ハイスクールD×D 魔王ルシファーの親友はルシファー 作:竜星
一日目の修行を終えた夜。
食卓にはグレイフィアと朱乃の手作り料理がずらりと並んでいる。
祐斗の採ってきた山菜はおひたしと天ぷらにされていた。
肉料理も様々な種類が並んでいる。ステーキに角煮。煮込みなど、どれも食欲をそそるものばかりだ。ちなみに肉は、リアスが修行が終わってから、山から狩ってきた猪の肉と、市販されている牛肉が使用されている。
魚料理まであった。これは猫姉妹が川で捕まえてきたらしい。魚好きな猫だけあって、取るのも得意らしい。塩焼きにバター炒め。ソテーなど、こちらもラインナップが充実している。
二人はある材料をふんだんに使用し、作れるだけの料理でテーブルを彩っていた。
「うおおおお! 美味ぇぇぇ! マジで美味い!」
「黙って食え」
イッセーが大声で騒いでいる。美味いことは同意するが、少しは静かにできないものかと思う。
毎度思うことではあるが、イッセーはかなり落ち着きに欠けている。
「あらあら。おかわりもありますからたくさん食べてくださいね」
グレイフィアの料理の腕は十分に理解していたが、朱乃も負けず劣らずといった具合だ。
「朱乃。最高だ。嫁に貰ってやりたいくらいだ」
「うふふ。困っちゃいますね」
朱乃は頬に手を当ててニコニコと微笑む。和風エプロンも悪くない。大和撫子な印象を受ける朱乃なら、尚更。
俺の言葉に、同じように食事の用意をしたグレイフィアが不機嫌さを露わにしていた。
表情には変化が見えないものの、俺の脇腹を凄い強さで抓ってきている。肉が千切れるのではないかと思うくらいの強さだ。
「……ちょっと、グレイフィアさん。止めてもらえませんかね……っ」
「何をかしら? 私はただ食事をしているだけ」
「いやいや、俺の脇腹抓ってるでしょ」
「いいえ」
否定される。
いや、そんな嘘吐かれても、俺には見えてるんですけど……。
それでもグレイフィアは手を放すつもりはしばらくの間はなさそうだった。
「イッセーさん。私の作ったスープはどうですか?」
どうやらアーシア嬢ちゃんも料理を手伝っていたらしい。スープはアーシア嬢ちゃんが作ったのか。
ちょこんとテーブルに置かれたオニオンスープ。それを一気にイッセーは飲み干す。
「美味いぞ、アーシア! 最高だ、もう一杯くれ」
「本当ですか! 良かったです……」
「さて。今日の修行。どうだった?」
俺は食事をあらかた食べ終えると、アーシア嬢ちゃんお手製のオニオンスープを一口飲んでから、この場に集う全員に問いかける。
「正直、死ねました……」
「おいおいおい。今日程度の修行でそんなこと言ってると、明日以降はまず生き残れないぞ」
イッセーの発言に俺はそう返した。
今日は初日ということもあって、かなりの加減をしていた。まあ、白音と祐斗には少しばかり加減し過ぎたかもしれないが。
グレイフィアも容赦こそなかったが、手加減していたのは間違いない。本気で相手していれば、おそらく誰一人として今まともに食事を取れる状態にはなかっただろう。
ちなみに黒歌はガツガツと食事を食べている。ごはんのおかわりもしていて、まだ余裕が見受けられた。それと同じくらいのペースで白音もおかわりしている。猫姉妹はよく食べていた。
「今日の修行はまだ序の口ということね」
「その通りだ、リアス。あの程度で音を上げるようでは、まず最終日まで生き残れないと思え。まあ、明日はできる限りクールダウンさせるつもりだが、そこからは今日以上に徹底的にやる。勝つためにな」
さて。本題を突いてみるとしよう。
「リアス。お前はライザーとの戦い。どうにかできると思うか?」
「朱乃、祐斗、それに白音と黒歌はゲームの経験がなくても実践経験が豊富だから、感じをつかめば戦えるでしょう」
黒歌と白音はリアスに預けていた間、眷属同然にはぐれの相手なんかをしていたらしい。出会うまでも、黒歌に至っては実戦を経験している。戦闘の経験値だけなら、リアス眷属では敵わないはずだ。
「イッセーとアーシアは実戦経験が皆無に等しいわ。それでもアーシアの回復、イッセーの『赤龍帝の籠手』は無視できない。相手もそれは理解しているはず。イッセーには最低でも相手から逃げられるぐらいの力が欲しいところね」
俺がリアスの言葉によく理解していると感心していると、イッセーのバカがバカ丸出しのことを言いだした。
「逃げるって……。そんなに難しいんですか?」
俺はイッセーの言葉に呆れ、頭を振らずにはいられなかった。
「お前は今日の修行で逃げ回ったな?」
「はい」
「結果、どうだった?」
言われてようやく理解したらしい。
「逃げるのも戦術の一つよ。いったん退いて態勢を立て直すのは立派な戦い方。そうやって勝つ方法もあるの」
俺が言おうかと思っていたことを、リアスがイッセーへと説明しはじめる。
「けれど、相手に背を向けて逃げるというのは、実はかなり難しいものよ。実力が拮抗している相手ならともかく、差が開いている強敵に背を向けて逃げ出すというのは殺してくださいと言っているようなものよ。そういう相手から無事に逃げられるのも実力のひとつ。イッセーとアーシアには、逃げ時も教える必要があるようね。それはこっちでやらせてもらうわ、ウィル。もちろん、面と向かって戦う術も二人が教えてくれるから覚悟なさい」
「了解っス」
「はい」
二人が同時に返事をする。
「お前が修行中、俺に背を向けて逃げ出した時、どれだけバカなことをしたかわかったか? あそこで殺されてても、文句は言えなかったぞ」
「はい。反省します」
「まあ、向かってきたところで勝てなかったけどな」
「食事を終えたらお風呂に入りましょうか。ここは温泉だから素敵なのよ」
温泉。これだけの美女、美少女が揃っていれば、まさに絶景。いや、桃源郷だ。
イッセーの方に目をやると、凄い興奮してるのが一瞬でわかる。
覗かないでどうするとか思ってるのだろうな。
「僕は覗かないよ、イッセー君」
祐斗はそんなイッセーにニコニコスマイルで言う。
「バッカ! お、おまえな!」
「あら、イッセー。私たちの入浴を覗きたいの?」
リアスの言葉で全員の視線がイッセーへと集まった。とりあえず便乗しておいた。
「なら、一緒に入る? 私は構わないわ」
クスッと小さく笑ってリアスは言う。
「朱乃はどう?」
「別に構いませんわ。弟に裸を見られるようなものですし。うふふ。殿方のお背中を流してみたいかもしれません」
満面の笑みで朱乃は肯定する。しかし弟か。まあ朱乃からすれば、そういう風に見えてもおかしくはないな。
「アーシアは? 愛しのイッセーとなら大丈夫よね?」
アーシア嬢ちゃんは顔を真っ赤にして、うつむいてから小さく頷いた。
「白音たちはどう?」
黒歌は「にゃはは」と笑い、グレイフィアとシバは沈黙。そして白音だけが明確な拒否反応を示した。両手でバッテン印を作る。
「……嫌です。ウィルさんならいいですけど」
おいおいおい。俺ならいいのか。そんなこと言われたら、俺突貫するかもしれないぞ。
と、内心で思っていると、グレイフィアの視線がこちらに向く。ゾクッと背筋が凍るような悪寒に襲われる。いや、はい。突貫しませんから許してください。
「じゃ、なしね。残念、イッセー」
「……覗いたら、恨みます」
「イッセー君、僕たちと裸の付き合いをしよう。背中、流すよ」
あ、俺も同じ時に入るの決定してるのか。後でゆっくり入ろうかと思ってたんだけどな。まあいいか。
「うっせぇぇぇぇッ! マジで殺すぞ、木場ぁぁぁぁ!」
いや、今のお前じゃ絶対に祐斗を殺すことはできないぞ。
まあ、冗談で言ってるだろうから、そこまでツッコむ必要もないな。
☆☆☆☆☆☆
夜も明けた修行二日目。
リビングにオカルト研究部部員が勢揃いしていた。ちなみに部員ではないが、シバも同席している。
俺は参加しない予定だったが、グレイフィアがどうせだから参加すると言いはじめ、流れ的に俺も逃げられなくなった。
イッセーに悪魔、天使、堕天使の主だった組織図や、有名な事柄などかなりの情報を教え込んでいる。
ある程度教えたところで、祐斗がイッセーに問題を出す。
「僕らの仇敵。神が率いる天使。その天使の最高位の名は? さらにそのメンバーは?」
「えっと、『熾天使』だろ。メンバーは……ミカエル、ラファエル、ガブリエル……うーん、ウリエルか」
「正解」
どうやら天使は覚えていたらしい。
バカではあっても、この程度はできて当然だ。人間界でもかなりメジャーな名前。間違える方が難しい。
しかし、かなりあやふやだったようにも見えた。『熾天使』でこれだと、『神の子を見張る者』はかなり厳しいんじゃないか。
「次に僕らの王、『魔王』様。四大魔王様を答えてもらおうかな」
「おう! 任せておけ! いずれ、出世してお会いする予定だ! バッチリ覚えてるぜ! ルシファー様、ベルゼブブ様、アスモデウス様! そして憧れの女性悪魔様であらせられるレヴィアタン様」
イッセーに憧れと言われているレヴィアタン――セラフォルーがどんな人物かを教えたら、どんな顔をするのか少し興味がある。
「正解」
「絶対にレヴィアタン様に会ってみせるぜ!」
「そんなに会いたいか?」
俺が何気なく言うと、イッセーは当然だと言わんばかりの視線を向けてきた。
「じゃあ、会わせてやろうか? 俺が声かけたら、動くかもしれんぞ」
「マジで……」
期待に満ちたイッセーの目。だが、そこまで言って俺は少し考えた。そして起こるだろう事柄が脳内に浮かび、訂正する。
「いや、あいつが関わると面倒だから、今の話はなしだ」
「そんな……っ!」
「まあ、地道に頑張れよ、下級悪魔君」
「それはさておき。イッセー君が一番苦手な堕天使の幹部を全部言ってもらおうかな」
唸っているが、イッセーは何とか足りない頭で答えを絞り出していく。
「堕天使の中枢組織を『神の子を見張る者』と言って、総督がアザゼル、副総督がシェムハザ。ここまでは完璧だ」
さすがにトップ二人と組織の名前くらいは完璧でないとな。まあ、幹部くらいは最低限覚えるものだが。
「で、幹部連中は……。アルマロス……、バラキエル……、タミエル……。あー、えーと、えーと、あれ? ベネなんとか、コ、コ、コ、コカイン……?」
最後思いっくそ適当に言ってやがる。
「ベネムエ、コカビエル、そしてサハリエルだよ。ちゃんと覚えないと。一応、これは基本だから。日本の首相や各大臣、近隣諸国の首相のお名前を覚えておくようなものだよ」
いや祐斗。多分だが、お前の言ったものをすべて覚えている日本人は少ないように思うぞ。少なくても若い世代は、特にそんなことに無関心なはずだ。覚えているとは思えない。
イッセーにとって、『神の子を見張る者』はこれから先、おそらく切っても切れない縁ができるだろう。何せ『神滅具』の一つ、『赤竜帝の籠手』を宿しているのだから。
いや、すでにできていると言っていいかもしれない。一度、『神器』を狙われて殺されているらしいからな。それがきっかけで悪魔となったと俺は聞いている。
祐斗に代わって、アーシア嬢ちゃんが授業をはじめる。
「コホン。では、僭越ながら私、アーシア・アルジェントが悪魔祓いの基本をお教えします」
イッセーがわざとらしく拍手をすると、途端にアーシア嬢ちゃんは赤面する。
そういうことが苦手だろうことくらいわかるだろうに、どうしてこういうことをするかと疑問に思う。
「え、えっとですね。以前、私が属していたところでは、二種類の悪魔祓いがありました」
「二種類?」
コクッと小さな頷きで、イッセーの問いに返すアーシア嬢ちゃん。
「一つはテレビや映画でも出ている悪魔祓いです。神父様が聖書の一節を読み、聖水を使い、人々の体に入り込んだ悪魔を追い払う『表』のエクソシストです。そして、『裏』が悪魔の皆さんにとって脅威となっています」
「イッセーも出会っているけれど、私たちにとって最悪の敵は神、あるいは堕天使に祝福された悪魔祓い師よ。彼らとは歴史の裏舞台で長年にわたって争ってきたわ。天使の持つ光の力を借り、常人離れした身体能力を駆使して全力で私たちを滅ぼしにくる」
あのクソ神父――フリードとかいうイカれた男の顔が脳裏を過る。おそらく、一度会っているというイッセーも同じ顔を思い浮かべていることだろう。
アーシア嬢ちゃんは持参したバックから、いろいろと取り出しはじめた。
リアスは汚物を触るかのように、表情まで歪めて小瓶を指で摘まんでいる。まあ、聖水が入ってるからそうなるのは当然だと思うが、だったら触らなければいいだろと俺は内心思った。
「では、聖水や聖書の特徴をお教えします。まず聖水。悪魔が触れると大変なことになります」
「大変なことって?」
イッセーが疑問に思って聞き返し、答えようとしたアーシア嬢ちゃんを目で制する。
「リアス。ちょっとその瓶貸してもらえるか?」
「ええ」
受け取った俺は、瓶の蓋を開けた。
そしてイッセーの横の空いていた席に腰を下ろす。隣では冷や汗を流しているイッセーの姿があった。
「あの、先輩。何をされるおつもりなのでしょうか……っ」
「ん~。実践? こういうのは体に覚えこませた方が速いからな。特にお前みたいなバカは」
「冗談じゃないっすよ。ヤバいことになるってのはわかってるんですから! 絶対にやりませんよ!」
「ウィル。さすがにそれは……っ」
リアスが言い淀む。
「まあ、ってのは冗談だ」
「笑えないんですけど……」
「笑わすつもりないからな」
「心臓に悪いんで、こういうこと止めてもらえませんか?」
「何で? こんないじめ甲斐のある奴珍しいし、楽しいからこれからもやるつもりなんだけど」
え~。と、言葉が出てきそうな表情で俺を見てくるイッセー。
「まあ、簡単に言うと、皮膚なんかを溶かしたりするな」
「そんなことになるのわかってて、俺にかけようとしてたんですか……」
「ああ。悪いか」
「悪いわっ!」
「まあ、やってないからいいだろ」
「そう言うなら、開けたままの瓶の蓋を閉めてもらえませんか」
言われて、俺はようやく開けたままになっていた瓶の蓋を閉めた。
安堵したものの、何をされるかわかったものではないと思ったのだろう。イッセーは俺から距離を取った。
俺もグレイフィアたちのいる、もといた席へと戻る。
「アーシア嬢ちゃんも、聖水にもう触れたらダメだからな?」
こうでも言っておかないと、信仰高かった嬢ちゃんのことだから触れるのではないかと不安になる。イッセーならともかく、アーシア嬢ちゃんのような子が触れるのは阻止するべきだ。
「うぅ、そうでした……。私、もう聖水を直に触れられません……」
俺の言葉にどことなくダメージを受けているようだ。とは言っても、聖水で滅びでもされても困るからな。悪魔なのだから、そのあたりは理解しておいてもらわないと。
「作り方も後でお教えします。役に立つかどうかわかりませんけど、いくつか製法があるんです」
アーシア嬢ちゃんは楽しそうだった。
自分の得意とするものを説明したりするのは、楽しいもんだからな。
今まで生活の一部だったアーシア嬢ちゃんとしては、教会関連のことは得意分野と言ってもいいものだ。楽しくないはずがない。
「次は聖書です。小さい頃から毎日読んでいました。今は一節でも読むと頭痛が凄まじいので困ってます」
「悪魔だもの」
「悪魔ですもんね」
「……悪魔」
「悪魔だからな」
「うふふ、悪魔は大ダメージ」
「うぅぅ、私、もう聖書も読めません」
リアス、祐斗、白音、俺、朱乃から言われ、アーシア嬢ちゃんが涙目になる。今にも泣きだしそうな表情だが、大丈夫か……。
「でもでも、この一節は私の好きな部分なんですよ……。ああ、主よ。聖書を読めなくなった罪深き私をお許し――あう!」
悪魔が神に祈っちゃダメでしょ。
まあ、今まで日常的にしていたことを、そうすぐすぐに止められるとも思わんが。
☆☆☆☆☆☆
修行も最終日を残すのみとなった夜。
ベッドで眠ろうとしていた俺は、目が冴えてどうしても寝れなかった。
部屋を見回せば、祐斗はすやすやとよく寝ている。対してイッセーは、だらしない間抜け顔を晒して寝ていた。どうせまた、エロい夢でも見ていることだろう。
夜食でも食べようと思い、俺は寝床を抜け出した。台所で冷蔵庫を漁りはじめる。
酒でもないかと淡い期待を抱いて冷蔵庫などいろいろと探ってみるが、当然の如く置いていなかった。まあ、夜食を作る程度の材料は揃っている。
お茶を沸かして、用意した茶碗の中に具材を突っ込んで俺は誰でも作れるような梅茶漬けを二人分作った。リビングに人がいるのが確認できていた。俺の分を作るなら、もう一人分も大した手間ではない。
「ほらよ。食え」
「あら? 起きたの? お茶漬け? ありがと」
リビングにいたのはリアス。
「ちょうど良かったわ。少し話さない?」
テーブルの上ではティーライトキャンドルが灯をともしていた。リアスは雰囲気作りとして用いているのだろう。俺たちに灯りはあってもなくても同じだ。
「いろいろと苦労が絶えないな。『王』ってのは」
「それはあなたも同じじゃないかしら?」
「俺の場合、『女王』が優秀過ぎるくらいだ。あ、言っておくけど、朱乃が優秀じゃないってわけじゃないからな」
「それくらいわかってるわ。確かにグレイフィアは優秀過ぎると言わざるを得ない『女王』ね。あなたがもう少し前から活躍していたなら、お義姉様と同じく最強の『女王』と称される双璧となっていたことでしょう。『王』に対して、対等以上にものを言える『女王』は少ないしね。あなたもお兄様同様、尻に敷かれるタイプかしらね」
笑みを浮かべながら、嫌なことをリアスは言ってくる。
リアスの対面に腰を下ろす。
赤いネグリジェを着たリアスは、紅の髪を一つに束ねてメガネをかけている。
純白のネグリジェを好んで着るグレイフィアとは、また違った魅力があった。
「似合ってるな。ネグリジェもメガネも」
「ありがと。気分でかけてるだけなのだけど、考え事をしてる時にかけると頭が回るの。ふふふ、人間界の暮らしが長い証拠ね」
「まあ、いいんじゃないか。人間のことをよく知って、その営みを真似るのは。悪魔だ、人間だって、種族でわざわざ区別する意味はないように俺は思う。実際、人間から悪魔になってる奴の方が、今の冥界には多いかもしれんぞ」
「それはあなたの言う通りかもね」
テーブルに広げた地図のようなものに目を向けつつも、俺が作った梅茶漬けを口にするリアス。驚いたように口に手を当てる。
「これは意外だったわ……っ! 結構美味しい!」
「これでも料理には自信があるんだよ。とは言っても、簡単なものに限るけどな。一人暮らしが長かったからな。食事は自分で作るしかなかったんだよ」
「レーティングゲームの作戦を練ってるのか?」
地図らしきものと一緒に置かれているのは、フォーメーションなどを所狭しと書き込んだ紙。
しかしリアスはノートを閉じる。
「……正直、こんなものを読んでも気休めなのよね」
ため息交じりの発言。
「相手が上級悪魔なら、これを読んでいれば戦いはできるわ。この本は研究された戦いのマニュアルだもの。問題はそこじゃないのよね」
「不死鳥か?」
「ええ。ライザー本人。不死鳥フェニックスが相手というのが、一番の問題よ。あなたなら勝てるかもしれないけれど」
「かもじゃなくて、間違いなく勝てるだろうな。あの程度の相手」
「羨ましいわ。そう言えるだけの力を持つあなたが……」
どこか暗い表情を浮かべながらの発言だった。
まあ、理由は容易に想像できる。
「伝説の聖獣でもあるフェニックス。命を司り、人々に崇められた聖なる獣。流す涙はいかなる傷をも治し、その身に流れる血を飲めば不老不死を手に入れられると人間界の国々に伝説を残した」
そのもう一つの種族こそが、悪魔の中にあった。侯爵の地位を持ち、『七十二柱』にも数えられた不死の鳥。
「フェニックスとフェネクスとして人間たちには別で扱われてるけれど、能力はほとんど一緒。――つまり不死身。今の私たちが相手になると思う?」
「ならないだろうな」
「正直ね。まあ、そうなのでしょうね。ライザーの公式『レーティングゲーム』の戦績は十戦八勝二敗。二敗は懇意にしている家系への配慮で、わざと負けただけ。実質全勝よ。すでに公式タイトルを奪取する候補にもなっているわ」
「なるほどな。まあ、あの能力があれば当然の結果と言ってもいいだろうな」
「ええ。当然の結果。本当にその通りよ」
ライザーとかいう不死鳥をどうやって倒すか、それをずっとここでリアスは考えていた。
自分たちの今の実力では、どうやっても勝てないかもしれない。それをわかっていながら、もがいて勝利を掴もうとしている。
「ライザーが婚約相手に選ばれた時、嫌な予感がしたの。そうね、今思えばこうなることを見越して、お父様たちは最初から仕組んでいたんだわ。私が否応なしに結婚するように、ライザーを当てた。こうして身内同士のゲームになってもライザーが相手なら、フェニックスが相手なら、勝てるはずがないと踏んでいたんだわ。チェスで言うところのハメ手。スウィンドルね」
まあ不死身相手でなかったとしても、今のリアスでは絶対に勝てない相手を婚約者にしようとしたってことだろう。万一に備え、不死身の相手を選んだってことか。
どんなに強かろうと、娘が確実に結婚するしかなくなる相手。そうして選ばれたのが不死鳥――フェニックスだったってわけだ。
「レーティングゲームが悪魔の中で流行るようになって、一番台頭したのがフェニックス家だったってのは知ってる?」
「まあ、な。さすがにそれくらいの情報は得てる。いくら堕落な生活をしていたって言ってもな」
「悪魔同士で戦うなんて、ゲームをするようになるまでほとんどなかったわ」
「まあ、俺は何度か悪魔同士の争いに身を投じてたがな。内戦も然り、それ以前にも何度かな」
「そうだったの? ともかく、『王』も参加す理宇このゲームで、フェニックスの強さが浮き彫りになったの。フェニックス家は公式『レーティングゲーム』で最強クラスの筆頭。――不死身。これがどれだけ恐ろしいものか、悪魔たちははじめて理解したのよ」
「けど、不死鳥を倒す手段ならあるだろ」
俺がそう言ってやると、リアスは小さく頷いてから続ける。
「確かに倒す方法は二つあるわ。圧倒的な力で押し通すか、起き上がるたびに何度も何度も倒して相手の精神を潰すか。前者は神クラスの力が必要。後者はライザーの精神が尽きるまでこちらのスタミナを保つこと」
「身体が再生して不死身でも心、精神までは不死身じゃないってこったな」
「ええ。倒すたび確実に相手の精神は疲弊する。フェニックスの精神を押しつぶせば私たちの勝ちよ。再生も止まり、相手は倒れるわ。まあ、神みたいに一撃で相手の精神も肉体も奪い去る力があれば一番楽なんでしょうけどね。残念ながら、今の私たちにはどちらも難しいでしょうね」
もし仮にどちらかを実行できる可能性があるとすれば、それはイッセーだ。しかしポテンシャルの話であり、現在の実力ではまず不可能と言っていい。
修行を積んだと言っても、まだ数日。そんな簡単に実力はつくものじゃない。まだまだイッセーが不死鳥を倒すまでには至らないだろう。
「少し風に当たりたいわ。場所を変えましょうか」
「ああ」
第9話です。
今回も一応は自分の設定した期日に間に合うように投稿できました。これからは本命の小説と何とか両立させていきたい。けど、まだ当分無理そうです。
今回は内容としてはいろいろと反省の残るものとなりました。基本的には原作をなぞっただけとなってしまいました。
まあ、最後のところはイッセーの役目が本作主人公へと変わりましたが。それ以外は基本的には原作そのままとも言っていいものになりました。
もう少しオリジナルの要素やシーンを入れたいとは思いましたが、今回はできませんでした。
次は何とかそのあたりも気を付けて書いていけたらと思っています。
次回の投稿は予定としては、4月の6日土曜日の朝7時になると思います。