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あの色々あり過ぎた基礎訓練から3日後、出来れば思い出したくない黒歴史となった数日前の出来事を無理矢理忘却の彼方に追いやった俺とユウの2人組はアナウンスで呼び出されぽつんと2人で横並びになりながら人がほぼ出払って珍しくほぼ無人なエントランスのソファーを占拠していた。
「どうしたんだろうね?」
「さあ……、多分何かあるんだと思うけど……分からない」
実際にただ待っているだけというのは暇なので暇潰しに2人で駄弁っていると2階にあるエントランスから1人の男性が階段を降りて来ていた。
「あ、リンドウさん。支部長が見かけたら偶には顔を見せに来いと言っていましたよ?」
「OK、俺はここに来なかった。見なかった事にしといてくれ」
良いんだろうかそれ?
カウンターで仕事をしていたヒバリさんも毎度の事なのか苦笑いではあるが言われた通りそんな事は『無かった事』にする辺り、多分大丈夫なのだろう……うん、多分。
「よう、新入り諸君」
そしてその男性は俺とユウの前まで来ると片手を挙げつつそう声を掛けた。それに俺達はすぐに立ち上がり敬礼する。がそれに彼は「ま、そんな堅苦しくなくていい」と言って辞めさせると先ず自分について話し出した。が、
「俺は『雨宮 リンドウ』、形式上はお前達の上官にあたる……が、まあ色々と堅苦しく面倒くさい話は全て省略する」
いや、良いのかそれで?
それでだがまさかの名前だけ言ってあとは面倒だからと割愛してしまった。これには流石に俺とユウの心の声(叫びとも言う)も一致する。
いやいや普通はもっと階級とか所属とか先輩としてアドバイスとか色々あるんじゃないの⁈
「ん……ま、まあ取り敢えず、とっとと背中を預けられるぐらいに強くなってくれ、な?」
しかしその2人の思いが伝わったのか(実際は思いっきり顔に出でいた)若干引き攣った顔というか苦笑いを浮かべてリンドウはそう付け足しつつも頬を掻く。その後彼は改めて自分が第一部隊の隊長であり今回の
「あ、もしかして新しい人?」
と、そんな事をしていると2階エントランスにあるエレベーターからこれまたやたらと露出度の高い「何それ防御力どこ言った?」と言いたくなる(背中ヘソ出し大胆スリット)衣装を身に着けたショートヘアの美女が降りてくる、彼女は3人の姿を見つけ柔かに微笑みつつ此方側へとやって来た。
「へぇー、じゃあ貴方達2人が期待の新人さんなのね」
「あー、今厳しい規律を叩き込んでるんだからあっち行ってなさい、サクヤ君」
「了解です、上官殿」
そして俺達の顔を見てそう言った彼女にリンドウ隊長は有る事無い事言って追い返す。わざわざ嘘ついてまで追い返した理由とは如何に?
と、リンドウ隊長のした行為について真意を図りかねて首を傾げていると隣に立っていたユウから軽い肘打ちを受けた。
「ん?」
「……鼻の下伸ばしちゃダメ」
「ええ……そんなつもりはなかったんだけど……」
「……えっちぃのはダメです」
「えぇ……」
ユウの碧色の瞳が俺の黒色の瞳を見つめる。
……まあゲーム仕様の身体を持つ俺にも健康的な青少年男児として当然ともいえるそういった欲求はあるし彼女、サクヤさんは美人でしかも露出度が半端じゃなく高いのは確かな事実ではある、が流石に将来の目の前の人の人妻になる人をそんな対象に見るのは罪悪感が半端じゃないし申し訳ないのでそんな事ない様にしている。勿論意識して。
というかなんでユウはそんなむくれてるんですか?
え?なんとなく?……なんじゃそりゃ?
「こほん、とまあそういう訳で……だ。早速お前達には実戦に出て貰うが、今回の緒戦の任務には俺が同行する。まあ監視役兼助っ人役だな……っと、時間だ。そろそろ出発するぞ」
「「分かりました」」
そんなやり取りをユウとしているとリンドウ隊長は一度場の空気を整える為にワザとらしく咳を払う。ハッと我に返った俺とユウはすぐさまリンドウ隊長の方に向き直ると丁度任務出発時刻になったらしい、館内アナウンスで出撃準備が整った旨と輸送ヘリのいるヘリポートが指定される。
「さて、行くぞ」
「「はい!」」
3人は出撃ゲートへと向かった。
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フィールド 贖罪の街
そこは1つの大きな教会と市役所を中心とした数多もの摩天楼の生える街、かつて此処には幾万の人々が行き交い、出会い、その生活を営んでいた。しかしそれも今やアラガミの出現により白亜の鉄筋コンクリートのビルや紺碧のアスファルトの道路は喰われあのかつての美しくも妖しげな摩天楼の姿は見る影もなく、そこにあった美しいステンドグラスに照らされた教会と厳かに時を紡いだ大時計を有した市役所は出現当初僅かにも生き残った人々が生き延び暮らしていた最後の拠点であったがそれもアラガミの侵攻により破壊され遺されたのは砕け散った虹色に虚しくも輝く硝子の欠片とその時から時を紡ぐ事を止めてしまった針が7:30で寂しくも止まったままの文字盤だけである。
そんな、荒廃してしまったかつて人類により繁栄していたこの街こそが俺とユウの初陣となる戦場だった。
「ここも随分と荒れちまったな……」
輸送ヘリ(UH-1フェンリル専用カスタム機)から降り立ってすぐのちょっとした段地にて自らの神機を準備していると先に準備を終え自分の得物をその肩に担いだリンドウ隊長がポツリとそんな独り言を零す。
「よし新入り諸君、実地演習を始めるぞ」
「「はい」」
準備が整いそれぞれが神機を手に立ち上がると実際に神機を使いアラガミを討伐する実地演習開始前の最終確認を行った。
「作戦内容は機内で確認した通り、予め偵察班がこのフィールド内のアラガミは目標のオウガテイル2体以外は間引かれた状態だ。現在報告によると2体は
訓練通り、ゲーム通りにやればなんとかなる。そうかもしれない、実際基礎訓練の時は何とかなった。だがコレは実戦、訓練ではない。故に死ぬかもしれない、幾ら
「で、最後に言っておくが俺が第一部隊の隊長としてお前達に言う命令は3つだ」
そんな事を、そんな思いを考えていた俺とユウにリンドウ隊長はある命令を下した。
「死ぬな
死にそうになったら逃げろ
そんで隠れろ
運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ
……あ、これじゃ4つか?」
「あ、折角カッコ付けたのにミスったな……」と言う顔をしたリンドウ隊長だったがそれもすぐに元通りの真剣な表情に戻る。だが俺達が初の実戦に緊張しているのを見抜いているからか最後はその緊張をほぐす為に笑い掛けてきてくれた。
どうやらベテランの大先輩には全てお見通しらしい。
「ま、とにかく生き延びろ。それさえ守れば、後は万事どうとでもなる。
さーて、おっ始めるか!」
「「はい!」」
俺達3人はリンドウ隊長を先頭にスタート地点である段地から飛び降り作戦エリアへと突入する。
こうして俺とユウの、ゴッドイーターとしての初陣が幕を開けた。