「いやー…すっげえな魔法学園」
シュスイは中庭の庭園でサンドイッチを食べながら感動しつつ呟いた。魔法学園という名前の通り、白魔法や黒魔法等々魔法を使った授業、魔法を使う生徒、魔導書がびっしりと揃っている図書室、学科ごとに魔法の専門が違っていて魔法の研究や開発に没頭していたりとシュスイにとって見るもの全てが初めてな物ばかりで興味を引かれ続けていた。
「俺、本気で入学したくなってきた。オラワクワクスッゾ!」
感激してはしゃぐシュスイにレクトは苦笑いしていたが、軽いため息をついた。
「シュスイはすごいね…ちょっとうらやましいよ」
「いやいや、俺はちっともすごくねえぞ?」
この世界の登場人物たちのの生き方、志、生き様を知っているからこそ、この世界の人達の方が何倍も羨ましいくらいだ。畏まるつもりはないし、寧ろ尊敬するくらいでもある。
「…シュスイはなんで冒険家になろうと思ったの?」
「うーん…色んな所へ冒険してみたいと思ったからかなぁ」
レクトの質問にシュスイは頭をひねって考えたが、率直に思った事を呟くように答えた。
「世界はとっても広いし、知らない事がたっくさんある。出会うものすべてが自分にとって貴重な体験になる。だから俺は世界の果てまで歩き回ってみたいんだ」
ちゃんとうまくまとめて言えているのだろうか、思った事を述べているだけだのつもりであるが内心ドキドキしながらシュスイは話した。そんなシュスイにレクトは羨ましそうに見つめていた。
「シュスイはちゃんと目標を持っているんだね‥‥それに引き換え、ボクなんか…」
「…そいっ」
自分を蔑んで落ち込むレクトにシュスイはデコピンをかました。デコピンに面食らったレクトはデコを抑えながら顔を上げた。
「自分を蔑んでも何も変わりはしないぞ?レクト、もっと自信を持てよ。お前は俺よりもすっげえし、カッコイイんだからさ」
シュスイはニヤニヤしながらレクトの肩を叩く。身なりもいいし、これでどうして弄られるのかおかしいと思うくらいだ。励ますシュスイにレクトは多少戸惑いながら苦笑いをする。
「そ、そうかな…?ボクはシュスイの思うほどの力なんてないよ…?」
「レクト、夢はあるか?」
「えっ?」
突然シュスイに尋ねられレクトはきょとんとした。シュスイは再び尋ねる。
「なりたいとかやりたいとか目標や夢は誰しも持ってるもんだ。レクトの夢はなんだ?」
「‥‥ひ、ヒーローになりたいってことかな?お、おかしいよね…?」
レクトは控えめに述べて自分を蔑むように苦笑いをした。そんなレクトにシュスイは優しく微笑んだ。
「おかしいもんか、かっこいいぜ。でも‥‥その夢をそのまんまにしておくのはどうかと思うぞ」
「そ、それってどういうこと…?」
不思議そうに見つめているレクトにシュスイは少し悩みながら話を続けた。
「まあ、そのなんだ…誰しもなりたい、やりたいっていう夢は持っている。でも、それを実現させるには自分自身努力しなきゃいけない。俺だってこうなる為にかなりの努力をしてきたさ」
この世界に転生する前にあの世の世界で某破壊神そっくりの神様の下で何年、何十年、何百年とどれくらいの時間が経過したか分からない程の苦しい修行をしてきた。願いを叶う為には、力を得る為にはそれ相応の努力をしなければならない。
「…じゃあ、ヒーローになるためにどうすればいいのかな…?」
「レクトの場合は…勇気が必要だな。意を決して一歩踏み出す、一線を越える勇気が」
「勇気、か‥‥い、今の僕じゃ無理だよね…」
俯くレクトにシュスイはやれやれとため息をついてポンと軽く肩を叩く。シュスイは顔を上げたレクトにニッコリと笑みを見せた。
「大丈夫。俺が友達として全力で支えてやる。だから、もっと胸張って、勇気を出せよ」
シュスイはニッと笑って拳を前に出した。シュスイの言葉を聞いたレクトは目を丸くしたが、クスリと笑って拳を前に出してコツンと合わせた。
「あ、ありがとう、シュスイ‥‥ボクなりに頑張ってみるよ」
「ははっ、ようやっと元気に笑ってくれた」
元気になってくれたようで、うまく勇気を出してくれるかどうか、うまく言えてるかと内心ドキドキしていたシュスイはほっと一安心した。
「さてと、真面目な話はここまでにして‥‥急に話は変わるけどさ、レクトはルーンカメラっての知ってる?」
ルーンという物は特殊な力を持つ不思議な物体だけではなく、列車や自動車などを動かす動力源になったり、カメラやラジオの様に機械そのものの姿形をしていたりと何でもありのような物である。
「ルーンカメラ?ボクも趣味で持ってるけど、どうかしたの?」
「ああと…ルーンカメラってどんなもんか興味があってさ、使い方とか教えてくれね?」
__
「ここら辺だな…」
学園から帰り、レクトと共に喫茶店でアルバイトした後にルーンカメラを購入したその夜、シュスイはルーンカメラを持って、スキエンティアの端のエリアである工業地帯を歩き回っていた。宿屋に戻ってたぬきちは寝かしており、今日も自分の倍動いているのだからたまにはゆっくりと休んであげなくてはと一人で出向いたのであった。
目的はただ一つ、リブリこと魔法図書館から魔導書が大量に盗まれた事件の情報収集と評議員のゲルハルトが召喚しようとしていた『アレ』という物の正体を突き止めるためである。
何故工業地帯にいるのかと言えば、冒険家ギルドの設営している宿屋は冒険者のクエストの受付があり、そのクエストの中にはスキエンティアの警吏達が魔導書密売の取り締まりの依頼も含まれており、シュスイはこっそりと魔導書密売の情報がないかを盗み見し、工業地帯に魔導書密売のアジトがあるという情報を手に入れたのであった。
「あの評議員の野郎が関与してんならどの密売者にもつながりはあるだろうし、片っ端から殴り込みしてみますかね」
ゲルハルトの魔導書密売の関与の証拠は得られるが、自分が求めている情報が得られるかどうかは分からないがやってみるしかない。まずは一件目、夜な夜な魔導書密売者達が闇取引している疑いがある製鉄所へ。堂々と正面から殴り込むか、相手に見つからないようにこっそりと潜入するか考えていたがふとあることに気付いた。
「ちょいまち…ルーンカメラを買うお金があったなら、先に冒険家登録しとけばよかったんじゃね?」
汗水流して(?)溜めたお金でルーンカメラを購入したがカメラという事もあってそれなりのお値段をした。そんな事よりも、冒険家登録しておけばこういった取り締まる依頼も盗み見することなく、勝手にやることなく簡単に受諾して行えるし、後から警吏にバレないようにこっそりとする必要もなかったはずだ。
「ノオオオオっ!?なんでそういうことを思いつかなかったんだよぉー…俺ってホントバカ‼」
しばらく数十分くらい自問自答して悶えていたが、もう背に腹は代えられない。一先ず密売者達がいるかどうか潜入しなくてはと切り替えていざ乗り込もうとした時、後頭部に何やら堅いものが当たった感触がした。ちらりと後ろを振り返ってみると、拳銃をこちらに当てている黒スーツの厳つい男とその後ろに同じスーツを着た男達がいた。
「おい、にいちゃんよ…こんな所で何をしてんだぁ?」
こちらに質問すると同時にカチリと銃弾を装填し引き金を引こうとしていた。シュスイは一瞬キョトンとして見つめていたが、ニッコリと笑う。
「…ビンゴ♪」
相手が引き金を引く前にシュスイは素早く懐に迫り、男の腕と服を掴んで背負い投げをした。投げ飛ばされた男は勢いよく製鉄所の扉にぶつかり、扉は大きな音を立ててぶち壊された。突然の物音に反応したのか製鉄所の中からぞろぞろとチンピラや物騒ななりの男達が出てきた。
「なんだなんだ!?警吏の奴等が嗅ぎ付けて来やがったのか!?」
「って、ガキ一人だけじゃねえか。何もんだ‼」
まさか本当に密売者の巣窟だとは思わなかった。これならもしかしたら欲しい情報が手に入るかもしれない。シュスイは好戦的な笑みを見せて拳を構えた。
「ちわーっす、三河屋でーす。ちょっと聞きたい事があって殴り込みに来ましたー」
そう言うと同時に足に力を込めて先頭に立っている男に向かって一気に迫り殴り飛ばした。密売者達は一瞬呆然とするが、それを合図に銃やナイフや魔導書を取り出して襲い掛かってきた。やっぱりこっそりと潜入するよりもそっちから来てくれる方が好都合だ。シュスイは襲い掛かる密売者達の攻撃をひらりと身を躱し続け、炎の球や雷やら風の刃といいた魔導書から放たれた魔法は防いだり蹴とばしたりして受け流し、殴る蹴る投げるなどとお返しをしていく。
「っと、加減はしねえとな」
戦っている途中に目的を思い出し、熱が入り過ぎないようにしなければと自重をする。折角これだけの数がいるのだから全員ノックアウトしてしまっては聞き出すこともできない。しかし、時すでに遅し。気が付けば密売者達は全員床に伏せて気絶してしまっていた。
「や、やっちまったぁぁぁ!?」
しかも、魔法の攻撃を跳ね返したり受け流したりして壁や天井や機械などあちこち壊れたり穴が開いたりしていた。シュスイは無言で穴が開いた天井を見上げていたがコクリと静かに頷く。
「…うん、クーリアの魔獣が襲撃してた、という事にしておこう。すまんネヴィルさん」
ありもしない事を擦り付けてしまった事にシュスイは静かに詫び、製鉄所の中を進んでいった。自分は戦闘バカなのだろうかとションボリとしつつ、辺りを見回しながら進むと地下への階段を見つけた。もしかしたらと思い地下へと降りていき、扉を蹴り開けると薄暗い広い部屋があった。そのコンクリートの床には赤い魔方陣が描かれている。
「‥‥なんじゃこりゃ?」
シュスイは眉をひそめて魔方陣を見つめる。一体これは何なのか、魔法か儀式の跡か、魔法に疎いのでよく分からない。上が製鉄所のせいか地下室は喧しい金属音が絶えず響いていた。集中力が欠けるので取り敢えずルーンカメラで写真を撮り、上へと戻ると気絶をしている密売者を適当に一人、ビンタして起こした。朦朧としているが何とか起きた密売者の胸倉をつかみ問い詰める。
「おい、あの地下室にあった魔方陣はなんだ?」
「ち、地下室の…お、おれは…何も知らねえ…」
意地でも正直に言わないつもりのようだ。シュスイはどうしようかと考えたが、腰に提げている赤い鞘の刀を抜いてニッコリと笑った。
「…パイプカットって知ってる?俺、器用だからできるんだよね?あ、それともキングジョーみたいに四分割になる?」
キングジョーとは何のことかと密売者は知らないが、取り敢えず正直に言わなければヤバイ事を察したのか真っ青になって何度も頷く。
「わ、わかった…正直に言う!…す、数週間前、ゲルハルトの野郎が…古い魔導書を持ってきてその地下室に籠ったんだ‥‥で、でもすぐに帰って行ったから何をしてたのか、何処からその本を手に入れたのか分からねえ…」
「そうかい…ありがとさん」
シュスイは頭突きをして密売者を再び気絶させた。一件目から当たりを引けたのはよかったがまともな情報が得られなかったのは残念だった。
「でもまあ、ゲルハルトが関与している証拠は得られた、か。でもゲルハルトは何を召喚しようとしたんだ?」
考えても答えが見つからない。古めかしい魔導書というならばもしかしたら禁忌の魔法なのかもしれない。そう考えたシュスイは閃いたのかポンと手を叩いて踵を返した。
「ここは…リネアに聞いてみっか」
一先ず、警吏にでも通報して後は任せおこうとシュスイは鼻歌を口ずさみながら製鉄所を出て行った。
___
「おはよう、レクト君」
「おはよ、シュス‥‥って目の下にくまが濃いけどどうしたの!?」
学園にて、声を掛けられたレクトは目の下にくまがついて眠たそうにしているシュスイにびっくりしていた。製鉄所から出て行ったあと、案の定道に迷ってしまった。宿に着いた頃にはもう朝日が昇っており、禄に寝床についていなかったのだった。
「ふ…レクト、夜更かしはするもんじゃないっすね」
「だ、大丈夫なの?」
「大丈夫っす。次のシーンにはもうくまなんてなくなってるから」
「いや言ってる意味が分からないのだけど!?」
一つ一つツッコミを入れてくれるレクトの真面目さに感謝しつつ、本題に乗り出す。
「リネアって魔法原理学部の生徒らしいけど‥‥その棟って何処かな?」
「原理学部?それなら東棟にあるけど、彼女は『花園』の人みたいだし学部が違うからいるかどうか分からないな」
「おっけおっけー、場所が分かれば後は大丈夫。ありがとなレクト」
シュスイはさっそく向かおうとしたが足取りがフラフラとして覚束なく、道中の木にゴツリとぶつかってしまった。
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫だ、問題ない」
「台詞と口調からして大丈夫じゃなさそうなんだけど…」
途中までレクトに案内してもらい、魔法原理学部の棟へと向かう。一先ず原理学部の生徒にリネアがいるかどうか聞き込みをしていると、今現在彼女は学園内の寮にいるようだ。
「いやー、まさか寮だとは、意外…って間違いなく女子寮だよね?男子禁制だよね?」
呟いた通り、彼女は女子寮にいる。一応彼女がいる部屋まで教えてもらったが、やはり男子禁制であった。彼女が来るまで待ちぼうけする訳にはいかない。昨日の製鉄所ではごり押しでやったが、早く解明をしなければならないのでここはやっぱり他人に見つからないようにこっそりと潜入していかなければ。シュスイは気配を消して、リネアのいる部屋まで向かった。ドアの前まで来たがノックしていいのだろうか、他人に見つからないようにするのならばという訳で窓から入ることにした。ベランダに降りたシュスイはふと思った。
「…あれ?これってヤバイやつだよね?ヤバすぎるやつだよね?」
これはもしかして、ヤバイのではと一瞬思ったが、気にしては負けと首を何度も横に振って落ち着こうとした。
「落ち着け…逆に考えるんだ。『会うためなんだから仕方ないさ』と考えるんだ」
もうここまで来たんだから引き返すわけにはいかない。いや、引き返せるけど。ここにメールとかができるものがないというのを悔いるしかない。いや、場所によってはあるのだけど。ラッキーなのか不用心なのか窓は開いてある。
「お、おじゃましまー‥‥って部屋ごちゃごちゃしてるっ!?」
なんということでしょう。彼女の事だからお部屋はとても綺麗なのかと思いきや、床のいたるところに書類やレポート、魔導書らしき本やらが散らばっているではありませんか。
「ま、まあ一人暮らしの学生だから仕方ないよね?‥‥って、あれ?」
部屋の惨状に苦笑いしていたが、ソファの方に視線を移すとびしりと固まってしまった。
なんということでしょう。可愛らしいソファの上で薄地のピンクのワイシャツを着てスヤスヤと寝ているリネアがいるでありませんか。可愛らしい寝息を立てて無防備に寝ている姿にシュスイは思わずにっこり。このまま起こしてはいけないなと思い引き返そうとしたがクシャリとレポートを踏んで音を立ててしまった。
「あ」
「うぅん‥‥え?しゅ、シュスイ‥‥?」
音に目を覚ましたリネアはゆっくりと起き上がると目の前にシュスイがいる事にポカンとしていた。しばらくの間静寂が流れていたがシュスイは引きつった笑みを見せる。
「お、おはようございます。さ、サンタクロースじゃよ?」
やっとはっきりしたリネアはがたりと動き、傍に置いてあった剣を手に取りシュスイに切っ先を向けた。リネアは顔を赤くしてシュスイを睨む。
「しゅ、シュスイ何しに来たのよ!?というか何でここにいるのよ!?」
「まあまあ、落ち着きなさいって。というか部屋の整理をしような?」
「それは学部のレポートをまとめなきゃいけないし、花園の任務で報告書を書かなきゃいけなくてどたばたしてるから…って、話をそらさないの‼」
話が脱線しそうになりリネアはキッとシュスイを睨んだ。シュスイは慌てながら本題に入ることにした。
「じ、実はリネアに聞きたい事があって来たんだ。事を急くからこうして忍んだんだよ」
「私に聞きたい事?だからわざわざ男子禁制の所まで来たわけね…」
「そうそう。話す前に…ちょっと整理しねえとな。ごちゃごちゃしてると落ち着かんだろうし」
「そうね。落ち着いた場所で‥‥って、ここ私の部屋なんだけど!?」
一緒に書類やレポートの整理をして部屋をきれいにしようとしたのだが、自分の部屋なのに何故かシュスイに仕切られていることにノリツッコミした。
「あと寝起きだから腹減ってるだろ?卵焼きとココアしかできねえが、作ろうか」
「ありがと。シュスイって気が利く‥‥って、だからここ私の部屋‼」
「ココア…はっ、心がぴょんぴょんするんじゃーっ‼」
「もうツッコミきれないんだけど!?」
寝不足なのかそれともノリノリだからなのか、シュスイの謎のテンションにリネアはツッコミを入れるしかなった。
やっとオーバードライブ紅蓮編も折り返しに入った…様な気がします (オイ
どのキャラもあやねるボイスは可愛いよね!