天邪鬼が斬る!   作:黒鉛

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首斬りを斬る(壱)

 正邪がマインとタツミのピンチに怒りを顕にした。

 マインからその情報が入り、正邪は事実とは違うと頑なに否定しているが、ただの照れ隠しだと皆が思っていた。

 

「……どうしてこうなった」

 

 人に嫌われることを好む正邪だが、最近はどうも人にとって好まれる行動ばかりとっているような気がした。

 ……おそらく、これが安定していた幻想郷と腐りきった帝都との違いなのだろう。

 

 それでも帝都をひっくり返したい気持ちは強く、今日も情報収集のため帝都を歩いていた。

 

「――なあ、また死人が出たんだって」

「ナイトレイドといい首斬りといい……この帝都はどうなってしまうんだ?」

 

 首斬り。

 ナイトレイドの殺しに便乗した輩がいることを知る。

 そいつは軍の人間だろうと民だろうと関係なく首を斬っているという話から無差別に人を殺している可能性が高い。

 

「……よし、切り上げるか」

 

 首斬り以外の情報は得られないと判断し、帝都を後にした。

 

■ ■

 

 帝都で騒がれている首斬り。

 その正体はかつて帝国最大の監獄で働いていた首斬り役人、ザンクだと絞り込まれた。

 

 更に、ザンクは獄長所持していた帝具を盗んでいるため、今回は帝具戦になるだろうという話にもなっていた。

 

「帝具戦か……。ちなみに、ザンクの帝具の能力はしってるのか?」

 

「いいや、おそらく文献にも載っていない可能性が高い。油断はするな」

 

 ナジェンダは淡々と説明する。

 と、そこで正邪はある疑問を思い出した。

 

「そーいや、ナジェンダは帝具を持ってないのか?」

 

「……元々パンプキンを使っていたが、エスデスと戦っていた時に右目を失ってな。片目では満足にパンプキンを扱えないと判断して、マインが来てからは帝具無しでやっている」

 

 ナジェンダの言葉には重みがあった。

 ボスという立場であるにも関わらず、自分だけ帝具を持っていないことに感じるものがあるのだろう。

 

「でも、エスデス相手に片目だけで済んでてパンプキンだって使おうと思えば使える状態でいれるのは正邪のお陰だ。私は感謝している」

 

「……やめろ。感謝されるのは慣れていない」

 

 やはり、ここでは正邪はいい人間として扱われている。

 それがなんとも言えない気持ちになる。

 

 そう、今回は少しだけ条件が違うだけ。

 幻想郷と帝都では、そもそも強者が弱者とっていた行動が違う。

 

 扱い方が少し変わることでここまで歪みは大きくなり、正邪のような叛逆者はここでは正当化されてしまう。

 

 そう、ここではたまたま利害が一致していただけで他の理由なんてない。

 

 もし帝都に闇がなくて幻想郷みたいな安定した国だったとしても正邪はひっくり返そうとしていただろう。それは間違いない。

 

「……首斬りザンクを殺りにいくんだろ? さっさと行くぞ」

 

 正邪は最近割り切ることが多いなと半ば呆れ気味に自分を嘲笑した。

 

 

■ ■

 

 

「――愉快愉快」

 

 夜の帝都を見渡す男がいた。

 彼の目に見えているのは複数の男女たちだ。

 

「辻斬りに加えて殺し屋もいるなんて、物騒な街になったもんだねえ……」

 

 彼こそ、首斬りザンクだ。

 額には帝具と思わしき物を着けており、いかにも帝具といった感じであった。

 

「どんな帝具か分からないが、とりあえずザンクだけ仕留めれば任務完了だ……!」

 

 背後から忍び寄る影が一つ。

 その手に持つ短刀がザンクを首を……。

 

「……ッ!? 誰だ!!」

 

 

「ちっ、流石に影までは隠せないか!」

 

 あと少しのところで短刀を防がれてしまう。

 短刀はそのまま消滅し、上を見上げると空を飛ぶ正邪の姿があった。

 

「……小槌で創った偽物の帝具は一定の衝撃で消滅するのか。まあ、問題はない」

 

「……何者だ、お前」

 

 警戒心が高くなり、額の帝具の目がずっと開いたままだった。

 

 その質問に見返しの姿で答える。

 

「我が名は鬼人正邪、生まれ持ってのアマノジャクだ」

 

 瞬間、ザンクの世界はひっくり返る。

 否、ひっくり返されたのだ。正邪の能力によって。

 

「なっ……なにぃ!?」

(スペクテッドで読むことが出来なかった! 俺は、何をされたんだ!?)

 

 ザンクはすぐさま体制を整え、帝具を使った。

 

「スペクテッドは相手の心を読むことが出来る……!!」

 

 帝具スペクテッドは正邪をジッと見続けていた。

 

(右からこの短刀で斬りこんで、その後は上から小槌で殴るか……)

 

 ザンクは軽いを汗をかいていたが、ここで笑った。

 動きさえ読めればこちらのものだと。

 

「さっさと終わらせる!」

 

「ふっ、最初の一撃は右から……」

 

 右から来るハズの攻撃を剣で防ごうとする。

 しかし、ザンクは斬られていた。

 

「……ば、バカな……」

 

 それも左から短刀でだ。

 

「余所見してる暇でもあるのかマヌケ!!」

 

 次に上から来るはずの小槌を咄嗟に防ごうとするが……

 

「帝具に頼りっぱなしだからそんなことにかるんだよォ!!!」

 

 小槌は下からザンクを顎目掛けて振り上げられた。

 

「……なんで読んだ動きと反対のことをしているか、ビビってるな?」

 

「!?」

「知りたいか? そりゃ勿論知りたいよなァ!!?」

 

 正邪は一枚の紙切れを手に取り、誰にも見せたことのないような下衆の笑を浮かべていた。

 

そうだ、これが私だ。

やはり強者との戦いは私に思い出させる……!!

 

「……誰が教えるかよ、バァーカ」

 

 一枚のカードを上にあげ、高らかに宣言する。

 

「スペルカード! 逆符「イビルインザミラー」!」

 

 あの博麗霊夢たちに初見殺しと言われたスペルカードを。


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