横島が逃げた。
それはもう見事な逃げっぷり。
二人が呆気に取られてる内に部屋に現れた黒い虫を彷彿される素早さで峰田をさらったまま視界から消えた。ホモに売るとかなんとか言いながら逃げた…模擬戦闘なので考えるまでもなくホモ云々は嘘だとはわかる。どう考えても逃げる為の適当な言葉…。
何で逃げた??
取り残された二人は顔を見合わせる。人質を盾に戦闘を挑んでくると思ったのに拍子抜け……逃げたのは…なんだろうか。
逃げても模擬戦闘に勝てない。ヴィラン側の勝利条件はヒーローの確保か。時間が制限時間を経過すること。
「時間稼ぎか?」
「…私達を追わせて時間稼ぎが狙い…という事ですか」
「…それ以外には考えられないだろう。相手の思惑に乗る必要もない。峰田を放置して核の方を狙えば良いだけだな」
「救援には行かないのですか」
「あぁ核の脅威を考えれば仲間の救出を後回しにしてもいいだろ」
「確かに…そうですわね。捕まったのが一般人役ならともかく、捕まったのは同じヒーロー役。ヒーローを助ける為に核を後回しには出来ませんわよね……」
「…そう言うことだ。オレは峰田を見捨てて核の方に行くべきだと判断する」
「……私も同じ判断をしますわ。峰田さんには悪いのですが」
決して峰田だから見捨てても良いやと思ったわけでない。 ヴィランのホモ云々の発言で人質を殺すきはない。後から助けられると判断できる。死ぬより悲惨な目に合いそうな気もするが………。
……追わせるのが目的なら命の保証が有るような発言をするかと疑問を感じた。
「…俺達が絶対に追ってくると考えたのか…普通は核を優先しても可笑しくねぇよな。俺達が核を優先するとか考えなかったのか?…仮に追うにしても、両方でなく片方だけって事の可能性は考えるよな…」
轟は疑問を口に出す。
「…切島さんの救出に向かったのでは…」
「…切島を?…無いとも言えねぇが……切島の救出の前に峰田を拐ったのは?」
「轟さんの凍結を警戒してでは、切島さんを助けてもまた轟さんの凍結の餌食となっては意味が有りませんし。それと時間稼ぎ狙いと思わせれれば建物の中に居ないと思わせる事が出来ると思ったのでは」
つまり峰田は盾として、
「……もし切島の救助狙いなら問題ねぇ。熱を使う個性でもなきゃ模擬戦の時間で解放はできねぇぐらいには凍ってる筈だ。…あの二人の個性は知らないが熱が関係したのは使って無かった…よな?」
「判りませんわ。横島さんの個性は正確には不明ですので」
「…そうか。わからないことは考えても仕方ない。個性で救出できる可能性があると想定して……」
八百万の予想通りに横島は救助に向かったのかどうか。横島は建物の入り口とは違う方向に逃げた。
「……アイツは向こうに逃げたよな」
「ええですがグルッと回って別の所から建物の中に入る事はできると思います」
「…アイツが建物に入ったとして、今からまた凍結を使えば今度こそ仕留められる。峰田ごと凍結させて良い思うか?」
「流石に仲間ごと攻撃は出来れば避けたいですが……」
八百万は気が進まない様子だが否定はしなかった。実際に攻撃することに成る轟に選択肢を委ねるように見た。
ヒーローが仲間を巻き添えで攻撃をして良いのかどうか。成るべく避けるべきだろうが緊急時には仕方ない。まだ巻き添えにしても良いほど逼迫してると思えなかった。
「…………いや、このまま建物の中に入る」
「わかりましたわ」
轟の選択に八百万は安心した様に頷いた。
「行くぞ」
轟と八百万は凍った建物の中に入る。見回すと入り口とは別に入れる所があった。
「向こうから入れるな…」
「やはり横島さんは中にいるのでしょうか」
「入ってると考えた方がいい」
「そうですわね。こうしてみると隠れる死角も多く有りますわ。峰田さんを浚った時の様に奇襲してくるかもしれません気を付けましょう」
「…ああ」
上の階に続く階段。
轟が階段に近付く。
八百万は周りの警戒をし轟は更に階段に近づく。横島が奇襲してくる様子は………
ベチャ
轟は足を上げる。
「それは…ネズミ取り…でしょうか」
凍った階段の上に粘着式のネズミ取りが置いてあった。
「………確実に居るな。しかし…」
ネズミ取りが靴にくっついてるが足はうごく。
付いたままだと少し動きづらいがネズミ取りを靴から剥がせば何の問題もない。何の意味もない様に思えた。
意味がない。根が真面目な二人だからこそ深読みしてしまう。
「何か薬品でも塗られてねぇだろうな。下手に触るのは危険か?」
「危険性の低い薬品ならあり得ない事もないですわね。代わりの靴を造りますわ」
「…わかった。靴ごと脱ぐ」
轟は八百万に新しく靴を作ってもらい靴を変える。靴ごとネズミ取りを置いてから階段を再度登る。ネズミ取りはおとりで本命の罠があると警戒。横島の奇襲があるのかと警戒をし……特に何もなく拍子抜けをさせられた。
階段を登りきり次。
「…まだあるのか」
今度もネズミ取りが置いてある。
しかも多い。
ただネズミ取りは地面には接着されてないので、八百万の作った棒でネズミ取りを退かせられる。これだとネズミ取りに何の意味もない。何かしらネズミ取りに仕掛けられてるか、注意を逸らせて今度こそ奇襲をしてくるつもりかと、鉄の棒でネズミ取りを退かせながら、奇襲も警戒しながら注意をして階段を上が……
スコーン!
ネズミ取りに気を取られ下ばかり警戒していると、退かせたネズミ取りに糸が、糸の先は上、糸に吊るされた何かが上から落ちてきた。油断はしてなかったが、一枚上手だった。意識の隙間をついて落ちてきて、轟の額に当たり軽い感じの気持ちいい音を鳴らした。
「と、轟さん大丈夫ですか」
「ああ…ダメージはねぇ…さっきのはなんだ」
「空き缶ですわね」
吊るされた缶がブラブラしている。
叩くとカンカンと軽い音。
中身が空っぽな音だ。
ただの空き缶でちょっと痛いぐらいか。
なんの為の罠なのか。
轟の怒りだけはかった。
「轟さん!」
また何かが振ってきていたのだ!時間差の二段構えの罠か!!降ってきたのはさっきと同じ缶だが中身が入ってるのか速度も早い!今度が本命か!しかし轟はそんなのにまた当たるかとばかりに軽く避けた。空き缶は横を通り抜け…壁にぶつかり
ベチャ
今度の空き缶の中には泥みたいなのが入っていた。空き缶の中身が轟の服と顔にベチャッと掛かる。顔と服が汚れた。汚したモノは掛かると不味い薬品の様でもない。毒性などは皆無。ただの水っぽい泥だ。ただ汚れただけだ。
「何か体調に変化などは」
「……無い。ただの泥水だ」
轟にダメージは無い。
無いが轟の額には青筋ができていた。
「何か落ちてきて!…いきましたね」
三階、ビー玉がジャラジャラ流れてきた。
……なんの意味もなく階段を流れ落ちていった。
三階フロア
階段のど真ん中に何かがある
「お猿さん…ですね」
凍らされたシンバルを持った猿のオモチャが、何か紙がシンバルの間に紙が挟まっている…
「何かありますわね」
「……確認しみてるか」
轟が解凍するとキーキーシンバルを五月蝿く鳴らす。シンバルにはアホが見ると書かれた張り紙が…おサルさんはまた轟によって凍らされた。
「……なんなんだ」
「何かしらの意味があるのでしょうか」
ネズミ取り。空き缶、泥要り缶、ビー玉、猿のオモチャのラインナップ…ダメージ皆無の罠。罠なのか?何か意味があるのかと深読みし、真面目な二人は真面目に考える。ツッコミとして今はなき峰田が惜しい。
時間稼ぎだと結論を出して昇る。
「隠されていたのはこの上辺りだったが……」
そして4階、二人が無言で登っていくと声が聞こえた。 上は外から見えないように細工されてた階だ。
「あーくそ!!まったく溶けへん!!」
横島の声がする。ユックリと物音を極力出さずに声が聞こえてくる方向に向かうと壁の向こうから声が聞こえる。轟は壁際からコッソリと中を見た。
横島がいた。
横島の近くには核のハリボテもある。
それと…ハリボテの近くには人の形に膨らんだ工事によくある青いシート。何処からか調達したシートか。形からいってシートの中身は切島と思える。横島は暖める様に足元を必死にシートを擦っていた。あの罠みたいなのは救助するまでの時間稼ぎか。
横島に気付いてる様子はない。
轟は直ぐさま攻撃したいと思ったが、捕獲テープだけでなく更に簀巻きにされた峰田(人質)が足元にいる。何の為なのか頭に被せていた袋の代わりに口にガムテープが、轟の氷ではどうやっても峰田が攻撃の巻き添えになる。地面に寝転んだ状態で凍らせると鼻等も塞いでしまう。命が危険だ。
「…八百万ちょっといいか」
轟は八百万に目を向け小声で居る事を伝え、横島だけを攻撃できるかきいた。八百万は轟と場所を代わり横島を見る。八百万が見た時には切島の入ったシートの裏にいた。峰田も持っている。
八百万は無理だと言うように首をふる。それに対して轟はなにかを提案する。八百万は少し迷った様子を見せたが頷いた。
「切島まだアカンのか」
横島は文句を言いながらシートでゴシゴシと足元を拭いている。切島が中に居て少しでも温度を上げるためにシートを被せ、擦って摩擦熱を発生させて溶かそうとしているんだろうが…
「……それじゃ模擬戦の間には何とかできねぇよ」
轟は隠れるのをやめ一人で堂々と横島の前に出る。
「な!もう来たんか!冷血イケメン…ひとり?」
横島は今気付いたとばかりにドタバタと慌てた様子、落ち着くとなるとひとり足りない事を指摘する。
「八百万は……人質を助ける必要がって言ってな。」
議論をしてた時の発言の一部で、助けに行ったとは言ってない。
「やっぱりヒーロー様には人質が有効なんやな。なら!!」
足元の峰田をなんの葛藤もした様子もなく盾にする様につきだす。轟はコイツ本当にヒーローを目指してるのかと思う。
「うう!!!うんん!!!」
峰田の口は塞がれている。何かを必死で訴えかけてる。助けてくれと言っている?いや、こう峰田もヒーローの卵だ。ヒーローなら自分を見捨てて攻撃しろと言ってるんだろうか。
「へ、へへ、此方には人質がいるんや!ヒーローなら攻撃でけへんやろ!」
そう言って峰田を人質に…さらにそれだけでなく切島が中にいると思えるシートの柱の後ろに居る。動けない味方まで盾にしている。チンピラヴィランでももう少しマシだろう。ヒーロー候補にあるまじき、人としても最低すぎる姿に轟が若干引いた。再度ヒーローを目指してるのかと心底疑問に思う。
しかしこうもあからさまに、ヒーロー的に人質を無視する事も出来ないので有効ではある。
「………取引をしよう」
轟は少しづつ横島の方に歩きながらそう言った。轟の身体で横島には入り口が見え辛くなっていた。
「…おっとそれ以上近付くなよ!」
轟は足を止める。
「で、取引ってなんや。人質を離せって取引ならどんな交換条件でも応じる気は受けるきはないぞ!……まぁ…可愛い女の子を紹介してくれるなら検討してもええかもしれんけどな!」
最後のは冗談だろう。
物凄く期待した様な目をしてるが。
「…紹介してもいいぞ」
「な、なに!!女の子を紹介してくれんの!?」
「…ああ紹介してやる…八百万」
「おお!八百万さんを!!…え、八百万さん??」
轟は目を閉じる、入り口にポイとなにかが投げ込まれた。金属製の何かが床に落ちた。
横島は何だと反射的に落ちたものに視線を向けると…強烈な閃光が発生!!
「目がぁ!目があああ!!」
、
某大佐の様な叫び声をあげる横島
「フンヌオオオ!!?」
あと横島の巻き添えで峰田も悶えていた。
相当に強烈な光だったのか。目を閉じていた轟の目まで少し眩んでいるが、問題なく動くことはできる。轟は走って横島の方に向かう。核の確保か。横島の確保か。峰田の救助…はないか。
轟は走った。
捕獲テープを手に持っていた。
横島の確保を先にするつもりか。
油断をしてないのか恨みか。
「ああぁぁあ!!目があああ!!」
目の前まで来たのに横島が苦しそうにまだ叫んで…横島が目を押さえて転がりだした!
ゴロゴロ転がって核のハリボテから離れている。完全に無防備な核のハリボテ、絶好の機会。転がった横島は捕獲は少し面倒、今なら簡単に氷で拘束する事も出来るが、そんな手間をかける必要もない。轟は横島の捕獲よりも核の確保をすることにした。
轟に何かがぶつかった。
「ふおおお!!?」
峰田だ。
横島は転がる前に峰田を上に投げていた。落ちてきた峰田が轟に張り付いてきた。しかも峰田のモギモギの部分がぶつかってくっついている。横島が目の痛みで反射的に投げ飛ばしたのが偶々轟にぶつかってきたのか。どんな偶然だ…偶然か
「むうう!!!むぐうう!!」
「…少し待ってろ後で外す」
「むうう!!!」
邪魔だが後は目の前の核のハリボテを触るだけ、轟は峰田を外すのを後回しにする。本当に鬱陶しいが完全に勝ったと思える状態でも勝利する目前で僅かにでも余計な時間をかけるのはダメだと考えた。本来なら正しい。
「ぬうう!!ふぁふなぁ!」
峰田が何か訴えかけてるのは早く解放してくれと言ってるだけだと軽視した。轟は核の確保をすることにする。今度こそは勝ったと確信しながら核のハリボテに手を伸ばす!
核までもう少し。
「ふおう!!!!!」
一度勝利を逃してからの今度こそ勝利したという油断、煩い峰田の声、足元がガクンと下がる。足元に窪みの様な穴がある。
「っ!!」
そこは横島が立っていた場所だ。横島の身体で隠れていたのか。なんでこんな場所に、しかし穴と言っても浅いもので直ぐに抜けれる。バサリと何かが落ちた音。何かが横合いから来たのに気付くが…同学年の重石がくっつき片方の足が少しでも不自由な状態では!!
何かが腕に。
峰田を退かし腕を見た。
「……」
捕獲テープが腕に巻かれていた。
それを見て轟の動きを止める。先ず考えたのは、誰に巻かれた?横島…?横島の声は離れた所から聞こえる。ちがう。テープを巻いてくるのは横島だけ…切島は初めの凍結で動けなくなり横島以外に敵は居ないは…いや、切島?
思い出すのは視界が塞がれた時に聞こえたバサリと何かが落ちた音。あんな音がするのは切島の被っていたシート。
「切、島?」
見えたのは複雑そうな顔をした切島。凍ってろくに身動きが取れなかった筈…もし動けても、素早く轟に捕獲テープを巻くことは……
身体を隠していたシートが無くなって見えた切島の身体…凍結していた筈の切島には、身体には…凍結したような様子が一切ない。横島が溶かしたのかと思ったが、霜焼けや溶けた氷の水滴もないのは…つまり解凍されたという事ですらなく…
「おまえ…初めから凍ってなかったのか」
「あ、ああ…建物凍らされた時には外に居たから」
初めから凍結してないなら切島の救助なんて必要がなかった。なのに横島は切島を救助する様な行動をしていた……いや…轟たちに"そう思わせた"…初め…峰田を狙いに来たのだけでなく切島が行動不能だと思わせるため……横島が転がって核が無防備になったのも、轟に核を狙わせて切島に確保させるため…峰田が口を塞がれていたのは切島の事を隠すため……あの時、峰田がくっついた時に、峰田の口が塞がれてたのを外せば切島が無事なのは判ったかもしれない…自分なら後回しにすると見切られ…轟は思い起こせば全て横島の掌の上だったのではと疑心暗鬼に陥っていく。
まだ戦闘は終わってない。
そんな轟の耳にはずっと目が痛いと叫んでる横島の声が聞こえていた。横島から聞こえる呻く声は入り口の方に向かっている。八百万がいる入り口の方向に…真っ直ぐに…??
不味いとは思ったが確保された轟は動けない。
「八百万!」
注意を促すつもりで名前を呼んだ。
「と、轟さん!?切島さんがうごけて…まだ!横島さんを捕まえれば一対一になりますわ!!」
八百万は捕獲テープを巻かれた轟の姿を見る。そして動いてる無事な切島の姿も……三対二だったのが残るは自分だけ、理解した後に足元で目を押さえて無防備に見える横島がいる。都合が良すぎると不安は感じたが…それでも不安という理由だけでチャンスを逃すことも出来ない。急いで捕獲テープを巻こうとしていた。
切島が全く慌てた様子を見せない。
「罠だ!!!!」
「あー…言うの遅かった」
轟の叫びが聞こえる前に横島に対して八百万の捕獲テープをもった手が伸びていた。
目を押さえてる横島の口がニヤリと笑う。横島はギュルン!と回転!八百万の更に足元に更に横島が芋虫が巻き付くように足元にくっついた。
「きゃああぁあああ!!」
足元に引っ付いてきた横島に八百万は悲鳴をあげる。痴漢にあった悲鳴にしか聞こえない。間違ってないか。
「……えがった…じゃない!捕獲成功!」
何故か上を見上げている横島、八百万の足には捕獲テープ。巻き付いた時に付けたのか。痴漢でなかったのか。横島はダメージはおったのか鼻を押さえていた。物理的なダメージなんだろうか?
『あーーー…うん、勝負あり!ヴィラン組の勝ちだ!』
模擬戦は終了。
……誰もマトモに戦ってない。