衝動的なの   作:ソウクイ

59 / 95
先生

 

 

誰もいない道場で大男は倒れていた。

 

ピクリとも動かない姿は死体を思わせるが生きてはいる。今はまだと注釈は付くが。

全く動かない体に彼はこれは少し不味いなとか思ってるが実際の所は、心臓が止まりかけているので少しでなく致命的に不味い。

 

 

道場には助けてくれる様な誰かはいない。彼が態々人が居ない道場を選んで鍛練してたので当然だ。道場の場所も山の中で人が来る様な場所でもない。心臓が止まり血流も流れなくなり頭に血が廻ららずボヤけていく思考。もう秒読みの段階。

 

しかし肉体が死ぬ間際に彼の肉体の生存本能が全力で働く。要は火事場の馬鹿力で絞り出す様に沸いてきた"霊力"を本能が使う。霊力は肉体を治癒させ心臓が再始動。何とか彼は"今回も"生きていた。 

 

 

間一髪に一生を得た彼は生還を喜んだ、なんてこともない。九死に一生を得ておいて特に喜びの感情もない。平然と体の回復を待つ。可笑しいが……常人なら奇跡と言って良い回復だが、彼本人としては何度も起きている何時もの事にしか過ぎず感情を動かす程でもない。そう彼にとってさっきの様な事は日常的に起きていた。当たり前だが頭がおかしい。

 

体の回復を待ちながら彼はふと呟いた。

 

「……生まれ変わって随分と経つねぇ]

 

ーー幽☆々☆白書の世界に転生してからと。

 

 

 

 

 

 

 

オレには前の記憶があった。

 

オレは転生したんだろう。転生したことについては死ぬ瞬間も覚えおりアッサリと受け入められたが、転生する前の記憶よりだいぶ過去の時代だったことについては今でも慣れることはできない。

 

前は平成の世の中で産まれ次の人生はなぜか過去生まれ、この時代の生活に慣れることができない。日本の敗戦間もなく生活水準も低くく治安も悪い。オマケに幽霊が見えたり怪人が襲ってきたりもする。慣れるのは無理だよ。

この時代は未来の日本と違って弱ければ不味い。

 

先ず物理的に自分の身を守る強さを求めて兄と一緒に武道を学ぶ事にした。そして学ぶ場所として兄が選んだのが霊光波動拳の道場だった。

 

道場の名前を聞いてんんん?と混乱した。

 

霊力を使う道場と教えられ胡散臭い?いや霊力を使う道場と言われると本来な胡散くさいと思う筈なんだが…… 自分の名前も合わせて考えると思わず冷や汗が流れてしまったよ。

 

オレの名字は戸愚呂。

 

珍しい名字にだいぶ引っ掛かってたが、心当たりがあれなので違うだろうと思っていた。しかし心当たりに、時代は当てはまり兄が居て霊力や幽霊や怪人、いや妖怪すら存在する。止めに霊光波動拳……もうそうとしか思えないね。

 

 

第二の人生は過去でなく別世界、前世で見た漫画の『幽☆々☆白書』の様な世界。

さらに『トグロ弟』いわゆるラスボスの様な存在に転生していた。

 

「勘弁してもらいたいね」

 

気づいたときは思わずそう呟いてしまった。

『トグロ』の様な台詞を無意識に出して彼は恥ずかしいと頬を赤くしたという。誰も得しない。

 

 

オレが自分や世界のことに気付いた後だが、霊光波動拳の道場に入門する事にした。  

 

いや別にオレは原作の『トグロ』に起きた悲劇を忘れた訳じゃない。悲劇の知識があると入りたくないと言う思いも確かにあった。

入門するのは『トグロ』と同じ道に進んでいると思えるが、オレも好き好んで不幸としか思えない人物と同じ人生を歩むドMでない。ただ『トグロ』と知った時から強くなりたいと思ったからだ。

 

目的がある。それは……まとめブログなどで『トグロ』に書かれた侮辱、井の中の蛙やB級(雑魚)と呼ばれるのを防ぐという崇高な目的。

フリーザ枠は嫌だと。バカだろうか。バカだ。バカだが必ず強くなると決めた。

 

 

霊光波動拳は原作と同じなら"人間では"最高クラスに強くなるのに最適な流派。元々身を守る力も必要としていた。強くなるためには入るしかないと思えた。だから入門することにした。

 

入門後の悲劇については『トグロ』にあった原作の悲劇については極々簡単な脳筋解決法を思い付いてたので問題視しなかった。唯一彼が問題と思ったのは兄だ。

 

自分がトグロ弟と知った彼はトグロの兄が……原作でゴミにも劣る畜生になっていた事を思い出した。

今のうちに兄をあの世に逝かせた方が他者は勿論、本人のためにも良いかと真剣に考えるのも当然だろう。

 

本当に真剣に悩んだ。兄はまだなにもしてない。なにもしてないのに『』して良いのか。しかし現在ですでに兄の性根がねじ曲がってたので、暫定黒みたいなモノで問題ないとも思う。

 

それでも相手は兄だ。彼にも兄への情はある。兄への情を最大値で譲歩して考えて花占いできめる事にした。ヤるヤらないで3度花占いをして一度でもやると為ったら…という殺意満々な花占い。彼からの兄への情の深さが窺い知れる。

 

その花占いだが一度目はやらないになる。二度目もやらないになる。そして三度目も……やらない。

彼は特に理由はないが舌打ちしながら兄については"保留"にした。兄もまさか自分が花占いで助かったと思わないだろう。

 

そんな彼にとってどうでもいい事は置いとくとして、強くなるために入門した彼……強くなる為に頑張りはしたが、それでも本人が驚くほど早く強くなり頭角を現した。

 

彼は前世では格闘技なんてやってない。戦闘に関わったこともない。勿論霊力なんてモノも使えなかった。

 

遥かに高い目標があった事と、肉体が優秀だった事と、素か転生した影響かで霊力が異様に高かった事、これら複数の事が合わさり彼の実力は周りがえぇと引くほど早く上がっていったのだ。

 

他にも彼は娯楽が有りすぎた時代から娯楽がまったく足りない時代に転生した事で、鍛練そのものを娯楽として楽しんでいたことも原因か。

 

霊光波動の日々の鍛練、それにプラスして鍛練、鍛練、修練、鍛練また鍛練の毎日。大の大人でも逃げ出す鍛練を彼は娯楽感覚で他より多くこなした。 彼は娯楽(修練)なら幾らでもやれるお代わり!と死んだ目でやり続けた。それには同門や師範さえコイツ怖と思わず言ったぐらいだ。

 

入門から数年した頃には彼は道場でも指折りの実力者になっていた。其処から彼は満足するどころかさらに彼の精神が逝って、いや努力は加速した。

 

霊光波動の修練は過酷だったが彼は自己でさらにプラスして鍛練をおこなうようになる。それを見て師範や同期や兄はなんでコイツ死んでないの?と真剣に呟いたとか。

 

そんなこんなしてる内に実力はさらに高まり、彼が成人を迎える前に霊光波動継承者候補筆頭となった。

 

同門には彼より長く修練を続けた人間もいた。それで候補筆頭となった事で同門の先人に彼が妬まれたかと言えば、あまりそんなことはなかった。

 

もし才能で上回れたと思うなら妬めるだろうが、流石に自分達がやっている過酷な修練より更に過酷な修練をする姿をみれば、力の差は努力の差だと思え負けたことをすんなり納得できた。あんな頭の可笑しいのに勝てるかと。

 

師範候補筆頭となって彼は落ち着いた…

 

…なんてこともなく。

 

さらに修練だけでは意味がないと実戦経験が足りないと考えてしまう。

 

戦闘経験を溜めるために彼は全国行脚し悪質で合法的にやれる凶悪な妖魔探しに旅立つ。彼的にはボコって問題ない相手からの経験値目的だが客観的には善行でもあり。各地で結果的に多くの人を助け彼の名と共に霊光波動拳は名が高まった。

 

ただ彼が行脚中は流派の技自体が広まるのは駄目だと、対策を取られる可能性は良くないと無駄に気を使い。流派の技を封印し『トグロ』をリスペクトした技術を越えたパワー戦法で脳筋戦闘をしていた結果、肉弾戦、筋肉のみな戦いかたばかりをする。名声と共に霊光波動拳が霊力や技でなく筋肉で戦う流派という、名前詐欺流派なんて誤解も同じく拡散したが些細な悲劇だ。

 

次期師範筆頭の行為で流派の名声が高まってるが、変な誤解も増えるという自体に師範達は頭を痛めた。行動も善行であり評判は高まってもいる。流派の技を隠す理由も納得はできたので文句も言いずらい。

その波及としてとある人物が兄として弟を何とかしろと言われストレスを感じ胃をやられていた。

 

何年か武者修行の全国行脚を一時終えて道場に帰ってきた彼に師範は、一人弟子を育てることを義務付けた。表向きは次期師範にするための試練だが、裏向きは余計な事をしないように縛り付ける事が目的だろう。

 

彼に内弟子としてつけられたのは幻海という名の美しい少女。そう原作主人公の師匠の若かりし頃。

 

なんでだろうか。

 

 

オレもほぼ同期で居たのは知ってたがオレが『トグロ』の事を考え全力で関わるのは避けていたのになんでだ。本人の希望?即座に弟子の変更を願い出たが却下された。

 

可笑しいと思った。幻海はほぼ同期なので弟子になるのは可笑しい。同期でも弱いならともかく強さはオレに次ぐほどだ。それと弟子と師匠の関係なのに何故いきなり弟子から正座をさせられてるのか。

 

小柄な少女に正座させられる大男。

 

「さて弟子として言わせて貰うよ師匠(トグロ)」

 

敬ってる感じは皆無な気がする。

本当に師匠と思ってるのか?

小一時間説教をされたので絶対に思ってないだろうと確信させられた。

 

なぜか幻海を弟子にすることになった彼は……仕方ないので弟子として幻海に修練を共にした。

 

彼は若い頃の幻海と無茶苦茶やった。

勿論修練を。

足腰立たないほどやった

当然修練を

 

そんな日々……遂にオレに暗黒武術会への選手としての招待状がきた。しかし記憶にある原作で『トグロ』は仇が原因で出場している筈だが?

『潰煉』という妖怪が『トグロ』の弟子をヤッた事が原因のはず。道場は別に襲撃を受けてない。弟子も無事……そもそも弟子が幻海しか居ない。

 

 

彼は原作と違う誘われ方に首をかしげた。そもそもなんで招待されたんだと疑問を感じたが、幻海から武術会に招待された理由を聞いて納得した。

 

招待状が来た理由は各地の強豪妖怪を数多倒した事が原因だろうと、名前が有名に成ったせいか。つまり原作の主人公と似た立場ということだ。生意気な人間ブッ飛ばしてやるということか。

 

オレは招待は自分のやった事が原因と納得した。

大会に行かないという選択肢もない。

 

幻海や同期をチームメイトに暗黒武術会への招待を受けることにした。兄もオマケに連行した。

大会への他メンバーの参加理由は腕試しだがオレには別の目的もある。

 

『トグロ』が悪役となった元凶の妖怪潰煉、原作では暗黒武術会の優勝候補。潰煉と戦うことが目的だ。

 

実際には大会への参加する理由でなく特に仇でもないが、勝敗によって明確に今のオレが『トグロ』より弱いか強いかの指標になる。

 

しかし目的は早々に頓挫した。

 

襲われた事以外特に問題なく会場につくとトーナメント表を何度と見て唖然とし、それから大会運営に出場選手について聞いた。

 

なんと目的の相手、 潰煉が、暗黒武術会のトーナメントに出てなかった。

原作と違って存在しない訳じゃない。全国行脚中に潰煉の名は聞いたこともあるし。優勝候補だと確かに聞いたことがあった。なのに居ない。

 

オレは潰煉が居ない大会に参加してしまったと崩れ落ちた。チームメイトは全員が他人のフリをするほどに酷く落ち込んだ。

あと原作の猫耳付きのアナウンス嬢が居たことにも……中身BBAだったのか。

 

 

潰煉には劣っても修練相手にはなると思い大会に挑むが、どの敵チームも副将の幻海を突破できずオレは一戦もせず彼のチームは優勝。彼がやったのは人間という理由で襲ってきた観客の雑魚妖怪の返り討ちぐらいだ。初戦を全て任せた兄も大会で名誉の戦死とかしなかった。

 

初の暗黒武術会はこうして終了した。

 

優勝の報酬、何でも願いを叶えてくれると言う某球龍の様な報酬、彼は報酬として考えてた事もあったが、なにもしてない事から一番活躍した幻海に報酬を譲ることにした。

 

帰るとき暗黒武術会の運営からゲストとして次回も参加する様に頼まれた。今度は一人で。オレへの殺意が高い。

 

しかしその提案に乗り彼は次回大会に参加することにした。報酬と打倒潰煉その目的が達成するために…。

 

そして次の大会で見事に初戦一人で戦い抜き一人で勝った。優勝した。なぜか潰煉が居なかったが。

 

そして大会の報酬で願った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから五十年ぐらい後…

 

 

「おはよう。今日は良い天気だねぇ」

 

 

彼は中学の教師をしていた。

 

    

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。