張られる。

 相手の動きさえこれで封じれば、後は飛んで火にいる……。

 

「物忘れが激しいんじゃないかぁッ!? 鞭を一つだと思うてくれるなよッ!!」

「なッ!?」

 

 気付けば、切断したはずの左肩側の鞭が復活し、俺の右手に巻きついていた。

 

「ぐッ、アアッ!!?」

 

 しかもこの鞭はトゲの構造もしているため、巻きついた腕に深く食い込んできている。

 完全に油断していた。

 右肩側の鞭を掴み、こちらに引き寄せる時点で、切って捨てた方のことを忘れていた。

 なんとかナイトフェンサーを動かして鞭を斬りたいが、食い込みがきつくてまともに手を動かせない。

 

「どうだ痛てぇだろ? 普段から雑魚狩りばっかりで、しょぼくれた満足感に溺れてんじゃねぇかぁ?」

「言ってくれるじゃねぇか……ぐッ!?」

 

 右腕から全身に痛みが走るのと同時に、心の中から湧きあがってくるものを感じる。

 ここ最近は鳴りを潜めていた殺戮への衝動が、いよいよ本格的に鎌首をもたげてきた。

 

『どうした? ためらう必要はない、その力、存分に振るうがよい』

 

 脳内に響く誘惑の声。

 痛みが俺の体力を削ぐたびに、この衝動は大きくなる。

 ……そうだ、何をためらう必要がある。

 対人戦は訓練などで翼先輩とたまに行う程度で、人へ攻撃することへの抵抗が俺を押さえつけていた。

 だが、この相手は殺意を持って挑んできている。

 こちらがためらう必要など微塵もないじゃないか。

 

 決めた、この女を完膚なきまでに叩きのめす。

 最悪命がどうこうなろうと知ったことか。

 

「もう終わりなんてそんなつまらないこと……ん?」

 

 余裕の表情を見せる女だったが、気配を感じ取ったのか自分の後方上空を見上げる。

 手が使えなくとも、ガンブレイズを降らせることなどどうってことはない。

 女は避けようと動き出そうとするが、この瞬間を俺は待っていた。

 

「逃げるなら……こっちに来いよッ!!」

「おわッ!?」

 

 女の身体の重心が傾いた瞬間に、俺は左手に掴んでいた鞭を引っ張った。

 足が地面から浮きかけていた女の身体はモロに影響を受けて、俺の方へ引きずられる。

 右手にも動きを感じた。

 右手に絡みついた鞭をはがして体勢を立て直そうとしているみたいだが、逆に利用する。

 

「俺を痛めつけたかったんだろ? 望み通りにしてやるよッ!」

「こいつ、腕に食い込んだまま引っ張って……ッ!?」

 

 両方から引っ張られた女に、なすすべはない。

 力を込めて引いている右腕からは相変わらず痛みが走るが、今はこの痛みこそ俺に必要だ。

 女との距離がドンドン縮まる。

 そして、腕を伸ばせば届く距離まで来たとき、俺は左手に掴んでいた鞭を離すと、代わりに女の顔をガッと掴む。

 顔を掴まれるとは思っていなかったのか、バイザー越しに女の目が見開かれるのが見える。

 

「おらよッ!!」

「ぐあぁッ!?」

 

 掴んだ勢いで、女を後頭部から地面に叩きつける。

 そして、鞭が絡んだままの右手をズイッと引き寄せて、ナイトフェンサーを女の首元に近づけた。

 

「ぐッ……」

「おっと動くなよ? 少しでも動けば、振動でナイトフェンサーが首に食い込んじまうかもしれねぇからなぁ?」

「チッ……」

 

 女の抵抗が明らかに弱くなった。

 ネフシュタンの鎧の防御力がどの程度なのかは知らないが、人間首元に刃を突きつけられれば精神的に怯むのは避けられないはず。

 

「さぁ、どうするかな?」

「……殺れよ。どうせこの鎧を剥いで、あたしをお前のお仲間のところに連れて行くんだろ? 敵の手に落ちるくらいなら死んだ方がマシだ」

「死ぬことに抵抗はねぇってことか」

「お前だって、殺すことに抵抗はなさそうじゃねぇか。それに、あたしを殺したところで状況はさほど変わらねぇよ。無駄死にはゴメンだが、自分が信じるもののために死ぬなら悪い気はしねぇし」

 

 引っかかるものの言い方だ。

 少なくとも、この女が単独でネフシュタンの鎧を身にまとって暴れたようには見えなくなった。

 何か、背後に別の存在を匂わせている。

 

「……お前の目的はなんだ?」

「さぁね。拷問しても無駄だぞ」

「だろうな。俺に殺されても良いって言ってるやつが、拷問で何かを吐くとも思えない」

 

 女に命乞いをする様子はない。

 殺すなり、無駄足かもしれないが二課に引きずっていって情報を引き出すか。

 

『この女は口を割らん。殺せ。女もそれを望んでいるではないか』

 

 いまだに右手には鞭が食い込んでいて、痛みで心が支配されていく。

 そうだ、殺してしまえばいい。

 相手から先に仕掛けてきたのだし、交戦中の不慮の事故ということで良いじゃないか。

 殺す。

 この女を殺して、ノイズどもも皆殺しにして、俺に盾突く者は全部壊して、殺して、塵一つ残さない。

 なんだ、簡単なことだ。

 

「……何か言い残すことは?」

「……」

 

 女は何もしゃべらない。

 無言ということは、すべてを受け入れるということ。

 だが、その瞳はわずかに揺れていた。

 

「ッ……」

 

 女の首に食い込ませようとしていたナイトフェンサーだが、何かがストップをかけたのか動かない。

 ためらうな。

 いけ。

 その破壊剣を横に薙いで首を掻き切れ。

 自分に言い聞かせて、右手に力を込めなおそうとした、その時。

 

「雄輝ッ!! ノイズだッ!!」

 

 不意に聞こえてきた声に、俺は思わず顔を上げて声のした方を見た。

 見ると、いつの間に来ていたのか、翼先輩と立花がギアをまとったまま立っていて、その正面にはノイズの姿があった。

 それも、並大抵の数ではない。

 今まで戦ってきた集団とは比べ物にならない、それこそ100体以上は軽くいるだろう。

 これだけのノイズが自然発生的に……?

 

「ッ、おらぁッ!!」

「しまったッ!!」

 

 駆けつけた翼先輩たちとノイズの大群に気を取られていたのか、女への押さえつけが緩くなっていた。

 その隙を突かれて、女は俺の左手をのけると、身体を横に数回ローリングしてから立ち上がった。

 そして、ノイズの群れを見てポツリと呟いた。

 

「このタイミングでノイズ……まだ、死ぬには早いってことかよ」

「あ、待てッ!!」

 

 逃げようとする女にガンブレイズを出現させて投擲しようとするが、それより先に夜の空へと女は消えていってしまった。

 

「チッ、あの鎧、飛行能力もあるのか……」

「あの女は後だッ!! 先にこのノイズの群れを何とかするぞッ!!」

「くそッ……今行きますッ!」

 

 女を追いたかったが、その姿はすでに見えなくなっていた。

 今から追いかけても鬼ごっこにはならないだろう。

 それに、この数のノイズを素人の立花をかばいながら翼先輩一人に戦ってもらうのはかなり厳しい。

 俺はネフシュタンの鎧の女の追跡を断念して、ノイズの群れへと突撃した。

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

『三人とも良くやってくれた。ネフシュタンの鎧を逃がしたのは残念だが、君たちはひとまず帰投してくれ』

 

 耳の通信機から司令の言葉が聞こえてきたのは、俺と翼先輩(とおまけ程度に立花)でノイズに斬りかかってから30分ほど経ってからのことだ。

 あたり一面、元々ノイズだった灰が地面を覆う中、俺たち三人はまとっていたギアを解除した。

 

「つ、疲れたぁー」

 

 そう言って地面にへたり込む立花をチラリと見てから、翼先輩は俺の方へとやってきた。

 

「ご苦労だったな、雄輝」

「いえ。翼先輩こそ、お疲れ様でした。……ところで、何かあったんですか? 何か、顔とかやけに汚れてますけど」

「い、いや、大丈夫だ」

 

 そうは言うものの、目元も赤くなっている。

 まるで、泣き終わった後のようになっている。

 

「……それより、雄輝こそ大丈夫ではないだろう。私と立花が駆けつけた時、雄輝は何をしようとしていた?」

「……」

「これで週に3度目のギアの使用だったな。そのせいで、雄輝の心に負の感情が溜まってしまったか」

「……てっきり、怒られるのかと思いました」

「無論、雄輝のしたことは正しいことではない。だが、雄輝のギアの特性は私も知っていた。もう少し早くこちらに来ていれば、ネフシュタンの鎧を逃がすことも、お前が人を殺めようとすることも無かったはずだ」

「そんな。翼先輩は悪くありませんよ。それより、二課のみんなが待ってます。早く帰りましょう」

「……ああ、そうだな」

 

 俺は地面に座り込んでしまっている立花に近づいて、立ち上がるのを手助けするために手を差し出しながら考える。

 この手で、人を殺そうとした。

 実際にネフシュタンの鎧をまとったあの女を殺せたかは定かではないが、殺意を持って戦っていたことは間違いない。

 

 今まで、このギアがもたらす破壊衝動を普段は抑えつつ、でもノイズと戦う時にはその衝動を力に変えてきた。

 妹を殺したも同然のノイズを葬るため、復讐心を力に変えて。

 

 だが、人と戦ったことはなかった。

 そして、俺は人にもその衝動をぶつけ、殺意を抱いた。

 これは、仕方のないことなのだろうか?

 ギアの性質を言い訳にしているのではないか?

 

 人を殺すことにためらいをほとんど感じなかったことに、恐怖すら覚える。

 最後の最後、翼先輩たちが駆けつける直前に少し躊躇して、良かったと思える。

 あれが無ければ、恐らくは斬っていただろう。

 

 怖い。

 自分が自分で無くなる様な気がしている。

 しかし、この力を手放すこともまたためらわれる。

 一体俺は、どうなるんだ。

 どうすれば良いのか。

 

「分からない……分からないな」

「? 雄輝さん、どうかしたんですか?」

「いや、何でもない。さ、二課へ戻ろう」

 

 ――To be continued.




シンフォギアという、戦うシーンがどうしても出てくるものを書いている割に、戦いのシーンは苦手です。
矛盾デスね。
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