HSDD~錬鉄を継ぐ鏡湖の英雄~   作:昼寝中

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4.聖女との再会

兵頭一誠は部室の緊迫とした雰囲気に冷や汗をかいていた。

部室内の雰囲気が息苦しいほどに張り詰め、悪魔という正体を隠すためのオカルト研究部の装飾が、いつもとは違う不気味さを加えている。

 

自分たちの主であり、街を治める上級悪魔リアス・グレモリーが教会から面会を求められたのである。

教会が信仰を捧げる神と一誠達、悪魔は絶対的な怨敵だ。

殺しあう関係の敵と交渉をして、何をしようというのか。

まだ悪魔に転生したばかりのイッセーにも、今回の訪問は異例なのだと簡単に理解できた。

 

しかし、情愛を司るグレモリーを主とする眷族は皆仲が良い。

それがここまで緊迫した雰囲気を作る原因は教会の訪問だけではなかった。

いつも爽やかな笑顔を浮かべる木場と、他人を思いやり優しく笑うアーシアがそろって暗い顔をしているのだ。

 

木場にいたっては殺気を押さえようとして出来ていない破裂寸前状態。

彼の態度の原因も分からず、声を掛けても殺意に満ちた笑顔しか返ってこない。

リアスや女王として補佐を行う姫島朱野でさえ困惑していた。

唯一の後輩である搭城子猫がどうしたら良いのか分からないと、縋る様に見つめてくる。

一誠は暗い顔をしているもう一人、アーシアに意識を向けた。

 

「その……アーシア? どうかしたのか」

「いえ、これから来る人のことを少し考えていました。」

一誠の頭に浮かぶのは、昨日、家に遊びに来た自分の幼馴染である紫藤イリナと付き添いのゼノヴィアという祓魔師の女性。

お互いが敵対陣営に所属していることなど知らなかったが、一般人を巻き込む戦いを嫌ったのか手を出してはこなかった。

彼女たちが携えていた武器からは相当の力を感じていたが、聖女だったアーシアと面識があったのだろうか。

 

「いえ、あの場にはいませんでしたが、」

リアスが告げた3人の訪問者の名前。最後の一人はまだあったことが無い。

「ジェイル・ネース……だったか?」

頷くアーシア。そこには寂しさを含む笑顔がある。

兵頭一誠の頭にいやな予感がふつふつと沸いてくるのだ。

自分の夢、美女や美少女ばかりのハーレムへの情熱が男に警告を発している。

 

しかし彼女の雰囲気が変わる。それは茶化すことの出来ないもの。

悪魔の身を焦がす神聖とは違う、しかし陽光に似た温もり。

「大切な幼馴染です。」

主である魔王の妹や命を救った赤龍帝も今まで見たことがない笑顔があった。

大事にしている一方でもう触れられない何かを思い出す、喜びと哀しみが入り混じる表情でかつての聖女は語り始める。

 

「彼も同じ孤児院で育ったんです。私はその、不器用でいつも迷惑掛けていたんですけど、どうしようもなくなった時に手伝ってくれて。それでよくペアを組んでもらっていました。」

「ペア?」

誰かがただ声に出す。口を挟んでいいとかそんなことを考える余裕も無く。

 

「戦う祓魔師と支援する祈祷師として、学業とか教会の奉仕活動の時も、いろいろなことを協力するんです。」

「彼は強くて優しかったです。何度も守ってくれて、」

そうまでなるほどに悪魔を魅了した温もりが、アーシアの雰囲気が重く暗くなる。

 

我に帰った悪魔たちはすぐに思い至った。

そう、彼女は異端認定、魔女とされたのだ。

では、『彼』と敵対したのか。

 

「そして、私は悪魔になりました。」

彼女は結末だけを口にした。その間に、何があったのか語ることは無く。

「後悔はないです。でも私は彼に裏切りを続けているのかもしれません。」

そうして彼女は俯いた。誰とも目を合わせないためか、彼との再会を想像してか。

 

グレモリー眷属としては有り得ないことに時計の音だけが刻まれる重い雰囲気。

そして、より大きく、扉を叩く音が響いた。

 

リアスの返答をして入ってきたのは申告どおり、白外套を纏う3人の祓魔師だった。

一誠の幼馴染である紫藤イリナ。

三人の中で最も騎士然とした雰囲気を持つゼノヴィア。

アーシアと交友関係にあったジェイル・ネース。

 

「失礼する、リアス・グレモリー。今回……は……」

声が途中で掻き消えた。大きく見開いた目はアーシアに向いている。

しかし、驚愕の光は瞬きの間に消え、無機質なものに変わる。

アーシアは何も言わず、ただ俯くだけだった。

 

リアスもまた何も言わずにソファを手で示した。

「祓魔師が私たち悪魔に何の用かしら?」

彼女自身は片方のソファに座り腕組み、足を組み、聖書の神の教徒に問う。

その様は上級悪魔の誇り、魔王の血縁を示す風格を持っていた。

 

「先日、教会に保管していた聖剣エクスカリバーが強奪されました。」

その彼女をして、イリナの発言には驚くしかない。

エクスカリバー、聖剣の中でも最上級の代物がやすやすと奪われるはずが無い。

となれば、敵はそれ相応でなければならない。

聖書の知識が足りない一誠への補完を行いながら話を進めていく。

かつての大戦の中でエクスカリバーは折れ、七つの聖剣に分かれたことなどを説明し本題に入る。

 

「強奪した主犯はコカビエルだ。聖剣を奪ったことで天使に宣戦布告を、魔王の妹の領土に攻め込むことで悪魔への宣戦布告を行うようだ。」

全ての悪魔の憧れであり、最強戦力である魔王。

それと同等の古の堕天使が自らの領土に攻め入るというのだ。

その言葉に驚くリアス眷族だったが、続く言葉に絶句した。

 

「エクスカリバーにはエクスカリバーを。そして、コカビエルとの戦闘を経験した俺が今回の担当となった。」

それは、女性二人がエクスカリバーを教会から下賜されるほどの戦士であること、目の前の男が古の堕天使と交戦し生還するほどの戦士であることを示していた。

グレモリー眷族の戦闘能力は皆、上級悪魔の枠を超えるものではない。

彼らが格上であることは明らかであり、彼女は心中で臍を噛んだ。

 

「俺たちが欲しいのは不戦の契約と地の利の情報だ。こちらからはコカビエルの戦闘情報を提供できる。共闘とはいかなくても、お互いを利用すると言えば格好は付くだろう。」

聖書の陣営にとって契約はとても大きな意味を持つ。悪魔にしても言葉の綾を突くことはあっても正面から破ることは出来ない。

そして教会は敵の情報を与えても損はしない。リアスとしても情報を与えてでも堕天使幹部を迎撃することを選ぶ。ジェイルの持ちかける契約は双方が同意できる、充分なものだった。

 

細かい契約内容が書かれた書類を受け取り確認、引き換えに領地の情報の書類を渡す。

ジェイルは内容を確認、頷き納得の意をリアスに伝えた。

資料をゼノヴィアに渡し立ち上がる。その行動の素早さはもうここには用は無い、と何も言わずとも全員に伝えていた。

結局、ジェイルは最初の出会いがけ以降、一切アーシアと目を合わせようとはしない。

 

その扱いに、情愛を司る主以上に深い情を持つ男は黙ってはいられなかった。

「おい、アーシアには何か無いのかよ!」

ジェイルが足を止めて、初めてイッセーを視界に入れる。

イッセーにはその目が何の感情も持っていない、光を返すだけの鏡のように見えた。

それがイッセーには気に入らない。

アーシアの優しい笑顔、その後の悲しげな笑顔。その両方を無価値にされるようで。

 

「昨日から気になってはいたが、やはり魔女アーシアか? まさかこの地で会うことになるとは」

問われた男よりも先に、ゼノヴィアがアーシアを睨む。

その視線を遮るように足を進め、庇う姿勢を見せた一誠だがその言葉はアーシアに届いてしまった。

「まさか、ジェイルが探していた相手が裏切りを働くなんてね。」

軽い牽制の言葉はアーシアが恐れていたことそのもの、その断言に彼女の瞳の光は罅割れたかのように輝きを失う。

 

「裏切りだって?」

背中に庇う一誠には目を見ることは出来なかったが、彼女の悲しみと苦しさは十分に伝わっていた。

それに無反応とする男、否定する目の前の女がどうしても理解できない。

 

「神の加護を受けながら悪魔に成り下がる。これを裏切りと呼ばずになんと言うんだい? 裏切りでないというのなら今ここで私が断罪しよう。罪深くとも情け深い主ならば受け入れてくださるはずだ。」

ゼノヴィアは説明するまでも無い当然の事だと切り捨てる。

イリナもまた何故そこに疑問を持つのか分からないと言う顔をして立っていた。

それが一誠の怒りの熱を上げていく。

 

「ふざけるな。傷ついたものを癒そうとするアーシアの優しさが分からないのかよ! 救いを求めていた彼女を誰一人助けようとしなかったんだろう!」

「あのね、イッセー君。主の敵である悪魔を治療したのよ? 聖剣の断罪を受けられるだけ慈悲だと思わないと。」

「誰かの救いなんて聖女には要らない。彼女は神からの愛だけで生きていけたはずなんだ。それが出来ない以上、元々彼女に聖女の資格は無かったということだ。」

 

聖剣の担い手は一誠の言葉を一蹴する。そこには情の無い知識で作られた言葉しか無かった。

そのあまりの言い分を一誠は受け入れるはずも無い。アーシアを否定する彼らを否定するために自らの思いをぶちまける。

 

「自分たちで勝手に聖女にして少しでも求めている者と違ったら見限るのか? それはないだろう! 何が神様だ! 何が愛だ! アーシアを救うことも出来なかったのによ!」

「神は愛してくれていた。それが届かなかったのは彼女の信仰が足りなかったか偽りだったというだけだろう。」

一誠の体から暴力の気配が感情に応じて漏れ出ていく。その波動は一誠の混じり気のない怒りを知らしめている。

「君はアーシアの何だ?」

 

一誠に取っては愚問だった。

「簡単な話だ。仲間だ、友達だ。だからアーシアを守る、助ける。彼女の優しさが分からない教会なんてみんなバカ野郎だ。幼馴染なんて関係ない。みんな俺がぶっ飛ばしてやる。」

 

教会を侮蔑しかねない宣言にゼノヴィアの戦意がより重い殺意に切り替わる。

手に持つ聖剣の波動が合わさり、その場にいる悪魔全員の体に冷たい痺れが走った。

 

ゼノヴィアの眼光を男の硬い手のひらが遮る。

「彼女は神の意に直接、逆らったわけじゃない。俺の前で彼女を魔女と呼ぶな。」

彼はリアスを前にした交渉中、悪魔を前にした嫌悪感といった個人の意思を感じさせなかった。

それが雰囲気を一変させ、熱を含む声を響かせる。

 

俯いていたアーシアが顔を上げる。

目に溜めていた涙が彼女の頬を流れた。

それを気が付かないわけではないだろうにジェイルは一誠から目を離さない。

 

「そしてお前もだ。お前に何が出来る?何らかの力を持っているようだが所詮は下級悪魔。殲滅するのは容易い事だ。」

睨み付けられた一誠は体の奥底まで見抜かれたような感覚に襲われる。いや確実に身に宿す力に気づかれていると本能が告げる。

事実、既にジェイルの反映魔術は一誠という悪魔の中にある龍の気配を掴んでいた。

 

ジェイルの発言の危険性に気づいたリアスが声を張り上げる直前。

壁と床を問わず大量の魔剣が突き破るように出現し、部屋の一角から殺意が巻き起こる。

 

「へえ、下級悪魔程度の力見せてあげようか?」

炎と氷の魔剣を両手に持つ男がゼノヴィアとイリナを睨む。先ほどのゼノヴィアの眼光よりも強い、しかし別種の輝きがその目には宿っていた。まるで闇を際立たせるためだけの鋭い光。

「何だ、お前は。」

「聖剣使い、君たちの先輩だよ。失敗作だけどね」

かつて教会の実験体であった過去を持つ男、木場優斗がぎらついた目を向けて立っていた。

 

 

お互いが挑発を繰り返した結果であったが、決定的な行為を行ったのは悪魔側だ。

しかし教会側は悪魔の力量に関して情報を持たず、ジェイル個人としてもアーシアの同僚がどれだけの力量を持つのか気になる話である。

故に模擬線と言う形で一応の決着を図ることとなった。

 

グレモリー眷属だけが使用している駒王学園、旧校舎。

通常の一般生徒がそこに通じる道を使うことなどまずない。

更にリアスの女王である姫島朱野が展開した結界の中で、一誠が話の勢いままにジェイルの前に立ち、ゼノヴィアと木場が聖剣の因縁ゆえに向かい合う。

 

ジェイルの前に立つ一誠の腕から赤い甲冑小手が展開された。

その小手から噴出する波動は悪魔ではなく龍の力。

赤い小手。迸る上級悪魔をたやすく超える凶暴性。間違いなく世界に十三しかない神滅具(ロンギヌス)の一つ『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』だった。

龍の気配は感じていたが、予想を遥かに超える大物が出現したと理解したジェイルは一誠に対する評価を大きく引き上げ、牽制の黒鍵を放つ。

 

『boost!』

赤龍帝の籠手から龍の宣言が響く。赤龍帝の小手、その能力は力の倍加と譲渡。

時間を掛ければ力を二、四、八と倍化させ、最後には神をも滅ぼすとされた神滅具である。

ジェイルの基本武装である黒鍵は対悪魔用。竜に対する相性など持ち合わせていない。

赤龍帝の籠手から流れる竜の波動はその奔流のみで黒鍵を防ぎきった。

ジェイルは部室での知識の無さから一誠が悪魔に転生したばかりだと判断していた。

それがこうもたやすく黒鍵を弾く、想定内とは言え予想外であり、軽い驚きを覚えた。

 

遠距離攻撃を物ともせず、ジェイルとの距離を詰める一誠。

その速度も倍加の能力により強化され、一度の攻撃の間に距離を半分にまで詰めた。

ジェイルは再度三本の黒鍵を左手から放つが、二度目の倍加により更に能力を高める一誠の動きに速度を落とすことも出来ない。

自分の間合いにまで追い詰めた一誠が拳を振りかざす。

遠距離攻撃を仕掛ける敵は近接戦闘では弱い。

そう考える一誠の拳は一撃で決めると言わんばかりに力が込められていた。

 

しかしジェイルは中華双剣も扱う全距離戦闘者だ。

迫る赤龍帝の籠手を明瞭魔術により強化した両手で容易く絡めとり、叩きつける。

一誠は神滅具こそ持つが戦闘術を学び始めて間もない。成すすべなく地面に倒れた。

そして一誠が状況を理解し、我に帰る前に首元に黒鍵を突きつける。

勝敗は誰の目にも明らかであり、赤龍帝の籠手を相手取るための行動、短期決戦が綺麗に嵌った対決となった。

 

一誠の首元から黒鍵を離したところでお互いが緑の光に包まれる。ジェイルは無傷であるがそのまま受け入れる。

これはジェイルの幼馴染が持つ神器『聖母の微笑み(トライワイト・ヒーリング)』による治癒能力だ。

振り返るとアーシアが立っていた。未だその瞳は揺れている。しかしそれでも譲れないものがあるのかジェイルと目を合わせ続けた。

 

「元のように会うことが出来ますか。」

震えていたがその中に芯を感じさせる声だった。

「俺は祓魔師でお前は悪魔だ。今まで通りは出来ない。」

ジェイルの少ない言葉だったが、彼女はそれで伝わったのか微笑み頷きを返した。

 

「それでも俺はアーシアと一緒にいたいと思っている。」

アーシアの目を丸くする様子を見て、愉快な感情が込み上げ、少し胸の重みが軽くなる。

彼女が破門される前、パートナーであった当時は本当にぶっきらぼうで、言葉足らずだった事を思い出した。

 

「赤龍帝、彼女を守るには今のお前では力不足だ。それを認めるべきだ。」

今回は短期決戦に持ち込ませたから勝てたが、時間を掛ければどうなるか。

少なくとも赤龍帝ドライグは神を上回る力を持つ。後は一誠が赤龍帝の小手の力をどこまで引き出せるかという事。

最後に言い残して、ジェイルはゼノヴィアの戦いを見守るイリナの下へ向かった。




自己暗示により性能を高めるために魔術の名前を変えた。
属性と特性に即している。

解析→反映
変化→屈折
強化→明瞭
投影→越境
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