理想の居場所   作:うぃて

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とりあえず書き溜めていた分の2話目も投稿です。

こっからはまあ週1更新ぐらいを目指しつつ頑張ります。


こちらとあちらの世界の差異

「へーじゃあ二人の認識では、雪乃ちゃんと八幡は深い仲ではないし、私と雪乃ちゃんの関係は悪いままなんだー」

 

「由比ヶ浜さんがお兄ちゃんに惚れてるってのも信じられませんねー、あんなに戸塚さんにぞっこんなのに」

 

 とりあえず今日自分の感じた違和感と、その違和感の元となる自分の世界でのあり方を一つずつ話していった。

 それぞれの差異が面白いのか、ふたりとも笑いながらではあるが、全てをきちんと聞いてくれた。

 

「あら? 今気づいたのだけど小町さんは由比ヶ浜さんのことを…」

 

「ん? あー、もしかしてそっちの小町は名前で呼んでました?」

 

「ああ、そういえばそうだったな、一応聞くが苗字で呼ぶ理由などはあるのか?」

 

「いやむしろこっちでは名前で呼ぶ理由が無いんですよ。多分そっちでは由比ヶ浜さんが義姉になる可能性がなきにしもあらずだから名前呼びなんでしょうけど、こっちでは義姉はもう99%雪乃さんで確定ですし。それに由比ヶ浜さんにはラブラブの彼氏さんもいますしね。

 正直な話、兄と義姉の数少ない友達兼部活仲間って程度の認識なんです。だからこれが適切な距離感かなーって」

 

 結構現実的な、それでいて本当に兄のことをよく考えているんだな、というような答えが帰ってきた。

 

「あれ? って言うことはもしかして私にも重大な差異がある?」

 

「あー陽乃さん陽乃さん、多分そのとおりだから今はこれ以上ややこしくするのやめましょう。その爆弾は恐慌呼び起こしちゃう気がします」

 

「えー…まあそうだろうとは私も思うけどさー」

 

「なんか納得行かなーい」「まあまあちょっと抑えてください」と何やら危うげな情報を封印したような二人を横目に、私と先生は結論を出した。

 

「やはり世界線がズレてしまったようだな…」

 

「正確な意味はわからないのですが、ニュアンスとしては多分先生の言うとおり…なんでしょうね。信じがたい話ですが」

 

「恐らくズレたのは私達二人…とするとこのメールはなんだ、時間制限かなんかか?」

 

「時間制限……なるほど。これが明日になってまた来て、『後5日』にでもなっていれば確定、でしょうか?」

 

「あ、じゃあ6日間で雪乃ちゃんも静ちゃんも元に戻るんだ?」

 

「陽乃さんには朗報ですねー、お兄ちゃんはまあ一週間ぐらいいい薬かな?」

 

 開いていたメールを両横から姉さんと小町さんが覗きこむ。とても自然なその行為はまるで本当に仲の良い三姉妹のようで、それだけでどこか心が暖かくなるのを感じた。

 

「ちなみにいい薬とはどういう意味なんだ?」

 

「それはですねー最愛だった妹もほっぽって彼女にかまけてる兄は、少しぐらい冷たくされてしまえってことですね!」

 

「そ、そうか…いや私たちには君よりも誰かを大事にする比企谷というのも想像しがたいが…」

 

「あはは、彼女を大切にって言っても限度があるってぐらい愛されてるんだよー雪乃ちゃんは」

 

「ついでに言うとこの手の愚痴を雪乃さんに言うと『小町さんがここまで言うほど大事にされてる…』って感じにニヘるか、『その…大事なお兄さんを独占してしまってごめんなさい』って感じに同情されるかのどっちかです。小町的には後者のほうが辛いです」

 

 私も先生もドン引きしてしまっていた。もはやそれは本当に私なのだろうか。

 

「で、ではこのままこちらの話に入るけども…その、こちらの私にとっての比企谷君っていうのもやっぱり同じように……?」

 

「んーまあ同じっちゃ同じなんですけど微妙に違うといいますか、これも相当な爆弾な気がするといいますか」

 

「有り体に言うとこっちの雪乃ちゃんにとって八幡は『最愛の彼氏』どころか『最愛の婚約者』って感じだからね! 愛の重さでは相当雪乃ちゃんのが上だよ!」

 

 目眩がする。

 平塚先生が「しっかりしろ! 私を置いていくな!」と言っている気がするが、もうこのまま意識を手放してしまいたかった。

 

「えーっと雪乃ちゃん雪乃ちゃん、追い打ちかけるようであれだけどさ、ちょっとこの部屋とか食器棚とかタンスの中とか、よく使う場所を見てきてごらん?」

 

 そう言われ、先生に肩を貸してもらいつつ部屋の中を見て回る。そして……

 

「洗面所にはよく見える場所に2つの歯ブラシ、台所には少し大きめの食器、脱衣所には男物っぽいバスタオル……」

 

「ソファには青と白のクッション、タンスの中には男物の服が数セット、挙げ句の果てにベッドには枕がふたつ、ね……小町さん……」

 

「まあお察しの通りですね、学校があろうと週に1回ほど、多い週は3回も4回も外泊してましたよ」

 

「ただ、まだ手は出してない! って口癖のように言ってたけどね、流石に高校卒業まではーって」

 

「ちなみに両家の承知の上ですよー、それもあって2人とも焦らなくていいやって感じだったようですが」

 

 初心だよねーと笑いあう小町さんと姉さんだったが、私と先生からは乾いた笑いすらももれなかった。

 

「今でも信じがたいが…もうここまで揃うと信じざるを得ないな」

 

「信じがたいと言うか信じたくないと言うか…いえもう諦めましょう」

 

 

 それから姉さんと小町さんは、「こちらの世界」のことを話してくれた。

 こちらの私の彼の関係、生活、これまでの主なイベント、周囲の人間関係、その他いろいろ。付き合い始めてからすでに半年経つというのと、同じ頃に由比ヶ浜さんと戸塚君が付き合いはじめていたというのが一番大きな変化だったと思う。

 他にも細々とした違いを説明してもらったが殆どは頭に入ってこなかった。

 

「それで? そっちの雪乃ちゃんはどうするの? せっかくだしこの世界を堪能してみればいいと思うけど」

 

「バカ言わないで。今の私と先生にとってこの世界は異世界同然なのよ? 先生にとってはさほど大きな差はないようだけど、私にとっては大問題よ。できれば学校も休んでおとなしくしていたいわ」

 

「まあそれでいいだろう。希望的観測ではあるが、一週間で元に戻る公算の方が高いんだ。下手に動くよりじっとしていた方が…」

 

 

「……言うかもしれないとは思っていたけど即答って……そっちの雪ノ下雪乃は随分と寂しい人みたいだね……」

 

「ですねー小町ちょっと泣いちゃいそうです。環境が変わればこんなに違うんですね」

 

 

 二人は唐突に、可哀想な人に向ける声と視線で、そんなことを言った。

 

「……どういうことかしら?」

 

「どういうことも何もそういうことだよ」

 

「単純に『私達の雪乃さん』なら絶対に言わないことってだけですから。そっちの雪乃さんはあんまり気にしないでもいいですよ」

 

「そんな言葉で納得できるわけ無いでしょう。話してちょうだい」

 

「いやだからそのままの意味だって……こっちの雪乃ちゃんはそこまで自分勝手なこと言わないって話だよ」

 

 よくわからない。周囲に迷惑をかけず、おとなしくしていることの何がダメだというのか。

 

「まさかの自覚なしっぽいですよ陽乃さん」

 

「マジかー…あなた本当にちゃんと話聞いてた? 今この状況で1週間休んだらどうなるかぐらい分からないの?」

 

「いやそりゃ学校を休むことは問題だろうが……そこまで言うほどのことなのか? 病気が長引いたとかどんなふうにでも説明がつくことだろう?」

 

「静ちゃんまでその程度の考えって、そっちの世界はどうなってるの!?」

 

 姉さんが悲鳴に近い声をあげるが、私と先生の頭から疑問符は消えない。

 

 

「例えば雪乃さんが1日学校を休むと、その日のうちに兄が来ます。多分他にも2、3人来ます。兄は下手すると泊まります」

 

「2日連続で風邪で休む、とか言い出した場合、家から看護役の誰かと加湿器やら空気清浄器が届くわね。あと多分訪問医」

 

「3日目か4日目になればうちか雪ノ下さんちに拉致されるんじゃないですかね? 感染病だろうがなんだろうが、もう治るまでつきっきりですよたぶん」

 

「というかインフルとかのちょっとでも重い病気だと家に報告即収容でしょうね。最悪そのまま一人暮らし終了よ」

 

 

 本日何度目かの目眩がした。どんな過保護ぶりだと言うのだ。

 そもそも高校に上がってから体調を崩したことなど数えるほどだが、そこまで干渉されたことなどなかった。

 

「この世界でまるまる一週間休むってことがどれだけのことかわかった? その結果をこの世界の雪乃ちゃんに全部押し付けるつもり?」

 

「先に言っておきますけど小町たちは『この世界の』雪乃さんの味方ですからね」

 

 ある程度は協力するが、『こちらの私』が不利になるようなことは一切しないし、させない。そんな意志がはっきりと私と先生に伝わってきた。

 

「……わかった、仮にこの一週間も登校するとしよう。だが、それでこちらの雪ノ下の交友関係などに支障が出る可能性はいいのか?」

 

「それに関してもちょっと不安なんだけど…アナタってそっちではクラスメイトとの関係ってどんなだった?」

 

「どんなって…別に普通よ。挨拶ぐらいはしていたわ」

 

「じゃあ休み時間とか昼休みはどうしてた?」

 

 休み時間は読書か自習、昼は奉仕部部室で食べてたまに由比ヶ浜さんが来ていた。

 そうありのままを伝えると、姉さんと小町さんは揃って天を見上げ、声をそろえて

「「要はぼっちじゃん(ないですか)!!」」

と失礼なことを言われた。

 

「言いにくいんだがこれでぼっちなんて言っていたら比企谷だって変わらないぞ? 休み時間は寝たふりで昼は一人で屋外の人気のない場所で食べて、教室の中で話しかけるのは戸塚と由比ヶ浜くらいだ」

 

「「うわあ…………」」

 

 ……こうして聞いてみるとやっぱり私もあまり変わらない気が…い、いや私には由比ヶ浜さんがいるから大丈夫。それに最近は比企谷君だって部室に来ることもあるし…彼のレベルも上がるから差は開かないわね…。

 

「えーこれどうしよう…正直1週間監禁しとくほうがいい気がしてきたんだけど…」

 

「いやでも話しかけられれば受け答え位は…込み入った話が来たら逃げるようにしてもらえば…」

 

「それでなんとか乗り切ってもらうほうが現実的…かなあ? ……ほんとに? 大丈夫? 1週間で雪乃ちゃんの交友関係壊滅しない?」

 

「それでも監禁は最終手段ってことで…万が一1週間で戻らなかった時とか…」

 

「君らは何の話をしているんだ」

 

 

 

 それから。私と先生と二人の間でいくつか決まりごとが交わされた。

 可能な限り違和感を持たれないよう努力すること。自分たちの不思議現象については、どうしようもなくなった時以外洩らなさいこと。話しかけられたらできるだけ愛想よく対応すること。戻った後の時のために、どんなことがあったか軽くでいいので記しておくこと。そのかわりにわからないことがあったら、連絡すればすぐに対応してくれること。

 

「ものすごく不安だけど…静ちゃんおねがい、フォローをしてあげてね」

 

「任せておけ。たった二人で異世界に飛ばされた者同士なんだ。何事もなく帰るために助け合っていくさ」

 

「お兄ちゃんには適当に言っておくんで、由比ヶ浜さんとか他の方への言い訳は…なんとかしてください」

 

「それはいいのだけれど…」

 

 あと一つ、重大な問題があった。人の、特に比企谷君の呼び方、である。

 この世界の私はどうやら比企谷君を『八幡』、由比ヶ浜さんを『結衣さん』とそれぞれ呼んでいるらしい。が、私にはそれは、どうしても不可能だ。結衣さんはまだしも八幡という呼称は、どもってつっかえてまともに言えないだろうことが容易に想像できる。

 これで違和感を持たせないようにするのは無理があるんじゃないかと思ったが、

「まあツン雪乃ちゃん週間みたいな理由で何とかなるんじゃない?」

 という適当な感じで許された。 

 この世界の私もたまに照れ隠しやその他の理由で前の呼称に戻すこともあるらしく、「そういう気分」だと言えばまあ何とかなるだろう、という話だった。

 

 こうしていろいろと話し合い、気づけば相当遅い時間になっていた。

 先生や姉さんはともかく、小町さんは早く帰したほうがいいんじゃないか、と慌てたが「この4人で話すってことは母にもお兄ちゃんにも伝えてあるから大丈夫です、お兄ちゃんも1食ぐらいなんとかするでしょう」ということだったので、うちで軽い夕飯をとってからの解散となった。

 ……夕飯時まで小町さんを盗られた比企谷君には本当に悪いことをしたかもしれない。

 

 

 

 帰る3人を見送った後、寝る準備をしながら携帯を見ると奉仕部の2人からLINEが来ていた。遅くなった理由と返事もそこそこにおやすみと送り、約束した今日のメモを書いていると、送ったものと同じ内容の返信が来た。

 

 前の世界ではたまに由比ヶ浜さんとかわすのみだったそれに、どこか安らぎを覚えながら、激動の一日を終えるために目を閉じた。

 

 




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