ナイトレイドに正邪たちが入ってから初めて仲間が死んだ。
自分を含め全員が悲しむものだと考えていたが、タツミの一言でその心配はなくなった。
「……俺、皆を守れるぐらいに強くなってみせる。それで、皆を守ってみせる!」
タツミの表情は以前のような甘さのあるものから一転し、ナイトレイドに来たばかりのブラートのような頼もしい表情をしていた。
「……いい表情になったな」
その日からタツミの練習量は以前の倍以上に増えた。
インクルシオを自由に扱えるようにし、いずれブラートを超えるぐらいに強くならなければと猛練習を重ねていった。
変わったといえば最近はサヨやイエヤスも彼に負けまいと各自での練習時間が増えた。
「……だからこそ、私も動くべきか」
「本部に行く? それはまた唐突だな」
ナジェンダが大きな荷物を背負って部屋から出てきたと思えば、急に革命軍の本部に向かうと言い出した。
「実は扱いに困った帝具があるという情報を聞いてな。扱えるか分からないが、私も適応するか試しに行ってみるつもりだ」
なるほどと思った。
これから更に激化するであろう帝具使い同士の戦いの中で唯一帝具を所持していないのは周りから見るとナジェンダとイエヤスだけだ。
「とはいえそんな帝具を所持したところでお前自身がちゃんと扱えるのか?」
「それに関してはおそらく適合さえしてしまえば問題ないだろう。それは生物型の帝具だと聞いた」
生物型の帝具と聞いて思い出したのはヘカトンケイルだった。
肉壁にもなれば強力な兵器としても使える感じの帝具ならば是非とも欲しい。
「それなら一度適応さえすれば問題ないか」
万が一暴走しても小槌で制御しながら動かせば問題ない。
小槌の魔力は完全回復とまではいかないがかなり回復していた。
「てことは残るはイエヤスか。いや、あいつの帝具は私が調達できそうだ」
「……そのことなんだが、本当にマスタースパークは正邪が創った帝具ではないのだな?」
ナジェンダの鋭い眼差しでこちらを見つめる。
しかし、小槌で帝具を創れるということは今のところ伏せておいたがいいと判断していた。
「いいや、私が失敗したところをお前も見ただろ?」
以前村雨を創るのに失敗して気絶したことを思い出させると申し訳なさそうな顔をしていた。
「冗談だよ、死ななきゃ気にする必要もない。でも、帝具を創るのは不可能だ」
「分かったよ。疑うようで悪かったな」
この中でエスデスとまとにに殺り合えるとすればアカメとナジェンダだ。
タツミは素質はあるが、それでもエスデスが相手となると相手にすらならないだろう。
「まあ帝具が適応しなけりゃその時だ。また敵から盗んできてやるよ」
出来るか出来ないかではない。
やるしかないのだ。何がなんでもこの国はひっくり返さなければならない。
確実にエスデスを殺すためには最強の帝具を創らなければならない。
「……ふっ、そう簡単に帝具は奪えるものではないのだがな。正邪が言うなら本当に奪ってこれるのだろう」
それがいつ八雲紫が攻めてくるかも分からないこの状況だったとしても。
■ ■
「……えぇー、嫌よ?」
八雲紫の前に一枚の紙が置かれた。
エスデスは帝具使いのみで結成された組織を作ろうとしているのしいが、そこに副隊長として任命しようとしているのだ。
だがエスデスとは敵対関係にある。
大臣側のエスデスと民衆側の八雲紫という構図になっている時に民を裏切る行為は愚策でしかない。
「そうか。……やはり貴様を見ていると知り合いを思い出す」
「それはナジェンダ元将軍のことかしら?」
微笑を浮かべ、肯定する。
帝都では噂としかなっていないが、あのエスデスと戦い片目の損失程度で済んだ人物がいることは知っていた。
エスデスは人間でありながらその実力はおそらく風見幽香がごっこを遊びをやめて手加減して戦わなければならないレベルだろう。
それほどの化物をこの国は生んでしまったのだ。
……そして、自分で考えていて気付く。
その化物の元で鍛えられる帝具使いたちはきっと地獄を見る。
なら、そこに飴と鞭でいうところの飴があってもよいのではないだろうか?
「……前言撤回。私もそのメンバーに入るわ」
そしてなにより、ここにいれば必ず鬼人正邪と出会えるのということを理解した。
八雲紫にとってここに来た目的は天邪鬼にお仕置きをする以外にないのだから。
「そうか。ならば歓迎してやらんとな」
「ようこそ、特殊警察イェーガーズへ」
「よれしく頼むわ、隊長殿」
しかし、この後にイェーガーズのメンバーが次々と現れるがその場に八雲紫の姿は一切見当たらなかったという。