天邪鬼が斬る!   作:黒鉛

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大男を葬る

 鬼人正邪はifを信じない。

 結果こそが全てであり、そんな世界でしか彼女は生きてこなかった。

 

 だからこそ、こんな感情は不要なのだ。

 

 もし、宴会に参加していれば。

 もし、あの時降伏を受け入れていれば。

 ……もし、少名針妙丸のことをもう少し理解しようとしていれば。

 

 天邪鬼(わたし)は何か変われたのだろうか?

 

「……クソッ、なんでここに来てこんなことばかり……!!」

 

 正邪は立ち上がった。

 

「正邪、どうした?」

 

「……悪ぃ。タツミたちの所に行ってくる」

 

 何故、動こうと考えたのか自身でもよく分からない。

 それでも正邪は動いた。

 己に心に従い、ただ動いた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「この笛……なにか普通じゃねえ……」

 

「耳を塞いでも聞こえてくる……。まさか、帝具?」

 

 笛の音に危うく落ちかけていたが、お互いに軽く傷を付け合うことで笛の効果を薄れることに成功した。

 

「……八雲将軍の気配はなし。エスデス様の言う通りだったな」

 

 船の中から一人の大男が現れる。

 その男はこちらに気付くと驚いた顔をしていた。

 

「お、この状況でまだ頑張ってる奴がいるじゃねーか」

 

「貴方が三人の帝具使いの一人ね。八雲紫に負けたばかりなのに性懲りも無く来たわね」

 

 サヨの挑発に大男は異常なほどの殺気を放つが、すぐに殺気を殺した。

 

「……確かに俺たちは八雲将軍に負けた。だからこそ、もっともっと経験値が必要なんだよ」

 

 大男は剣をタツミとサヨに渡した。

 

「……何のつもりだ」

 

「経験値が欲しいんだよ。今度こそ八雲将軍を倒し、最強になるためにな」

 

 大男が斧を手に持つ。

 その存在感からあれが敵の帝具だとすぐに理解した。

 

「……いつも通りに行くぞ」

 

「いや、今回は私が後方でタツミが前ね。……それと、準備が必要だからその間時間稼ぎお願い!」

 

 見るとサヨは八卦炉を用意していた。

 つまり、そういう事なのだろう。

 

「了解。しっかりと当ててくれよ……!」

 

 オーガを殺った時のように瞬時に敵の近くまで接近する。

 ここまで近付けば速さでは必ず勝てると感じていたのだ。

 

「いい経験させてやる! 地獄巡りだ!!!」

 

「いいぜぇ! その威勢の良さ!!」

 

 

「すっげぇぶっ壊し甲斐がある!!!」

 

 おぞましいものを感じた。

 即座に着地地点をずらし、後ろに退る。

 

 瞬間、斧はタツミが着地していたであろう地面をいとも簡単に粉砕した。

 

「なんつー破壊力だ……」

 

「……よく避けたな。笛の音を聞いた状態でまだそれだけ動けるか」

 

 大男は感心したようにこちらを見る。

 サヨの方を見ると人が一箇所に集められ、準備が出来た合図をする。

 

「タツミ、避けて!!」

 

 次に大男が斧を構えたのとサヨが八卦炉を構えたのはほぼ同じタイミングだった。

 

「こいつはどうかな!!」

 

「やらせるか! マスタースパーク!!!」

 

 八卦炉から放たれた大火力の砲撃は斧の威力を殺し、大男の方にまで襲いかかる。

 

「っ、奴も帝具使いか……!!」

 

 大男は片方の隠していた斧で防御をする。

 だが、マスタースパークの火力は弱まるどころか更に勢いを増す。

 

「防御した時点で、お前の負けだ」

 

 次第に大男は押され始め、遂に斧が耐えられなり、砕け散る。

 大男は光に飲まれる。

 

「っ、これほどの力を使えば、周りの人間が……!」

 

「その為にこうやって人を安全な場所に集めたんだよ」

 

 既に大男の後ろには人はいない。

 そして、大男の後ろは海が広がるばかりだ。

 

「ナイトレイドを、私たちを舐めないでよ」

 

「……なるほど、ナイトレイド、か……」

 

 大男は完全に消滅した。

 八卦炉はオーバーヒートを起こし、煙を上げていた。

 

「……それは一度使うと次使うのに時間がかかるのか」

 

「確実に仕留めるぞ」

 

 背後と前から二人の声が聞こえる。

 お互いに背を合わせ、剣を構える。

 

 しかし、もう一つの影によって迫り来る二人の声は消え失せる。

 一人を蹴り飛ばした後、もう片方を手に持つ槍で仕留めようとするが、横から襲う水に妨害され、蹴りを入れるだけに留まった。

 

「……周囲に気をつける。これは戦いの基本だ、覚えとけ」

 

「兄貴!!」

 

 帝具使い二人を相手に全くの無傷で叩き伏せたのは、タツミの兄貴分であるブラートだった。

 

「良くやったな、タツミ、サヨ。……こっからは俺も混ぜてもらうと……!」

 

 

「……その帝具、その強さ。ブラートか」

 

 ブラートは珍しく驚いた顔をしていた。

 

「……リヴァ、将軍……」

 

「もう将軍ではない。エスデス様に救われてからはあの方の僕だ」

 

 そこでタツミは思い出す。かつてブラートは帝国の軍人だったことを。

 つまり、目の前の人物はブラートの上司である可能性が高いということだった。

 

「見ただけで分かる。あの人は他とは違うし、あれはブラートじゃないと倒せない」

 

「……分かった。兄貴、俺たち二人でもう片方を仕留める!」

 

 タツミとサヨは小柄のほうの元に向かう。

 既に動けるほどに回復し、こちらには目もくれていなかった。

 

「ちっ、リヴァの援護をしようって時に邪魔か……!」

 

 笛を持ち、戦闘態勢に入る。

 ここで、タツミは帝具使いの真の恐ろしさを知ることになる。


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