天邪鬼が斬る!   作:黒鉛

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うさ晴らし

「何でもひっくり返す程度の能力、か」

 

 アジトではオーガという隊長クラスを倒したタツミとイエヤス、アカメとサヨのタッグの話で盛り上がっていたが、その話も正邪の隠していた事実で切り替わってしまう。

 

「……具体的にどういうものなんだ?」

 

 ナジェンダはもう何でもありな正邪に目を瞑るが、せめてどういうものかだけでも聞こうとする。

 

「言葉そのままの意味だ。説明すんのも面倒だしな」

 

 正邪はこんな感じで答えはしなかった。

 こうなると他にも何か隠していそうと考えてしまう。

 

 現に……

 

「もしかると、まだ隠し持っていることがあるかもだしな」

 

「……正邪が言うと冗談に聞こえないんだよな〜」

 

 こうして自身の謎を深めていくばかりだ。

 ナジェンダとしてはまだタツミたちの方が単純なため可愛げもあると思っていた。

 

「ニヒヒ、私はそこまで面倒な女か?」

 

「む、そこまで露骨に顔に出ていたか。すまなかった」

 

 ナジェンダは顔に出すぎていたことを謝ったが、何故か正邪は満面の笑みだった。

 

「いいや、長らく忘れていたことを思い出せたから良かったぜ」

 

 正邪はなぜか上機嫌になっていた。

 それが何故かは分からなかったが、まあ碌でもないことだろうと考えることをやめた。

 

 

 翌日、タツミはマイン、イエヤスはブラート、サヨはラバックの下につくことになっていた。

 正邪は誰の下にもつかずただ帝都を自由気ままに観光していた。

 

「……弱者が見捨てられない楽園か」

 

 正邪には野望がある。

 現在の安定した幻想郷をひっくり返し、弱者が物を言う世界に変えたいというものだ。

 その為に針妙丸に話した幾つかの嘘を吐いたが、それが外の世界では全て嘘ではなくなっていた。

 

「はっ、外の世界に姫さまがいたなら今頃何されていたか……最悪死んでたかもな」

 

 文明は栄えれば栄えるほどそこに暮らす者たちの闇が広まる。

 

……それは、帝都よりも発展しているであろう外の世界でも言えるのではないのか?

いや、もしかすると外の世界はここよりも更に闇が深いのかもしれない。

ならば、弱者が物を言える場所ではないにしても、今の安定した幻想郷は弱者にとっての楽園とも言えるのではないのだろうか?

 

 正邪は頭を近くの木にぶつけた。

 頭部からは血が流れ、正邪の顔は赤くなっていた。

 

「なにを、考えようとしていた、わたしは……!!!」

 

 小槌の力で傷を癒す。

 そして、近くの川で顔を洗う。

 

 その光景を見ていた人が心配そうに声をかけようとするが、皆が皆正邪の凄みに圧倒され、正邪にも今は人が見えていなかった。

 

「今のはちょっとした気の迷いだ。私はアマノジャクだ、鬼人正邪だ、レジスタンスだ……」

 

 何度も深呼吸をし、精神を落ち着かせる。

 そして、また帝都を歩き続けた。

 

 

 

「次の標的はイオカル。大臣の遠縁にあたる男だ」

 

 ナイトレイドに帰還後、次の任務が言い渡される。

 今回はタツミたちも含めた総動員での出撃となり、早期の決着が予想された。

 

「正邪、小槌の力はどうだ?」

 

「万全だが、今後のことも考えると今回は私の能力だけでなんとかしておく」

 

 強大な力は自身の身を滅ぼす。

 小槌の代償を知った彼らも極力力の温存はしておきたかった。

 

「あれのせいか今朝は体の調子がよくなかったぜ……。正邪の小槌を本気で頼るのは将軍相手の時がいい」

 

「……とはいえ、これは重要な任務だ。必ず仕留めろ」

 

 

 

「な〜んて言ってたけど、はっきり言ってこれオーバーキルじゃねーのか?」

 

「やるなら確実に、でしょ」

 

 マインはパンプキンを構え、遠くからイオカルの出現を待つ。

 正邪は特に気にすることなく、一緒にいたタツミに近寄る。

 

「ところでタツミ、お前は帝具とか欲しかったりするのか?」

 

「……そりゃ欲しいと思ったりするけど、いきなりなんだよ」

 

 正邪は所持していた剣を取り出した。

 

「ほらほら、帝具だぜ?」

 

「おぉ……って嘘つけ!! 絶対に違ぇだろ!」

 

「あーあ、バレちまったか」

 

 と、戦場で遊んでいた。

 

「……来たわよ」

 

 少々不機嫌そうに標的が現れたと言う。

 その直後、パンプキンはイオカルのみを狙うように放たれた。

 

「おー、やっぱ命中率高いな」

 

「当然よ、私は射撃の天才だから!」

 

 そして、相も変わらず偉そうだった。

 ここから先はブラートたちが大半の殲滅、残りの始末をマインたちが行うという流れだった。

 

 

「……血縁の力でやりたい放題。ああいうのが一番ムカつくのよ」

 

 突然、マインが愚痴った。

 タツミは不思議そうな顔をしていたが、正邪はなんとなく言いたいことが分かった。

 

「二人には特別にアタシの昔話を聞かせてあげるわ!!」

 

 そして、勝手に語り始めた。

 正邪はその手のタイプかと黙って聞くことにした。

 

「アタシは西の国境近くの出身でさ、異民族とのハーフなのよ。街では思いっきり差別されて、誰一人アタシを認めてはくれなかった」

 

 

「……悲惨な子供時代だったわ」

 

 マインの様子から差別されていた時の悲惨が伝わってくる。

 

「でもね、革命軍は西の異民族と同盟を結んでいるの。新国家になれば国境が開き、多くの血がまざってアタシみたいな思いをする子はいなくなる」

 

「もう二度と、誰にも差別なんてさせないわ……!!」

 

 その後、セレブに暮らすだのなんだのと言ってマインらしいセリフをはくが、正邪はそれを真剣な眼差しで聞いていた。

 その強い意思は、針妙丸を思い出させていた。

 

 ……残党が背後から来ていることに気付かず、唯一気付いていたタツミだけが動いた。

 

「あっぶねぇ……!!」

 

 マインを庇ったタツミはそのまま気絶し、男はマインを狙った。

 

「てめぇだけでも大臣に差し出す。覚悟しろ」

 

 パンプキンは一撃も当たらず、もはや絶対絶命ともいえる状態だった。

 

 だが、彼は運が悪かった。

 

「……あぁクソ。イライラするな」

 

 正邪は先ほどタツミに渡そうとしていた剣で敵を斬る。

 

「運が悪かったな。私のうさ晴らしになれ」

 

 男は反撃に出ようとするが、数分も経たないうちに絶命した。


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