理想の居場所   作:うぃて

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2話投稿の2話目です。


3人の奉仕部

 

『もし入れ替わっていたらだけど。こっちの世界の雪乃ちゃんは、状況を理解したらトラブルなんて起こさずに、そつなくそっちの世界で1週間過ごすと思うよ』

 

『…根拠は?』

 

『んー、言いにくいんだけどなんて言うのかな、余裕がある? って感じ? そっちの雪乃ちゃんよりもいろいろなところで俯瞰して見れているし、一つ一つの出来事に切羽詰ってないっていうか。

 私と仲が悪くても、八幡が心を開いていなくても、状況さえ把握できたらきっと慌てないし取り乱さない。

 もしもむこうでは1週間で戻れるとわかっていなくても、アトラクション気分で過ごせるんじゃないかな? 戻れるとわかっていたらお節介まで焼いてる気がするよ』

 

『……こちらの私ならそこまでできるのに、この私はできないのかって?』

 

『まあね。安い挑発だけど自分と比較されて黙っていられる?』

 

『……やってあげようじゃない。あなた達以外誰にもばれずに、1週間すごして見せるわ』

 

 

 

 

 

 昨日の会話を思い出す。ああは言ったものの、正直に言って自信が無い。そもそも普段より遠い距離感を演じるのと、普段より近い距離感を演じるのでは、難易度に差がありすぎでは無いだろうか。今更思っても益体のないことではあるが、そんな事を考えずにはいられなかった。

 

「それでさー最近は2人も人目かんけーなくいちゃつき出すしさー」

 

「ほーん、お前とか後の2人とその他の2人とかはその間何してんの? まさかただ傍観するだけ?」

 

「いちおーわたしは人前だよーってやんわり止めるんだけどねー。あんまり強く止めると拗ねるし、難しいんだよー。

 2人はその間なんとか距離縮めようと頑張ってる。その他は止めようとすると睨まれるから完全に置物」

 

「大和と大岡生きろ……強く生きろ……」

 

 本を読むふりをしつつ、彼らの会話から少しでも情報を集める。置物が比企谷君の言ったモブの2人で…三浦さんと葉山君か、海老名さんとお調子者の人のどちらかが付き合ってるのかしら?

 ……改めて考えて凄い世界だ。どちらだとしても、前の世界ではありえない組み合わせだと思う。

 

「ねーゆきのんはどう思う? 」

 

「へえっ!? あっ、えっと、そうね」

 

 いきなり話を振られて声が裏返ってしまった。いけない…会話から情報を読み取るのに夢中になりすぎた。頭をフル回転させて自然に思われるような答えを構築する。…こういうところが『余裕がない』のだろうか。

 

「…ある程度放っておいて良いんじゃないかしら? と言うか由比ヶ浜さんだって、教室に戸塚君がいるのだから見せつける側でしょう?」

 

 自分ではよくできた答えだと思った。だが言い終えて彼女を見ると、由比ヶ浜さんは完全に硬直していた。

 

「ゆ、ゆゆゆゆきのん!? なんで名字呼び!!? なんか悪い事しちゃった!!??」

 

 ……そうだった、この世界の呼称のことを忘れていた。

 いやでも覚えていたとしても…いきなり名前呼びはちょっと…。

 

「あー大丈夫だ由比ヶ浜、なんか小町から聞いたところによると今週は『ツン雪ノ下ウィーク』らしい。昔の呼称と態度に戻して新鮮感を味わうんだと。」

 

「へ…? なにそれ? じゃあ今ゆきのんは演技中ってこと?」

 

「おう、俺だって久しぶりに比企谷君とか呼ばれてるからな。だいぶ新鮮…まあ昔は呼ばれてたんだから、新鮮ってのも変だが」

 

 どんな言い訳で誤魔化そうかと考えていると比企谷君から、正確には小町さんからのフォローが飛んできた。小町さんありがとう、でも本当にそんな適当でいいのね…。

 …一応私からもフォローしておいたほうがいいかしら。

 

「…姉さん発案だから、姉さんがいないところでは普通にしていてもいいのかもしれないけど…まあこれはこれで面白そうだから。この1週間はこんな感じになると思うわ。

 改めてよろしくね、由比ヶ浜さんも、比企谷君も」

 

 新鮮だと、こういうのもたまにはいいと笑いあう2人…私も含めれば3人か。これであとは1週間の間、この私が知らないことにはお茶を濁しつつ、ボロを出さないようにすれば誰にもバレないはず……!

 

「あ! じゃあじゃあ、私達のゆきのんへの接し方も昔に戻してみる?」

 

 内心ほくそ笑んでいると、由比ヶ浜さんがさらに良い提案をしてくれた。これを了承すれば、由比ヶ浜さんからの呼ばれ方は初対面の時のものになるだろうし、何より心臓に悪い比企谷君からの呼ばれ方も戻る。

 どう返答するかは考えものだが、消極的賛成でも彼女は乗ってくるだろう。そしてその流れになれば比企谷君も断ることはないのではと、そんな風に思っていた。

 

 

 

「……いえ、それには及ばないわ。そもそもが姉さんの悪ふざけだし、いきなりよそよそしくなって、部内で何かあったのかと周りから勘ぐられるのも煩わしいもの」

 

 

 

 ……私の口から発されたのは、思考とまるで真逆の、真っ向から反対する言葉。

 

「そっかー。まあ今さらゆきのんを雪ノ下さんって呼ぼうって言っても、自然に呼べるかわかんないしなー」

 

「俺は1週間ってわかってるならある程度擬態できると思うぞ、わかってるならな。……ただでこんな態度取られたらネガティブスパイラルはいるわ」

 

「昨日は少し悪かったと反省しているわ……どういう態度を取ればいいのかわからなくなっていたのよ、だからあまり拗ねないでちょうだい」

 

「拗ねてないっすよ…俺拗ねさせたら大したものっすよ……」

 

「ヒッキーは生き方も性格も拗ねてるようなものだから、拗ねてみれば逆にまっすぐになったりしてねー」

 

 私の内心の動揺は悟られることなく、会話はごく自然に進んでいく。

 昨日のフォローも、彼への態度も距離感も、まるで『こういうふうにすればいい』というような見本を見せられているようだった。

 

 そうして、由比ヶ浜さんはスマホをいじりだし、比企谷君も本を読み始める。前の世界と似たような雰囲気に戻り、時間が過ぎていく。私は、気づけば元通りに身体も口も動かせるようになっていて、荒れ狂う内面が表に現れないように必死だった。

 何度か思い出したようにかわされる雑談も、あまり意識せずとも自然に応答出来た。まあそれも前の世界と同じような対応でいいのだから当たり前ではあるが。反面、上の空でも大丈夫なものだから会話にあまり集中できなかった。

 

 

 

 部活終了のベルが鳴り帰宅の準備をする。由比ヶ浜さんは戸塚君を迎えに行くと言って先に部室を出たので、比企谷君と2人きりだ。会話はなかったが、今やそれは全く苦ではなかった。

 

「そういや今週は家に行くのも無しってことでいいんだよな?」

 

 校舎から出て、駐輪場までなんとなくついていってしまっている途中、彼が話しかけてきた。…わざわざ確認を取ってくるあたり、彼が家に来るというのは本当にごく自然のことだったらしい。

 

「まあそうなるでしょうね。1週間は出会いはじめの頃の距離感と態度、ということなのだから。まさか出会って3日の娘の家に上がるほど、変態ヶ谷君も変態じゃないでしょう?」

 

「そりゃそうだ。それにしてもその罵倒も久々……でもないな。今だって変なことしたらそれ言われるし」

 

「今週はこれで通すから、またいっぱい罵倒してあげるわ。変態ヶ谷君にはご褒美かしら?」

 

「お前みたいな美少女に言われるならそうかもな……っとそれはそれとして」

 

「?」

 

「出会って3日の娘でも駅まで送るくらいはいいだろう?」

 

 いつの間にか出した自転車を押して、いつの間にか彼の手にある私のカバンをカゴに入れながら。

 

「何のためにそんなことをしてるのかはわからんが…そんなことをしてても彼女じゃなくなったわけじゃないんだ。これぐらいなら陽乃さんもいちゃもんつけてこないだろ」

 

 一緒にいたいのだと、そう優しい声と表情が言っていた。

 否応もなく赤くなる顔を自覚して、それに気づかれないように早歩きで、彼の少し前を行く。

 

「……いいわ、私の隣を歩くことを許可してあげる。こんな美少女の隣を歩けるなんて、引きこもりヶ谷君には一生モノの幸福かしら?」

 

「お前耳が赤くなるから照れ隠しすんのすげえ不利だよな」

 

 そう言われて慌てて耳を隠す。手に髪の毛の感触があった。…よく考えなくても後ろからでは髪が邪魔で耳は見えない。

 更に赤くなった顔で後ろを睨むと、笑いを噛み殺している彼が非常に憎たらしく目に映った。

 

「ーーーーー」

 

 無言で足早に先へと進む。少し慌てた様子で移動する音が聞こえ、多少はスッとしたが赤くなった顔が戻ることはない。そのうちに真横に並ばれて、自分でもわかるまだ赤い横顔を、ニヤニヤした顔に見られながら駅まで歩いた。

 

 不快であるはずのその道中は、自分でも不思議なほどに心地よいものだった。

 

 

 




めっちゃ遅れました。週一投稿とはなんだったのか。
SS書くのって難しいっすね…3日に1本とか投稿してる人まじすげえ。

感想も誤字脱字等の指摘もお待ちしてます。
またちょっと空くかもしれませんが気長に待っていただければ。
終わりも道程も決まってるから後は時間と気力があれば…。
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