ワタシはこの世界に産まれた……
ワタシは誰だ…なんなのだ。
産まれて良かったのか?
その答えは未だに見付からない。
薬品で満たされたケースの中、それがワタシの産まれた場所。産まれたばかりのワタシには記憶があった。
断片的にしか思い出せない曖昧でありバラバラな複数人の記憶。記憶は男性であったり、女性であったり、若者であったり、老人であったり、善人であったり、悪人であったり性別も立場も年齢も多種多様。
しかしどの記憶も他人事の様にしか感じない。ただ二つの記憶を除いて。
その二つの記憶のどちらかの記憶が自分だと言う気がする。どちらも自分でない気もする。
1つは…"個性"が存在しないこの世界とは別世界に居た男の記憶…事故で亡くなった筈の男の記憶。名前は何故か思い出せない。死んだならその男にはその後がないのが当たり前だったが、男には死後の後があった。
男の記憶は死んだ後にも続き何処かでカミサマと名乗る何かと出会っていた。カミサマは男に力を与え転生をさせてくれると伝えた。それに対して男は死後を夢と認識していて転生も本気にしてなかった。深く考えもせず好きだった作品のキャラクターをカミサマに願ってしまっていた。
そんな記憶がある。転生した男、それがワタシの正体なのか。もしこの男がワタシならワタシは…………ワタシを許せないだろう。
許せないと感じてるのはワタシなのか、記憶の男なのか…それとも、やはりもう1つの記憶なのか?
別のもう1つの記憶は男と違いこの世界に生きていた少女の記憶、男と同様に名前も思い出せない。男の記憶より少女の記憶の方が曖昧だが他人とは思えない。男が転生したのがワタシでなく少女なのか。だからワタシと思えるのか?
もし勘違いでワタシと無関係な他人とすれば、少女は怒っているだろう。やはりワタシを憎んでいるのだろうか。わからない。少女の記憶はあっても少女の思いはわからない……わからないが少なくともワタシの心が今のワタシを許せないと感じるのは確かだ。
しかし……他に許せないと思う相手がいる。それはこの世界にワタシを産み出した存在。これも2つ存在する。
1つは男の願い通りの転生をされたカミサマと名乗った何か。根本的に男の願いが悪いと言われれば否定は出来ない。だがそれでも…許せない。願いからしてこう言う形に成るしかないとしても
そしてもう1つ、男より、カミサマよりも遥かに、いや比べる事すら出来ないほど許せない存在、ワタシの…この身体を産み出した悪意。
ワタシの身体を"造った"悪意はこの世界でヴィランと呼ばれている犯罪者。
この世界では"個性"という千者万別の力を人は持っている。個性により力の下位上位が決まる社会。
強い個性なら優遇される。弱ければ不遇になる。‘個性’により目に見える形となった優劣は言葉にすれば弱肉強食、そんな社会なら人が強い個性を手に入れたいと思うのは当然となる。個性婚と呼ばれる行為が流行った。
個性婚とは、個性とは遺伝する、優秀な個性を作ろうと血統書つきの犬や馬を作るように優秀な個性同士の結婚で遺伝により良い個性も誕生する。当然だが個性婚は問題となり社会的な風潮として禁忌扱いとなった。
犯罪者は更に悪い形で良い個性を産み出そうとした。
あるヴィラン組織は強い個性を作る計画を立てた。それは個性の遺伝子を無数に入れた最強の個性(生き物)を作り出す計画。
先に言えば
その計画の成果がワタシだ。
ヴィランは“材料”を集め実験を繰り返した。その試行錯誤し何度も繰り返された実験の中で産まれた中の1つがワタシだ。
産まれたワタシは、道具として使うつもりの奴等にとってワタシの意思など必要がない。ワタシは産まれて直ぐに自意識を封じられた。意識を封じられ文字通りモノとして扱われる日々、夢心地の様な意識だけが延々と続く悪夢。ワタシは耐久実験の生き人形として何処まで個性が入るのか試された。
個性を複数混ぜる事は血液を血液型に関係なく混ぜるような行為。それか人間に別の動物の遺伝子を入れる行為。当然致命的な拒否反応が出る。適合する様に肉体を改造したり薬品で拒否反応を抑えたとしても限界はある。そうした限度を調べる壊れる事を前提とした実験。ワタシの立場は最強の個性を産み出す為の生贄に過ぎなかった。
しかし他の実験台が壊れる中、ワタシだけ個性を何れだけ入れても一向に死なずに、遂には奴等の想定を遥かに越える何かと、ワタシは造った本人たちすら把握できない未知な存在と成った。
多くの個性遺伝子を入れた突然変異の偶然と考えていたが…偶然でなく必然だろう。今の"この姿"と記憶の男のカミサマに頼んだ願いを思えば……。
ヴィランはワタシを生贄でなく戦闘兵器として使う方針に変えた。
兵器としての性能実験を行い不本意にもワタシはヴィランを喜ばせる結果を出した。性能実験が終わると次に行われたのは戦闘実験。
相手は脳を剥き出しにしたワタシと同じ様に造られた『脳無』…ワタシと同じでヴィランの道具として産み出された被害者。
生き物の筈なのにモノのように無機質な瞳、恐らく脳無はワタシの様に自意識が封じられたのでなく、元から自意識が備わって無いか自意識を壊されたか。どちらにしても憐れな存在、ワタシよりも救いがない。
そんな脳無とワタシは戦わされた
命令を受け脳無はワタシに襲い掛かってきた。ワタシは防御を命じられて命令通り脳無の攻撃をバリアで防いだ。
ワタシの張ったバリアを殴る脳無、空気を震わせるほどの衝撃が走るだけでバリアは脳無の攻撃を通さない。脳無は打つ角度を変えながら攻撃を続けた。強力な打撃、突進をして硬い壁にぶつかればどうなるか。自分の身の事を考えてない攻撃は自身の腕にダメージを与え脳無の腕を壊した。
壊した腕は再生させながらバリアを殴る。そしてまた腕を壊した。痛みすらを認識してない無機質な目。それが酷く夢うつつなワタシの意識を揺らした。
脳無の攻撃を通さない事が確認されると次にワタシが攻撃を命じられた。ワタシは何も思わず脳無に容赦なく攻撃をして、脳無を圧倒し、暫くすると電池切れになった時計の様に動きを鈍らせ脳無は完全に活動を停止。ワタシの性能に喜ぶヴィランたち、そして最後の命令を下した。
止めを刺せと
ワタシの意識はまた揺らいだが目覚めることなく、命令に従い……脳無に止めを刺した。
脳無はこれまでの不死身ぶりが嘘のように酷くアッサリと…終えた…。
結果に満足したヴィランは、動かなくなった脳無について気にも掛けず、別のヴィランの壊して良かったのかと言う問いに脳無は要らない廃品と貶め、ワタシを元に新しい脳無を造ると話していた。
足元に横たわって壊れた…ワタシに殺された脳無の無機質な瞳がワタシには泣いてるように見えた。そしてその脳無の姿が記憶の少女と重なった。
それを見た瞬間。
ワタシの意識を夢から覚めさせ現実を認識させるほど感じた不快感…煮えたぎる怒り。激怒したワタシは怒りのままにワタシを造った施設をヴィランモノとも破壊しつくした。二度とワタシや脳無の様なものが造れない様に徹底的に。
そう産まれた施設は壊した。
だがまだ終わっていない。
男の記憶にある"物語"が正しいなら脳無を造った元凶がいる。ワタシを実験していたヴィランは…ヤツじゃなかった。アレを倒さなければ終わらない。
アイツを倒すこと、それがワタシの必ずしなければいけないこと。それがワタシに出来るせめてもの贖罪、そしてアイツらに対してのワタシの…
…逆襲だ
『ーーー』
あぁ…笑いが出た。
極自然と逆襲を考えた自身が酷く滑稽と思えて。
滑稽と言えばもうひとつ。
いや滑稽より…
此れから名乗ろうとしている名前。男の名前も少女の名前も思い出せず他にも思いつかず、男の願いが叶ったこの姿ならそう名乗るべきだと思って決めた名。
決めたとき、その名前はこの世界では特に意味が無い名前だと思っていた。
しかし、込めてから思い出した記憶の少女の名前を、男の名前は思い出せないのに後から少女の名前は思い出した事で……最悪な意味があると思えた。
少女の名前は『心結(ミユ)』
親から心を結べる様な人になって欲しいと願われて名付けられた。
『ーーー…』
…ああ笑った。笑うしかない。
雄英高校、厳重な警備環境にある雄英の施設の1つである、USJはヴィラン連合を名乗るヴィランによる襲撃を受けていた。
雄英側は1―A生徒、プロヒーロー二人。
1―Aの生徒は施設内に拡散させられ孤立させられ、多数のヴィランに取り囲まれた
しかし雄英の生徒たちはこれを撃破、生徒が有能だったと見るべきかヴィランが不自然に弱すぎたと見るべきか。兎に角、雄英に勝利の天秤が傾いた……そんな甘い話はなかった。
ヴィラン連合の狙いは生徒でなく、ヴィラン連合にとっての本命は…弱体化したと噂を聞いたヴィランにとっての怨敵、長年のナンバーワンヒーローの抹殺。
その最大の邪魔となるのは生徒でなく教師。
個性社会では切り札となる個性抹消が可能なイレイザーヘッド。
ブラックホールという吸い込まれれば終わりという即死技が使える13号。
良くも悪くも特化した能力のヒーロー。
其々不利な状況で戦わされ二人のプロヒーローは無力化された。攻撃範囲の広すぎる13号は生徒が居ることで本気を出せず奇襲からの無力化、イレイザーヘッドは囮になるために本領を発揮でない戦場に身を置き、最後に真正面から力によって倒された。
イレイザーヘッドを倒した相手、黒い肌にオールマイト並みの体格、獣の様な顔…此だけなら珍しいモノで無かったが…剥き出しになっている脳を見るとマトモに見えない。
個性の関係で脳が露出する人間も居るかもしれないが、だがそんな自然なモノには感じられない。無機質な瞳からは意思を感じられない。手を体に無数に付けた死柄木の命令だけを聞いている。
マトモな状態と判別出来る訳がない。
そんな相手にイレイザーヘッド、相澤が壊された。
プロヒーローはやられ残ったのは生徒。
多くのヴィランが生徒たちに倒されているが、プロヒーローが成す術もなかった脳無と、不意打ちとはいえ13号を一撃で仕留めた黒霧。そしてリーダーに見える死柄木もいる。むしろ生徒の危険は高まった。
しかしヴィランにとってのタイムリミッドも近づいていた。
「はぁぁ…お前がゲートで無ければ壊してたぞ…」
ヴィラン連合は何らかの手段で連絡を封じていたが、生徒の一人が逃げる事に成功した。
こうなると教師が駆け付けてくる。
真っ先に来るのが目的のオールマイトなら良いが他の教師が来たら数で押し負ける。撤退を視野に入れ始めるしかなかった。
少し悩んだあと、撤退をするにしても死柄木は置き土産を残すことにした。
それはオールマイトやヒーローたちに見せつける為の嫌がらせ。近くに居なければ妥協して半死半生のイレイザーヘッドを始末したかもしれないが、三人の生徒が近くにいてしまった。
三人は水辺で隠れているつもりなのか。死柄木には見付かっていた。死柄木は獲物を狙う。獣の様な速度で走り少女の梅雨と呼ばれるカエルの個性の女の子に近付き顔面を掴もうとした。
死柄木の個性、手で掴んだモノを崩壊させる個性。凶悪な個性だ。
その個性を防ぐにはとにかく手のひらに掴まれてはいけない。なのに三人ともが死柄木の動きに反応出来てない。助けるにも他の生徒は距離が遠すぎる。脳無に掴まれた視界に入れば個性抹消が使えるイレイザーヘッドは……意識が有るように見えない。
「………なんだこれ」
死柄木は疑問を口にした。
梅雨の顔を五指で掴む寸前で止まった体勢で。
死柄木は止めるつもりは無い。なのに身体がピクリとも動かない。脳無か黒霧を呼ぼうとしたが口も開かなくなった。
「死柄木!」
黒霧は死柄木の性格を知っている。止まる様な性格をしてない。なら誰かが死柄木を止めている。そう瞬時に判断すると黒い霧のワープホールで死柄木を引き戻した。
「大丈夫ですか?」
「……ぁぁ…誰だ。俺を止めたのは?」
助けた黒霧におざなりに返答しながら死柄木は自分の身体を動く事を確認し。周囲に視線を走らせた。自分を身動き1つさせなかった強力な個性、雄英教師の援軍か、散らしたのに戻ってきた生徒の誰かの個性かと警戒をした。
襲おうとした水辺に居る個性不明な三人は違う。三人ともが驚愕していて個性を発動させる様子はなかった。それにあの三人が来ていたのはイレイザーヘッドがやられていた時、あんな停止個性が有るならイレイザーヘッドがやられている時に動いていた筈。
他の見える範囲に居るのは違うと思える相手ばかり。流石に見えない遠距離から正確に動く死柄木の動きを止める個性はないはず。
「…どこにいるんだ」
姿を隠す個性の誰かと組んでいるのか?厄介な相手の姿が見えない事に死柄木は苛立つ。此方からは確認できない敵がいる。下手に動けない。
「……どうしますか」
「……」
撤退するかどうかだろうか。
死柄木は黒霧からの問い掛けに考えた……。
オールマイトを倒すにしても置き土産にしても未知な相手がどうしてもネックになる。
動きを封じた時に未知な相手は後から自分の口も塞いだ。理由は助けを求められないように……もしくは…口を塞いだ目的は脳無に指示が出来ない様に…か?指示が出来ないなら幾ら強力な脳無も木偶の坊。一気に戦力外に、相手は……脳無の事を知っている?いや考えが飛びすぎか。
憶測は抜きにして…死柄木は何者かに拘束されても、さっきの様に黒霧が居れば拘束から逃げられる。問題はその黒霧が拘束されれば詰みと言うことだ。物理攻撃力しかない脳無や死柄木では拘束から黒霧の解放をする事が出来ない。黒霧が拘束されれば逃走も出来なくなる。霧の身体の黒霧が拘束できるかは不明だが、賭けになる…
「…まだ撤退には早いな」
死柄木には悪のカリスマに見出だせれ教育された事で高い悪の素養がある。しかしその素養を今は短絡的な思考が台無しにしている……。
悪の恐ろしさは狡猾さ。
正義には許されない理不尽。
もし死柄木が成長していれば拘らず次の機会を狙ったろう。
静かに出現し宙に浮いていた。
初めに見付けたのは生徒の一人の緑谷。
思わずでた、あ、と言う声に視線が集まる。そして緑谷が見てる方向に視点が行く。
何かが宙にいる。
下半身が太く上半身が細い。皮膚は灰色と紫で毛は生えていない。手足は身体に比べて短い。太めの尻尾が生えている。突起の様な二本の短い角が生えた頭。異形系…
「……誰だお前」
何かは宙からジッと脳無を見るだけで問い掛けた死柄木に興味を示さない。苛立った死柄木が次の言葉を発する前に黒霧が声を漏らした。
「ど……どうしてここに」
「あぁ?黒霧知ってるのか」
「え、えぇ……アレは脳無と同類の筈です」
「脳無と?……脳無ってことは先生が送ってきたのか」
死柄木は警戒を緩めたが黒い霧が動揺したように揺れている。黒霧はもし身体が見えれば冷や汗を流しているだろう。
「違います死柄木、脳無と同類ですが、アレは暴走して逃げた個体です」
死柄木は顔をしかめた。
「暴走して逃走…おいおい、なんでそんなのがこんな時に来るんだ。なぁお前、脳無を見てるがご同類に引かれて来たのか?」
死柄木の声にまるで反応しない。
「………脳無と同じで知性は無いのか?」
「いえ、知性はある筈です。脳無とは違い知能は残っていると聞いています」
それが正しいなら無視させたと言うことになる。死柄木からすれば道具にしか過ぎない脳無の同類に。
「そうか。いや知性が無ければこんな所に来ないかぁ……どんな力があるんだ。やっぱ脳無みたいに力が複数あるのか」
「えぇ複数あり、特に念動系の力が強いときいてます」
「念動…ん?」
死柄木は苛立ちと共に気付いた。
さっき体験した事に符合した
「お前か…!俺をさっき止めたのは」
力とタイミング的にそうとしか考えられない。死柄木は気付くのが遅すぎだろうと自分に悪態をついた。しかし死柄木の怒りにも相手は反応しない。
「はぁぁ……」
大きくため息を吐いて、死柄木はもう良いと思った。来た理由なんて知らないが、何にしても邪魔物だろうと、邪魔物は排除するという短絡的な思考で指示を出した。
「脳無、空に浮かんでるアレをやれ」
「死柄木ダメです!?」
脳無は飛び上がり宙に浮かぶソレを襲おうとした。
脳無の飛んで行く先のソレの目は光る。すると弾丸の様な速度で飛び上がった脳無の全身が発光し、ピタリと飛び出した勢いが消える。まるでぶら下げられた様に宙に浮いた。
手足をジタバタと動かしている。プロヒーローを潰した怪物がまるで吊り下げられたオモチャのようだ。
「は」
怪物は投げ返される勢いで地面に逆戻り。
脳無は地面に墜落させられた。
「ッチ、脳無の同類だけ有るってことか…で、黒霧、ダメってなんでだ」
「死柄木、アレは脳無では勝ち…なんだ」
「…こえ?」
黒霧が何かを説明しようとしていると、死柄木を含めたこの場の全員の厳かな声がこの場の全員に頭に響く様に伝わってきた。
ワタシの名は『ミュウツー』…お前たちに逆襲をしにきた