ハイスクールD×D 魔王ルシファーの親友はルシファー   作:竜星

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序章:二人の明星
プロローグ:二人のルシファー


「ウィルフレッド様。おはようございます。お目覚めはいかがでしょうか?」

「まだ眠い。もう少し寝かせてくれ」

 

 俺は布団に深くくるまって再び惰眠を貪ろうとする。しかしそれは叶わなかった。バサッと布団が剥ぎ取られ、気付いた時には俺は宙を舞っていた。

 見事着地すると、布団を剥ぎ取って宙に放り投げた元凶に目をやる。

 

「お目覚めはいかがでしょうか?」

「それ、聞く? 凄い最悪だよ。グレイフィア」

 

 俺の視線の先には銀髪のメイドが立っている。

 現魔王ルシファーである親友サーゼクスの直属にして、その生家グレモリー家のメイド長。本来なら、俺の家に来て起こすなんてことをしているべき立場の人間ではなかった。

 

「そうですか。それは申し訳ありません」

「……お前。そんなこと微塵も思ってないだろ」

「機嫌を損ねないでもらえますか。ウィルフレッド様」

「損ねちゃないよ。ただ、投げ飛ばされるとは思わなかった」

 

 俺が不貞腐れたように言うと、グレイフィアはやれやれと言ったように困った表情で見てくる。

 

「それでどうした。ただ起こしに来たってわけじゃないだろ?」

 

 不貞腐れながらも、俺は胡坐をかいた膝の上に肘を突いて視線をグレイフィアに向けて言う。

 度々グレイフィアは俺を起こしに来るが、それは何かすぐにでも用事がある時だけだ。

 基本的に自堕落な生活をしている俺を心配している節はあるが、それでも積極的に世話を焼こうとはしない。というよりは、それを俺がさせないために親友のサーゼクスの直属にしてくれるように頼んだ。

 そうでもしなければ、昔からの付き合いというだけでグレイフィアは俺の世話をして平和な日常が壊されかねない。

 

「では要件を申し上げます。魔王サーゼクス・ルシファー様よりの出頭願いです」

「命令じゃなくて?」

「はい。これは公務であなたを呼び出すのではなく、親友サーゼクスとしてだとも仰っていましたから。続けさせていただきますが、サーゼクス様は屋敷まで出頭するようにと」

「珍しいこともあるな」

 

 俺はグレイフィアが居るにもかかわらず、平気で寝間着から私服に着替えていた。グレイフィアはというと、この光景にまだ慣れないのか、視線だけを俺から外して話を続けている。

 

「あの方は魔王ですからお忙しい身であることは間違いありません。だからこそ親友であるウィルフレッド様と僅かでも憩いの時間を過ごしたいのではないでしょうか?」

「いや。憩いの時間なら、俺じゃなくてお前の姉ちゃんとでいいんじゃないか? 結婚してんだからよ」

「……まあ、それは。色々とあるのでしょう」

 

 言いにくそうにするグレイフィア。だが、言いたいことは何となく分かる。グレイフィアの姉であるリーシアとでは憩いの時間にはならないということだろう。

 正直、あの人は俺も苦手だ。できるなら関わり合いたくないが、そういうわけにもいかない。

 

「それよりもさ、グレイフィア」

「どうなされました」

「腹減ってきた」

「もう少し我慢して下さい。そうすればサーゼクス様の所で豪華なディナーが用意されていますので」

 

 唐突に話を変えたにもかかわらず、またかという風な顔でグレイフィアはすぐに適応していた。どのタイミングで何を言ったとしても、グレイフィアはすぐに順応することだろう。

 

「豪華なディナーも魅力的だと思う。でもお前の手料理ってのも魅力的なんだよな」

 

 そんなことを口にすると、グレイフィアは顔を真っ赤に染めて後ろを振り向く。

 

「そんなことを言われても、私が今料理をすることはありません。サーゼクス様の屋敷まで我慢して下さい」

「なら仕方ないな。グレイフィア、サーゼクスの所に行くなら行こう。腹減って死にそう」

 

 俺は一日の三分の二を惰眠を貪るのに費やしている。本当に急な用でも入らない限り、この屋敷から動くなんてことはしない。

 もう腐った悪魔人生だと思われても仕方ないが、これはこれで楽しい。それに寝る以外に俺のやりたいことは今のところはなかった。だから今の俺には惰眠を貪るのが唯一の楽しみだった。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「やあウィル。随分と待たせてくれたね」

 

 魔王領にあるサーゼクスの屋敷に呼ばれた俺が席に着くなり、紅髪の魔王サーゼクス・ルシファーが言う。

 

「特に用もないのに呼び出すんじゃねぇよ」

「用がないってこともないんだけどね」

 

 サーゼクスはテーブルに置かれたグラスに注がれているワインを口にする。

 俺のグラスにもワインが注がれていく。その人物を見ると、グレイフィアに近い雰囲気を持つ銀髪の美女。しかもグレイフィア同様にメイド姿だ。

 見間違えるはずもない。グレイフィアの姉――リーシア・ルキフグス。リーシアはワインを注ぎながら、妙に怖い笑顔を向けてくる。

 ゾクッと背筋に悪寒が走る。リーシアに対して過去から現在に至るまで何か恨みを持たれるようなことをした記憶はなかった。こんな笑顔を向けられる理由に心当たりはない。

 

「お久しぶりですね、ウィルフレッド」

「ああ。久しぶり。元気そうで何より」

「本当にそうお思いですか?」

「……もちろんだ」

 

 俺が言いよどんだことを怪訝に思いながらも、それを追求してくるようなことはなかった。

 

「まあ、そういうことにしておきましょう。今日はゆっくりしていって下さいね」

「ああ」

 

 リーシアはサーゼクスの妻にして、現在冥界最強の『女王(クイーン)』でもある。四大魔王眷属の中でも最強であり、主であるはずのサーゼクスを完全に尻に敷くほど性格的にも強烈だ。

 それ故に今の四大魔王は例外なく、リーシアを苦手としている。

 

「ウィル。寝起きで空腹だろうから、どんどんと食べてくれていいよ」

 

 テーブルの上にはずらりと豪華なディナーが並ぶ。

 ステーキをはじめとした数種類の肉料理。それに加えてサラダやスープなどもある。

 

「で。お前は特に用がないわけじゃないって言ったが、今度は俺に何をさせるつもりだ? 俺の快適な生活を壊すからにはそれなりのことなんだろうな?」

 

 サーゼクスを睨みつけてやると、ハハッと小さく笑んだ。何がおかしいと言い返してやりたいところではあったが、今はサーゼクスの要件をまず聞こうと抑える。

 

「そうだね。今回はその要件のために呼んだわけでもあるし、さっそく本題に入るのもいいかもしれないね」

 

 サーゼクスは箱を取り出すと、それを俺に手渡してきた。

 

「要件の一つはこれだよ。それはキミに与える『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』。キミの一族を除けば、まだ四大魔王と限られた者しか知らないキミを、冥界の上級悪魔として迎える準備を進めている。本来なら、上級悪魔昇格後に渡すべきものなんだけど、前祝いだと思って受け取って欲しい。親愛なるウィルフレッド・ルシファー。初代ルシファーの血を継ぐ者よ」

 

 受け取った箱を開けて中身を確認する。チェスの駒を模した十五の駒が収められている。そのうちの一つである女王の駒を手にしてみた。

 

「本当にいいのか? 旧魔王の一族である俺を冥界の上級悪魔として迎え入れても」

「何も心配はいらない。もし反対するような者が居たとしても何とかしてみせる。これは私だけの決意じゃない。四大魔王全員の総意」

「そういうことなら一応は受け取っておく」

 

 俺は魔力で箱を別の場所に消すと、食事の続きを開始した。

 

「それとキミに頼みたいことがあるんだ。思い立ったらすぐ行動のキミのことだから、冥界でじっとしてるつもりはないんだろ?」

「まさか。今の俺にとっては惰眠を貪ることが何よりも楽しみなんだ。わざわざ出歩いたりするかよ」

「そうか。でも私は忘れていないよ。かつてキミが北欧の神話体系――アースガルズに一人乗り込んで行った時のことを忘れてないからね。キミがあれを行ったことが原因で、北欧との全面戦争になっていてもおかしくはなかったからね」

「乗り込んだなんて人聞きが悪いこと言うなよ。俺はただ、オーディンの爺さんに次世代のヴァルキリー筆頭を譲ってくれって頼みに行っただけじゃないか」

 

 俺の言葉を聞いて当代最高の魔王は固まっている。

 

「ねえウィル。それが問題なんだよ。キミは分かってるの?」

「まあ、気にするな。あんなことは多分、これからはしないと思う」

「多分じゃ困るよ。まあ、それより頼みたいことがあると言ったけれど、キミには冥界から一度出てもらおうかと思っているんだ。最初に言っておくけど、キミを追い出そうとかそういう意味じゃないことだけは理解して」

「心配するな。お前が俺を追い出すとは思ってない」

「私は常々思っていた。冥界でも魔王に匹敵するキミが、表舞台に出ることもなく半ば隠居したように生活していいものかと」

「いいに決まってるだろ。それを俺が望んでるんだからよ」

 

 肯定するように小さく頷きながらも、サーゼクスは言う。

 

「しかし四大魔王を筆頭に、キミを知る者たちはそう思っていない。これだけは覚えておいて欲しい。キミを知る者たちの総意を伝えよう。――ウィルフレッド・ルシファー。キミは魔王となるべきだ」

 

 だからサーゼクスたちは俺を上級悪魔にする準備を進めていると言ったのか。

 

「キミも分かっていると思うけど、たとえルシファーの出身と言っても、上級悪魔になるにはそれなりの功績を残してもらわなければならない。今のキミには実績らしい実績がない。だからその実績を積んできてくれないかな」

 

 食事を口にしながら、サーゼクスの言葉を聞く俺。

 実績。それなら北欧の神々とやりあったことでもいいんじゃと思ったが、これは公にしたくないということかもしれない。仮に公になったと仮定しよう。面倒ごとが起こる可能性は少なくない。

 

「それは親友サーゼクスとしての頼みか? それとも魔王ルシファーとしての命令か?」

 

 口に入っていた料理を飲み込んだ後、俺はサーゼクスに問う。しばらく考えたような表情をしていたサーゼクスだったが、すぐに小さく笑んで言う。

 

「両方かな。親友サーゼクスとしても、魔王ルシファーとしても私はそれを望んでいる」

「たく面倒だな。けど、お前たちには碌でもない俺を秘匿してくれていたこと以外にも、幾つか恩がある。それに良い機会かもしれない」

「どういうことかな?」

「俺の義弟を探しに出るのにはいいかもしれない」

 

 どこで何をしているか分かったものじゃないが、もう十何年も姿を見ていない。そろそろ探し出すのも悪くはないだろう。

 

「それと人間界に行くに際して、私からお願いだ。拠点をリアスの居る駒王町にしてくれないか。そしてサポートをして欲しい。これは魔王サーゼクスではなく、キミの親友サーゼクスとセラフォルーからのお願いだ。どうか頼まれてくれないかな?」

「まあいいか。お前の妹か。噂は聞いてるが、かなりの逸材らしいな。兄妹揃って将来が楽しみだな」

 

 それからしばらくの間、俺はサーゼクスの屋敷に居座った。

 サーゼクスとチェスの勝負をしたり、他愛のない会話をしたりと。ただの親友として過ごした。

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