遺跡内に魔物の咆哮と衝撃が響き渡る。白い魔獣と赤い魔獣が拳をぶつけ合うたびにその衝撃が何度も何度も音とともに響いた。
「グオオォォォッ‼」
「ジャアアアアッ‼」
この街を変えるために自ら魔獣となること選んだネヴィル、変わらなかった自分を変えるために勇気を踏み出して戦う事を決意したレクト、それぞれの思いがぶつかり合い譲れない戦いを繰り広げていた。
「いいぞレクト、その調子だ…!」
奮闘するレクトにシュスイは頼もしそうに呟いた。この戦いはレクト達の戦いであり自分がしゃしゃり出る必要はない。自分がやらなければならない事は他にもある。シュスイはゲルハルトが行っていた魔法実験の魔方陣の真ん中に立つ。
「ここら辺だな…」
自力でソウルの流れを感知しながら探し、このど真ん中があふれ出るソウルの流れが大きいのを見つけた。シュスイは両手両足に衝撃鋼ベオウルフを纏うと大きく深呼吸した。
「ソウルの流れは気の流れ…ってイメージすりゃあ大丈夫かな?…いくぞっ!」
シュスイは気合を入れて魔方陣のど真ん中めがけて拳を振り下ろした。拳が直撃すると同時に魔方陣が白く光り出す。
「ソウルがあふれ出てる箇所を無理矢理栓をする‥‥っ‼」
白い魔獣に変身するネヴィル、赤い魔獣に変身するレクト、どちらもソウルを吸収することで体の傷の修復や力の増幅をすることができる。その二人が魔法実験によって駄々洩れのソウルを吸収し続け戦うとどうなるか、放出し続けた魔法実験の暴走が起きてこの街が跡形もなく吹き飛んでしまう。
そうなる前に、シュスイはその魔方陣に向けて自らのソウルを流し込み、あふれ出るソウルを押し込んで無理矢理閉じ込めてこの魔法実験を無力化させるのであった。
「おらああああああああっ‼」
どれくらい流し込めばいいか、分からないがシュスイは叫びながらありったけのソウルを込めてあふれ出る白い光を押し込み続けた。閉じ込められてたまるかと言わんばかりに白い光がこちらを押してくる。押し戻されそうになるが負けじと力を入れ続けた。
「おんどりゃああああああああっ‼」
今、レクトが頑張って戦っている、自分がこんな所でへばるわけにはいかない。シュスイは尽きることなく叫んで白い光を押し込んでいく。すると、光っていた魔方陣が点滅し始め徐々に光量が薄くなっていく。自分のソウルが押していることが分かるともうひと踏ん張りとさらに力を込めていった。
「こんのぉ‥‥閉じろぉぉぉぉぉっ‼」
シュスイはゴリ押しと言わんばかりに力いっぱい魔方陣に拳を叩き込んだ。地面にひびが入ったが、その一撃が効いたか魔方陣の光が消えていった。流れ出ているソウルの気配が消えた、魔方陣を閉じる事に成功したのだった。
「ふぅー…こっちはうまくいったぜ‼レクト!ぶちかましたれぇっ‼」
シュスイはレクトに向けて叫び、拳を向けてニッと笑った。戦いの最中、レクトはそんなシュスイを見ると大きく頷く。
「ジャアアアアアアッ‼」
振り下ろされたネヴィルの拳を躱すとレクトは雄たけびを上げて目にも止まらぬ速さでネヴィルに一撃を何度も何度もぶつけていく。
(一線を…超える‼)
高々と飛び上がり、レクトは怯んでいるネヴィルめがけて目一杯力を込めて一撃を叩き込んだ。地面にぶつかり地響きとともに土煙が舞い上がる。
「グオオォォォ‥‥ッ‼」
白い魔獣の力ない方向が響くと、元のネヴィルの姿へと戻った。ネヴィルはよろよろと立ち上がるとレクトを力なく睨んだ。
「レクト‥‥私に、世界を変えさせてくれ‥‥!」
そんなネヴィルに対し、レクトは元の姿に戻る。先ほどの攻撃で力をフルに使ったのか息は上がっている、しかし意思と目は疲れ果ててはいなかった。
「もう‥‥変わっているんだ…おじさんの世界は…‼」
レクトはこぶしを握り締め、力いっぱいネヴィルを殴った。殴られたネヴィルは抗う力がなく倒れる。
「がはっ…!」
「おじさんは気づいていないんだ…この力のせいで自分だけ変わっていないことを‥‥」
「私が‥‥変わっていないだと‥‥?」
何とかして体を起こすネヴィルにレクトは真剣な眼差しで見つめる。
「分かるよ、おじさんはいいことをしようとしていたって…でも、迷って分からなくなって自分だけ変わる世界に取り残されているんだ」
「レクト‥‥」
「ネヴィルさん、あなたは信じていなかったんだ」
シュスイはネヴィルを悲しそうな表情で声を掛けた。彼が自ら怪物になるしか道がなかったこと、そのせいで自分が変わっていないことをシュスイは知っていた。それでも、責める事はしない。分かってもらう為にシュスイは口を開いた。
「この街の事は詳しくは知らない新参者だけど…この街はちょっとやそっとで挫けやしない。それに‥‥レクトやリネア、この街で頑張ってる人達いる、どんな悪行が行われようとも挫けずに立ち向かう強い意思を持った人がいる。この街を愛しているんなら、分かっているはずですよ…」
「‥‥結局私だけが何も変わらなかったのだな…」
レクトやリネア、そしてシュスイを見つめ、ネヴィルは全てを察し力なく俯く。
「私はこの力の使い道に迷っていた。その最中で評議員達の悪行を知るにつれ、彼らを許せなかった。その時自分に与えられた力は悪を滅ぼすためだと、そう思ったんだ…街を救うために怪物に変わるしか道はないとこれまで行っていた…私は変われなかった、心まで怪物になったんだ」
「ネヴィルさん…まだ貴方は変われる、まだ間に合います」
シュスイの言葉にネヴィルは顔を上げた。シュスイは頷いて微笑む。
「シュスイくん…私は…私の犯した罪は重い」
「今気づけた貴方は道を踏み外す寸前で踏みとどまっている。時間は掛かるかもしれない、でもあなたは変わることができるんです」
「‥‥どうして君はそれまでして…?」
尋ねられたシュスイは考え込むが、照れながら苦笑いしながら頭を掻いた。
「マスターの、ネヴィルさんの淹れるコーヒーが二度と飲めなくなるのがいやだからですね」
「…ふ、やはり君は面白いな…」
単純で純粋な答えにネヴィルは軽く微笑み、シュスイも照れ笑いしつつ笑いあった。そこへリネアがネヴィルにゆっくりと歩み寄る。
「ネヴィルさん‥‥貴方を逮捕します…」
クーリアの魔獣の正体がまさか冒険家として尊敬し、信頼していた喫茶店のマスターであったという事にリネアは悲痛な面持ちであった。
それでもこの戦いで犠牲が出なかったのはよかった。魔方陣を封じたことでソウルの流れが暴走しないで済んだ。漸く戦いが終わり、なんとかなったとシュスイは安堵の一息をつく。
「そういえば…」
ふとシュスイはあることを思い出した。クーリアの魔獣の一件は無事に解決したが、まだ問題が残っている。リブリの魔導書を盗んだのは誰なのか、そしてゲルハルトは何を召喚しようとしていたのか。
ゲルハルトを殴り飛ばしてほったらかしにしていたので改めて問い詰めようと彼のいる方向へ振り向く。肝心のゲルハルトは魔法実験がいつの間にか止められて唖然とし、殴り飛ばしたシュスイに憤慨していた。
「魔法が止められているだと‥‥‼おのれ…この魔法実験にどれだけの金を費やしたと思っている‼この私を殴り飛ばしやがって…タダで済むと思うなよ‥‥‼」
「随分とお冠だなー…たしかあの魔法実験も禁忌の類、だっけ?」
「そうね…ゲルハルト、『花園』の一員として貴方も逮捕するわ」
まず先にゲルハルトから逮捕しようとリネアは近づいた。その時、ゲルハルトが懐から古めかしい赤い魔導書を取り出したのが見えた。ソウルの影響か、その魔導書から禍々しい気配を感じたシュスイは急遽リネアを引き止めた。
「えっ?シュスイ、どうしたの…?」
「あれはなんかヤバイ気がするんだ‥‥!」
第六感というわけではないが本能的にあの魔導書は何か危険な気を感じる。そうしている間にゲルハルトはその魔導書を開く。
「どいつもこいつも私を見下しおって…‼ここはソウルが流れている場所…召喚を試みるにふさわしい…‼」
怒りを撒き散らすゲルハルトが早速魔導書の魔法を試みようとしたその時であった。魔力を使って召喚するよりも早く魔導書が小さな魔方陣を展開し赤く怪しく光ると、開かれた魔導書から真っ赤なスライム状の液体の様なものが大量に飛び出して来た。
「えっ」
その液体はゲルハルトめがけて飛び出すと、悲鳴を上げる間もないままゲルハルトは包まれてしまった。それだけでなく赤い液体は触手の様にうねり出しこちらに向かって広がって来た。
「あれはヤバイ…っ‼高台へ逃げるぞ!レクト、リネアとネヴィルさんを頼んだ‼」
「う、うん!」
シュスイは近くで倒れている警吏達を担ぎ、レクトは変身してリネアとネヴィルを担いで高台へと避難した。避難している間にも赤い液体は迫って来ていたが、途中で諦めたのかすぐに退いた。高台から見下ろすと、赤い液体は蜘蛛の巣の様に広がっており、赤い液体に取り込まれたゲルハルトは悲鳴も上げることができず悶え、液体がミミズの群れの如く蠢いていた。
「な、なんなのあれ‥‥」
その光景を見ていたリネアは絶句し、レクトとネヴィルは息を呑む。しかし、シュスイはその光景に何処か見覚えがあった。
「いや…まさか、嘘だよな…?」
まるで意思を持っているように蠢く液体、張り巡らされた赤い蜘蛛の巣、そしてゲルハルトを取り込んだ液体が徐々に人の形へと形成されていく。見覚えが確信に変わったシュスイは驚きを隠せずに驚愕した。
「間違いない、シンビオートか!?」
シンビオート、アメリカのコミック『スパイダーマン』に登場する地球外生命体であり、相手に寄生することで意思を持つ凶暴な生命体になる。どうしてこの世界に存在するはずのないシンビオートが白猫の世界にいるのか、疑問と混乱を抱いた。しかし今はそれを考えている場合ではない。
「赤いシンビオート‥‥考えたくねえけど、あいつだよな…!」
人の形を形成していたシンビオートは、魔獣の様な白く大きな目、赤く禍々しい牙と爪を持った人型の魔獣へと変貌した。
「Guruaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
「やっば…カーネイジかよっ‼」
赤いシンビオートから形成されたのはシンビオートで生まれた『ヴェノム』よりも凶悪で凶暴な生命体、カーネイジであった。オーバードライブ紅蓮のシナリオがどこかスパイダーマンに似ているなと思っていたが、まさかマジモンのヤバイ奴が出てくるとは思いもしなかった。そんな驚き続けるシュスイにリネアは不思議そうに尋ねた。
「シュスイ、あれを知っているの…?」
「えっ、あー…ま、まあな。俺の故郷で古から伝わってる…えーと…封印された古代生物、シンビオートから生まれた凶悪な魔獣だ。人にも寄生するってから更に厄介だ…って」
カーネイジは体から赤い触手をうねうねさせて辺りを見回す。もしもカーネイジがこの遺跡から出てしまうと、間違いなくこの島どころか世界中で殺戮と破壊を行い、更に寄生を広げていくだろう。ごくりと息を呑んだシュスイは転生前にビルス様そっくりの神様に言われたことを思い出した。
「『力を持つ者にはそれ相応の責任がある』か…」
どんな超越した力を持っていても、その見返りとして相応の責任を負わなければならない。この力を得たことによって起きた因果なのかもしれない。これはきっと自分に課せられた試練であり、負わなければならない責任だ。シュスイはゆっくりと立ち上がり、レクトとリネアを見つめた。
「レクト、リネア、シンビオートは熱と鐘や鉄パイプ、金属から発せられる高周波に弱いんだ」
「なるほど…それなら炎の魔法も使えるわ!」
「それなら僕も…!」
いざ戦おうとする二人をシュスイは手で止めて首を横に振った。いくらシンビオートが熱や高周波に弱いといえどもカーネイジは凶悪凶暴で一筋縄ではいかない。シュスイは二人の肩を軽くポンと叩いた。
「二人はとっても頑張った。だから、二人の頑張りを台無しにさせねえためにも今度は俺が頑張る番だ」
折角二人のおかげでこれ以上の犠牲を出さずに済んだのだ。突然出てきた輩に台無しにされてたまるか。シュスイは二人に微笑むと決意を決めてカーネイジの方へ視線を向ける。その様子にリネアは彼が何をするのかを察した。
「待って、シュスイ!一人じゃ危険よ…‼」
「俺もこの街が好きになった。あんな野郎に滅茶苦茶にされてなるもんかってやつさ…だから後は任せておきなっ‼」
リネアの制止を振り払い、シュスイはニッと笑って高台から飛び降りた。シュスイの着地に気づいたカーネイジはすぐさま蜘蛛の巣の様に張り巡らされた赤い液体から先端が鋭利な触手をシュスイめがけて沢山放った。
しかし、シュスイが赤い日本刀の柄を掴んだと同時に空間が歪んだ音とと共に無数の赤い斬撃が現れて触手を斬り払う。
「よう。実際に見るとすっげえ禍々しいな、あんた」
「ほお‥‥寄生スルには丁度イイ。完全体にナルためにオレの糧にナレ」
カーネイジは無数に並ぶ牙を見せて不気味に笑う。シュスイは大きく息を吐いて首を横に振り、赤い日本刀をいつでも引き抜けるように構えた。
「封印から解けて寝起きところ悪いが、今度は完全にお陀仏してもらうぜ‥‥閻魔刀『紅水』の切れ味、しっかり味わいな!」
スパイダーマンより、スパイダーマンとヴェノムが手を組んでも倒しきれなかった強敵カーネイジです。
2018年に上映される映画『ヴェノム』に登場するとか、そうだとしらすっごく楽しみです。
主人公がなんかチートな特典を貰って転生して無双ハーレムするよりも、ドタバタコメディか、大冒険か、なんか自分よりも強力な敵とバトルする方が好き(異論は認める)
蓼食う虫も好き好きと言いますし、あまり気にしません‥‥だが『まるで将棋だな』、てめえはダメだ(オイ