タツミたちが向かったのは竜船という巨大な客船だった。
この中に例の三人が現れる可能性があると考えると自然と力が入る。
そんな中、サヨは少々貴族風な格好に目を輝かせていた。
「一度でいいからこんな服着てみたかったのよねー」
「……まあ、似合ってんじゃねーのか?」
村にいた頃は適当なものかり着ていた為、いつもとは違う格好に綺麗だと思った。
「そ、そう……?」
お互いに少し気まずい雰囲気になったが、それを止めたのはブラートだった。
透明化の状態でタツミとサヨを軽く叩いた。
「タツミは地方富豪のお坊っちゃまでサヨはお嬢様、二人とも帝都の華やかさに緊張気味。その設定を忘れるな」
「お、おう兄貴!」
「そうね。浮かれるのは革命が成功してから、よね……!」
タツミとサヨは再び客船内を歩き回った。
ーーー
一方、正邪たちはラバックの糸に反応があるまで動けない為に木の上でじっと待つしかなかった。
「ほら、リンゴだ」
「俺はいい。これ食ってるし」
「頂く」
手に持っていたリンゴをアカメに渡し、残りは正邪は所持していた。
「つーか、いつから持ってたんだ?」
「アジトからだよ。私は気が利く女だからな」
本当は嘘。これは走っている最中に農場で盗ったものだ。
「……反応全くなしってことはこりゃハズレかな?」
糸には何の反応もなく、何もないことがほぼ確定する。
「……これであっちもハズレなら今回は諦めたってことになるが、まだ油断は出来ない」
「分かってるよ。糸を緩めずしっかりとやるさ」
警戒は完璧で万が一八雲紫が来ても村雨と小槌があれば追い返す程度はできると考えていた。
だが、そもそも目標は来ることはい。
だというのに、正邪はなにか嫌な予感がしていた。
ーーー
敵の気配は全くせず、見回りも終えたところで合流したタツミとサヨだが、その様子はどこかお気楽ムードになりつつあった。
「……ここはハズレかな?」
「だろうな。あんな人壁に囲まれてるのを暗殺なんて不可能だろ」
そう言って決めつけたタツミに何者かの拳が襲う。
「決めつけて油断してんじゃねーぞタツミ」
「……って、兄貴か」
タツミは声のする方に向き直る。
「俺が透明化なんて奥の手持ってんだ。敵も何してくるか分かんねぇだろ?」
ブラートの言葉に確かにと納得する。
タツミの知っている帝具は数個程度だが、実際には文献にも載っていない帝具もあるのだ。
鬼人正邪の打ち出の小槌がいい例だった。
「……そうだよな。兄貴や正邪みたいに奇襲が可能な帝具だってあるもんな……悪かったよ、兄貴」
「そうね。今日だけでブラートに何発叩かれたことか……」
「はは、愛のムチだと思え」
「愛の……」
「愛の…」
「俺の方見て三回も言わなくていいから!!?」
ふと、タツミは考えた敵の帝具使いは三人に対してこちらは二人のみだ。
自分には帝具がないが、はたして勝てるのだろうかと。
「っと、そろそろ透明化も限界か……」
「私とタツミで外を見ておくから、ブラートは中をお願い」
「おう、船の内部は任せておけ」
ブラートが奥に消える。
タツミは一瞬考えていたことを振り払った。
「……いや、俺一人じゃダメでもサヨや兄貴がいれば、皆で力を合わせれば……今日までそうやって戦ってきたんだ……!」
この小さな隙が、大きな影を生む。
帝具使い同士が戦うということは、どちらかは死ぬということだ。
「……笛の、音?」
そして、死ぬのはいつも敵だけとは限らない。
そのことをタツミは真に理解出来ずにいた。