ご注文は「残されたわずかな時間」ですか? 作:らんちぼっくす。/ヘスの法則
少し短いですがご了承下さい。
「ハァ・・・ハァ・・・」
ひたすらに走ったので、家の前についた時にはすでに、私の体力は残っていなかった。
それでもなんとか足を動かし、門へと向かった。
前に述べたように、父は軍人だったが、そこで大きな功績を立てたらしく、かなりの資産を持っていた。
その為に私の家は、この華やかな街の中でも特に大きく、メイドやSPが居るほどの豪邸になっている。
「あれ?お嬢、どうなさいました?今日からキャンプのご予定では・・・」
「緊急事態だ。親父に話さなきゃならないことがある。」
「わ、分かりました・・・では、ご主人様にその旨をお伝えしておきますので、その間にどうぞ中へ・・・。」
声を掛けてきた門番にも手短に返し、家の中へずかずかと入っていった。
長い階段を一段飛ばしでどんどんと上がり、三階の親父の部屋にたどり着く。
私は軽いノックをして、中に声をかけた。
「親父、私だ。」
「開いてる、入れ。」
促されるままドアを開け、部屋に入った。
だだっ広い、会社の様な応接間。
周りに並んだ武器。
整頓された道具。
その奥の大きなデスクに、黒眼帯を巻いた厳い男────親父の
「緊急の用らしいな。何があった。」
娘のただならぬ様子を感じ取っていたのか、普段とは打って変わって真剣な顔だった。
なので私も、すぐに用件を切り出すことにした。
「・・・さっき、浜辺で男が倒れているのを見つけたんだが・・・」
言いながら私は、さっきポケットにしまった物を親父に見せた。
「・・・その男が、これを持ってたんだ。」
「・・・・・・!」
私と同じ様に、親父はそれを見るとすぐに、驚愕の表情を浮かべた。
「・・・倒れていた、ということは恐らく・・・」
親父は掠れた声で喋ったが、それ以上は言わなかった。
ただ、何も言わないその顔の険しさが、全てを物語っていた。
「・・・つい今さっき、シャロからメールが来た。病院への搬送が終わったそうだ。
・・・親父。」
「ああ、分かってる・・・。
タカヒロを拾ってから、俺達もすぐに行こう。」
私と親父は、静かに覚悟を決めた。
二人共いつの間にか汗をかいていたが、それは暑さのせいか、冷や汗のせいかは分からなかった。
第2話 再会と慟哭(前編)
俺は夢を見ていた。
あの街の夢だった。
そこには俺の傷跡も過去も無くて、ただ家族と、そして街と、幸せに暮らすばかりだった。
みんな笑っていた。俺も笑っていたと思う。
だから、怖くなった。
そんな鈍い苦痛に、徐々に目が覚めていく。
柔らかいベッドの上に俺は寝ていた。
見知らぬ天井が見え、消毒液の匂いがした。
何だか懐かしいような感覚に襲われたが、何があったかがよく思い出せない。
俺の脇を見やると、そこには医者と警察、そして見知らぬ少女が四人いた。
茶髪の子と黒髪の子は警察と、水色の髪の子は医者と話をしていた。
「あ、目を覚ましました!」
俺が意識を取り戻したことに気付いて声を上げたのは、見知らぬ少女たちの中の、金髪の少女だった。
「おはようございます。身体の痛みはどうですか?」
俺が目を覚ましたと聞き、医者が俺に声を掛けてきた。
鈍く残っている痛みもあるが、体を動かせないほどの痛みはなかった。
「・・・大丈夫です、多分。」
「なるほど。体温も平熱まで戻っているし、きっともう大丈夫でしょう。」
医者の言葉で、その場の全員がほっとした表情になった。
だが、いまいち状況が分からない俺は、首を傾げた。
「あの・・・ここ、病院ですよね?俺、なんで病院に・・・?」
その言葉に一番驚いていたのは、茶髪の子だった。
「ええええええ!?覚えてないんですか!?浜辺でびしょ濡れで倒れてたのに!?」
「君!病院で大きな声を出さない!」
医者のお叱りを受けて口をつぐんだが、驚いていたのは彼女だけではなかった。
「あの・・・本当に、覚えてませんか?
身体には傷もあったし、痣もありました。そんな状態であなたは、海辺に打ち上げられていたんです。何があったのか、少しでも思い出せませんか?」
今度は水色の髪の子がそう言った。
その言葉を聞き、また俺は考えた。
何があったか。
何をしていたか。
自分に意識を傾けていく度、だんだんと眠っていた脳が覚醒していく。
そして、身体の痛みを鮮明に伝え始める。
その痛みの正体を考えたとき、全てを思い出した。
あの軍から逃げてきた事。
逃げる途中にあったトラブル。
そんな、俺に起きたことを全て思い出した時、今自分が一刻も早く向かわねばならない場所があることを思い出した。
「ここはどこだ!?日本か!?どの国のどの地域だ!?」
「うわあっ!?」
ベッドから跳ね起きて、突然大きい声を出したせいか、全員がビクッと肩を揺らした。
「お、落ち着いてください!ここは・・・」
「すまない、遅くなった。」
金髪の少女が説明しようとした瞬間、病室のドアが開いた。
そしてそのドアの向こうに立つ人物を見て、俺は言葉を失った。
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~少し前、リゼ視点~
耳に入ってくる音は車の音くらいで、それくらい誰もが声を出さず、私と親父、そしてチノのお父さん────香風タカヒロさんは、車に揺られていた。
タカヒロさんに例の
その後は、三人とも何も言葉を出さなかった。
それぞれが思う事は多々あれど、きっと皆最後には同じことを思い浮かべたはずだ。
必ず来る、絶望を。
病院に着くと、消毒液の匂いが漂っていた。
私は昔から、この匂いが嫌いで仕方が無い。
昔から────正確には私を産んでから、母さんは身体が弱かったらしく、私も子供の頃は母さんの容態が変わる度に、何度も病院について行って、その度に怯えていたものだ。
母さんが死んでしまわないか。
母さんが居なくなってしまわないか。
ちょうどその頃、兄さんが軍に派遣されていなくなってしまったこともあり、自分の周りの人間がいなくなってしまうことをすごく怖がっていたんだと思う。
そんな子供の時の私の恐怖を煽るように、いつも私を取り巻いていたのが、この鼻をつく匂いだった。
シャロから教えて貰った病室の前にやって来ると、いよいよもって脚が震えた。
それでも堪えてノックをするのと同時に、
『ここはどこだ!?日本か!?どの国のどの地域だ!?』
という、男の声が響いた。
────この向こうに、彼がいる。
三人で目を合わせて頷いてから、私はドアを開けた。
ベッドの上では、男が身を起こしていた。
そして私達が入っていくと、彼も私達を見た。
そして、驚愕の表情を浮かべ、固まった。
それから、長い沈黙を経て、ようやく彼が口を開く。
「まさか・・・リゼ?」
その声を聞いた瞬間、私は胸が熱くなるのを感じた。
ずっと祈ってきた。
ずっと信じてきた。
ずっと恋しく思っていた。
九年前の
思わず目頭が熱くなり、言葉が漏れた。
「・・・・・・・・・おかえりなさい、兄さん。」
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