ゼロの使い魔〜if〜 サイト・ラ・ヴァリエール 作:匿名サンタ
「許嫁、ですか? でも、貴方ルイズには少し早いのではありませんか?」
ヴァリエール公爵からでた言葉にカリンは驚いている。
「ジャンは優秀な男だ。今のうちにルイズとの間に話をつけておくというのも悪くないと考えている」
「……そうですか」
「ああ、ルイズは三女だ。幸せになれる嫁ぎ先を見つけてやるのも親の仕事だよ」
「では、サイトにも許嫁を?」
「いや、サイトはまだ良いだろう。長男だし、いずれ相応しい相手がすぐに見つかる」
「アンリエッタ様がサイトのことをお気に入りだと聞いていますが」
「私はサイトには家を継いで欲しいと思っている」
「はぁ。ですが、相手が王族ですと断りきれないのでは?」
「なぁに、姫様もまだ子どもだ。」
「貴方、子どもは意外と執念深いですよ?」
「気にしすぎだよ。カリン。なるようになるさ」
ーーーー。
清々しい朝だというのに才人は不機嫌だった。理由は嫌な奴が家に来るからだ。
「ねえ、兄様。なんで不機嫌なの?」
「別に不機嫌じゃないよ」
「あー、わかった。兄様、ワルド様と仲良くなれるか不安なんでしょ!」
ルイズの言葉に才人はずっこける。
「なんでそうなるんだよ!」
「もぉー。大丈夫だよ! 兄様とワルド様は絶対仲良くなれるよ」
「あー、そうだな。そうなれることを願ってるよ」
ルイズに頭を撫でられながら、才人は半ばヤケクソ気味にそう呟いた。
ーー結論から言ってルイズはワルドにすぐ懐いた。
それが才人には余計に気にくわない。
「ワルド。俺と決闘しろ!」
ーーーー
「すまないな。ジャン。息子の我儘に付き合ってもらって」
ヴァリエール公爵がジャンに申し訳なさそうに謝る。
「いえいえ、妹を取られると思っているんでしょう。可愛いものです」
さて、と一言呟くとワルドは才人の方に体を向けた。
「ルールは僕が決めてもいいかい?」
「ああ」
「じゃあ君は何でもあり。僕は魔法を使わない。相手に有効打を放ったほうの勝ち」
「舐めんじゃねえ。魔法使えよ」
「使わせてみなよ。サイト」
才人の言葉にワルドは余裕の笑みで答える。
「それでは立会人は私が務めましょう。準備はいいですか?」
双方、うなずく。
「では……始め!」
カリンの合図と共に決闘が始まった。
才人は一気にワルドの懐へと突き進む。
(力や体力じゃ勝てねぇ! 先手必勝)
才人は思いっきり剣を振り下ろす。それをワルドは真っ向から受け止める。
(やはり子ども真っ向勝負か……なっ!?)
才人から蹴りが飛んできた。それをワルドはバックステップで躱す。
「やるじゃないか。確かに……っ!!」
ワルドに喋る暇を与えず才人は攻撃を続ける。
(やるな。こちらも体術を使いたいところだが、少しでもバランスを崩せば有効を取られる。……少し距離を取るか)
覆らない筋力の差を使って、再び距離を取ろうとし、後ろに下がる。
距離を取ろうとしたその瞬間、ワルドの目に入ったのは回転しながらこちらに飛んでくる木の剣だ。
距離を取った瞬間に才人が放ったもの。
剣士としてあり得ない選択。だが、これは決闘。ルールがある試合
(初めからこれに賭けた有効狙い!)
「ざまぁみやがれ!」
避けることは出来ず、防御も間に合わない。ワルドが咄嗟に取った行動は、エアハンマーで木刀を吹き飛ばすことだった。
その衝撃で才人も後ろへと倒される。
「……僕の負けだ」
ワルドは悔しそうに言った。
「素晴らしいな。サイトは。魔法衛士隊に今すぐ欲しいくらいだよ」
倒れた才人にワルドが駆け寄り、手を差しだす。
「いや、俺の負けだ」
差し出された手を無視して立ち上がる。
負けを受け入れなければならない。
ワルドは初めから魔法を使えば反則だと心に決めていたのだろうがそんなルールはなかった。
(ルイズを守るにはもっと強くならないと……!)
才人の決意はより強くなる。
ーーーー
ヴァリエール家の一室。
そこにはルイズと公爵がいる。
「ジャンはどうだった? ルイズ」
「ジャン?」
可愛く小首を傾げるルイズ。
「ワルドのことだよ」
「ワルド様? 格好よかったよ!」
「そうかそうか。可愛いわたしのルイズ。ジャンが許嫁になったら嬉しいかい?」
「許嫁ってなぁに? お父様」
「ジャンのお嫁さんになるってことだよ」
「うーん。わたしは兄様のお嫁さんになるからダメ!」
「……ルイズ。サイトとは結婚できないんだよ」
「なんで?」
「い、いや。その兄妹は駄目なんだよ」
「や! するの!」
「それは駄目なんだよル…「お父様嫌い!」
嫌い。嫌い。お父様。嫌い
ルイズの言葉が何度も何度もヴァリエール公爵の頭を駆け巡る。
「ああ、私の可愛いルイズ。嫌いなんて言わないでおくれ」
「嫌い!」
「しかしだな」
「嫌い!」
「そんなことを言われても」
「嫌い!」
「……わかった。認めよう」
取りつく島もなかった。
「じゃあお父様。指切りして」
ルイズは小さな小指を公爵に突き出した。
「指切り? それはなんだい?」
「兄様と約束するときによくするの。さあお父様小指を出して」
ヴァリエール公爵は言われた通り、屈んで小指を出す。
ヴァリエール公爵の大きな指とルイズの小さな指が交差する。
その姿は傍目から見ても微笑ましい姿だった。だが……。
「指切りげんまん、嘘ついたら嫌いになってお母様に言いつけてむちで叩いて湖に沈めてはりせんぼん飲ーます!」
「ル、ルイズ!?」
「指切った! 約束破ったら駄目だよ!」
「あ、ああ。勿論だとも」
ルイズから出た凶悪な言葉に呆然としてしまう。
「ありがとう。お父様大好き! わたし兄様の部屋に行ってくるね!」
ルイズがヴァリエール公爵に抱きついた後、走り去るルイズと入れ替わりで部屋へと入ってきたのはカリン。
「貴方約束してしまいましたね……?」
「な、なぁに。前にも言ったが、所詮子どもの言うことだ。ルイズが結婚できる年齢になれば忘れているさ」
「本当にそうでしょうか?」
「ああ、そうさ。君も子どもの頃の約束など今は覚えていないだろう?」
「いいえ、覚えています。はっきりと」
「そ、そうか。だが、それはたまたまさ。普通は覚えていないものだよ」
「私と貴方の子どもですよ?」
カリンの言葉を聞いて、ヴァリエール公爵は黙ってしまった。そして少し考えた後、
「なぁカリーヌ。飲んでも大丈夫な針はトリステインにあっただろうか?」
「子どもの頃の記憶から漁ってもそんなものはありませんね」
「ルイズの恋の相手が自然に変わるか、サイトに早く結婚してもらうしかないか……」
公爵は頭を抱えてそう言った。