ご注文は「残されたわずかな時間」ですか?   作:らんちぼっくす。/ヘスの法則

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後編です。
何故か凄く長いです、すいません。


第3話 再開と慟哭(後編)

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 男 side

 

 病室のドアの前にいた人を見て、俺は言葉を失った。

 

 

 あの場所で、俺は。

 

 何度も泣き出しそうになった。

 何度も死ぬことを考えた。

 そんな俺の心を支えてくれていたのは、家族にほかならなかった。

 

 目の前に、その家族がいる。

 その事がまだ信じられない。

 

「・・・まさか・・・リゼ?それに、親父に、タカヒロさんも・・・?」

 

 絞り出すように行った途端、目の前の紫髪の少女は、優しく微笑んだ。

 

「・・・・・・おかえりなさい、兄さん。」

 

 涙を堪えるような声で放たれたその言葉は、俺の中の沢山の思い出を呼び起こした。

 

 

 ────お兄ちゃん、お母さん大丈夫だよね?

 

 ────お願い、私をずっと守って・・・

 

 ────お兄ちゃん・・・!お願い、行かないで・・・!

 

 

 俺は帰ってきたんだ。

 あの愛しい日々に。

 

 そう思うだけで、俺は涙を堪えられなかった。

 声を殺して泣いた。

 ベッドに顔を押し付けて、静かに泣いた。

 

 

 

 

「ええええええ!?リゼちゃんにお兄さんなんかいたの!?」

 

 

 ・・・・・・そんなシリアス展開を、茶髪の少女が大声でカットした。

 そういえば浜辺で倒れてた時、ぼんやり聞いてた少女の声のうち一つはこの子のものだった気がする。

 ・・・だとしたらこの子はシリアスブレイカーなのか。楽しそうだが疲れそうでもあるな。

 

 

「な、なんでお父さんいるんですか・・・?」

 

 水色の髪の子が、タカヒロさんを見ながら驚いた様子で言う。

 ・・・この子、タカヒロさんの娘さんなのか?

 

「彼とはちょっとした知り合いでね。まあ、詳しい事は彼が話してくれるだろう。」

 

 いや、俺に丸投げかよ、タカヒロさん・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そうか、君達が俺を助けてくれたんだな。」

 

 

 その後、茶髪の子を中心に、俺が意識を失った後の顚末を聞かせてもらった。

 彼女らはリゼの友人で、どうやらキャンプの準備をしている最中にたまたま俺を見つけたそうだ。

 そしてここはその近くの病院。

 俺が倒れていたのは彼女らの住む木組みの街から一つ隣の街だったので、彼女らのキャンプ計画がなければリゼとは会えなかったし、俺が倒れていたのは、浜辺におりて歩き回ってみないと気づかないような場所だったらしいので、そもそも助からなかったかもしれない。

 

 そう考えると、この偶然と彼女達には感謝せねばならないだろう。俺は改めて彼女達に向き直った。

 

 

「・・・名乗るのが遅れた。俺はリゼの兄の、天々座理久(りく)だ。

 命を救ってくれてありがとう。それと、妹が世話になってるな。重ねて感謝する。」

 

 そう挨拶すると、皆はおぉ・・・というような感嘆に似た顔を浮かべた。

 

「な・・・何だ。」

「いや・・・リゼ先輩のお兄さんとなると、やっぱりしっかりしてるなぁって・・・」

「甘兎で雇いたいわ・・・」

「ココアさんもこれを見習ってください。」

「わ、私もこれくらいできるよ!」

「・・・挨拶一つでどうしてこうなるんだ・・・?」

 

 挨拶だけで想像以上の反応だ・・・。

 

 

 

 

「なるほど、ココアにチノに千夜にシャロか。改めてよろしく頼む。」

 

 

 今度は彼女達の自己紹介を受け、もう一度頭を下げた。

 

 

 ちなみに、親の教えもあって、相手から特別なにか言われなければ誰に対しても名前呼びだ。

 軍人という家柄なので、色んな人に指示を出す機会は多いし、リーダーシップのとり方なんかも教わってきた。その際、名字がかぶった人に指示を出しづらいから、という理由である。

 

 

「それで結局、何故父がここにいるんですか?」

「あ、そうそう、それと何で海辺に倒れてたの?」

 

 思い出したようにチノが聞いてきた。

 続けてココアも聞いてくる。

 そういえば答えてなかったな。

 

「あぁ、えーっと俺は・・・」

「理久。」

 

 説明を始めようとした俺を、親父が遮った。

 

「その話は長くなるだろう。話すなら家でゆっくり話した方がいい。」

「家で?」

「ああ、ウチにも免許を取った医療スタッフがいるからな。さっき先生から帰宅の許可をとった。」

 

 

 そこまで言うと親父は、今度は顔を4人の方へ向けた。

 

 

「君達も、せっかくだからウチに泊まりに来るといい。理久について、ゆっくり聞きたいこともあるだろう。

 それに、バーベキューの準備ももったいない。ウチの設備を使いなさい。」

 

「え〜!リゼちゃんのお家に泊まれるんですか!?やった〜♪」

「そ、そんなに喜ぶことか・・・?」

「もっちろんだよ!みんなと一緒にご飯を食べて、一緒にお話して、一緒に寝るのってすごく楽しいもん!それがリゼちゃんのお家で出来るなんて!」

「・・・そうですね。皆で一緒にお泊まり会をするの、とても楽しいです。」

「・・・あら?シャロちゃん、どうして震えてるのかしら?」

「・・・せっ、先輩の家に、泊まるなんて・・・緊張して・・・」

 

 

 彼女達が賑やかに話しているのを、俺は感慨深く聞いていた。

 

 

 俺にとっても、久しぶりに帰る我が家。

 彼女達はもちろん、リゼにとってすら俺は遠い人間と言われていいような存在だ。

 

 なのに何故か、彼女達にはなんでも話せるような、落ち着けるものがあるような、そんな気がしたのだ。

 

 そしてリゼも、心なしか親父やタカヒロさんも、彼女達のそういう所に身を委ねているように感じる。

 それだけ、信頼に値する子たちなのだ。

 

 一人一人が個性的で、それが網みたいに広がって、優しくいろんな人を受け止める。

 

 ふと、俺はリゼに目を向ける。

 楽しそうに笑っていた。

 少なくとも俺が家を離れる前は、リゼは人見知りが強く、他の人と話すのはあまり得意ではなかった。

 

 リゼもまた、受け止められたのかもしれない。

 彼女達の輝く網に。

 

 そう思うと、自然と俺も笑えてきた。

 そして、心の底から声が漏れた。

 

 

「・・・・・・いい友達に逢えたな、リゼ。」

 

 

 そう言われて、リゼはちょっと驚いたような仕草をする。

 しかしすぐに恥ずかしそうに頬を赤らめながら、やはり笑顔で言った。

 

 

「・・・・・・ああ、本当に。」

 

 

「おお!リゼちゃんがそんなこと言ってくれるなんて!」

「う、うるさい!ほら、早く行くぞ!」

「まあ、ツンデレね。」

「そ、そんなんじゃない!」

 

 リゼはまた赤くなりながら否定する。

 でもやっぱり楽しそうだ。

 

 心の底から、良かったと、そう思った。

 向こうでずっと、家族のことを思ってきたが、特にリゼが心配だったから。

 泣き虫で、人見知りで、でもどこか甘えん坊で。

 

 でも今のリゼには、最高の仲間と、確かな幸せがあるんだ。

 そう思っただけで、俺まで暖かい気持ちになった。

 

 

 それでもそれを口に出すことはせず、俺はまだほんの少し痛む身体を動かして、ベッドから起き上がった。

 

 あの懐かしの家に、今から帰るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第3話 再開と慟哭(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 リゼside

 

「・・・さて、着いたよ。」

 親父が車のブレーキを踏みながら言った。

 

 ちなみにタカヒロさんは、お店のバータイムは休みにしたくないと、ラビットハウスに帰っていった。

 

「・・・当然なのかもしれねえけど、変わらないな。」

 隣に座っている兄が、窓の外を眺めてそんな感想を漏らす。

 

「この9年間、栄えるほどのことも廃れるほどのことも無かったからな。」

 

 そう言いながら私は、右手で車のドアを開けて外に出た。

 

「わ〜、やっぱり大きいねリゼちゃんのお家!」

「鬼ごっこでも出来そうです」

「あんまり暴れないでくれよー?」

 

 

 はしゃぎだした皆を軽くなだめていると、門の方から聞き慣れた男の声が飛んできた。

 

「ご主人様!お嬢様!お戻りになりましたか!」

「・・・ああ、警備ご苦労様。」

 

 熱量だけで誰のものかが分かってしまう、その声の主の方へ顔を向けながら、私はそう応えておいた。

 

 彼の名は黒崎 剣斗。

 ウチには三十人近いボディガードがいるが、そのリーダーを任されている男である。

 ウチにいるボディガードの中で最も強く、最も献身的に私達に仕えてくれているので、私も親父も、一番信頼を置いている人物だ。

 

 黒崎は、いつも通りキビキビとした動作で、今度はココアたちの方を向いた。

 

「お嬢様のお友達ですね!ようこそおいでくださいました!どうぞごゆっくり!

 ・・・おや?見かけない殿方が・・・」

 

 熱すぎる挨拶の後に、黒崎は理久の方を向き、首を傾げた。

 ・・・そういえば黒崎には、理久の話をしたことがなかったっけな。

 

「ああ、黒崎、彼はな・・・」

 

 

 

 

 

 

「な、なんと・・・そんなことがあったとはァァァァ!!よくお戻りになられました理久様ァァァァ!!」

 

 黒崎が来る前にこの家を出ていって、ついさっき命からがら戻ってきた────。

 そんな話を聞いて、黒い服の熱血漢は大号泣しながら理久の手を握りしめる。

 熱血なのはいいことだとは思う。

 いいことだとは思うが────

 

 正直、まだ家の外だからやめて欲しい。

 

 

「黒崎、彼女らは今日はウチに泊まっていくことになった。夕食は、一緒に庭でバーベキューをするから、道具の準備を頼む。」

 

 親父も同じことを思ったのか、頭を掻きながら黒崎にそう命じた。

 

「はいっ!かしこまりましたご主人様!」

 命令には誰よりも真っ先に、忠実に動く男だ。

 仰々しい敬礼をしてから、キビキビと家の方に戻っていった。

 

「・・・すごい人がいるね、リゼちゃんのお家。」

「・・・あれ?シャロさんどうしたんですか?」

「ち、ちょっとビックリした拍子に・・・足くじいた・・・」

「あらあら、大丈夫?」

「俺の軍の部下に欲しかったな。」

 

 ・・・皆も面食らっているようだ。理久だけちょっと特殊だが。

 とはいえ、準備は黒崎がやってくれるようだし、私達も荷物を置いてこよう。

 私達は、家の中に入っていった。

 

「理久、お前は俺について来い。話がある。」

「・・・ああ。」

 

 後ろで親父と理久が、そんな会話をするのを聞いたが、私は大して気にしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて、じゃあそろそろお話聞かせて!」

 

 バーベキューの始まる頃、ココアが理久にそう聞いた。

 

「・・・親父、どこまでは話していい?」

「本当にダメなところは言わないでくれ。後はお前に任す。」

「・・・・・・分かった。」

 

 理久は、それだけ親父に聞いてから、焼けたピーマンを齧って話し始めた。

 

「そもそも俺のいた軍は、中東の国・フェルティシア王国に属する軍だ。」

 

「ふえる・・・てぃしあ?」

「あ、最近ニュースでやってました。最近、お隣との紛争が激化してるって・・・」

「そう、その国だ。」

「へー!チノちゃん物知り!」

「ココアさんはもっとニュースみてください・・・」

 ココアがあっさりとチノに撃墜されているのを見ながら、理久は話を続けた。

 

「チノの言った通り、フェルティシア王国は今、隣国のメツキンド連邦と揉めてるんだ。

 フェルティシアとメツキンドは昔にも戦争をしていた時があってな。その時はメツキンドが勝って領土を奪ったが、その領土は戦争の後に国際条約を結んで返還された。

 

 だが、最近になってその条約を無視して、メツキンドはフェルティシアの領土の一部を不法に占拠しだした。」

「今になって、ですか?なんで・・・」

「フェルティシアは戦争の後から、大量の油田が見つかって、世界有数の石油産出国として出てきたからな。領土を手に入れようと必死なんだ。

 それでも、条約を真っ向から無視すれば、他国からの軍事制裁が下る。だからメツキンドは、条約のグレーゾーン・・・いや、ギリギリアウトってくらいの策を打ったんだ。」

 

「ギリギリ・・・アウト?」

「条約に明記されているのは、『両国家及びその命じるところによって組織された軍隊による領土の占領を禁止する。』という事だ。

 

 簡単に言えば、『国が関わるとアウト』って事だ。だから奴らは、国直属の軍を切り離して解散させ、あくまで有志と銘打って再組織させるという荒業をとった。」

「つまり・・・本来国のものである軍を国のものじゃなくして、国は関わってないって言い張るってこと?

 でもそれってズルいよ!」

 

 ココアがトウモロコシにかぶりつきながら、怒ったように言う。

 その様子に理久は苦笑しながら頷いた。

 

「その通りなんだ。国は関係ないと言っておきながら、実際は国家の意志がフルで介入してるし、そもそも領土の占領はそれ自体が罪にあたるからな。そういう事を考えると、これは完全にアウトな行為だ。

 ただ国交上、世界の一部の国はこれを強く断罪することが出来なかった。それ故に、この行為は二国間で問題になり、他国はあまり口が出せなくなってるわけだ。」

 

 そこまで言って言葉を切ると、理久は網の上にまばらに残った野菜と魚を皆の皿に取り分けて、肉を焼き始めた。

 肉のタレが香ばしい香りを放っている。

 

 そして、理久はチノの方を向いた。

 

「さっきチノは、最近ニュースで見たって言ってたな。

 確かに最近の問題であることに間違いは無い。最近・・・といっても大体9年前からだけどな。

 

 

 でも実は、この問題は初めてじゃ無いんだ。

 32年前、これと全く同じ問題が起きてる。そして、26年前に、一度終結してる。」

「32年前・・・?」

「あ、それ、聞いたことあります。」

「私も知ってるわ、ニュースでやってたわね。」

 

 ココアとチノは首を傾げるが、千夜とシャロは思い出したように声を上げた。

 チノが知らないのは無理もない。この話は当時は騒がれたものの、最近はテレビでもあまり触れないし、授業で取り扱うのは高校か、あるいは中学3年生になってからだ。

 ・・・逆にココアが知らないのは、勉強不足としか言えない。

 

「・・・それでその時から、メツキンドと、反発するフェルティシアの両国の軍が争っていた。

 そして当時、フェルティシアの王国軍は日本のとある小隊と軍事提携を結んでいた。だからその軍から、腕の立つ兵が徴集された。

 

 

 

 そしてその中でも当時特に優れた能力を買われ、王国軍の隊長を任されたのがウチの親父、副隊長を任されたのがタカヒロさんだった。」

「「「「え、えええええ!?」」」」

 

 肉の焼けきった香ばしい香りと共に、皆の叫び声が放たれた。

 

「お、お父さん、そんな人だったなんて・・・」

「り、理央さんってそんなにすごい人だったんだ・・・」

「すまないね、黙っていて。まさか言う必要もないだろうと思っていたからな。

 ・・・しかし、タカヒロはチノくんには話していなかったんだな。」

「は、はい・・・初耳です・・・今日病室にお父さんが来たのは、そういう理由だったんですね・・・。」

 

 ココアとチノが驚愕しながら親父を見ていた。

 まあ、こればっかりは無理もない。

 

「・・・それで、だ。」

 

 理久が肉を頬張りながら、逸れかけた話を戻す。

 

「親父の指揮が功を奏して、結果的にその紛争はフェルティシアの勝利に終わった。この家がこんなにでかいのは、その時の親父の功績が讃えられた報酬のお陰だ。」

「・・・でも、ならどうして二度目の紛争が起きたんですか?」

 

 さっき取っていた焼きイカを食べながら、チノが質問した。

 

「・・・俺も親父も、詳しい原因は分からない。

 でも、二度目の紛争の起きる一月くらい前に、メツキンドの軍の隊長が変わったっていう噂を聞いた。もしかすると、それが関係あるのかもしれないな。」

 

 そう言ってから、理久は区切りを付けるように水を飲んだ。

 

「まあそれで、一度目の紛争が終わってから、親父を含む日本の選抜兵は帰国した。親父が結婚して、俺が産まれたのは、帰国から2年後だった。

 そして一度目の紛争が終わってから17年後、二度目がやってきた。

 だが、17年という歳月は、かつての精鋭たちに老いと衰えを与えた。

 

 元々、一度目の戦いがかなり激しいものだったから、その時に大怪我を負ったり、戦場にトラウマを持ち続けていたりする兵が多かったんだ。だよな、親父?」

「ああ、俺もタカヒロもそれにあてはまる。

 戦争の傷で、俺は左眼の視力と右足の自由を、タカヒロは現役時代の身体能力を奪われた。

 というか、当時の軍の2トップだった俺たちがそうだったんだ。大半は心身共にボロボロになって帰ってきたさ。」

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

 

 みんな手を止めて、固唾を飲んでその話を聞いていた。

 その沈黙を破るように、理久が話を再開する。

 

「・・・こんな訳で、当時の精鋭はダメージに加えて、17年間のブランクによる衰えも与えていたんだ。

 そんな状態で、どう変わったかも分からない相手と戦うのはかなり危険だ。だから、新しく育った若い兵達が戦地に赴いた。

 そして、その隊長を親父から引き継いだのが俺ってわけだ。」

「え、ちょっと待って?理久さんが産まれたのは24年前でしょ?それで二度目の紛争が起きたのは9年前だから・・・理久さん、15歳の時に隊長になったの!?」

「・・・やっぱりココア、計算速いな・・・。」

 

 私は密かにココアの暗算の速さに感嘆した。

 話を聞きながら、同時進行で年齢を計算するのは意外と難しいのだ。でも意外とココアは数字に強く、こういう暗算をパッとやって、私達を驚かすことがしばしばあるのだ。

 

 

 ココアの問いに、理久は首を横に振った。

 

「軍に行った当時は、ただの普通兵だったよ。結果的に隊長になったのは、行ってから5年後────俺が20歳の時だった。

 

 

 ・・・だが、俺は親父のようにはいかなかった。かなりの長期戦になっていたが、最近になって戦いが激化してな。結果、メツキンドの戦略に対応しきれず、軍は壊滅。

 何人かは逃がしたが・・・・・・

 俺と他の仲間は駄目だった。」

「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

 凄絶な話に、私達は皆言葉を失った。

「俺は捕らえられて、拷問を受けた。隊長からならば得られる情報も多いからな。

 

 俺はそこから、必死こいて逃げ出してきた。」

 

 

「・・・・・・でも、どうやって逃げてきたんですか?近くには船もありませんでした。まさか泳いだはずも無いですし・・・」

 

 やっと声を絞り出したのは、チノだった。

 

「いや、まあちょっとは泳いだ。」

 

 皿の上の肉を平らげて、理久はそう言った。

 気付けば、網の上の食材はほとんどなくなっていた。

 

「・・・初めは水上バイクに乗っていたんだが・・・途中で嵐に遭ってな。転覆して流されたから、そこからはがむしゃらに泳いだんだ。違う陸地にでも着ければ儲けものだと思った。

 正直、奴らに捕まってからはまともなもの食ってこなかったから、浜辺に着いた時は意識なくなるくらいヘトヘトだったんだ。」

((((人間じみてない・・・・・・!))))

 

「しかし、かなり遠くに来たつもりではだったが・・・まさか日本の、しかも生まれ育った街に辿りつくとは思わなかった。これは奇跡としか言えないな。」

「そっか・・・ここに来たのは、本当に偶然なんだね。

 良かったね、リゼちゃんとお父さんに逢えて!」

 

 ココアが満面の笑みでそう言うのを聞いて、理久も笑顔で頷いた。

 

 

「本当に、大きくなったリゼが見れて眼福だったよ。昔は『お兄ちゃん』って言って甘えてくれてたけど、今では『兄さん』だもんな〜」

 

 ・・・・・・・・・・・・ん?

 

「へー!リゼちゃんにもそんな頃があったんだ!可愛いなぁー!」

「他にもエピソードいっぱいあるぞ?俺が公園で怪我して帰ってきた時は「やめろおおおおおおおお!」」

 

 は、話が突然おかしな方向に進んでる!

 

「まあまあリゼちゃん、たまにはこういうのもいいでしょ?理久さん、さっきの話の続き話して〜!」

「ああ、だから俺が公園で怪我した時に・・・」

「わあああああ!ストップ、ストップ!」

 

 ────ダメだ、ココアと理久のコンボは危険すぎる!

 

 すると、隣のシャロがフルフルと震えていた。

 

「わ、私も・・・」

「お、おいどうしたシャロ・・・?」

 

 なんだろう、嫌な予感が・・・

 

「私も先輩の昔の話聞きたいですー!」

「シャ、シャロまでええええええ!」

 

 

 ・・・・・・結局ここから、みんなが寝付くまでのかなりの間、私は精神が燃え尽きるまで暴露の被害にあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 夜、ふと目が覚めてしまった。

 おもむろに携帯を見ると、時刻は午前3時だった。

 周りを見ると、皆ぐっすりと眠っている。

 この部屋からは外の景色も見えにくいし、ここにいてもつまらないので、私は廊下に出ることにした。

 

 

 廊下の窓の外からは、美しい満月が見えた。

 興奮で火照った身体に澄みわたるような深い夜の青が、柔らかく月に照らされている。

 

(・・・こんなに、賑やかな夜は)

 

 久し振りだった。

 最近はずっと、家の中で家族は私と親父だけだった。

 母も病弱で家にいないし、兄と離れてしまったから、親しく話せる人は親父の他に黒崎ぐらいしかいなかった。

 

 私は深く息を吸った。

 

 これまでずっと、寂しさから目を背けていた。

 でも今日、私が押し殺してきた寂しさは、身をちぎるほど強かったのだと実感した。────この賑やかで愛おしい夜を知ってしまったから。

 

 

 廊下の奥から、不意に足音が聞こえた。

 その音の響く方を見てみると、理久の顔が月明かりに照らされている浮かび上がっていた。

 

「・・・兄さん、どこに行ってたんだ?」

「・・・・・・ちょっと、な。外の空気が吸いたくなった。」

 

 理久はそれだけ言うと、私と同じように窓の外の景色を見た。

 

 ただひたすら、静かに時が流れていく。

 雲隠れになったり、パッと現れたりを繰り返す夏の月を、二人でぼんやりと見つめていた。

 

 

「・・・賑やかで、楽しい夜だったな。」

 

 不意に、理久が口を開いた。

 

「・・・そうだな・・・。」

 

「・・・リゼ。」

 

「うん?」

 

「お前はこれからも、人を守れなかった痛みなんて知らなくていい。

 

 お前ならきっと出来る。本当に大切なものを、きっとその手で守ってやれる。

 

 だから、強くなれよ。腕っぷしなんかじゃなく、心の底から強くなって、誰かを救ってやれるようになれ。」

 

 私は、その言葉の意味がこの時は分からなかった。

 でも私は、分かった、としか言えなかった。

 

 

 兄の目に、涙が光るのを見ていたから。




オリ主の口調が落ち着かない。
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