ご注文は「残されたわずかな時間」ですか?   作:らんちぼっくす。/ヘスの法則

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短い、というかクオリティ低い。
ごめんなさい。
それではどうぞ。


第11話 「俺は化け物を産んでしまった」

「無理です、国王!いくら何でもそれは···人としての扱いではないではありませんか!」

 

 フェルティシアの王室にて、一人の若い男の怒号が飛ぶ。

 しかしその声はまるで届いていないかのように、国王は眉一つ動かさずに言った。

 

「知ったことではない。メツキンドは我々にとって害虫。そこに善悪は関係ない。一匹残らず消すのみだ。」

「···あなたは、国一つ私怨で消すおつもりですか。」

 

 男の問いにも、鼻で笑って国王は言う。

 

「私怨などあるものか。メツキンドに制裁を下すべしとは、他国とも決めあったこと。これは暗黙のうちに認められるべき見せしめだ。

 ただ、今回は犠牲となる人間がほんの少し多いだけだ。」

 

 それを聞き、男は唇を噛む。

 

「その責任を、軍隊長の私に押し付けようということですか。」

 

 国王は聞くや、醜悪な笑みを浮かべる。

 権力で命と金を呑んできた男の顔である。

 

「···君も口が悪いな、ワイルドギース。···いや、天々座理央。」

 

 わざとらしく名前を呼んでみせて、いっそう笑みを深める。

 

「自分の立場がわかっていないようだな。

 知っているぞ、君にも恋人がいるんだろう?」

 

 瞬間的に、理央の身体がこわばる。

 国王の言わんとしていることを理解し、震える声を絞り出した。

 

「···彼女を人質に命令を聞け、という脅しですか?」

「フフ、私はまだ何も言っていないぞ。

 ···ただ、人ひとり死んだことくらい、私はなかったことに出来る。それは確かだな。」

 

 国王はいかにも愉しげに、言ってみせた。

 その刹那、理央の中にとめどない殺意が沸いてくる。

 国民にはいい顔を見せておいて、人を服従させるには手段を一切問いはしない、この卑劣な国王に。

 

 しかし、国王はそれすら見透かしたように笑う。

 

「···今、激情に任せて君が私を殺すのもよかろう。しかし、私は国政の成功者。立場で言えば世界でも上位の存在なのだ。私を敵に回すことは、私を支持する国も人も、全てを敵に回すことになる。

 ────その犠牲となるのは、君だけじゃないだろうな。

 君の家族も、友人も、恋人も···誰もが不幸になってしまう。」

 

 理央の顔が固まった。

 視界が狭まる。

 冷や汗が吹き出し、身体が痺れていく。

 

「君が虐殺の支持を出しさえすれば、私が全てを丸く収めよう。君も、君の周りの人間も傷つくことがないように、な。

 諦めろ、理央くん。君のくだらない意地を張り続けるという選択肢はもはや無い。君が私に従いさえすれば、全ては平和に解決するのだよ。」

 

 言葉を失った理央を追い詰めるように、国王はそう言った。

 

 

 

 

「さあ、殺せ、メツキンドを。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第11話 「俺は化け物を産んでしまった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「親父が···大量虐殺の指示!?」

 

 理久の部屋に、リゼの悲鳴に近い声が反響した。

 慌ててリゼは口を押さえたが、その目は恐怖の色に染まったままである。

 

「そう、かつての戦いで生まれてしまった、どうしようもない災いだ。」

 

 理久は努めて平坦な声で言った。

 しかしやはりその目にも、どこか苦悩の色が隠しきれていなかった。

 

「前の戦いで、フェルティシアはメツキンドを追い詰めて、勝利寸前だった。

 だからメツキンドの軍には、穏便に済ませるために投降するように呼びかけていたんだ。

 ···そんな中で、国王が親父に命令したんだ。『メツキンドの民を殲滅するよう、軍に命令を下せ』ってな。

 この1件は闇に葬られる予定で、事実そうなった。だが、もし万が一のことがあって明るみに出ても、指揮官としての責任を全部親父に負わせて、自分は関与してないってことにしようって魂胆だったんだろう。汚ねえ国王だ。」

 

 次第に理久の言葉が怒気を帯びていくのを、リゼは感じていた。

 

「おまけに親父は、俺達の母さんの事を人質にされてた。だから指示を下さざるを得なかったんだ。

 そうして、虐殺は行われた。

 メツキンドの人口は4分の3まで減ったが、フェルティシアはあらゆる権力と金を使って、それをひた隠しにし続けた。」

 

 話を聞きながらリゼは、身の震える思いで、滅びゆくメツキンドのことを想った。

 

 その時、どれほどの人が泣き、怒り狂い、憎んだのだろう。

 滅ぶ祖国の上に立ち、笑うが如しのフェルティシアを。

 

「···悪政の話はここまでだ。これからはその事件が今にどう繋がったかのの話になる。」

 

 感情論で話が逸れかけたのを仕切り直すように、理久が言った。

 

「さっきも言ったように、メツキンドの4分の3は死んだ。

 けれど、一部は生きていたんだ。卑劣にも国を滅ぼした敵国に、多大な恨みを孕んだまま。

 彼らはこの虐殺が国王の命によるものとは知らない。首謀者は総隊長────親父だと思ってる。今更、真実を彼らが知っても変わらないだろうがな。」

「じゃあ···黒幕は、その生き残りで、天々座家にまで怒りをもっている人、ってことか···?」

 

 会話から察したリゼの問いかけに、理久はゆっくり頷いた。

 

「俺がメツキンドに捕まっていた時、兵士達が繰り返して言っていたんだ。『奴にメツキンドと同じ痛みを与えてやれ』ってな。

 大抵軍隊ってのは、同じ思想や意志を持った人間が多く集まる。あの人数で同じことを唱えてたんだ。軍のトップまで関わっているとみていいだろう。

 つまり黒幕もまた、あの事件の被害者、って話だ。」

 

 そうして話を終えてから、途端に理久は申し訳なさそうな顔をした。

 

「···すまない。俺がここへ来たことで、天々座家に恨みを持つ者に皆が狙われやすくなってしまった。

 俺が逃げたり、しなければ···」

「やめてくれ、兄さん。」

 

 自責の言葉を並べる理久を、リゼが制した。

 

「兄さんにまた会えた。

 私にこんなに大事なことを教えてくれた。

 その事が私には嬉しい、それで全てなんだよ。」

 

 包み隠していない本心。

 リゼにとって、喜びでしかない。

 それをただひたすら真っ直ぐに伝えた。

 

「リゼ······」

 

 こちらを静かに見つめる理久を見て、ようやくリゼは自分のセリフの小っ恥ずかしさを感じた。

 

「さ、さあ!時計の話をしてくれ!教えてくれると言ったんだからな!」

「お、おう···」

 

 赤くなりながら早口でまくし立て、羞恥の心を隠した。

 突然変わったそのリゼの様子に、理久は少し困惑しながらも頷いた。

 

「···とはいえ、本当は話せることもあんまりないんだけどな。

 ただ、あの時計は大昔────軍が成立した頃からずっと受け継がれてきたものらしい。

 そしていつか、時計は開く日が来るそうだ。その時が来るまで、時計はずっと守られなければならない。

 そして時計が開いた時···その所有者は、そこに刻まれたメッセージに従う。そうして初めて、この時計は役目を終える。」

「なんだか、胡散臭い話だな···いつか開くって、いつか分からないんだろう?もう、この時計ちょっと錆び付いてるし、開かないかもしれないし···単純にシンボルとしてとっておいてるだけじゃないのか?」

 

 途方もない話に、リゼは思わず訝しげに言った。

 理久は苦笑しながら頷いた。

 

「だよなぁ。みんなそう思うだろうし、ある意味オカルトみたいな話、完全に信じる方が馬鹿らしいかもな。」

 

 そう言いながら、大きな手でその錆び始めている時計を握る。

 その顔は穏やかだった。

 

「でも···戦場に立ってみて、結構分かったことがあってな。

 きっと、この時計を持った人間って、臆病者ばっかりなんだよ。軍の設立当初からずっと俺達のご先祖は戦場で要職に就いてたのに、全く途絶えちゃいない。皆あの戦場を生き長らえていたんだ。

 戦場で、勇敢な人間はすぐ死ぬ。臆病で、どこまでも自分の命が惜しいから生きられるんだ。

 もしこの臆病も、時計が生まれた頃からずっと受け継がれてきたものなんだとしたら、俺は知りたい。そんな臆病者が戦争をすることを選んで、その上で何年もかけて伝えたいメッセージは、一体なんなのかをな。」

 

 リゼには分かったような分からないような、変な心情だったけれど、理久の方は今の言葉でしっくり来ているみたいなので、これ以上聞くこともないからと、ただそうかと頷くだけだった。

 それを見たからか、理久も一度息を大きく吐いてから、笑いながら言った。

 

「随分長く話をしたけど、これが今お前に言える全部だ。

 いずれは話すよ、俺の細やかな過去まで。」

「ん、分かった。その時まで待つよ···って、ん?」

 

 話が終わったと聞き、おもむろに自分の携帯を見ると、リゼは目を疑った。

 

 

 時刻は既に、午前3時を回っていた。

 

 

「なっ······!もうこんな時間に!明日も朝からバイトなのにぃぃぃ!このままじゃ寝れない!

 じゃ、じゃあおやすみ、兄さん!また明日な!」

 

 周りの部屋に迷惑にならないように声を抑えながら、リゼは大慌てで部屋を出ていった。

 

 リゼが部屋を出ていった後、理久に苦笑しながら「やっぱり、まだ子供だな」と言われていたことを、当然リゼが知ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『早く逃げろ、私達には構うな!』

 

『やだよ、お父さん、お母さん!一緒に逃げようよ!』

 

『···ごめんね、あなたの記憶に大きな傷を残してしまう。』

 

『それでも、こうするしかないんだ···。行け!』

 

『···ッ!お父さん!お母さん!』

 

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 幼い頃の自分の声が響いて、男は悪夢から覚めた。

 息を切らしながら、自分の体に触れると、冷や汗でびしょ濡れになっていた。

 

 男は溜息をつきながら、ベッド横に置いた酒を呷った。

 

 ────全く、このごろはあの時の夢ばかり見る。

 

 しかしそれも、計画の終わりが近付いているからと思えば、なんてことは無いのだ。

 20年以上もかけて、ついにこの計画も最終段階に入っている。

 

 これでようやく復讐は果たされる、そう思えば、これまでに味わってきた苦痛など、一瞬で甘味に昇華するような感覚である。

 

(···絶対に許さない。)

 

 親を殺された瞬間から、そう決めてきたのだ。

 あの災いを、許すことなどあってはならない。

 

 

 親を。

 仲間を。

 国を。

 

 

 全てを消し去ったフェルティシアの襲撃を。

 

 やることは決まっている。

 その首謀者が誰かなど、今更言うべきことですらない。

 

 ────奴が最期の時に見せる顔が見物だ。

 きっとそこにはこう書いてあるだろう。

『俺は化け物を産んでしまった』と。

 それが俺にとっては喜びだ────

 

 

 

 男はただ一人不気味に笑い、呟いた。

 

「────待っていろ、天々座家よ。

 

 

 

 

 

 

 

 お前らの血は、俺が絶ってやる。」




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