GOD EATERⅠ・Ⅱ REEAT   作:神倉棐

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メディカルチェック

 

────◇─3─◇────

 

 

「失礼します」

「ふむ……、予想した10分遅れより726秒も早い。よく来たね『新型(巫咲)』君、今回の新人は礼儀正しいようだ」

「えっと……」

 

やって来るように言われた一五○○の2分程前に到着した俺に向け糸目で沢山の眼鏡を首に掛けた『GOD EATER』という物語に置いてキーパーソンともなる『星の観測者(スターゲイザー)』はそう言う。

 

「ふむ、私は『ペイラー・サカキ』、アラガミ技術関係の総括責任者……簡単に言えば主任だ。以後君とはよく顔をあわせる事になると思うけどよろしく頼むよ、出来れば『博士』とか『主任』とかで呼んでくれれば嬉しいかな?」

「え、あ、はい」

 

なにこのフランクさ……いや確かにゲームでもそうだったけど一応貴方隣にいる支部長に次ぐ偉さの筈だよね?威厳は何処行った?

 

口には出さないが俺がふとそう思ってしまったのはきっと悪くない……と思う。

 

「さて、と。自己紹介は済んだ訳なんだけど見ての通り、まだ準備中なんだ。と言う事でヨハン、先に君の用事を済ませたらどうだい?」

「サカキ博士、そろそろ公私のケジメをしっかりと覚えて頂きたい。それと彼が完全に困っているではないか……はぁ」

 

打って変わって此方はしっかりと威厳をその身に纏っている先程の適合試験で会ったばかりの支部長なのだが……やはりこの自由人の所為か何処か疲れ切った……そう、草臥れたサラリーマンかの様な雰囲気を一瞬だけだが纏っていた。御愁傷様です……。

 

「さて、適合試験ではご苦労だった。私は『ヨハネス・フォン・シックザール』、この辺りの地域のフェンリル支部を統括している。改めて適合おめでとう、重ねて言うが君には期待しているよ」

 

シックザール支部長はそう言って人当たりの良い微笑みを此方に向ける。……これだけを見たら事情(原作)を知らない人はきっと特に何も思わずに良い人っぽいなで終わるかもしれないが自分は事情を知ってしまっている、だからこそ今の俺にはなんとも言えない気分が漂っていた。

 

「彼も元技術屋なんだよ、ヨハンも『新型』のメディカルチェックに興味津々なんだよね?」

「貴方がいるから、私は技術屋を廃業にする事にしたんだ…………自覚してくれたまえ」

「本当に廃業しちゃったのかい?」

「ふっ……」

 

と、そんな事を考えている内に話は進んでいたらしい。サカキ……ここは本人が言ってた事だし『主任』にしとくか、サカキ主任が探る様にシックザール支部長に鎌を掛け掛けられた方は意味有り気に小さく笑うあの名場面をその目の前で目撃する事ができた。

 

「さて、ここからが本題だ。我々フェンリルの目的を改めて説明しよう、君の直接の任務はここ極東地域一帯のアラガミの撃退と素材の回収だが、それらは全てここ前線基地の維持と、来たるべき『エイジス計画』を成就する為の資源となる」

 

(「ほう⁈この数値は……」)

 

「…………」

 

「エイジス計画とは簡単に言うとこの極東支部沖合い、太平洋の旧日本海溝付近にアラガミの脅威から完全に守られ隔離された『楽園』を作るという計画なのだが……」

 

(「おおっ‼︎これは素晴らしい……」)

 

「………………」

 

「この計画が成就されれば少なくとも人類は当面の間だけだが絶滅の危機を遠ざける事が可能となる筈……」

 

(「凄い、凄すぎるぞ‼︎)(これが新型……いや君だからこそなのか?」)

 

「……………………」

 

「ペイラー、説明の邪魔だ。少し静かにしてくれないか?」

 

話の途中途中に割り込んでくるサカキ主任の独り言に一々話がぶった切られる事に少し苛立ったのか支部長はサカキ主任に少し苦言を呈する。

 

「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと私の想定以上の数値に舞い上がっちゃったんだ。済まないね」

 

が、しかしそれをどこ吹く風とばかりにペイラー主任はあっさりと流してしまった。この自由人めぇぇえ……支部長、ホント御愁傷様です……ハイ

 

「ふぅ……ともあれ、人類の未来の為だ。尽力してくれ」

「了解です。シックザール支部長」

 

何がともあれなんとか最後まで話し締めくくる事のできた支部長に俺は敬意と尊敬と共に敬礼を捧げる。……取り敢えず警察式の敬礼だけど大丈夫なのだろうか?不安に思った俺だったがそれを見た支部長は少し表情を明るくして笑ってくれた。……多分これで良かったのだろう。

 

「じゃあ私は失礼するよ。ペイラー、後はよろしく頼んだ。それと終わったらデータは送っておいてくれ、彼に迷惑は掛けないように」

 

俺のすぐ隣を通り過ぎ出て行く支部長にサカキ主任は1度キーボードを叩く手を止め、その手を挙げる事で答えると再びすぐにキーボードを叩くのを再開する。そしてそのすぐ後漸く準備は完了した。

 

「良し、準備は完了だ。隣室にあるベッドに横になって欲しい、少しの間眠くなると思う心配しなくても良いよ。次に目が覚めた時は君の部屋のベッドの上だ」

 

サカキ主任は自分が入るべきベッドのある部屋を指差し自分にそう伝える。

 

「なに、戦士の束の間の休息という奴だよ。予定では10800秒後……つまり3時間後一八○○頃終了予定だ」

「はい」

「君の次は君と同じ新型の彼女の検査が予定されている。まぁ……ゆっくりしておくと良いよ」

 

俺はベッドに横になりつつ彼の話を聞く。……なんだか急に眠くなってきた……。

 

 

 

「じゃあゆっくりお休み……君の戦いはこれからなのだから……」

 

 

主任がなにが言ったような気がする……だが俺は突然襲ってきた急激な眠気に負け結局彼が最後になんと言ったのかは聞こえなかった。

 

 

 

 

 

「誰よりも神機に愛されし神を喰らう者……か」

 

 

 

 

ペイラーの小さな呟きは誰にひとりにも届く事はなく、ひっそりと静寂へと消えていったのだった。

 

 


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