ご注文は「残されたわずかな時間」ですか? 作:らんちぼっくす。/ヘスの法則
誤操作で削除してしまいました。申し訳ありません。
という訳で、二次創作も書きたいと思い立って書いたものです。宜しくお願いします。
第1話 時計はここから動き出す
爆音と共に、砂埃が一気に舞い上がった。
重々しい曇天に砂が混じり、テレビのノイズのような不安感を醸し出している。
『・・・くそ!二発目はこっちか!奴はどこへ行った!?』
『まだ分かりません!追跡装置は外されています!』
『くまなく探せ!絶対に逃がすな!』
兵士達が怒鳴りながら会話をしている。
日本からは遠く離れた異国の地の言葉だが、俺には聞き慣れた言葉だ。
怒号と堅苦しい靴音を聞きながら、俺はその階下にある通路を這うように進んだ。
しばらく進むと、静かに揺れる水面が見えた。
海だ。
ここまでの脱走手順は想定していたとおり。
あとは手際と運次第だ。
狭い道を抜けて、水上に出てすぐ左手に、ちょうと水上バイクがあった。すぐに飛び乗り、エンジンをかける。同時に、懐の手榴弾のピンを抜いた。
『居たぞ!奴だ!』
エンジン音を聞きつけたのか、近くの兵士に見つかった。
集まってきた兵の一人が銃を構えるのと、バイクのエンジンが完全に点いたのは、ほぼ同時だった。
瞬間、俺は手榴弾を兵士の方へ投げた。
そして、兵士が逃げ惑い始めるのが見えた瞬間、フルスロットルでバイクを発進させた。
その刹那、巻き起こった爆音と爆風を背に受けながら、バイクを急激に加速させ、左に進路を変えた。
手榴弾によって起こった土煙のお陰で、俺がどこにいるかは兵士には分からなくなっているはずだ。だから奴らが闇雲に銃を撃ってきても当たらないように、さっさとコースを変えて走り去るのが得策なのである。
案の定、後ろで銃の飛び交う音がした。
コースを変えていなければ、被弾は免れなかっただろう。俺は胸をなで下ろした。
とりあえず第一関門は抜けたが、まだ安心はしきれない。むしろここからが一番きつい。
エンジンには限りがある。
地図も無い。
陸地にたどり着けるかは完全に運だ。
それでも、俺は生き延びる必要がある。
だから諦めてはいけない。
ふと、久しく目にしていないあの街のことを思い浮かべた。
美しい石畳。
色とりどりの街並み。
活気溢れる人々。
親父は変わっていないだろうか。
母さんの心配性は治っただろうか。
妹は・・・元気だろうか。
まだ辿りつけてもいないその街を憧憬しながら、俺はとにかく前へ進んだ。
がむしゃらに泳いでたどり着いたので、もう体力が残っていない。だから今、俺は生きているのか、死んでいるのかさえも、よく分からなかった。
今にも途切れそうな意識の片隅で、微かに人の声を捉えた。
俺は生きていたのか、と思いながら必死でその声に神経を集中させ、言葉を聞く。
「どっどどどどどうしよう千夜ちゃん!?あれ完全に人が倒れてるよね!?こういう時ってどうすればいいんだっけ!?」
「おっ落ち着いてココアちゃん!まずはえーっと・・・」
────若い女性二人の声だな。そして、日本語を話してる。ってことは、ここは日本なのだろうか。だとしたら奇跡だ。ありがたい。ついでに願わくば助けて欲しいが・・・
「状況確認よ、ココアちゃん!」
「一目見て異常だって分かるよー!」
「じ、じゃあ人工呼吸を・・・」
「それ絶対今じゃないよね!?」
────ああダメだ。これは助からない。
何でこの状況見てなおコントしてんだ、この二人。
そんな諦観と失望の中で、俺の意識は完全に途絶えた。
―――――――――――――――
『クソッ!バカにしやがって、あの野郎!』
男が逃げ出した直後の頃。
取り逃がした兵士達は、ほのかに残る土煙に目を細めながら、苛立ちの声を上げていた。
『・・・絶対に』
そのうちの一人が呟いた。
『逃がすものか、テテザ。』
第1話 時計はここから動き出す
「いやー、今日は晴れてて良かったなー」
「はい、こういう休日も楽しいです。」
「わっ私はリゼ先輩となら何処でも楽しいですよ!」
私達の楽しげな声が、夏の空に響いていた。
夏休み、バイトの休みが重なり、私────天々座理世は、友人4人と一緒にキャンプに行くことになった。
「・・・しかし、ココアさん達に買い物を任せてよかったんでしょうか。余計な物まで買いそうで心配です・・・。」
そうやってため息をつく、綺麗な水色の髪に透き通った肌の可愛らしい少女は、香風智乃。
私のバイト先・ラビットハウスの一人娘で、まだ中学二年生だというのに、きっちり働いているしっかり者だ。
私は高校二年生だが、去年からラビットハウスで働き始めたのが、人生初めての仕事をするという体験だった。なので、中学生のうちから働くというのは、私の目から見てもすごい事だと思う。
そして今名前が出たココア、というのは、今年の春からこの街に引っ越してきた少女、保登心愛のことである。
おっちょこちょいで騒がしいやつではあるが、ココアが来てからラビットハウスに笑顔が増えていった。人との関わり方がかなり重要になってくる接客業において、彼女ほど心強い味方もいないと思う。
・・・とはいえ、チノ(に限らず色んな人)に姉と思われたいあまりに空回りしたり、先述の通りおっちょこちょいがあるので、褒められたことばかりでは無い。
「確かにねぇ・・・それにココアだけじゃなくて、一緒に居るのが千夜だからなおさら心配なのよね・・・。」
そう呆れ顔を作っている、ウェーブがかかった金髪が印象的な美少女は、桐間紗路。
私の学校の後輩で、私がラビットハウスのメンバーで買い物に行った時にたまたま出会ったことで、他のみんなとも仲良くなった。
・・・ちなみに私とシャロが親しくなったきっかけは、うさぎに出くわして動けなくなってしまったシャロを、私が助けたという、なかなか珍しいシチュエーションであった。
「ま、まあ、二人共やる時はやってくれるだろう・・・多分。」
現在進行形で心配されている二人をフォローする私だが、やっぱりあの二人のことを考えると、少し不安である。
今ココアと一緒にいるのは、宇治松千夜。
ココアとは同じ学校で、波長が合うのかかなり仲がいい。ココアからのつながりで私達も仲が良くなったが・・・
いかんせん、ココアと同じで天然が過ぎる部分がある。なので、あの二人に物事を任せると不安になるところがあるのだ。
ちなみに私達は今、今晩のバーベキューの準備をしていた所だ。
私とチノ、シャロの三人は道具の調達を。
ココアと千夜には食材の調達を頼み、それぞれ別れて準備をしていたのだ。
私達三人はすでに必要なものを買い終え、ココア達との待ち合わせに向かっていた。
(・・・本当に、まともなもの買ってきただろうか・・・)
私はまた、胸の中で溜息を吐いた。
「お、浜辺が見えてきたな」
そうこうしている内に、待ち合わせ場所のすぐ近くまでやってきた。
「ココアさんたち、もう居るでしょうか」
「居るんじゃないかしら?ここからは私たちの行ったホームセンターよりスーパーの方が近いから」
「寄り道してなきゃ、だけどな。」
なんてことを話していると、浜辺の方から、
────みんなー!助けてー!
────助けてー!
という声がした。
聞き覚えのある声だった。
というか・・・
「・・・今のって、ココアと千夜の声だよな?」
「た、多分・・・」
何があったかは分からないが、何やら切迫した様子だったので、私達は浜辺の方へ急いだ。
すると、見慣れた茶髪と黒髪が見えてきた。
ココアと千夜だ。
「ココア、千夜!一体どうしたんだ!?」
私がそう問うと、ココアが慌てた様子で叫んだ。
「ひ、人が倒れてるの!どうしよう!?」
「「「えぇーーーっ!?」」」
予想だにしなかった回答に、私たち三人は声を揃えて叫んだ。
ココアと千夜のもとに駆け寄ると、そこにはずぶ濡れの男性が一人、うつ伏せで倒れていた。
「こ、これ死んじゃってないよね?大丈夫だよね!?」
「そうだと言って、リゼちゃん!?」
「は、早く人を呼ぶべきなのでは・・・!?」
「いいい一体どうすれば・・・!」
「お前ら一旦落ち着け!」
完全にパニクるみんなをなだめてから、とりあえず今やらないといけないことを考える。
「とりあえず容態の確認は私がする。シャロは救急車を呼んでくれ、正確な住所が分からなければ誰かに聞くように!
ココアと千夜は警察に電話を!第一発見者として何があったかを伝えておけ!
チノは、何かあった時のために私の手伝いを頼む!」
「「「「は、はいっ!」」」」
こういう時は、自分が軍人の娘であることをありがたく思う。護身術を始めとして、救命の訓練もさせられたものだ。・・・本当に使う機会があるとは思わなかったが。
やれる範囲でみんなに指示を出し、そして目の前の男に向き直る。
とりあえず身元が分かるものがあれば助かる。
傷があるかも確かめる必要があるので、まずは体勢を変えよう。
「チノ、仰向けにするからそっちを支えてくれ」
「はいっ」
チノと協力して身体の向きを変えさせてやると、顔もちゃんと見えるようになった。
まだ若い、男の顔だ。歳は二十半ばだろうか。
呼吸はしている。血色はいいし、体つきもガッチリとしているので、見たところ栄養失調が倒れた原因では無さそうだ。
また、体の節々に傷はあるが、目立った大きな出血はない。
では一体何が、と思っていると、ふと男の顔に違和感を感じた。
どこかで見たような、懐かしいような。
そんな感覚に苛まれた。
だが今は、確かかも分からない記憶をたどる暇などない。
私とチノは、手がかりになるものが無いか探した。
男の身体に触れると、かなり冷たかった。相当な長時間海の中を行っていたのかもしれない。
それだと低体温症が心配だが・・・
それとは別に、ますます謎は深まる。
漁船か何かがひっくり返ったのかと思ったが、少なくとも見渡せる範囲に船らしきものはなかった。この男だけ流されてきたのだとしたら、あまりに距離がありすぎる。
つまり、沈没があったとするならば、この男は途方もない距離を泳いでここにたどり着いた、というくらいしか考えられないのだ。
あまり考えられない可能性だが、もしそうならこの男は普通の人間ではない。
それこそ軍人で、特殊な訓練でも受けてないと・・・
するとふと、男のポケットで何かが光ったのが見えた。
「・・・?」
何かと思って手に取って、それを眺めた一瞬の後────
脳内に電撃が走った。
そしてそれと同時に、さっき感じた既視感の正体が分かった。
「・・・?リゼさん、どうしたんですか?」
チノが声をかけてくれたが、私にはすでにその声は聞こえていなかった。
手に取ったそれを自分のポケットにしまい、すぐに立ち上がり、役目を終えて戻ってきたみんなの間を縫って、走り出した。
「ち、ちょっとリゼさん!」
「リゼ先輩!?」
「リゼちゃん!?」
「ど、どこ行くの!?」
みんなの問いを背に受けながら、それでも足は止めない。やっとの思いで、
「すまん、後は任せた!」
とだけ言い残し、颯爽と目的地へ向かった。
(これは・・・本当に緊急事態だ・・・!
とにかく、とにかく急いで親父の元へ行かなきゃ・・・!)
燦々と照らす炎天の下。
街中を唸る喧騒の下。
とにかく私は走った。
ほどなくして、私は知る。
これは、絶望の始まりに過ぎなかったことに。