戦姫絶唱シンフォギア~黒紅の騎士~   作:みんふみ

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今回はほとんど話が進んでません……申し訳ありません。


第九話 幻聴

「よっ、と」

 

 ドサッと、モノが詰まったビニール袋をテーブルの上に置く。

 司令が帰った後、俺は愛牙の生活必需品の買い出しに出かけた。

 とはいえ、女性特有のものはどうしようもなかったので、愛牙専用のタオルや歯ブラシなんかの小物と、包帯とか、俺が買えそうな物だけだが。

 それでも、あれやこれやと思い出すうちに結構な量になってしまった。

 人間の今の生活って、こんなにモノで溢れてたんだなって再度認識した。

 

「ありがとう。今の私の姿では、外に出ると目立ってしまうから……」

「なに、気にするなって」

「もう少ししたら、包帯やローブは外せると思う。そうすれば、お……あなたに迷惑をかけることも無くなる」

「そうなのか?」

「実は、こちらの世界に来る前に、人工皮膚の移植を行ってきた。感触なども再現でき、植毛も可能という最新技術で出来た皮膚を」

「へぇ……そんなものあるのか」

 

 やけどなんかで皮膚にダメージを負ってしまった人にとっては、まさに画期的な代物だな。

 

「でも、まだ身体に馴染みきっていないので、包帯などを使用して、馴染むまで皮膚への刺激を減らしている」

「そういうことだったのか」

「……それでも、この声と、顔だけはどうしようもないと、私の世界の医師から言われた」

「えッ……」

「顔の傷に関しては、受けたダメージが大きく、人工皮膚などを使っても対処するのが難しいらしい」

 

 今の話を聞く限りでは万能だと思われた最新の人工皮膚も、限界があるってことか。

 でもよりによって、修復不能なのが顔とは……。

 

「……悪かった。ツラいこと言わせちまったな」

「大丈夫。私はこの世界の問題を解決できれば、それでいい」

「この世界の問題……」

 

 司令は言っていた。

 並行世界と接続する完全聖遺物、ギャラルホルン。

 並行世界に異常が発生した時、その世界とつながるという。

 この世界で、一体何が発生して、ギャラルホルンがそれを感知したというのか。

 あるいは、これから起こるであろうことを未然に防ぐためなのか……?

 

「だけど、今は休まないといけない。今の私の身体は、まだギアをまとえるまでには回復しきれていない」

「そういえば、愛牙のギアは二つあるんだよな? でも、一つは壊れてるって話だが」

「そう」

 

 愛牙は首から下げていたペンダントに触れる。

 

「これは、私が元々持っていたシンフォギア。名前は『月狼牙』。またの名を『クレッセントファング』」

「クレッセントファング……どんなギアなんだ?」

「形状はブーメラン。戦いの鬼と呼ばれた者が使用していた武器の欠片が聖遺物として使われている。狙った獲物は逃さず刈り取り、持ち主の元へ帰ってくる」

「必中の遠距離攻撃ってところか?」

「でも、複数の敵を相手にするのは不得手なギア。ゆえに、仲間のサポートが必要になる」

「なら、その時は俺に任せろよ。まぁ、俺もどっちかっていうと複数は苦手な部類に入るんだけどな」

「……ありがとう」

 

 ピピッ。

 唐突に、俺のポケットから無線の通話音が聞こえてきた。

 これは……いつものやつだ。

 

「任務?」

「ああ。出るから、ちょっと待ってくれ」

 

 耳にはめた通信機のスイッチを押すと、すぐさま司令の声が聞こえてきた。

 

『ノイズが現れたッ!! 場所はエリアB-11ッ! 装者は急行してくれッ!!』

「B-11……ここからだと少し遠いな」

 

 頭の中で場所を思い出す。

 翼先輩や立花がリディアンにいるのなら、あの二人の方が早いかもしれない。

 

『……ノイズだけではありませんッ!! ネフシュタンの鎧の波形も検知!! 同じ場所ですッ!!』

「ッ!?」

 

 藤尭さんの報告に、二課のメンバー全員に緊張が走ったのが、無線越しでも分かった。

 

『すぐに向かいますッ!! 雄輝、遅れを取るなよッ!!』

「りょ、了解っすッ!! 立花、大丈夫かッ!?」

『だ、大丈夫ですッ!』

 

 やはり、翼先輩は先走っている感がある。

 特に、1か月前の時は、結局のところ翼先輩はネフシュタンの鎧の女とはまともにやりあえなかったからな。

 気持ちが入っているのは間違いない。

 一方、立花はまだ翼先輩とのコンビネーションは皆無で、立花自身の戦い方もまだまだおぼつかない。

 こちらはこちらで不安要素が盛りだくさんってところだ。

 なんとか、俺が二人の調整役にならないと。

 

「という訳で、悪い、出かけてくる」

「分かった。私はここで待たせてもらう」

「食材を買いこんできてないから、カップ麺とかしかないけど、適当に食って大丈夫だから。それじゃッ!!」

 

 俺はそれだけ愛牙に伝えると、マンションの外へと飛び出す。

 今日こそ、ネフシュタンの鎧を取り戻すッ!!

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

『響ちゃん、ノイズとの交戦に入りましたッ!!』

「立花が一番乗りかッ!」

『響君、まもなく翼と雄輝君が合流する。それまで無茶はするなッ!』

『分かってますッ! 私は……私にできることをやるだけですッ!』

 

 その声と同時に、衝突音と、時おり立花の低い声が無線の向こうから聞こえてくる。

 どうやら、本格的な交戦に入ったらしい。

 このまま無線をつけっぱなしにして立花の戦況を逐一確認していたいが、これが案外耳障りだ。

 なので、必要な時だけ回線が開くモードに切り替えて、先を急ぐ。

 

 ネフシュタンの鎧の反応は、ノイズたちのすぐ近くから観測されている。

 だが、あの辺りは地下鉄やそこから通じている地下街があり、地面の下は戦いにくい。

 一方、地上は緑地公園があり、空間的には圧倒的に地上の方が戦いやすい。

 

『響ちゃん、地下鉄駅構内へ入りましたッ!』

 

 ということは、ノイズは地下にいるということだ。

 地下は狭くて動きにくいが、裏を返せば相手の動きもある程度は制限できるということ。

 もし鎧の装者も地下にいるとなると、そこを生かした戦術をとることになるが……。

 

『司令ッ! ネフシュタンの鎧の正確な位置を絞り込めましたッ! 同エリアにある緑地公園ですッ!』

『二手に分かれていたか……やむを得ん。翼はネフシュタンの鎧のところへ。雄輝君は響君の援護へ向かってくれッ!!』

「了解ッ!!」

 

 今回は、翼先輩にネフシュタンの鎧を任せるようだ。

 まぁ、翼先輩もあの鎧には特別な思い入れがあるし、司令もその意をくんだのかもしれない。

 後は、ギアの出力を抑制した俺をネフシュタンの鎧に宛がうのを避けたのかもしれない。

 

 とにかく、俺のやるべきことは決まった。

 狭い路地を通り抜けて、人気のない大通りへと出た。

 地下鉄構内へ続く階段が見えてきた。

 さいわい、避難は完璧に成功しているようで、人っ子一人いない。

 

「立花ッ!!」

 

 ムア・ガルトを装着しながら、階段を一気にジャンプでショートカットする。

 結構な段をすっ飛ばしたが、足への衝撃はすべてギアが受け止める。

 逆に、反動を力に変えて通路を駆け抜ける。

 さて、立花はどんな戦いをしているか?

 複数のパターンを脳内でシミュレートしながら通路の角を曲がると、そこには誰もいなかった。

 

「……あれ?」

 

 戦いの形跡は見られる。

 床や壁にはひび割れがあるし、掲示物も壊れている物が多い。

 でも、ノイズと立花の姿が無い。

 

「奥か?」

 

 破壊の痕跡は駅の奥まで伸びている。

 であれば、駅のホームなどにいることは考えられる。

 

「立花ー?」

 

 声を出してみると、奥の方から何か崩れるような音が聞こえてきた。

 ……ここホーム上なんだが、ひょっとして線路にいるのか?

 そう思って線路に飛び降りると、予想通り、線路上に立花の姿があった。

 崩れ落ちた天井を前に、上をジッと見上げている。

 

「……立花?」

「ひゃッ!? ゆ、雄輝さん。ビックリさせないで下さいよー」

「いや、別にそう言うつもりは無かったんだが……それより、ここのノイズは立花が全部倒したのか?」

「は、はい……えっと、そうみたいです」

 

 なんだ、自信なさげな言い方だな。

 

「えっと、夢中になってて、どうやって戦ってたのか、あまり覚えてないんです」

「そういうことか。無我夢中ってやつだったんだろう。それより、この穴は?」

「実は1体、大きめのノイズを逃しちゃって……今ここを登ろうと思ってたんです」

「それなら……俺に掴まれッ!」

「え……ええッ!?」

 

 立花が驚いている時間ももどかしく、俺は立花の腰に手をまわすと、脚部ユニットに力を込めて一気に解放した。

 縦穴を一気に上昇して、俺と立花は地上へ出た。

 ギアの出力を抑えても、これくらいなら特に問題なくできるってことが分かった。

 余裕のあるうちに、今のギアの限界を探っておかないとな。

 

「ゆ、雄輝さんッ! 急にビックリしたじゃないですかッ!?」

「いやまぁ、悪かった。でも、今のが一番早いと思ってな」

「で、でも、急に腰を掴むなんて……あ、流れ星」

「流れ星?」

 

 立花の声につられて、空を見上げる。

 確かに、夜空には一条の光がきらめき、流れていた。

 でも、流れ星にしては明るすぎだし、なにより距離が近い……。

 

「……いや、あれは流れ星じゃない。翼先輩だ」

「えぇッ!?」

 

 次の瞬間、流れ星……もとい、翼先輩から、青白い閃光が放たれた。

 蒼ノ一閃と呼ばれる攻撃が、容赦なく立花の逃がしたノイズを切断し、その姿を灰に変えた。

 一見すると難しい、中距離からの、しかも空中からの斬撃。

 これを正確に決めるあたり、翼先輩の技量の高さには驚かされるし、なにより気合いの入り方が違う。

 

「……すげぇな。あの体勢で上からノイズを斬り伏せるなんてよ」

「ッ!?」

 

 そんな、流れ星に意識を向けていた俺と立花のすぐ近くで、別の声が聞こえてきた。

 この声には聞き覚えがある。

 そのことを認識して、それが誰の声だったか思い出した時には、もう遅かった。

 

「はい捕縛っと」

「がッ……!?」

 

 動こうとした次の瞬間には、首に何かが巻きついていた。

 手で引き剥がそうとするが、動かない。

 だが、チラリと見えた棘付きのひも状物体は、間違いなくネフシュタンの鎧の鞭だ。

 

「雄輝さんッ!?」

「おっと動くなよ? 動けばコイツの首の骨がポッキリいっちまうかもしれねぇからなぁ?」

 

 実際のところ、ギアをまとっているのでそうそう簡単に首を折られはしないが、その言葉を聞いて立花は動けなくなってしまった。

 

「雄輝、大丈夫かッ!?」

 

 流れ星と化していた翼先輩が上空から降りてきて、天羽々斬をネフシュタンの鎧の女に向けて突き出した。

 

「人を盾にするとは卑怯な……雄輝を離せ。何が目的かは知らないが、私が1対1で相手をしてやる」

「ハッ、ずいぶん自信満々じゃねぇか。ならお望み通り、サシで勝負してやるよ。お前をボコボコにした後で、そこの女は預からせてもらう」

「えっ……?」

 

 ネフシュタンの鎧の女に指さしで指名された立花は、思わずといった感じで一歩後ずさった。

 立花が狙い……?

 よく分からないが、俺を差し置いて話を進めてるのが気に食わねぇな。

 

「翼先輩とサシでやりあうのは結構だがよ、俺のこと忘れてんじゃねぇか?」

「……あーそうそう。あたしも言うの忘れてたよ。アンタはただ単に拘束されてる訳じゃねぇってことをな」

「なん……だと?」

「知りたいか? なら、放してやるから自力で立ってみるんだな」

 

 そう言われて、唐突に首の拘束が解かれた。

 ぐらついた身体の体勢を取り戻そうと足に力を込めようとして、俺の身体は地面に崩れ落ちた。

 

「雄輝ッ!?」

「な、なん、だ……? 力が……」

「へぇ、試作品って話だったが、効き目はバッチリみてぇだな」

「貴様、雄輝に何をしたッ!?」

 

 翼先輩の凄んだ表情にも、ネフシュタンの鎧の女は動じることなく答える。

 

「シンフォギア装者に効き目のある、マヒ毒を仕込ませてもらったのさ。まだ一人分しかないってことだったから、一番厄介そうな奴に使わせてもらった」

「貴様……!!」

「安心しな。命に危険はないって話だ。ただ、少しのあいだ意識が朦朧として気を失うかも、とは言ってたがな」

「がッ……ふ」

 

 ネフシュタンの鎧の女の言うとおり、身体のしびれは全身に広がってきていて、視界もぼやけてきた。

 このままでは、そのうちギアをまとえなくなって気を失うのも時間の問題だ。

 

「どこまでも卑怯な……ッ!!」

「なんとでも言いな。あたしは目的を達成するだけだ。でもその前に、お前のその自信で伸びきった鼻をへし折ってやるよ」

 

 もう俺の身体は、完全に地面に伏してしまっている。

 翼先輩とネフシュタンの鎧の女のやり取りが聞こえてきて、互いの殺気が周囲に満ちているのを感じるが、俺には何もできない。

 あの女は、狙いは立花だと言っていた。

 一体なぜ、装者になったばかりの立花を狙う……の、か……。

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

『動きたいか?』

 

 またあの声だ。

 ここ1か月ほどはまったく聞いていなかった声が、動けないでいる俺の脳内に響いてきた。

 

『お前の仲間の剣士は押され気味のようだ。じきに倒される』

 

 翼先輩でも押され気味とは、あの女、鎧の力だけで強いわけではないということか。

 くッ、俺が動ければ、2対1で有利に戦えるのに……。

 

『我に身を委ねるがよい。我の力をもってすれば、このような呪縛からすぐに立ち直らせてやること、容易だ』

「お、おれ、に、力、を……」

「ダメだよ、お兄ちゃん」

 

 突然のことだった。

 俺の近くに、誰かが近付いてきた気配を感じた。

 その誰かは、俺の身体を抱き起すと、そのままどこかへ移動しているようだ。

 目を開けて状況を確認したくても、目を開けられない。

 

「力に飲まれちゃダメ。力に取り込まれないで……力を自分のものにして」

 

 一体、誰が俺を運んでいるのか……?

 さっき、お兄ちゃん、そう聞こえてきた。

 この世界で俺のことをそう呼ぶのは一人しかいない……いや、いなかった。

 今、俺をその呼び方で呼ぶ人間はいないはず。

 意識が混濁して、幻聴でも聞こえたか……。

 

「あ、うッ……」

「……まだ休んでて。私はいつでも、お兄ちゃんのそばにいるから……」

 

 その言葉を最後に、俺の意識は再び途切れた。

 

 

 




AXZ第五話でまたしても登場してくれた(?)ウェル博士。
もうレギュラーで良いんじゃないかな(適当)
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