HSDD~錬鉄を継ぐ鏡湖の英雄~   作:昼寝中

5 / 11
5.堕天使捜索

ジェイルたち祓魔師はゼノヴィアの勝利を見届けたところで学校を離れた。

グレモリーからの情報をお互いに確認、今後の方針を決める。

「俺は先んじて潜入していた神父が殺られた現場を探る。お前たちは数ヶ月前の中級堕天使が潜伏したという教会の確認を頼む。」

ジェイルは二人と別れ、先んじてこの町に侵入していた祓魔師が倒された路地裏へ向かった。

 

――救いを求めていた彼女を誰一人助けようとしなかったんだろう!

――仲間だ、友達だ。だからアーシアを守る、助ける

赤龍帝の言葉が頭から離れることなく巡り続ける。

その言葉は言い放った本人の想定以上にジェイルに胸に突き刺さったかのような痛みを与えて続けている。

その言葉はあまりに愚直に彼の後悔を捉えていた。

 

事実、守れなかった自分に何かを言う資格があるとは思えず、彼女を守れなかった自分を責められたかったからか、後悔と自身への怒りに溺れ、身動きが取れなくなってしまった。

敵の殺意に反射的に行動を起こしたが、敵地の真ん中で味方に刃を向けていたのだから笑えない。

ある意味、場を混乱に落とした木場に救われたジェイルである。

 

考えに耽る間も目的地に向かう足は動き続け、ジェイルは神父の殺害された現場である路地裏、その入り口の前に立っていた。

警戒心を引き上げ一呼吸、祓魔師は意識を切り替える。

魔術師の心は容易く動揺を鎮め、魔術運用の最適状態へと移行。

 

反映 開始(トランス シフト)

地面の痕跡を対象に魔術が発動。

魔力が波紋のように周辺に広がり、全てが心に映し取られた事により大量の情報がジェイルに伝わる。

それだけではない、心に映された情報は既に、知識による理解を超えた納得と実感の領域にまで昇華している。既に殺害現場から得た情報を整理し終わった。

例えるなら教科書で読んだ内容を他人に自分の言葉で説明できるかのよう。それと同様の段階にジェイルは居た。

五感情報を超えた情報収集と暗記を超えた体得、この二つが反映魔術の効果である。

 

創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、構成された材質を複製し、製作に及ぶ技術を模倣し、成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現する。

それがジェイルが継いだ錬鉄の呪文の基礎にして秘奥、投影六拍。

彼の心象風景は一目見た全ての武装を見抜き貯蔵していた。

完全に継承できなかったジェイルの心象風景に剣の如き強靭な硬さは無い。しかし、失態の果てにその事実を受け入れ、相応のやり方を身に着けている。現場一帯の情報収集が完了、映しとられた情報が実像を失い心に解ける。

 

心に映し取った情報、事件現場の残留光力や切断状態からして、実行犯は強奪されたエクスカリバーを扱うことが出来る祓魔師。

その事実は、今回の任務を限りなく難しいものとした。

エクスカリバーはその聖剣としての基礎能力とエクスカリバーとしての独自能力の両立した強みに反して使い手が極めて少ない。

努力で使えるようになるものではなく生まれつき使い手の身の内にある何らかの因子が必要とされている。

 

聖剣が奪われたところで相手の戦力向上には繋がらないというのが任務の前提だったのだが初手で崩れてしまった。

相手の手に渡ったエクスカリバーは使用者の速度を高める『天閃の聖剣』(エクスカリバー・ラピッドリィ)、幻術を司る『夢幻の聖剣』(エクスカリバー・ナイトメア)、刀身を見えなくする『透明の聖剣』(エクスカリバー・トランスペアレンシー)の三種。

それにエクスカリバーの研究家。

これらが敵になる可能性が極めて高くなった。

 

こちらが所持しているのは攻撃力に特化したゼノヴィアの破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)、形状を自在に変えるイリナの擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の二本。

奪われたばかりであり使用者の質では勝っているだろうが、量では既に負けているのだ。

行方不明の支配と正教会に保存されている祝福はこの際考えない。

 

ジェイルは続けて発動させた反映魔術により流れ込む情報を脳内に溜め込みながら、考えを纏めていく。

更に神父の殺害場所を調べまわる。

残留光力を辿りながら敵の居場所の方向をある程度絞り込んだところで、空は残陽の紫を超え星が輝き始めた。

ジェイルは潮時とこれ以上を中断しゼノヴィアとイリナに合流することにした。

 

 

駅前に立ち並ぶホテルの一つ。祓魔師たちはジェイルの部屋に集まり、それぞれの情報を共有する。

「使い手は一人。どうも複数のエクスカリバーを独占しているみたいだ。」

切り口を見るに同一人物の仕業だ。全ての現場を回ったが把握できるのは一人だけだった。

「エクスカリバーを所持する者が神父を殺すか・・・・・・」

憂鬱な雰囲気をまといため息をつくゼノヴィア。イリナも同様眉をしかめている。

 

ジェイルは何も言わずペットボトルからグラスに注いだ水を、口に含む。

ゼノヴィアたちは神父が死んだことではなく、神の意を受ける聖剣によって神の僕が切られたことに悲しみを覚えているのだ。

その考え方は少しジェイルの感性とずれていた。

 

彼女や育て親、施設の人間への恩返しとして、祓魔師の任務を行うジェイルにとって神の愛などにあまり執着していない。

教会の教えを知る前に一般的な世界の常識と死が支配する戦場を知ったことにより、教会の生活に馴染めなかったことも原因の一つだ。

教会では、神のためなら命を捨てることとて喜ばしいことと教え込まれる。

教育とは悪く言えば常識による洗脳なのだと実感してしまったジェイルはある程度は改善されているものの、教会への嫌悪、人間嫌いの気があった。

 

気を取り直した彼女たちからの報告では3ヶ月前に侵入した堕天使の一団が使用した廃教会を調べたが痕跡は無く、今回の斥候などそういった者ではなく本当に何の関係も無かったというのが彼女たちの結論だ。

現状を確認したところで更に話を進め、明日の行動を話し合う。

夜が深け、日付が変わるというところでゼノヴィアが首を振り、顔を上げた。

 

「私たちはグレモリーの地図に書かれている注意地点を回ってみようと思う。実際に見ないと分からないことも多いからね。」

「俺は残留光力が示す方向を更に調べてみよう。」

 

結論をまとめ彼女たちを部屋まで送った後、ジェイルは簡単に部屋を整理し、ベッドに潜り込んだ。

もっとも、頭を枕に置いたところですぐに寝付けるかというと話は別。

ジェイルからすればようやく任務外の事を考える時間ができたという所である。

 

思い考えるのは教会に見捨てられ、悪魔に転生した幼馴染。

幼いときから祈祷師として育てられ、力が判明すれば聖女としての行動を強制され、悪魔を癒したことで魔女と切り捨てられた。

何を思って悪魔に転生したのか。怒りだろうか、絶望だろうか。裏切りを与えた教会への復讐だろうか。

全てかもしれない。そう考えれば悪魔への転生はありえなくはない。それでもアーシアが悪魔となるなど想像すらしていなかった。

 

ジェイルとて、彼女が魔女であるという教会の言い分に満足しているわけではない。

当時はまだ分からなかったが、彼女の治癒能力は神器「聖女の微笑」から来ていた。

つまりは主たる神が、癒す対象範囲に悪魔を含めていたということになる。それを癒して主への裏切りという主張は違うだろうに、その意見すらも無視されてしまった。

それどころか、権力を身に付け彼女の捜索をするという選択肢も魔女の元相棒という納得できない前科から塞がれてしまった。

 

ジェイルは一度寝返りを打ちアーシアへどのように話せば良いのか、考える。というよりも自分の中でやりたいことはハッキリしている。

しかし悪魔、もしくはその味方になることはないと考える。その双方を解決し自分も納得できる方法は一向に浮かばない。

 

アーシアを守りたい。それはジェイルの真実だ。

しかし悪魔を守ることは有り得ない。それもジェイルの真実だ。

それは矛盾を孕んでいる。

どちらを選ぶか考え続けるが時間が過ぎるだけ。結局、ジェイルはいくつもの感情が絡まる中で答えを見出すことが出来ずにいた。

 

最終的に煮え滾る思考を棚上げし、明日に備えることを優先した意識が眠りに落ちる。

その寸前思い返すのは、結局彼女は何を思って悪魔になったのだろうか、明らかになることを恐れる疑問と、そして成長した彼女の涙だった。

 

 

次の日、早朝からホテルを出て別行動に入る。

昨日のうちに目星をつけていたビルを移動し残留光力の方向を書き込んだ地図と当てはめ、上から敵の姿を探していく。

その途中、魔力を身にまとうコウモリや子鬼がうろうろしているのを見つけた。その身に纏う魔力からしてグレモリー眷族の使い魔のようだ。

コウモリは良くあるが、逆に東洋の妖怪の一種である鬼を使い魔にするのは珍しい。

東洋の術に縁ある人物がグレモリー眷属に居るようだと頭の隅に置く。といっても眷族の中に和名の人物が四人は確認できている、魔力制御を身に着けている誰かだろう。

 

それにしても人が多いと考えたところで、今日が土曜日だったと思い出す。

一般人を巻き込むことを好まない性格である彼からすれば人が多くなる休日となると少し注意が必要だ。

堕天使との戦闘状態に入った場合、結界が張りやすく一般人に危険の少ない場所を記憶から検索しながら、ビルの捜索を続ける。

 

反映魔術による情報収集と明瞭魔術による視力強化を併用した結果、殺害現場から残る聖剣の気配が交差する建物の発見に成功していた。

更に調べることで敵の痕跡を発見した。

 

建物からは今もゼノヴィアやイリナの持つエクスカリバーと共通する波動が確認できる。聖剣の波動を調べるなど悪魔からすれば太陽をレンズ越しに直視するようなものだが、祓魔師であり反映魔術で心に直接情報を取り込めるジェイルからすればどうとでもなるものでしかない。

 

切羽詰った状況ではなく敵戦力が全く分からない状態であり、一般人が活動する真昼から敵の隠れ場に突撃することは出来るなら避けたい。

敵の戦力が明らかになるなら良し、攻め込む時間まで動きが無いのならそれも良し。

ジェイルはこれまでの成果と意見をゼノヴィアへメール、観測者の視線を持って監視を始めた。

 

太陽が傾き始めしばらくしたところで懐の携帯電話が震えた。

任務用の番号を知っているのはそう居ない、その上で連絡するなら。

「ゼノヴィアか?」

「ああ、ジェイルか。今目の前に赤龍帝がいるのだが・・・・・・」

 

悪魔側、正確に言うと主の命令を無視した赤龍帝含めた複数の悪魔から、積極的な協力関係を結びたいという要望が有った。自らを悪魔ではなく龍の助力として使うことはできないかという意見だった。

 

ゼノヴィアたちは一誠を悪魔ではなく龍の力を借りるという解釈ができるなら受けても良いのではないかという考え。

赤龍帝に悪魔の残虐性はさほど感じられない、一応色欲を除けば。とは幼馴染であるイリナの言葉だ。

 

「了解した、一度合流して作戦を練ろう。」

ジェイルにも反対する理由はさほど無いため了承し立ち上がる。

「と、その前に。――越境 開始(トランス シフト)

せっかく見つけた敵のアジトを見張るために越境魔術を行使した後、ジェイルはその場を離れる。

敵を隠れ家から離れさせたい。堕天使と悪魔、両方の戦力を知りたい。そのために協力を願い出た悪魔たちを囮にしようと考えながら。

 

 

街灯に明かりが灯り始める夕暮れ、敵を誘い出す目的地、人影のない廃墟から遠く離れた場所に立つジェイルの視界の中で神父、修道女の服装を着込んだ一誠たちがうろうろと移動していた。

少し離れてゼノヴィアとイリナが身を潜めている。

 

赤龍帝の『兵士』兵藤一誠、因縁を持つ『騎士』木場祐斗、妖怪猫又から悪魔となった『戦車』搭城小猫、強引に巻き込まれたシトリー眷属の『兵士』匙元士郎。

彼ら悪魔が囮となり、ゼノヴィアとイリナが戦闘、更に隠密行動や遠距離攻撃を行えるジェイルが後詰めという策。

 

昼と夜の切り替わる時間、木陰が不気味に残る廃墟に寄り付く人は元より少なく、神父を殺めてきた敵が再び現れた神の僕を狙うにはうってつけの状況。

建物の中から飛び出てきた人影によって、奪われた聖剣が先頭を歩く悪魔の頭蓋目掛けて振り下ろされた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。