また2話投稿です。
朝。目を覚まし、意識が覚醒してから最初に携帯を確認する。メールボックスを更新し、その中のランダムに振り分けられる初期のアドレスのような宛先のものを開いた。
「あと5日」
どうやら推測は正しく、1週間で元の世界に戻れそうだ。そう思うと知らず安堵のため息が漏れた。
気づいたら彼からLINEにおはようと一言来ていた。今日はモーニングコールはないらしい。
同じように返信するとそれで返事は途切れたが、そこで「LINEを少し遡って見てみる」という考えが浮かぶ。いくら同じ存在とはいえ、人の会話を盗み見るのに罪悪感はあった。それでも、ばれないようにするため、この世界での接し方を学ぶため、という自分に対する言い訳を盾に、LINEの履歴をたどる。
……見なければよかった。朝から砂糖を吐きそうだ。
2日とあけずにかわされるおはようとおやすみ。その前後に続く他愛のない言葉。稀に出てくる愛の言葉。多分あいさつのないときには電話しているのでしょうね…。
この世界の私は本当に私と同一人物なんだろうか。疑うくらいに甘い会話が延々と続く。だがなぜか、不快感を感じるはずのそれを読み進めていると、顔がにやけるのが抑えられなかった。
「……ここの私があいさつの最後にたまにつけている×印は…何か意味があるのかしら…?」
後で覚えていたら調べてみよう。もしわからなかったら…今は、姉さんにでも聞けばいいわね。
そんなことを考えるとまた顔がにやけだした。……なぜかは、わからない。
昼休み。ここまで何事もない…わけもなく。前は朝にあいさつをする程度だった子たちが、ほとんどの休み時間で話しかけてきていた。
直前の授業でのわからなかった場所や普通の世間話、挙句の果てには私を恋愛の師匠だと仰いでアドバイスを求めてくる子まで。「いつもはもうちょっとノってくれるのに」なんて言われても、私にだってなにもわからない。失礼だとは思ったが適当に誤魔化すしかなかった。
少し疑問に思って聞いてみたら、昨日も午前は同じ調子で話しかけられていたらしい。うわの空で返事をし、何事か考え込んでいる私に、悪いと思って午後あたりからは控えていてくれたと言う…悪いことをした。
「今日もいつもの場所?」と聞いてくるクラスメイトに対して、返事もおざなりに逃げるように教室を飛び出す。奉仕部の部室に行けばとりあえず一息つける、そう信じて足早に廊下を歩く。
「よ。息荒いけど走ってきたのか?」
学校に安息の場所はなかった。
「い、いきなり頽れてどうした? 昨日からちょっと変だったしやっぱりどっか具合悪いのか?」
「いえ、大丈夫、大丈夫だから気にしないでちょうだい」
「んな調子悪そうに大丈夫って言われても…弁当2人分とか大丈夫だったのか? 言われればたまには俺が作ったのに」
「え?」
「ん?」
…またなにかおかしなことを言われた気がする……2人分?
「…ちょっと待ってもらえるかしら」
「お、おう? 何を待つんだ?」
比企谷君を無視して姉さんにLINEを送る。
『質問があるのだけど、こちらの私って比企谷君のお昼を作っていたの?』
『あーそうなの? それは私も知らないけど、作っていてもおかしくないと思うよ』
少し待って帰ってきた答えを見て、また眩暈がした。当然私の手元には1人分のお弁当しかない。明日からも問題だがまずは今の問題を片付けねば。
「……私が比企谷君にお弁当を作る日って決まっていたかしら……?」
「え、あ、ああ、えっと月曜と木曜は彩加の昼練に付き合うから、それ以外の日はここで2人で食べようってことに……」
なってたよな? と続けられるが、この私は初耳だ。さてどうするべきか。
「ごめんなさい、曜日を勘違いしてしまったの。1人分のパンを買ってきてくれないかしら? そうして半分こにしましょう?」
……考えて答えを出す前に勝手に口が回った。この世界の私が言うようなことが自然と出てきた。
「わかった、ちょっと待っててくれ。飲み物は…自前の紅茶があるし買ってくる必要ないよな」
「ええ、ありがとう」
「いいんだ、疲れてるみたいだしゆっくり休んででくれ」
そう言って部室を出て駆けていく。急いでくれなくてよかった。むしろこの動揺を落ち着かせるためにゆっくりでよかった。
今のはなんなのか。この世界の私が出てきた? では入れ替わっているわけではないのか? それともこの体に染みついた反射とでもいうのだろうか? わからない、わからないが今は、自然に切り抜けられたことで良しとする。
……落ち着くためにとりあえず紅茶を入れよう。いつもしている動作が私に安寧をくれる……はず。
こんどこそ紅茶で一息つき、食事の準備をしている間に彼は戻ってきた。そうして宣言通りに、パンとお弁当をそれぞれ半分こにして昼食をとった。その時のことはあまり覚えていない。
……お箸は1組だった。
放課後、クラスメイト達と少し雑談をし、一区切りついたところで教室を出る。職員室に寄ったが鍵はすでに借りられていた。
ばれないように、不審に感じられないように、自然な受け答えを、と心に念じつつ部室の扉を開ける。
「こんにちは」
「よう、今日は俺のほうが早かったな」
「そうね。鍵、ありがとう」
「おう…っと連絡忘れてたな、もしかして職員室行っちまったか?」
「行ったけれど気にしないで。少し遅くなったのだから、先に一度部室に来ればよかったかしらね」
…自然だ。とても自然にできている…はず。比企谷君と2人だけ、という状況なら少しずつ慣れてきている自分がいる。優しい口調にも、こめられた愛情にも、狼狽えることはなくなった。
このまま他愛のない雑談をしながら読書の時間に持ち込めれば、ボロが出る確率もぐっと減る。そう思っていた時だった。
「やっはろー! 昨日はごめんねー」
「おう、いつものことなんだし気にすんな」
「……こんにちは、由比ヶ浜さん」
……もう1人追加されてしまった。つまりまた、ボロが出ないようにする難易度があがったということだ。
10分後にもう1話あげます。
×××の意味って通じるのか……わからない人は「コナン ×」とかでググってください。