ご注文は「残されたわずかな時間」ですか?   作:らんちぼっくす。/ヘスの法則

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今回は色んな人を出しました。
宜しくお願いします。


第9話 栗羊羹と自己肯定

 ~リゼside~

 

「えぇ〜!?チノちゃんに私以外のお姉ちゃんが!?」

 

 ココアからとんでもない悲鳴が上がった。

 

 場所はラビットハウス。

 相変わらずがらんどうの店内である。

 

 そんな中で私、ココア、チノ、千夜、シャロの5人は、カウンター席で話をしていた。

 ···一応、私とココアとチノは仕事中だ。

 

「悲鳴を上げることないじゃないですか···それにココアさんは姉じゃないです。」

「うわぁぁん!」

 

 いつも通りの拒絶に加え、まさかの事実に号泣しながら卒倒するココア。

 それを私達は、やれやれ、という感じで見ていた。

 そもそもこの話をするきっかけは、ココアが作ったというのに。

 

 ココアはさっき、いつもの上機嫌でチノに迫り、

「チノちゃん、さっき理久さんと何話してたの?」

 と話しかけていたのだが、チノがそれに対して答えた瞬間···

 

 ココアが絶叫した。そういう流れである。

 

 

 自業自得とはこの事か、と謎に納得しながら、私も驚いていた。

 

「チノには姉妹がいたのかぁ、ずっと一人っ子だと思ってたよ。」

 

 素直にそんな感想を漏らす。

 チノのしっかりさは、姉がいる子供のソレでは無いからだ。

 

「もうずっと会ってないですし···ほとんど一人っ子のようなものだと思いますけどね。」

 

 ちょっと照れくさそうに、チノは言った。

 

「でも···会いたいんです。すごく優しい人だったから。

 このうさぎのネックレスも、姉がくれた物なんです。お守りに、って。」

 

 首元で光る銀色のネックレスを握りしめながら、チノは言った。

 その仕草だけで、どれだけ姉を慕っているのかが分かる。

 

「よかったら、お姉さんの名前教えてくれない?

 万が一、私達が知ってる人だったらなにか手がかりに繋がるかもしれないし。」

 

 シャロがそう提案した。

 確かにその方がいいと私も思う。

 

「そうですね、そうしましょう。」

 

 チノも納得したようで、こくりと頷いた。

 

「姉は、香風智花といいます。誰か知りませんか?」

「あーーっ!」

 

 名前を聞いた途端、倒れていたココアが起き上がって叫んだ。

 

「コ、ココアさん何か知ってるんですか!?」

 

 思わずチノも食いつく。

 私もココアが何を知っているのかと、少し緊張した。

 

 するとココアは、青ざめた顔で叫んだ。

 

 

「かまどにパン入れっぱなしだー!」

「紛らわしい声を上げるな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「智花さん、か···すまない、私は知らないな。」

「私も、知り合いにそんな名前の人はいないわね···」

 

 焼きすぎてすっかり焦げてしまったパンを見て落ち込んでいるココアをよそに、私とシャロはそう答えた。

 

「そうですか······」

 

 チノはしょんぼりと俯いた。

 いくらしっかりしたチノだって、まだ中学生だ。姉にずっと会えていないのは辛いに決まっている。

 その気持ちは、幼い頃に兄と離れた私だからこそよく分かっている。

 

 私はチノの肩に優しく手をかけた。

 

「大丈夫さ、チノ。お前が元気でいれば、いつか必ず会えるよ。

 辛い時は、私達をもっと頼っていいんだからな。」

「リゼさん······」

 

 私が励ますと、チノは少しだけ笑ってくれた。

 これで一段落だな、と思って、皆の食器を片付けようとした、その時。

 

「·········」

 

 千夜が何やら、難しい顔で固まっていた。

 

「···どうかしたか、千夜?」

「······えっ?」

 

 私が心配して声をかけると、千夜はビクリと肩を揺らした。

 そして我に返ったように言う。

 

「な、なんでもないわ。ちょっと考え事。」

 

 そして続けて席を立った。

 

「あら、いけない。おばあちゃんに甘兎庵のお手伝い頼まれてたの、忘れてたわ。先に帰らないと。」

「自分の仕事くらい覚えておきなさいよ、まったく···」

 

 シャロの呆れたようにツッコミに、千夜はテヘッ、と笑ってみせた。

 

「それじゃ、お先にね。コーヒーご馳走様でした。」

 

 特有のおっとりとした口調で、千夜はひとり店から出ていった。

 

(·········?)

 

 そんな千夜の姿に、わずかに違和感を覚えたが、大して気にも留めることなく、すぐに忘れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 第9話 栗羊羹と自己肯定

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~理久side~

 

(······あれ?)

 

 気が付くと俺は、星の降る夜の野の中にいた。

 どこかで見たような景色だと思ったら、それはかつて見た戦場の景色だった。

 思えば智花と会った日も、こんな夜だったか。

 

 涙が出そうになる。

 必死で首を振り、それを堪えた。

 こうして何度も感傷に浸っては、勝手に何度も傷ついてきた。

 そんな己の女々しさに、改めて嫌気がさした。

 

 

 ────理久くん。

 

 その時後ろで、か細い声が俺を呼んだ気がした。

 

 ────ねえ、理久くん。

 

 これまでその声の主を、一度たりとも忘れたことは無かった。

 でも、それはもう居ないはずの人だ。

 だからこれが夢だと分かるのに、時間はかからなかった。

 

「······もういい。黙れよ。」

 

 刹那、この趣味の悪い夢に怒りが湧いてくる。

 

「智花を救えなかった俺への当てつけか?

 分かってるんだよ、俺が悪いことぐらい···!

 それくらい分かりきってるんだよ!」

 

 ────·········

 

「······早く消えてくれ。」

 

 ────やっぱり女々しいね、理久くんは。

 

「自分の性分は承知してるよ。」

 

 ────きっと、また泣くんでしょう?

 

「多分な。」

 

 ────でも、自分を卑下しちゃいけないからね。

 

「···うるせぇ。」

 

 ────それじゃあね。二度と会わないといいね。

 

「全くだ。」

 

 

 その言葉を最後に、星空が急速に縮む。

 俺の元へと収束する。

 その空の歪んでいく音が、俺を嘲笑うかのように鳴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「·········様。理久様。」

 

 肩を揺すられる感覚と、野太い声。

 ゆっくり目を開けると、見えたのは我が家の天井だった。

 脇から漏れる光から推察するに、まだ真昼の様だ。大した時間は眠っていなかったのだろう。

 ゆっくり身を起こすと、隣に黒い服の男がいた。

 

「おはようございます、理久様。」

「ああ、君は確か······」

「はい、天々座家の忠実なる下僕、黒崎でございます。」

 

 その堅い挨拶で、そうだ、昨日の暑苦しいやつだ、と思い出す。

 

「ああ、そうか。···それでどうしたんだ、黒崎。」

 

 そう聞くと、思い出したように黒崎が言った。

 

「そうでございました。今、千夜様がいらっしゃったのです。理久様にお会いしたいと。」

「千夜が?」

「ええ、お話があるそうで。」

「······?」

 

 俺は首を傾げた。彼女に話すことなど、心当たりがまるで無かったからだ。

 それに彼女は、ラビットハウスまでリゼ達と一緒に行っていたはずだ。それがどうしてこちらへ来たのだろうか。

 とはいえ、千夜ならばこちらを敵視しているわけでもないし、安心して話が出来る。

 

「···分かった、今行く。」

 

 

 ーーーーーーーーーーー

 

 

「·········それで、どうして俺を訪ねてきたんだ?わざわざみんなの輪を抜けてまで。」

 

 千夜をリビングへと迎え入れて、簡単にお茶を出してから質問を切り出した。

 千夜は昨日見せた顔とは全く違う、緊張した面持ちで口を開いた。

 

「どうしても一つ、聞きたいことがあって。でも、皆の前で聞けることでもないから···この機会を借りて、聞こうと思ったんです。」

 

 いよいよ分からない。

 そんな仰々しく聞かれるようなことが、昨日の内にあったようには思えない。

 しかし、本人がそう言って訪ねてきたのだ。ぞんざいには出来ない。

 

「俺に答えられるものなら、何でも答えよう。落ち着いて、言ってみてくれ。」

「は、はい······」

 

 それでも千夜はなかなか決心が出来ないらしく、もじもじとしていた。

 しかしそこは彼女の気持ち次第なので、俺が急かすことでもない。

 そう思って俺が茶を啜ると、ちょうどそのタイミングで千夜が切り出した。

 

 

「···ほ、本当に智花さんのこと知りませんか!?」

「ブフォッ!?」

 

 想像していなかった覚悟からの質問に、思わず茶を吹き出した。

 

「だ、大丈夫ですか!?すいません、急にこんな質問······」

「ゲホッ、ゲホッ······い、いや、気にしないでくれ。それより···」

 

 千夜が慌てて背中をさすってくれたが、正直それどころではなかった。

 

「ど、どうして千夜が智花のことを知ってるんだ!?」

 

 つい声を大にして聞いてしまう。

 千夜はほっとした顔をして答える。

 

「私が小さい時、お世話になった人なんです。···その反応を見ると、やっぱり何か知ってるんですね。」

 

 予想外の繋がりに未だに驚きが収まらないが、バレてしまった以上答えるしかない。

 

「ああ、智花は俺と同じ戦場で、軍医としてやっていたよ。そこで知り合った。

 ···って、なんで智花のことを俺に聞いたんだ?俺と言葉を交わしたわけでもないのに、君は俺と智花に何かあると思ってたのか?」

 

 話している途中で襲ってきた違和感に、ついまた聞いてしまった。

 千夜は手を振って、いえいえ、と言った。

 

「実はさっき、チノちゃんが言ってたんです。『私には長らく会えていない姉がいる』って。

 ···正直、私も最初は忘れてたんです。智花さんと会っていたのはもう何年も前で、私が小学生になったくらいから、智花さんは忙しくなって、ほとんど会えなくなっていましたから。

 でもチノちゃんがお姉さんの名前を教えてくれて、思い出したんです。私、『智花ねぇ』って言って慕ってたって。」

 

 そこまで言うと千夜は、どこか小悪魔的な笑顔で言った。

 

「それで何となく、チノちゃんが理久さんに質問したのは、もしかしたら正解だったんじゃないかって思ったんです。女の直感は、案外優れてるんですよ?」

「そ、そうか···。」

 

 頷きながら、そんなピンポイントな直感があってたまるか、と内心で思う。女子に隠し事はできないわけだ。

 

「それで、智花さんがどうなったのか教えてくれませんか、理久さん?

 チノちゃんに本当のことを言わなかったってことは、やっぱり何か起きたんですよね?」

 

 千夜が座り方を直し、もう一度聞く。

 俺は観念して頷き、全てを語ることにした。

 

 元々俺は機械のような人間だったこと。

 智花に出会ってそんな俺が変われたこと。

 そして、目の前で彼女が殺されたこと。

 

 すでに昨日語ったから、もう一度吐き出すのはある程度は楽だった。

 それでも語り終える頃には、互いに乾いた喉を覚めた茶で潤していた。

 そして静寂が訪れる。互いに声も出せなかった。

 

「···子供の頃」

 

 沈黙を割ったのは、千夜だった。

 

「たまにラビットハウスに行ってたんです。ラビットハウスと、私の家で経営してる和菓子屋は、ライバルだって聞いてたから、子供心に、偵察みたいなつもりで。

 行くといつも、すごく優しく笑う店員さんが居たんです。でも子供の私は、店員さんにいちいちライバル店だのなんだの言って、噛み付いてました。今思えば、恥ずかしいし、すごく失礼なことだと思うけれど、私は大真面目だったわ。

 ···でもその店員さんは、どれだけ私がやんちゃしても、優しい顔をやめないで、笑ってくれて···次第に私、その人を心の底から慕ってました。」

 

 千夜が下唇をぐっと噛んだ。

 

「私がこんなに落ち着いた性格になったのも、あの人に憧れていたのかもしれません。そしてあの人に、大きくなって少しでも立派になった姿を見せたかったんです。

 ···生きていてほしかった。今はただ、そう思います。」

 

 その声を聞いて、後悔と自責で何も言えないでいると、千夜がでも、と続けた。

 

「理久さんが生きていてよかった。智花さんの意志が、理久さんに継がれてるんですよね。」

「·········」

「だからこれからも、必死で生きてください。

 理久さんを待っている人だけでなく、智花さんと出会った全ての人のために。」

 

 言ってから、千夜は昨日のように穏やかに笑った。

 

「それでは、失礼します。今日はお話聞けて良かったです。」

「お、そうか。······出来れば今日の話は、チノにはしないでおいてくれないか。いつか必ず、俺の口から伝えたいんだ。」

「ええ、私もこんなお話、人に出来る気はしないし。」

 

 お辞儀をして立ち上がった千夜を見て、俺も立ち上がり、玄関まで見送りに行った。

 

 家を出るドアの前で、千夜は思い出したようにこちらを向いた。

 

 「あ、一応今日はここに仕事で来たって設定だから、これ、貰っておいてください。」

 

 そう言って、千夜は落ち着いた色の紙袋を差し出してきた。

 中には「千夜月」と書かれたパッケージに、大量の宣伝チラシが入っていた。

 

「ウチの看板商品の栗羊羹です。気に入ったら是非今後も甘兎庵をよろしく······」

「商売上手か。」

 

 呆れながら、思わず俺も笑ってしまう。

 そんな俺を見て、千夜は満足したように頷き、もう一度頭を下げてから、家を出て行った。

 

 

(生きていてくれてありがとう、か······)

 

 昨晩、タカヒロさんにもそんなことを言われたことを思い出す。

 当然だが、そんな感謝をされたことなんて、これまで無かった。

 しかし、命を懸けた場所で、生き延びて故郷へ帰って、初めて気付くのだ。

 

 自分が人の温もりを求めているのと()()()()()()()()()()()()()()()()ことに。

 

 未だに弱い自分を許せるわけではない。

 それでももし、こんな俺でも誰かから求められているなら、少なくとも今だけは笑っていてもいいかもな、と思った。

 

 

 リビングに戻り、すっかり冷めた茶と一緒に栗羊羹を頬張る。

 餡の甘みを支えるような素朴な栗の甘みが、何故だか俺は嬉しかった。

 

 

 

 

 

 ~リゼside~

 家の門をくぐったのは、七時を回った頃だった。

 今日は一日中暑かったこともあって、飲み物を求めてお客さんがたくさん来たので、後処理の時間に加え、疲労でしばらくグロッキーになっていたので、普段よりかなり遅い帰宅となった。

 

「ただいま〜···」

「おう、おかえり、リゼ。丁度よかったな、今から夕飯だ。」

 

 リビングに入ると、理久が出迎えてくれた。

 それを聞いていると、やはり兄が待ってくれていることが嬉しいと思う。

 

「ああ、よかった······ん?兄さん、何かあったのか?顔が晴れてるけど···」

 

 理久の顔を見てみると、昨日よりも随分とスッキリしていた。

 どこか、憑き物が少し落ちたような、そんな風に見える。

 私がそう言うと、理久はああ、と微笑んだ。

 

「······栗羊羹が美味かった。」

「いや、そんな事かよ。」

 

 あまりに嬉しそうに語る理久に、ちょっと呆れながらも笑ってしまった。

 

 

 

「おう、リゼ、帰ったか。」

 

 そんな風に理久と話していると、書斎の方から親父が出てきた。

 何やら難しい顔をしている。

 

「···親父?」

「理久、リゼ···食事が終わったら、二人共書斎に来い。大事な話だ。」

 

 いつもと違う強い語気で言い放った親父に、私は身を引き締めた。

 

 

(······やっぱりか。)

 

 

 忘れていたかった絶望が息を始めるのを、私は確かに感じていた。




あんまり慣れてないことを書いてみたりもしましたが、楽しかったです。
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