平和の象徴であるオールマイト。
今の骸骨の様な彼を平和の象徴のオールマイトとは先ず思わないだろうが、彼は紛れもなくヒーローのオールマイト。オールマイトは五年前にヴィランにより大きな負傷、その負傷が原因で今の本来の姿は骸骨の様な姿にまで弱体化、更に活動に制限時間がついていた。
日本の治安を支えている平和の象徴の弱体化、世間に知られる訳にいかない秘密を抱えていた彼だが、ヒーロー活動を休止もせず、今日も制限時間ギリギリな状態まで活動しヴィランを撃破し少年も助けた。
ソコまでは良かったが…
助けた少年に秘密を知られた。
つい先程、制限時間間近にヴィランを倒し焦りながら跳び去ろうとしたのだが、助けた少年が跳ぶオールマイトにくっついてきた。オールマイトが思わずはやっ!と言ってしまう素早い動きで
制限時間ギリギリなオールマイトはビルの上に着地し少年を下ろして急いで去ろうとしたが、しかし其処で無個性でヒーローに成れるかと言う…助けを求めるような少年の言葉に足を止めてしまう。ここで限界を迎え少年に秘密を知られる事になってしまった。バレてはいけない秘密を知った少年を前にオールマイトは困惑していた。
いや今困惑している理由はバレた事についてでない。黙ってくれるように頼もうとしたら、突然やってきて少年の頭を引っ付かんで、少年共々に土下座をした猫耳の少女。
理由として考えられるのは…オールマイトの秘密を知った事について
(ま、ま、まさか…私が秘密を知った事で口封じをするなんてとんでもない誤解をされてる!?)
「この大バカ変態の飼い猫として謝らせてもらいたい。この度は本当に申し訳ない。心の傷は謝られただけで済まないって言うのは重々承知してるよ。それでも謝罪だけで勘弁してもらいたい。……もし許せないと言うなら、この場でボクが今すぐバカの下のモノを切り取って微塵にして海にまいて……」
「うんん??」
発言の内容が意味不明だが、オールマイトは口封じ云々の誤解はされてない事はわかった。わかったがホッと出来ない。ある意味で更に酷い誤解をされてる様な感じがしたからだ。オールマイトの下半身が身震いするほどに酷い発言もしていた。
「あ、あのピトー何を言ってるかわからないけど!たぶんとんでもない誤解してるよね!?……スゴく恐ろしいことを言ってなかった?」
「か、彼のいう通り君はなにかヒドイ誤解をしてるよ!?」
緑谷もオールマイトも誤解をしてると言う。それに対して少女は目を逸らしてこう言った。
「う、うん、そうだね!何も起きてないんだよね。ゴメン、蒸し返したら余計に辛いよね……」
「「 まてまてまて!」」
明らかに誤解を解けてない猫耳少女にオールマイトは自分の尊厳のためにも事情を話した。勢いでオールマイトの秘密の大怪我の話まで話してしまったが誤差だろう。
「ぴ、ピトーわかってくれた?」
「うん、勘違いだったみたいだね。よかった。そうだよね。良く考えたらボクが見逃した短時間に…事を及べないよね」
緑谷もオールマイトも猫耳少女の発言の意味を理解する事を避けた。オールマイトはヒーローとして言わなければいけないことを言った。
「いや、誤解が解けてよかった。けど……キミ、ピトー君だったかい。ビルの屋上に来たって事は彼が心配だったの解るけど"個性"を町中で使って追ってきたんだよね?良くないよ」
「はい、ごめんなさい」
とりあえず謝っとこうと言う適当な謝罪。さっきの土下座謝罪と比べ無くても真剣さが欠片もないのが良くわかった。まぁオールマイトも少年を助けようとしてここまで来たので軽い注意だけで許すことにした。……助けにきた対象を少年という事にしていた。
オールマイトは気になったことを聞いた
「君は何処から追い掛けて来たんだい?」
「ドロドロが居た所からだよ」
「ドロドロ……あぁヘドロヴィランが居た彼処からかい?彼処からこのビルの屋上まで追いかけて来れるって、それも私が着いた時間とそんなに変わらない。君は随分と機動力があるね。ヒーローに成るのに余程に厳しい特訓をしたんだね。……ヒーローを目指しているなら個性の使用には注意しないといけないよ」
弱体化したとはいえオールマイトはそれでも尚ナンバーワンヒーローとして現役で活躍しているトップヒーロー。そのオールマイトに追い付けるなら少女はトップレベルの機動力。そんな機動力は相当に厳しく鍛えてないと無理だろう。オールマイトはそれをヒーローを目指して特訓をした結果と考えた。
「だいぶ昔に特訓はしたことあるけど、別にヒーローは目指してないよ?」
「……え、そうなのかい」
力があるのにヒーローになる気がない。力のある人は得てしてヒーローかヒーローとは真逆な道へ進む事が多い。オールマイトは少女の将来に不安を感じた。
「喰っちゃ寝して家でグータラするのがボクの役目だし。ブラックそうなヒーローなんて絶対になりたくないよ」
「……そうなのかい」
さっきとは別の意味で相手の将来が不安になっていた。緑谷はダメ人間と思われかけてる師匠に対する誤解を解くことにした。
「あのオールマイト……ピトーは動物が"個性"を持ったネコですから」
「ネコ……動物の猫??君は猫なの」
「え、うんネコだよ」
ピトーの軽い言葉は何だか信用できない。オールマイトは緑谷の顔を見る。嘘をついてる様子は見えない。猫耳少女をもう一度みる。
「……うーん、君猫なの」
「なんで二度聞くのさ」
幅広く色々な個性と出会ってきたオールマイトだが、知る限り動物が個性を持った相手は一人しか見たことがない。知ってる個性持ちな動物は人間の見掛けはしてない。 オールマイトはマジマジとピトーを見た。 目の瞳孔と耳と尻尾以外は人だ。
「………本当に根津校長と同じなのかな」
オールマイトは独り言で呟いたつもりだった。
しかしネコの聴覚には聞こえた。
「根津…うん?もしかしてそれってネズミ?」
オールマイトはその反応に知ってるのかと聞こうとしたが、しかしその前にヒーローとして優先すべき音を聞いた。
爆発音。
「おお爆発だ」
ピトーは爆炎が上ったそこをみて軽い声を出す。
「なにか事故か!?…………いや爆発が連続して起きている。ヴィランか!」
「ヴィラン!?」
町中の同じ場所で何度も起きる爆発の光景、それは事故の可能性を無くした。確実にヒーローが必要とする事態だとヒーローであるオールマイトに伝わってしまった。
「……」
活動時間という制約は既に限界に近く悩むオールマイト、あれだけ派手な爆発なら他のヒーローが行くだろう。今のオールマイトでは行っても下手をすると足手纏いになる。
先ほどヘドロのヴィランに襲われたばかり、こんな近くでヴィランが現れるなんて偶然だろうか……嫌な予感がして、緑谷はオールマイトを見て青くなる。オールマイトがズボンのポケットにいれていたアレがない。
「あ、あのオールマイト、あのヘドロのヴィランを閉じ込めてたペットボトルは?」
「それはポケットに…って、は!!ない!」
ヴィランの入ったペットボトルが無いことに気付く。活動限界で慌てていて乱雑にポケットに入れていた。落ちてても可笑しくなかった。ピトーはそう言えば追ってる時になにか落ちたの見たような?と他人事のように思い出す。
「すみません!!!ボクのせいで落として……あ、あの爆発も、あのヴィランが原因!?」
「いや、少年、私がもっとシッカリポケットに入れてなかったのが悪い。そもそも一度逃がした事が原因だし」
お互いに相手が悪いと思わずに自己嫌悪に落ち込む二人、それをネコは眺めた。
「…と、落ち込むのは後だ」
しかし流石はプロヒーローと言うべきか。直ぐに落ち込む事をやめ、オールマイトは大きく息を吐いて下へ向かう階段へ向かった。
「お、オールマイト、どこへ行くんですか」
「勿論あの爆発の現場だよ。ヴィランが現れたなら行かなきゃならない。もし原因がヘドロヴィランなら私の責任だしね」
ピトーは首を傾げて不思議そうに聞いた。
「その状態で行ってどうするの?さっき言ってたけど今日はもう限界なんだよね。行ってどうするの。行かない方がいいんじゃない」
「……うん、そうだね。けどいかないのも無理なんだ」
答えてる様な、答えてない台詞を言い屋上の出口から出ていくオールマイト。個性を使って行かない所を見るとやはり余力がない。本当に行ってどうするのか。
「なんかイズクに似てる人だね」
ピトーは何となくそう感じた。あこがれの相手と似ている。イズクにとって嬉しい発言の筈だが本人が聞いちゃいなかった。
「ぼ、ボクのせいだ。ボクも行かなきゃ!」
緑谷もオールマイトの後を追って走っていた。ヒーローの資格もない緑谷が行ってどうするというんだろうか?長く緑谷を見てきたピトーはわかる。あれは後先は深く考えてない。
「やっぱり似てるなー。」
二人が屋上から出ていった後、ピトーは爆発のある所を眺めた。見覚えがある爆発な気がするのは気のせいか?
「ヴィランとかどうでもいいけど、あの二人がどうするかは気になるかな……」
そう呟くとビルから消えるピトー。ビルの上を足場に現場近くまで移動する。
「あのヘドロで正解かー、ってあれ」
現場を見るとやはり騒ぎを起こしていたのは、オールマイトが退治して捕まえていたヘドロヴィラン。予想はしていた。ただヘドロヴィランに1つだけ違う点があった。ヘドロには爆発なんてさせる力はない。ヘドロヴィランが誰かを取り込んでいる。その誰かを見てピトーは呆れた顔をした。
見覚えがあると思ったのは気のせいではなかった。
「囚われのヒロイン役がアレッて……」
爆豪かつき、ヘドロヴィランに体を乗っ取られていたのはピトー的に気紛れででも助ける気に絶対にならない相手。触手的なドロドロに捕まる。そこは少女が囚われてる所だろうとピトーは思いながら眺めた。
既にヒーローが集まってきてるが人質が居るせいか、個性の相性のせいか何も出来ていない。向かってる二人の事が無ければ早々にピトーは帰っていただろう
「変だな。あのオールマイトって人は知らないけど、イズクならもう着いてて可笑しくない時間がたってる。…ビルの人に捕まった?あ、きた」
ピトーは到着したのを見付ける。病院に連れてくべきだと思える男性、オールマイトと、オールマイトの後ろに心配そうな緑谷がいる。オールマイトが倒れないか心配で後ろについていたのだろう。
「どうするのかな」
ピトーは単なる好奇心と師匠目線で弟子の行動を見守った。
現場を見て弟子の緑谷は何をしたか。かっちゃん!!とイジメてる相手がヘドロに囚われてるのを見て駆け出した。ヴィランに向かって。
「ええ、イズクなにしてんの?」
イジメてる相手が捕まってるなら普通なら見捨てる。良い気味だと思う。まぁピトーはお人好しすぎるバカな緑谷なら助けに動くとは思ってはいた。別に助けようとすることは別に良かった。ただ……即座に突っ込んでるのには怒っていた。個性持ち相手に何も対策もせずに突っ込のは駄目だと散々に教えてきたから当然か。
何故か背中にゾッと寒気がした緑谷だが走る足は緩めず、陸上選手並みの素早さで爆豪の元まで移動した。
「な、なんでデク、お前が来るんだよ!!」
爆豪が目の前まで来た緑谷(幼馴染)に怒りを露にして怒鳴る。
「君が助けを求める目をしていたから!」
即座に緑谷はそう怒鳴り返す。絶句する爆豪。爆豪を助けようと緑谷は手で絡み付くヘドロを剥がそうとした。予想以上にヘドロに粘着性があり剥がれない。
「なんだこいつ」
「なにしてやがる!どけ!デクがどっかいけ!!」
ヘドロヴィランよりむしろ助けようとされている爆豪の方が忌々しいという反応をしていた。
「邪魔するな」
ヴィランが爆破と触手で排除しようと掛かる。緑谷は素早くネコの様なしなやかさで攻撃を回避していく。地味に人間離れした動き。爆豪は驚愕のプロヒーロー含めた観客も驚きの目で見ている。ピトーは良くわからない表情で見ていた。オールマイトはちょっと出るタイミングをはずしてしまった。
しかし幾ら回避が見事でも回避だけでは意味がない。助けることができなければ意味がない。助けるどころか爆破で爆豪の疲労も蓄積しているのか顔色が悪くなっている。緑谷の顔に焦りが浮かぶ。その焦りが隙を生じさせ爆破の一部が当たった。
「あつっ!」
「ぐぅうう!!」
爆破の一部が当たる。さらにその隙に触手が当たり弾き飛ばされる。数メートルは弾き飛ばされゲホゲホッと痛みで咳き込み膝をついた緑谷、しかし再び立ち上がると痛みに弱気に成るどころかより諦めるものかとばかりに強い目をした。触手がとんできた。
「全く情けない」
そんな緑谷の目の前に巨大な背中が立つ。堂々たるその姿に周囲から歓声が上がった。
『オールマイト!!』
それは限界時間を迎えたはずの平和の象徴
「……後は私に任せなさい!SMASH!! 」
オールマイトの一撃が炸裂しその衝撃破でヘドロヴィランは爆豪の体から離れる。圧倒的な勝利にさらに大きな歓声が上がった。実際には薄氷の上の勝利だという事を誰も気付いてはいなかった。
ピトーは何故かゾクッと寒気を感じた。自分の姿と名前が同じ相手がオールマイトばりに巨漢の男に自分がぶん殴られる光景が浮かんでしまったからかもしれない。
事件の解決。乱入した緑谷は当然ながらヒーロー達から説教を受けた。緑谷は当然だと思い大人しく説教を受けた。
緑谷よりも先に見ていたネコは、その場にいたヒーローたちは個性が不利だとヘドロと戦っていた訳でもない。人が巻き込まれないようにしていた。ならイズクを止めれなかったヒーローが責めるのは格好悪いと思う。
あとヒーロー達が助けられなかった爆豪の個性を誉めてるのは、助けられなかった事を誤魔化す為か。暗にお前のせいで被害が拡大したと言いたいんだろうか?
爆破で少し出来た火傷の治療と説教を終えて帰ろうとする緑谷の顔色は悪い。顔色から察すると恐怖していた。今さらながらヴィランが怖かった……なんて事はない。恐怖してるのはそんな事でなく……
誰かが近づいてくる緑谷は来た!と恐怖して
「おいデク!お前に助けられた訳じゃねぇからな!」
爆豪でホッとした。
と態々やって来てそう言ってきた爆豪に『え、うん。そうだね』と返答。何故か肯定したのに爆豪は余計にキレて帰っていった。
キレちらかす爆豪が去ってから飛び出す影、緑谷は来た!と恐怖で体を固めたが相手を見て驚いた。
「私が来た!!」
「え、お、オールマイト」
それは先程まで人に囲まれていたナンバーワンヒーロー。
「ハハハ驚いてるね少年、ちょっと君に伝えない事があってね。ついさっきだけど、あのビルの屋上で君は私に聞いてきたよね無個性でヒーローに成れるかって……私はまだ君に答えてなかったよね」
「は、はい」
「無個性でヒーローに成れるか………現実的に言えば、無個性でヒーローに成るのは厳しい。個性があってもヒーローは命懸け、とても無個性でヒーローをやれるなんて言えない。人を助けたいならヒーロー以外にも道がある」
「……」
俯く緑谷にオールマイトは言った。
「と、こんな感じに本当は無理だと答えるつもりだったんだけどね!」
緑谷は顔をあげた。
「君はどうしてヴィランに立ち向かったんだい。あの立ち回りを見ると随分と鍛えてるようだけど、あの場にはプロヒーローが何人もいた。プロヒーローに頼れないと思ったのかい?それか自分じゃないとダメだと思ったのかい?」
「いえ!そんな事は思ってもいませんでした!ただ……あの時は、なにも考えないで、気付いたら飛び出してて…すみません」
「そうか。気付いたらか………そうか」
「オールマイト?」
オールマイトが感慨深そうにしていた。
「人は危険を目の前にするとリスクをどうしても考えてしまう。怪我したらどうかとかね?そんなリスクを怖れず考えずただ人のために飛び出せる人の事を私は、ヒーローと言うんだと思うんだ」
言葉を理解すると緑谷の身体は熱くなる。
まるで心に火が灯るようだ。
「だから少年、私は思う。あの時、私を含めて沢山のプロヒーローが居るなかで、あの場で誰よりもヒーローだったのは間違いなく無個性の筈の君だとね。だから私は君の問いにこう答えよう」
緑谷の目には自然と涙が溢れていた。
「君はヒーローになれる」
尊敬するヒーローから温かい笑顔と共に言われたそのたった一言を、緑谷はこれからの生涯で死ぬまで忘れる事はないと思う。しかしオールマイトの真後ろに猫耳の何かを見てしまった。緑谷は即座に動いた。身体が自然にそう動いていた。
「そして……そんな君だからこそ、私から提案がある。私の個性それは…」
オールマイトは自分の極秘の個性について語った。初めて聞いたときの時分の様に驚くだろう緑谷の反応を予期した。
「って、なにしてるんだい!?」
緑谷はオールマイトが見逃してしまうほど滑らかな動きで土下座していた。土下座している緑谷に逆に驚かされた。
驚きながら……なんだか感動シーンが盛大に台無しに成ったような気がした。