魔法先生ネギま! ~麻帆良に舞い降りた天才~   作:水槽

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桜の門

「ククク、制服か。壊滅的に似合わねえな……」

 

 麻帆良学園本校男子中等部のトイレで1人の少年が呟いた。ある嵐の日、関西呪術協会の長である近衛詠春を打ち破った者――アカギである。

 ほとんど座っているだけという退屈な入学式を終え、これまた退屈な事しかない教室へ向かう途中、用を足しにトイレに寄ったのだが、何気なく覗いた鏡に映った自分の姿に、思わず先程の言葉が口をついてでてしまった。入学式の前、部屋で着替えた時は鏡など見ずに来てしまったため、自分の制服姿を拝むのはこれが初めてである。えんじ色のブレザーが壊滅的に似合っていない。

 

「さて、行くか」

 

 一見気にせず自然に歩いているアカギだが、内心ではあまりの不似合さに少しショックを受けていた。こればかりはどうしようもない。とぼとぼと歩くその後姿には、とても中学1年生とは思えないほどの哀愁が漂っていた。

 

 

 

 

「失礼します」

 

 ノックと共に学園長室にメガネをかけた柔和な男性が入ってきた。

 

「おお、タカミチ君。入学式、ご苦労じゃった」

「いえいえ、僕はそのまま1-Aから引き継ぎで上がっただけなので楽なものでしたよ」

 

 学園長と教師という立場で話していた近右衛門とタカミチだったが、次の瞬間にはすでに魔法使いと戦士の顔になっていた。

 

「詠春さんはまだ……?」

「うむ……、治癒を妨害する呪いを掛けられているようでな。まだ意識を取り戻さないそうじゃ」

 

 詠春が倒れてからすでに3週間が経っている。関西呪術協会の手練れ達が治癒に努めているが、それでも目を覚まさないという。命の危機は去っているようだが、それでも深刻な状態であることに変わりはない。

 

「我らも今そちらに気を配っている場合ではない。警戒を緩めぬようにな」

 

 予想していたことだが、すでに関西呪術協会の呪術師達が様々な方法で麻帆良に攻撃を仕掛けている。昔から小競り合い程度の衝突はあったものの、ここまで表面化はしていなかった。過激派という詠春を快く思っていない連中はこれ幸いと今回の事件を大義名分にし、それを止めるはずの穏健派も今はその役目を全うできていない。

 

「とにかくじゃ、タカミチ君。生徒たちの安全が第一じゃ。もしもの時は頼りにしておるぞ」

「はい、この命に代えても」

 

 特に彼が担任として受け持つクラス――本校女子中等部2-Aは裏の世界では重要な人物が多く在籍している。その中には近右衛門の孫であり、詠春の娘である近衛木乃香、タカミチが親代わりとなっている神楽坂明日菜もいる。それでなくともこの学園都市に住まう者達、その全てを護らなくてはならない。

 先程の言葉をもう一度、胸で唱えながら、タカミチは学園長室を後にした。

 

 

 

 

「ハァ……、悪くはないが、退屈なものだな、学校というのは」

 

 初日ということで簡単なガイダンスのみの授業だったが、アカギにはとても長い時間に感じられた。

 

(昼飯はコンビニで済ますか)

 

 寮には食堂もあるのだが、あまり賑やかな場所が好きではないアカギにとってはあまりとりたくない選択肢である。学園都市ということもあって近くにコンビニがいくつか点在しているのが幸いだ。

 コンビニへの道のりを歩き始めたアカギだったが、その時前から何かがものすごいスピードで、砂煙をあげながらアカギの方へと迫ってきていた。

 どうやらそれの正体は女子生徒のようだ。明るいクリーム色の髪に褐色の肌。スポーツ少女のようだが、明らかに一般常識の範囲外の脚力で走っている。

 アカギは片手に焼きそばパンを持ったその少女が自身の横を駆け抜けていくのを少し驚きながら見送った。

 

「ククク、どうやらこの学園は思ったほど退屈でもないらしい」

 

 高揚気味にそう口にしながらアカギは少女が残していった砂煙に視線を落とした。春の心地よい風に砂煙はそこから退き、そこから別のものが顔を出した。

 

「これは、さっきの奴の生徒手帳か」

 

 今の一連の流れで埃を被ってはいるが、物自体は真新しい。今年度支給されたばかりの新品だろう。

 

「女子中等部2-A、名前は……、こ? ふる? 読めねえな……」

 

 手に取り中身を拝見するアカギだったが、肝心の持ち主の名前が読めない。アカギ自身学校の勉強などほとんどしていないが、そこそこ真面目に勉強している中学生でも初見でこれを読むのはまず無理だろう。

 

「仕方ねえな……、届けに行くか」

 

 他に面白いものが見れるかもしれないと、アカギは期待を抱き女子中等部の校舎へと進む。何かが見えるかもしれないと期待を抱き、落とし物を届けに行くという、一歩間違えれば覗き魔のような変態扱いを受けてしまうかもしれない状態だが、アカギはそのことに気付いてはいない。

 

 

 

 

 

「アスナ、また担任が高畑先生でよかったなぁ~」

「うん! これでまた1年、いやこれから先もずっと担任でいて欲しいな~」

 

 女子中等部の校舎から2人の女子生徒が出てきた。1人は快活そうな、オッドアイが特徴の少女、もう1人はいかにも大和撫子の卵といった感じの少女だ。

 

「ほんまアスナは高畑先生のこと大好きやなぁ~、うち嫉妬しちゃうわぁ」

「な、なんでこのかが嫉妬するのよ! それに大好きって言っても高畑先生は親代わりみたいなものだし……」

 

 1人でブツブツと念仏のように唱え事をしている友人を傍目に、木乃香はある人物を見つける。

 

「あ、男の子やわぁ~」

「え!? 男!?」

 

 木乃香の言葉に明日菜は自分の世界から帰還し、校舎へ入ろうとする少年へ詰め寄る。

 

「あんた、ここは女子中等部の校舎よ! 男子は入っちゃダメなんだから!」

 

 弟を叱る姉のように明日菜は言ったが、どうにも彼女の方が子供っぽく見えてしまう。

 

「ああ、そうなんですか、それは大変失礼を。ですがこちらもちょっと用があってね。代わりにこれを届けてくれませんか?」

 

 そう言って白髪の少年――アカギは生徒手帳を明日菜に渡した。

 

「こ、これってくーふぇの?」

「お知り合いでしたか、それは好都合。名前が読めなくてね。直接渡せればよかったんですが、ものすごいスピードでどこかに行ってしまいまして」

「そ、そう。ありがとう」

 

 明日菜は少し申し訳なさそうに感謝の言葉を呟いた。

 

「君新入生?」

 

 そこへひょいと顔を出しながら木乃香がアカギに問う。

 

「ええ、まぁ」

「やっぱり、くーへの名前が読めないってことはここに来て間もない証拠だと思ったんよ」

「このか、頭いいわね」

 

 へへーと子供のような、誇らしげな様子で木乃香はさらにアカギに問いを投げかける。

 

「君名前は? ウチは近衛木乃香、こっちの娘は神楽坂明日菜」

「アカギ……」

「アカギ君かぁ~、何か分からないことがあったらお姉さん達に何でも聞いてええよ~」

「フフ、ありがとうございます。近衛先輩、神楽坂先輩。では俺はこの辺で」

 

 

 

 

「近衛か……」

 

 女子中等部から男子寮への帰路、アカギはぽつりと呟く。

 

(おそらくはあれが近衛詠春の娘)

 

 自分の父を傷付けた男に笑顔を向けるなど、皮肉なものだとアカギは内心嗤っていたが、それは極めて些細なこと。彼女について考えることはその身体に内包した恐るべき魔力量だ。少し実力のある裏の者なら気付くであろうその容量。もちろんアカギは見抜いていた。

 

(だが……)

 

 木乃香の膨大な魔力量に気付く者でも、その大半はそこで終わりだろう。

 

(真に特異なのはむしろあのオッドアイの女……!)

 

 アカギは気付いていた。神楽坂明日菜の持つ異常性――魔法を扱う者に対するジョーカーとなりうる能力に。

 だが、この時のアカギはまだ知らない。彼女が自分の思っている存在よりも、さらに重要、それこそ世界の鍵を握る人物であることを……。

 

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