衝動的なの   作:ソウクイ

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カストロ憑依に

 

アイツの話?

 

んーまぁいいわさ。

 

な、なにさ、嬉しそうにしてるって。

ん?年考えろ……てい!

どうしたの顔から鼻血を流して?

ビスケちゃんは乙女だからわからないキャルン

 

アイツと出会った日の話ね。

 

アイツがアンタ達と年齢は同じぐらいだから、かれこそ10年ぐらい前、あの日の事はムシャクシャしてたから覚えてる。何でってその時は狙ってた宝石が手に入らなかったからね。あー今思い出しても腹立わさ。

 

いやいや見つけられなかったとかじゃなくて、宝石はみつけはしたんだけど、その宝石手に入れるのに色んな伝を使って調べてようやく見つけたんだけどね!!見つけたと思えば……宝石が持ち主の息子夫婦の、新婚の結婚指輪にされてのよ!流石に結婚指輪をどうにかできないわさ……物凄い仲が良さそうだったし

 

あ?……ムシャクシャしてた理由は宝石が手に入らなかったかじゃなくて、ラブラブな新婚カップルをみたからじゃないか?

 

てい!

 

そういう訳で当時の私は宝石が手に入らなくて!ムシャクシャしながら歩いてたわけよ。そんな時に声を掛けられたの。これはアイツじゃないわさ。ナンパ…?ナンパでもないわさ。ナンパ…

 

声をかけてきたのは偶々帰る時に通った町にあった心源流道場の師範よ。私が一時的に稽古をつけてた道場に居て私が教えた事があるからソイツは一応は私の教え子みたいなの。

 

名前?なんて名前……えーー…ワーゲンだっけ。ボケた訳じゃないわさ!会ったの数度だけであと名前を覚える価値が無い奴だったし。価値が無いって酷い?価値が無いって言い方が悪いわね。名前を記憶に残しときたくない相手。思い出したらムカムカしてきた。ソイツ私になんて声を掛けて来たと思う?

 

恐ろしく強い別流派のヤツが自分の所の道場に居るから助けてとか言うのよ。道場の師範を任されてるヤツがよ?笑える?同門の一応は教え子が言ってたら笑えるわけないわさ!

 

ま、そんな師範がやってる道場なんて心源流の名誉のためにつぶれた方が良い気がしたけど、行ってあげたわさ。

 

苛々してたから気兼ねなくぶん殴れる相手がほしくて?てい!まー正解よ、正解なら殴るな?正解でも失礼なアンタが悪い。 話を戻すけど私が行った道場で見たのがアイツ、カストロがトラブルを引き起こしてたの。

 

まぁ判ってると思うけど誤解ね。

 

道場側の言い分はカストロの事を何処かの流派のヤツが道場の名誉を潰すために刺客って認識。カストロの言い分は一月だけ体験で入ってただけ…結論だけ言うけどカストロは嘘はついてない。けどカストロが悪いわね。

 

カストロの奴。その道場に入る時に武道を学ぶの初めてですって言って入ってきたそうなの。

で、その頃のカストロ、今のアンタと同じぐらいの身体能力があって、漫画の武術を参考に何年も修行してたせいで普通に心源流以外の格闘技を使ってる様にみえたそうよ。

 

武道初心者なんて嘘をついた別流派の使い手と思われるのが当然。別の流派の間が喧嘩を売りにきたって思われたとしても納得はできる…判断するのが素人に毛が生えたヤツならね

 

当時の私が見たカストロは一部はスゴくて武術ぽいのは使ってたけど、ある程度武術が出来たら素人ってのはわかるぐらいに無駄な動きはあったのよ。

 

その道場の奴等ダメ過ぎね?

 

まーーソコの道場はやたら門下生が弱くて目が節穴ってのが多かったわ。けど少なくとも道場主は違った。ええそうよ!その道場主はちゃんと素人だってわかってたよね!つまり私に嘘ついたのよ!本当にふざけんなってヤツよ!あれのせいで…偶々近くにいたネテロ会長がかかわってくるし

 

 

………もっと詳しく?

 

 

 

 

 

 

 

20年前、貧民街生まれの当時の俺はスリで生きていた。今では心源流って最大規模の流派の看板を背負う道場の師範だ。

 

スリからなんで道場の師範になったかといえば、当時の俺は何時ものように財布を擦ろうとしたがミスをしちまってな。しかもミスしたのがヤバイ相手で殺されそうになったんだが、其処をばば、んん!ビスケ師匠に助けられた。…本人は欠片も覚えてないけどな。心の師匠。

 

まぁ後から聞いた話だと、俺を助けたんじゃなくてヤバイ相手の持ってる宝石が狙いで助けたと見せかけて……事実なんて永遠にしりたくなかった…

 

当時は、表向きの助けられた理由を信じて、存在しない優しい師匠に憧れた俺は、スリから足を洗って師匠が講師をしていた心源流に入った。

 

で、一時師匠が指導してくれる事があって、その教えを元に人一倍真面目に修行して稽古をして心源流に入って20年目にして俺は一つの道場の師範を任されるようになっていた。大出世だ。自分のことながらよく此処までこれたと思う。

 

同期の中で誰よりも努力して師範まで上り詰めたと自負している。で、そこからそんな才能も無い貧民出身の俺だから他の道場と違って俺の道場は、底辺の身分のヤツでも才能のないヤツも努力しないヤツでもドンドンと門下に入れていた。基本俺の道場は入りたいヤツは拒まない。 入ってからも強くなるのは自分の意思次第だと稽古をサボるのも注意しない!何よりも厳しすぎると女の子の門下生が入らないしな!

 

質は低下して道場の中でも特に質が低いって言われた。

 

自分の道場が馬鹿にされても後悔はなかった…あんなヤツも入れちまったのは後悔しかないな。

 

道場に入ってきたソイツ、カストロを見て思ったのは、顔が良い場互いなガキ。十代の前半ほど軟弱そうな顔に筋肉が欠片も見えない体、武道初心者なんて話も嘘とは思わなかった。

カストロに道場に一月だけ体験で入りたいと言われても許可してやった。誰でも良いって方針だしどうせ一月と期限を決めなくても稽古に耐えられないだろうと思ったからな。

 

………ビスケ師範みたいな外見が宛にならない例外の事は頭に過りもしなかった。もし思い出してればあの一ヶ月は始まらなかったろうかな!

 

俺の道場では準備運動の後に一番始めにやるのが正拳突き。基本中の基本の技。基本だけありある程度の格闘技者になれば正拳突きの一発を見れば相手の実力はわかる… 

 

正拳突きってのは超一流なら音を置き去りにして空気を叩く。…ネテロ会長のはなんだろ。一度だけ見る機会があった、あの人の正拳突きは音どころか時を置き去りにしてるように感じた。正拳突きの極地っていうのか、ただ一回の正拳突きを見て感動して泣いてた。天才なだけじゃ辿り着けない修練の最果てって言うのかな。未熟なりにそんな風に感じた。

 

カストロが入ってから始めにやった正拳突き。

俺は正拳突きの型を見せカストロは見よう見まねといった風に正拳突きを行った。 

 

師匠曰く石ころレベルの才能の俺は才能豊かな奴に若い頃は散々に嫉妬をしてきた。しかし歳をとると慣れてきて嫉妬の感覚も薄れてくる。門下生って格下しか周りにいない師範になってから嫉妬をした事なんてほぼ無い……

 

たった一発の正拳突き。演技じゃなければカストロの初めての正拳突き。いや仮に演技だとしても、幼い頃から修練を重ねてたとしても、カストロの年齢を考えると……はぁ…。

 

正拳突きを見て二度目の涙が流れた。

今度のは感動じゃない悔し涙だな。

 

無駄が無くなって動きが洗練されていく。長い時間をかけて脳でなく身体の細胞に覚えさせるような作業を…アイツの一日の成長は俺の何年分だ。まだ経験の浅いヤツはともかくある程度経験を積んだヤツは皆、カストロに対して誰も良い目を向けなかった。気持ちはわかる。

 

一月過ぎたら出ていってもらった方が全体としては良い…けどあれだけの才能を放り出すとのも勿体無いとも思う…ジレンマだ。

 

カストロに練習試合戦を挑むやつがいた。入門から十年ぐらいのヤツだ。入門十年のヤツが入門一日目と模擬戦なんてダメだろ。他のヤツから良いのかって目を向けられたけど黙認した。予想だと良い勝負になるんじゃないか?ただ恐らく幾ら才能があってもカストロが負ける。カストロが負ければ敵意も下がるはず。そう思って許可したんだ。

 

しかしカストロの勝ち。

それも一発で。

勝負の形にも成らないなんて予想より強すぎる。余計に状況は悪くなった。

 

 

下手に一度許可した事でカストロに挑戦する流れが止まらない。模擬戦を受けて勝ち続けドンドンと強くなって、遂には道場で俺に次ぐ二番目の実力者も負けた。

 

しかも正拳突きでだ。

 

カストロが放ったその正拳突きは俺のより、長年努力した俺のより……カストロが正拳突きをやった回数は俺の何百万、何千万分の1だ?

 

才能の差から、俺がカストロを指導する何てするのは烏滸がましってのかな。無理だと思った。それでカストロを指導もせずに放置してしまったんだ。俺は指導出来ないと遠回しにカストロに言った。遠回しで伝わってなくても普通、指導しなくなったなら来なくなるよな?カストロは毎日道場に来る。俺はどうすれば良いんだと胃を痛めた。

 

で……カストロは何処かの流派の刺客で心源流に喧嘩を売りに来たヤツだって事になっていた。道場にそんな噂が広まっていた。

 

俺は否定はしたが、カストロは指導もされず放置されたのに、それでも文句も言わずに律儀に毎日道場にくる事から邪推は広まった。

あと心源流と違う武術を使ってるみたいな動きが有ることも理由か。武術……ってほど洗練されてない。もし武術でカストロが学んでたならもっとちゃんとしたモノになってる筈だ。

 

刺客だなんだって噂が広まったままアイツの体験で入るといった最終日。延長はしないって本人からつたえられた。俺はようやく去ってくれるって安心…出来ない

 

……これ、カストロが他流派の刺客って認識のままだと、他流派に勝ち逃げされたみたいな事になるな。道場主として困る。カストロに刺客じゃないと否定して貰う…本人の証言じゃ意味ない…か。

 

こうなったら俺が模擬戦でカストロを倒せば最低限の面子は……勝てるかな。素だと厳しい気がする。流石に念を使えば倒せるだろうが、カストロは念を使えない。もしくは使えないように見せてる。念を使えない子供に念ありで勝つのは…。

 

カストロが道場にいる最終日、俺はその日、道場に行かず外を出歩いていた。そんな出歩いてる時に師匠、あの人に出会った。

 

 

…俺のこと欠片も覚えてなかったよ

 


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