「タツミを何としてでも救いだす!」
「そんなこと言ったってどうするのよ。あのエスデスや八雲紫に監視されてる中で救出なんてほぼ不可能よ」
「マインはいいのかよ!! タツミが捕まったんだぞ!!?」
「……落ち着け。アカメ、一つ提案がある」
自分でも驚くくらいに低い声がでる。
だが、いつまでもマインとイエヤス、サヨのぐだぐだを聞いている暇はない。
帝具インクルシオはまだまだ進化できる可能性を見せた。
そんな帝具をこんなところで奪われてたまるものか。
「私の意見としては今回は大事にすべきじゃない。あのスキマ……八雲紫と今戦うのは得策ではないからな」
「……エスデスだけならどうとでもなると言いたげだな」
エスデスを甘く見すぎだと言わんばかりにアカメが睨む。
だが、実際に脅威かどうかと言われると奴は脅威ではない。
「……エスデスが化物なら、八雲紫はその上だ」
幸いにも八雲紫は全面衝突以外でこちらに突っかかるとは言っていない。
私なんていつでも倒せると余裕を見せつけている今しかタツミを助けることは出来ない。
「……イエヤス」
「お、俺が?」
どうやって、という顔をしているイエヤスに一つの壺を渡す。
本当はナジェンダ用に創ったものだが、仕方ない。
「ナジェンダに飲ませるつもりだったが、緊急事態だ。お前がこの帝具を使え」
「………帝具!? これが!?」
イエヤスは嘘だろと言わんばかりの声を出すが、これで問題はない。
「飲め。そしたら帝具を手に入れられる」
イエヤスは恐る恐る壺の中の液体を飲んだ。
少量だけかと思ったが、飲んで飲んで……。
「………マズ」
飲み干した。
「おい正邪、これは一体どういう帝具なんだ?」
ラバックが説明を求めたが、正邪は答えない。
イエヤスに何も変化がないことを確認する。
「……やっぱ覚醒させるにはこれしかないか」
今はゆっくりと説明する暇はない。
短刀を二本用意した。
「! 正邪、なにを……」
「死にたくなければ生きたいって意思を見せてみろ」
急所は狙わないように、それでもモタモタすれば死んでしまう位置に、
投げた。
投げたと同時に全員から殺意を向けられる。
訳を話せ、でなければ殺す。
そんな目だ。
アカメに関しては既に村雨を抜く準備をしている。
「……あの帝具を覚醒させるためには、生きる覚悟が必要なんだ」
万が一帝具が飲んだだけでは発動できなかった場合のシステムだったが、これの利点は覚醒することに加えてこの帝具の奥の手を知ることが出来る。
「強い意思で叫べ! 生きたいと!!」
「っ………せい、じゃ………」
瞬間、部屋の温度が上がった。
全員が敵が来たのかと警戒するが、私だけはたった一人の男だけを見つめる。
イエヤスの帝具の奥の手が発動しようとしているのだ。
「……成功だな。それはお前のものだ」
イエヤスが炎につつまれ、その場から消える。
「……どんなのかは、分かったけどよ……」
そして、どこからかイエヤスの声が聞こえたかと思うと……。
「とりあえず一発殴らせろ馬鹿野郎!!」
新たに出てきた炎の中からイエヤスが現れる。
そして、私は殴られた。
「お前なぁ! 死ぬかと思ったんだぞ!? ほんっと確実に死んだと思ったんだからな!!!」
「貴重な人材を殺すバカがどこにいる?」
「お前がそのバカだと思ったんだよバカ野郎!!」
ったく、なんでこんなに偉そうなんだ?
私はこんなに強力な帝具を渡したっていうのに。
「……ほんと、正邪はもう少し説明とかした方がいいと思うぜ?」
「そうですよ、もう少し遅かったらアカメに斬られてましたよ?」
ラバックやシェーレまで困った奴だという顔をしている。
「おい、変態と頭のネジぶっ飛んだ奴にだけは言われたくないぞ」
解せないが、まあいい。
これでタツミを助けるための準備は整った。
「帝具「蓬莱」をイエヤスに飲ませたのはたった一つのシンプルな作戦のためだ」
帝具「蓬莱」を飲んだイエヤスだからこそできる最高の作戦内容。
「イエヤス、体を張って囮になれ」
イエヤス囮作戦だ。