HSDD~錬鉄を継ぐ鏡湖の英雄~   作:昼寝中

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11.新たな環境

コカビエルを倒してから一週間が経った。

ジェイルは新居となった屋敷の一室で眼を覚ます。

 

一番の難敵であるコカビエル討伐によってプライドをちくちく刺激する形で会話を進め、リアス・グレモリーから奪い取った山間の神社。

その隣に立てられた居住区は何故かは分からないが堕天使が利用した教会跡地同様に放置されていた嘗ての戦利品だ。

もっとも眷属であるアーシアの援護が無ければこうも容易く得ることは出来なかっただろう。

『慈愛』を司るグレモリー家は眷属に甘いという噂は本当らしい。

 

小さな社には日本神話の眷属も八百万の神もいなかったため掃除と賽銭だけ済ませ、三日間を結界魔術や越境した武具を用いて要塞化に費やした。

その間にもはぐれ悪魔が襲撃し、木場祐斗との話し合いがあったり、霧に飲み込まれる事案が発生したり、赤龍帝が結界の罠に掛かり放課後から夜通し行方不明になったり、ゼノヴィアが赤龍帝のセクハラを迎撃して大怪我を負わせたりといろいろと騒動が起きた。

 

大騒ぎの右往左往に思い出し笑いを浮かべてジェイルは簡単に着替えを済ませ外に出る。

玄関で靴を脱ぎはぎすることにも慣れてきた。

生活方式の違いに対してジェイルは前世の記憶から馴染むのが早く、アーシアとゼノヴィアは任務として世界中を移動したことに加え和装の雰囲気に興味を持ち積極的に活用している。

 

加え教会を追放されたことから一歩離れた雰囲気で暮らすことも悪くないと感じていた。

具体的に言えば三人とも早くコタツとみかんを出したいなぁとうずうずしていた。もっとも今の季節は初夏、当分先の話だ。

 

 

***

 

 

朝飯前の見回り、神社と屋敷を一周し結界に綻びが無いか確認する。

敷地の四隅に差し込まれた剣を引き抜き、新たに越境した剣と交換した。

ジェイルが保持する唯一の魔術礼装、アゾット剣。その柄先に埋め込まれた宝玉には多量の魔力が蓄えられており、ジェイルの魔術発動において威力増大や負担軽減と様々な効果を与えてくれる。

 

ジェイルは役目を果たした宝玉を一目見て越境を解除。剣を鏡像に還す。

引き抜かれた魔道具の刀身に穢れは無く、刻まれた術式に擦れも無かった。

悪魔や第三勢力からのちょっかいは未だ無いようだ。

結界の整備を終わらせたジェイルが家に戻るとその前にゼノヴィアが立っていた。

聖剣を前に突き立てた仁王立ちの状態で。

 

「おはよう」

「おはよう。その何だ、張り切りすぎだろう」

「仕方ないだろう、今まで結界の準備だの何だので思う存分体を動かせなかったのだからな」

 

ゼノヴィアがまぶしいと思うほどの快活さを向ける。デュランダルを軽々と振り回しどれほど待ち動しかったのかアピールしてくる。

既に敷地内、結界の中にいるため他の人には気づかれていないが、まぁ見た目、面白い。

美少女が大剣構えて仁王立ちだ。神や悪魔の世界ではさほど珍しくも無いが。

 

 

「さぁ修行だ修行だ!」

「はいはい」

 

ジェイルと同様、彼女も早朝から屋敷の掃除など一仕事をこなした後であり頭にはほこりがくっついている。

ゼノヴィアの頭を払いつつ空間歪曲の結界を仕込んだ修行用の広場へと走る。

 

結界は流石に渾身の聖剣斬撃や宝具の真名開放を打ち込まれれば崩壊するが、武術や力の制御を身に着ける早朝訓練の場としては充分な耐久性を持っている。

山を駆け巡り柔軟運動をこなした後、ゼノヴィアは聖剣デュランダルをジェイルは中華双剣干将莫耶を構えた。

 

雰囲気が切り替わる。殺意は無いが闘志が漲る。堕天使との激戦から休息を充分に取ったおかげか満ち溢れていると言っても過言ではない。

ゼノヴィアの聖剣唐竹割り、ジェイルは双剣を頭上で交差させ受け止める。膝を曲げ力を逃し、釣り合いが取れた瞬間を逃さず跳ね除ける。

邪道奇術の類を使わずに真っ向から剣をぶつけ合う。

 

手数はジェイルが多いが一撃の破壊力はゼノヴィアが上。

武器の種類からも言えるがその使い手であるゼノヴィアとジェイルも同じこと。

聖なる大剣を両手に真っ向から突き進み、聖なる波動を怒涛の如く噴出させた大斬撃を見舞うゼノヴィア。

中華双剣だけでなく時に槍、時に弓とあまたの手札を使いこなし千変万化を生み出すジェイル。

その戦闘術の根幹は武器を限定されても変わりはしない。

 

ゼノヴィアの振るう聖なる大剣を逸らし地面に叩きつける、さらに脚で踏みしめ動きを阻害。すかさずジェイルは黒き陰剣干将を逆手に持ち替え翼のように変形させた刀身で回転切りを見舞う。

ゼノヴィアは剣を持ち上げず斜めに構え地面と剣の隙間に体をねじ込み斬線から外れた。

ジェイルの回転軸がぶれたと同時に上のジェイル諸共振り回す。

剣が軽くなる、ジェイルが剣から飛び降りたと判断。

ジェイルが重力を利用した剣を叩きつけようとする姿を肩から仰ぎ見る。

構うものか。遠心力をたっぷり乗せた大剣を持ってジェイル目掛け薙ぎ払った。

 

交差する二つの影、弾き飛ばされたのは双剣を持つ影だった。

空中で容易く体勢を立て直したジェイル。

お互いに構えた状態で静止する。互いに剣を収め一礼。

「今日はここまでにしよう」

 

朝はお互いの純粋な武術の修行が行われる。

ゼノヴィアは聖なる波動を使わず、ジェイルは武器一種の制限を課しての模擬戦闘で締めるのだ。

今回は干将莫耶だったが、黒鍵で戦うこともあれば大剣同士でぶつかることもある。

 

 

体に篭る熱を逃すようにゆっくりと山を登り家に帰る。

「今日、ゼノヴィアはどうする?」

「む、私はとにかく日本語の勉強だな、早くお前の通訳なしで生活できるようになりたい」

「自分を急かしすぎるな。昨日まで山の地形把握とか罠の設置に忙しかった」

 

任務中はイリナが居たため通訳に困らなかったが、今後はそういうわけには行かない。

ゼノヴィアは張り切っているが、空回りした彼女を知っているジェイルとしては予防線を張らざるを得ない。

ときたま突拍子も無いことをしでかすのだ、彼女は。

ジェイルの看病を最優先とすることで、今まで信仰してきたものに切り捨てられたショックから逃避していたのだろう。

ジェイルの傷が完治した後もやらなければいけないことを必死に探す不安定さがある。事実を見なくても良い理由を探そうとしているようだった。

 

ゼノヴィアとジェイルは、行きの倍の時間を掛けて家に戻る。扉を開けた瞬間、食欲を促す温かい空気が流れ込んできた。

ゼノヴィアが喜びの表情を浮かべて、もどかしそうに靴を脱ぐ。すぐに洗面台のほうへ走って行った。

ジェイルは台所へ向かう。

 

少女が長い金髪を揺らしながら、調理をしていた。

アーシアは現在、ジェイルたちと同じ家で暮らしている。

最初のきっかけはコカビエル戦の傷の看病だったが、お互いそういう名目だと理解していたため治療期間が過ぎた後もそのまま一緒に生活していた。

ジェイルとアーシアはもちろんそれを望んでいたし、ゼノヴィアとしても人手不足の現状に助けが来たと喜んだ。

朝食を済ませゼノヴィアは日本語の勉強、ジェイルは食器洗いを、アーシアは駒王学園へ向かう準備を始める。

 

「じゃあ、ライルをお願いしますね」

「ああ、分かった」

 

ジェイルの肩の上で龍の幼子が尾を揺らし甘えるように鳴く。

アーシアの使い魔となった蒼雷龍だ。希少かつ強力な龍であり雷撃を放つ能力を持つが、今はまだ子供であり潜在能力を発揮しているとは言えない。そのためアーシアが学校に言っている間はジェイルが面倒を見ることにしているのだ。

最初は聞く耳持たずだったライルもこの一週間で、ジェイルの戦闘能力もしくは主であるアーシアからの信頼を認めたのかジェイルの言う事を聞くようになった。

 

ジェイルはアーシアを見送り、家事を続ける。

洗濯機から洗濯物を庭に運び服を干す。それだけとは言え3人分は微妙に手間だ。最初こそ羽を羽ばたかせ追いかけてきたライルは日当たりの良い場所でうたた寝を始めた。

 

女性の下着等々はゼノヴィアとアーシアが当番で回しているようだ。

教会時代はお構いなしだったなと考えながら話している様子を見ていると顔を赤くした二人に怒られてしまった。

余り思い出す話ではない、と頭を振りベッドのシーツまで干し終えライルを抱えて家に戻る。

 

 

 

自分の部屋に入り一息した後、机の上に魔術的な記録媒体を展開。

これはジェイルの魔術師としての研究だ。

属性『鏡』特性『矛盾』の鏡湖魔術に、固有結界を応用した魔術、自らの技量を超えた宝具の能力。これらを把握し一つ一つ丁寧に式を組み上げ発想力と計画力と実行力を材料に新たな魔術を構成する。

 

『剣』の固有結界ほど『武器』に特化していないジェイルはどうしても真作はおろか贋作にも劣る鏡像しか越境できない。

真作の能力そのままに再現する事ができないため何らかの工夫が必要なのだ。幸いジェイルの心象に残った偽螺旋剣にも宝具改造の跡があったため参考資料は充分だった。

実現するための資料と素質があるなら、後は発想力が問われるのみ。

 

その結果の例がそれぞれに特化した『必中』の槍である。

回避不可能な『猛追する紅魔の槍』、防御不可能な『穿ち抜く紅魔の槍』。発射された後に全ての逃げ道を塞ぐ『三十の茨持つ紅魔槍』など。

 

ケルト神話最強の英雄が掲げた槍は様々な能力に反して魔力消費が少ないため、特にジェイルの屈折魔術による調整を受けている。さらに言うなら師匠が特別良かったのだ。

家事の最中であったり修行の中で思いついた術式を記録に書き込むと同時にこれまでの研究と当てはめ、実現性の検討を進める。

 

時折今までの戦闘を思い返し参考になる部分を見直す。コカビエルの槍捌きと翼の連携攻撃を思い出し自分なりの再現方法を編み出そうと頭を捻る。

 

午前中はひたすら考えに没頭した。楽しい時間は過ぎるのが早い。頭を痺れるような快感とも言える疲労が積もる。

自らの空腹を訴える音に区切りの良い所で切り上げ、昼食の調理のために台所へ向かった、その時。

 

 

 

空間を捻じ曲げる気配がジェイルの感知能力に引っかかる。

空間転移。

世界を書き換える『固有結界』の使い手は、世界の異変への感知能力を持つ。

グレモリー眷属が町に張り巡らせた結界を気づかれないように飛び越えた侵入者。

しかし、その術式がジェイルに存在を知らせることになった。

 

ゼノヴィアに事情を説明しライルを預けたジェイルは目を閉じ、侵入者の気配に最も近い魂の欠片に意識を集中させる。姿は波紋に呑まれるように現実世界から消失し、跡には魔術礼装の剣だけが残った。

 

ジェイルが作り出す武装の全ては現実を塗りつぶす『固有結界』によって生み出された『鏡像』。それはつまり心象風景、魂の一部であると言うこと。

魂のつながりを認識し、鏡像と自分自身にある『真』と『偽』の関係を『矛盾』させる。

『偽』であるアゾット剣が存在した位置にジェイルが現れた。

虚実の転換転移。

空間転移とは異なる、入れ替えによるジェイルの属性と特性固有の転移術である。

 

町中に配置したアゾット剣から侵入者を見張るに都合の良い位置を選び転移したジェイルは素早く侵入者の姿を見つける。

二十代、黒髪に金の前髪。侵入中である今でこそ目立たないが纏う威風はコカビエルと同等以上。それでいて親しみを感じさせる雰囲気。

 

目視すればジェイルは反映魔術により装備や能力、素性の一端を見破れる。

侵入者の正体を悟ったジェイルは気配を紛れ込ませ追跡を開始した。

 

侵入者は人の目に付かない道を選び目的地に向かう。それは既にジェイルが予想していた場所へのルートだった。

ジェイルは先回りし問題の建物への準備を完了させ潜む。

 

侵入者は祓魔師に気づくことなく入ってきた。予め存在を知っていたのだろう、術式を走らせ不可視の結界に守られていた何らかの書類を手にする。

その様子を確認したジェイルは侵入者の前に立った。

 

「はじめまして、堕天使総督アザゼル」

 

悪魔の領土内で堕天使総督と鏡湖の祓魔師が相対する。戦闘の気配がした。

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