アーシアの『聖女の微笑み』による癒しを受けながら、祓魔師と悪魔の共同戦線による戦力の確認が行われた。
ことここに至ってはこの街に領土を持つ上級悪魔、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーの手には負えないと判断。親族でもある四大魔王に救援を求めることとなった。
兄へ迷惑を変えることを嫌ったリアスだがこの戦力ではコカビエルを止められないと諭されたことで同意する。ソーナの予想では魔王が連絡して駆けつけてくるのに一時間。それまでは今居る戦力で大戦を戦い抜いた堕天使幹部を相手にしなければならない。
こちらの戦力確認として、イリナがコカビエルの攻撃を受け意識不明の状態。擬態の聖剣も最後にフリードに奪われてしまったようだ。
安静にしなければならないのだがイリナを守るには手が足りない。ゼノヴィアもジェイルもこれからの闘いに向かわなければならなかった。
イリナが木場を庇って負傷したことを伝えると
「嘗めないで欲しいわね。私の愛しい眷属を庇って作った弱点を突くなんてそんな無様な真似はしないわ」
という返事が返ってきた。
今までの様子から見てプライドの高い彼女の言葉である。そう易々とは反故にはしないと考え、今は新たに張った結界内でリアスの使い魔によって安静に寝かされている。
さらに被害を少しでも食い止めるためにシトリー眷属が結界を張る必要がある。
よって、直接コカビエルと戦うのは教会からジェイルとゼノヴィア、グレモリー眷属のリアス、朱乃、一誠、小猫、木場、そしてアーシアだ。
敵戦力は、現在明らかなのがコカビエルとフリード、バルパーの三人。
フリードとバルパーは奪った擬態の聖剣と合わせて2本ずつ所持しているだろう。
少ないとはいえ、今までの経験を無駄にするとは思えない以上、バルパーが擬態と夢幻、フリードが透明と天閃だ。
「バルパーが持つ夢幻の聖剣による幻の陣は外から遠距離攻撃を持って本人を狙った方が良い。あの幻の中に入って戦うのは難しいだろう。逆にフリードの透明と天閃の切り替えによる奇襲は後衛が対処できるレベルじゃあない」
ジェイルの状況判断を受け、リアスが指示を出す。
「それなら木場がフリード、朱乃がバルパー、私と一誠と小猫がコカビエルを、アーシアは全体の回復ね。そこにあなたたちが誰を相手取るかだけど。」
出来うる限り、自らの力で領土を守ろうとしているのか主導権を握る意見を出すリアス。
しかしこの騒動の主犯は古の堕天使コカビエル。
聖書に名を残し、神と魔王を直接相手取った存在だ。
仮にジェイルを含めこの場にいる全員が相手取ったとしても、真っ向から打ち破られるだろう。
二度の死闘を経て、ジェイルの力では真正面からの戦闘に勝ち目が薄いことがより明らかとなった。
肉体と力の保有量に負け、技でも僅かに負けている。
このまま、主導権を悪魔に委ね、隙を見て聖剣を奪い後は悪魔共に押し付ける。この町に来るまではそのつもりだった。しかし、それはグレモリー眷属がコカビエルを相手にするという事。
無理だ。ジェイルは即座に判断を下す。
まだ赤龍帝も魔王の妹も成長不足。奴が本気になった時点で勝機は無い。そうなれば当然、眷属であるアーシアも死ぬ。ならジェイルが逃げるわけにはいかない。
「コカビエルの相手は俺がやる」
先の戦闘にいなかった者も含め、最も強い実力者であるジェイルの言葉が響き渡る。
反論しようとするリアスに先んじ話を進める。
「俺の技を使うには一対一の方が相性が良いんだ。それにエクスカリバーは最上級悪魔に匹敵する聖剣だ。それが四本、厄介な敵としてはどちらも対等だろう。ゼノヴィア、グレモリー眷属の前衛を頼めるか。」
「了解した」
多少の嘘を混ぜつつ告げた言葉にゼノヴィアが異論なく頷き、リアスもエクスカリバー四本には不安があったのかしぶしぶではあるが頷きを返す
「感知能力の高い戦車である搭城と聖剣が弱点でないゼノヴィアが楯、木場は天閃の速度に対抗する遊撃を。グレモリーと姫島がバルパーへの遠距離攻撃を。回復能力を持つアーシア、赤竜帝の譲渡を使う兵藤がそれぞれの支援を行う。特に兵藤はアーシアの護衛を心がけて行動しろ。」
ジェイルが言葉を続け、さらりとアーシアを一番安全な場所に置く。擬態の聖剣含め予期せぬ事態を警告し、フリードとバルパーへの対抗策を固めた。
ジェイルはグレモリー眷属に先んじて一人で駒王学園の正門前に転移する。
魔術により気配を紛らわせ、校舎に入り込む。
コカビエルとの最後の決戦、ジェイルは自身の最奥『固有結界』の発動に踏み切った。
「――心鏡は明確に揺れ動く」
ジェイルは世界を揺るがす大禁呪を詠唱する。
一度コカビエルに接近を許せば、切り札を使う隙は無い。
故に戦闘の開始直後から全力を注ぐ。
月光の入らない暗い教室の中で、溢れ出しそうな魔力を制御しながらその時を待った。
駆王学園の校庭に赴いたゼノヴィアとグレモリー眷属、その前にコカビエル、フリード、バルパー、そしてコカビエルの召喚獣であるケロベロスが二体立ち塞がった。
ケロベロス、三つ首を持つ地獄の番犬だ。敵戦力の強化は想定していたが、ここまでの増援は想定外だった。
すでにシトリー眷属の結界が展開され、戦闘の舞台が整っている。誰も力の発動を行っていない、しかしそれぞれの闘志に染められた空気は既に戦場のそれ。
バルパーは既に幻の結界に姿を隠し、フリードは聖剣二本をぶつけ合わせ狂笑を浮かべ、地獄の番犬たるケロベロスが三つ首そろえ牙をむき出しにする。
「ふむ、グレモリー眷属と聖剣使いのみか・・・・・・、ジェイル・ネースは単独行動。また何処からか急襲を狙うつもりか。まあ良い、余興だ。奴が出張るまで少し遊んでやろう」
宙に浮かぶ禍々しく装飾された椅子に頬杖をしながら言い放つコカビエルに構えるグレモリー眷属。
張り詰める戦場の空気が圧縮し、爆発する寸前。
「――
校舎の最上階からコカビエル目掛け、紅き魔槍が放たれる。
それは幻の戦陣に惑うことなく貫き、コカビエルへ迫る。
湖面に波紋 鏡に剣
映る理想の姿に手を伸ばし
しかし、神器に迫る武具による奇襲でもそれだけでは大戦の生還者には届かない。
槍が屈折し無理やり矢の形状に落とされたそれに対し、光の槍を持って対抗する。
もしも結界がなければ、近隣住民が飛び起きるほどの激しい衝撃と轟音。
紅き魔槍は矛先を逸らされ、彼方へと消え去る。
過ぎ行く過去の誓いは不変
見据える未来の行方は不定
続く雨のような矢の連射を夢幻の聖剣による幻の結界と擬態の聖剣による枝分かれした格子が防ぐ。
二つの聖剣から放出される光力が格子を伝わり幻の結界に物理的効果を与えていた。
一泊の静止。連射では意味が無いとしたジェイルの渾身の一矢。
先の雨とは別格の速さと威力を持ったそれが部下を超えて迫る。
しかしそれも先ほどの一撃を防ぎきったコカビエルからすれば力不足。
光の槍も使わずに翼で簡単に薙ぎ払う。
反撃に校舎へ光を集めた右腕を振るう。放出された光の波動は最上階の床から上を全て破壊し粉砕した。
しかしその中にジェイルの姿は無い。
コカビエルは油断せずに校舎の方向を警戒し――背後を急襲する紅魔槍。
彼の者はここに独り、鏡の湖面に身を映す
故に、真偽の境を知りながら――
「誘導弾だと!?」
誰も居ないはずの背後からの奇襲。しかも聖剣の二重結界を無いも同然とするほどの威力。
一泊遅れ、技を頼りにする余裕は無い。
力の限りを込められた光槍が再度激突した。
ぶつかり合う衝撃は周りの部下を吹き飛ばし、地上で見守る者、例外なく思わず天を見上げ呆け、意識を止める。
その停滞した一瞬。槍がぶつかり合うすぐ傍に波紋が浮かび、人影が現れたかと思えば滲み出るようにジェイルが出現した。
そしてコカビエルに向かって手をかざし、最後の一節を詠い上げる。
「――その心は虚実に揺らぐ」
ジェイルの心象風景が具現化、世界は切り替えられた。
固有結界『
そこは水面が地の果てまで続く世界だった。
しかし、水面というには世界に存在するコカビエルとジェイルを鮮明に映している。
足を動かせば波紋が浮かび広がるが、その足場に揺れを感じることは無い。
そんな鏡のような湖のような表面で、逆さまに映る虚像の祓魔師。
その周り様々な武器が無造作に突き立っている。見渡せば虚構の大地に同じ武器がいくつも点在し突き刺さっていた。
輝く聖剣、紅の呪槍、無骨な斧剣、陰陽中華双剣、花弁を思わせる盾、刀身の捩れた剣、雷の形に歪んだ短剣、鎖で繋がる釘剣、黄金の手綱、繊細さが見て取れる長刀、柄頭に宝石の付いた剣、十字架を象る投擲剣、重量感のある金色の鍵。他にも様々な武器が虚像の世界には有った。
薄い雲が空を覆い、流れ、その下に立つ祓魔師は足元に映る虚像の自分と目を合わせ、自嘲の笑みを僅かに浮かべた。
直後顔を上げて堕天使を睨み挑発の笑みへと変える。
「俺の世界へようこそ。歓迎しよう、盛大にな」
鏡像の世界で黒鍵が引き抜かれた。それは湖面の揺らぎに飲まれ見えなくなる。直後、夥しい数となって映り込み、虚実の境を突き破って空中のコカビエルへ殺到する。
現実世界を裏返した心象世界で二人きりの戦争が始まった。