ハイスクールD×D 魔王ルシファーの親友はルシファー 作:竜星
「ひーひー……」
「おいイッセー。遅いぞ。もう少しペースを上げて歩け。他の奴に負けて別荘に着くなんてやめてくれよ」
「……ウィル先輩。そう言うなら、自分の足で歩いてもらえませんか……」
イッセーは「ぜーはー、ぜーはー……っ」と言いながら、恨めしそうな目で俺を見てくる。それが心地いい。
背中に大量の荷物を詰め込んだリュックサックをイッセーは背負っている。さらに肩にも荷物を提げていた。それでも足りないと思い、前にもリュックを提げさせている。
背中の荷物は俺のもの。必要な荷物もあるが、その大半は重さを稼ぐためだけに詰め込んだものだ。ちなみにそのリュックサックの上に胡坐をかいて俺は座っている。そしてリアスと朱乃、イッセー自身の荷物も持たせていた。
全員分を持たせてもよかったが、さすがに別荘に着く前に潰れる可能性を考慮し、他は祐斗と白音で分担させている。
「おいイッセー。頑張れよ。どんどん遅くなってるぞ~」
「……そりゃ、これだけの荷物を持たされた挙句、人に乗られてたら歩くペースも遅くなりますよ」
「これも修行の一環なんだから仕方ないだろ。お前は基礎能力からして、からっきしだからな。これくらいして向上させるべきなんだよ」
「お先に」
山菜を抱えた祐斗が俺たちの横を通り過ぎていく。汗一つかくことなく、苦もない様子ですいすいと進んでいた。
荷物を背負ったまま山菜を採ってきているということは、随分と余裕があるということだろう。イッセーよりも持っている荷物の量は多いはずだが、基礎からして比べ物にならないのはわかっていたことだ。当然か。
「だー!! くっそっー!!」
同じ男として負けられないと思ったのか、少しだけスピードが上がる。
「ウィルさん。お先です」
「頑張れよ、白音」
「大丈夫です。この程度の荷物、なんてことないですから」
イッセーの五倍近い荷物を背負った白音がそんなことを呟き、涼しい顔で通り過ぎていく。
「うおりゃあああぁぁぁ!!」
「おっ! その意気だぞ、イッセー」
更にスピードを上げたイッセーに、そう俺は声をかける。
そして一時間近くを費やし、ようやくイッセーは別荘へと辿り着く。
到着する直前、俺が荷物の上から勢いよく飛び降りてやったことで、バランスを崩したイッセーは盛大に転んだ。
「計画通り」
「酷いっすよ、ウィル先輩」
半泣き顔でイッセーが言ってくるが、気にすることなく俺は自分の荷物をかっさらって右肩に担ぐ。
「イッセー。これくらいの荷物、指だけで持てるようにならないとな」
俺は担いでいた荷物を右の人差し指だけで持って、軽く投げてから肩に担ぎなおす。その時、中に入っていた荷物が凄い音を鳴らした。
「何の音ですか?」
「ん? 何って、適当に詰め込んだ、ダンベルとかいろいろと重そうなトレーニング器具だけど?」
「何でそんなものが……!?」
「そんなの、お前に持たせるつもりだったからに決まってるだろ」
「酷っ!!」
真顔で言ってから、俺は別荘へと入っていく。
☆☆☆☆☆☆
「それじゃ、各々の修行をはじめるとするか。まず最初に言っておくが、お前たちに戦い方を教えるのは、俺とグレイフィア。過去の悪魔の内戦を生き抜いた精鋭だ。後、イッセーとアーシアに魔力や魔法について教えるのは、俺の『僧侶』シバだ。初顔合わせだから、とりあえず自己紹介したらどうだ?」
「グレモリー眷属の皆々様、はじめまして。私はウィルフレッド様の眷属となりましたシバと申します。念のために言っておきますと、これは名乗っているだけで本名ではありませんので」
シバのことを、妙にエロい目つきで見ているイッセー。ぶん殴ってやりたいところだが、それは今じゃなくてもできるから抑えることにした。
「どういうこと?」
リアスが疑問に思って、シバに問う。
「私は生まれてから今まで名を持っておりません。シバという名前も、先祖の名前を拝借させていただいているだけです」
「先祖というと?」
「シバの女王。私は魔法王ソロモンと、シバの女王の末裔ということになります。以前、ウィルフレッド様には説明させていただきましたが」
その衝撃の事実にウィルフレッドを除く全員が驚いていた。
そう言えば、このことをグレイフィアたちにも説明していなかったことを、俺は今更のように思い出す。
さすがにソロモンやシバの名前は、イッセーも知っているようだ。こいつ、いろいろと知らないからな。もしかしたらと思っていたが、まあいろいろと人間界のフィクションに使われてるらしいし、知ってて当然か。
「私たちの先祖を使役した、あのソロモン王の末裔……」
信じられないもといった様子で、しかしどこか感慨深そうにリアスが呟いた。
俺とグレイフィア、シバ以外の全員は別荘の庭に生い茂る芝生の上に座っている。俺たちはその前に立っているという状態だ。
「さて話を戻すぞ。今回の修行、俺のもとで修行するのはイッセーと祐斗、白音の三人だ。リアス、朱乃、黒歌、アーシアの四人は、グレイフィアに任せる。悪いな、グレイフィア。四人も押し付けて」
「問題ないわ。リアスたちはどちらかと言えば、私が指導するべきだとは思っていたから。まあ、加減するつもりはないけど」
「それでいい。俺も加減するつもりはないからな。イッセー」
「はい」
「今まで行ってきた早朝修行。あれが生温かったと思い知らせてやる」
「……」
俺が若干のオーラを放って言うと、ビクついて黙り込んだ。
「リアス。あなたも徹底的に戦闘技術を叩き込んであげるわ。あなたは優秀ではあるけど、それはあくまで若手悪魔の中ではの話ということは理解している?」
「もちろんよ」
「それならいいわ。次期グレモリー当主となるあなたは、今のままではダメよ。上級悪魔達の中に入っても、その力が通じるものとする必要があるわ。時期が少し早いとは思うけど、いい機会だからきっちり鍛えてあげるわ。朱乃、あなたも次期グレモリー当主の『女王』として相応しい力を身につけさせてあげる」
ゴクッと二人が息を呑んだのがわかった。そしてグレイフィアの視線が妖怪姿の黒歌へと向く。
ちなみに黒歌と白音は一般生徒がいない場所では、たいてい人間ではなく妖怪の姿を取っている。そっちの方が楽らしい。まあ、もともと妖怪なのだから当然だ。
「黒歌。あなたもウィルの眷属として、恥ずかしくない程度の実力をつけてもらうわ。ウィルに弱い眷属なんていてはダメなの。その意味はわかるわよね?」
「……もちろんにゃ!」
「それならよかったわ」
どこか不思議そうな感じに、グレモリー眷属たちは聞き入っていた。
「さて男共と白音。最初に言っておく。死ぬなよ」
俺はサラッと笑顔で言ってやる。
「まあ、そうなる前に止めるようにはするけど。白音、お前も俺の眷属。今のままではダメなのはわかってるな?」
「もちろんです。私はもっと強くならなければなりません。姉様にだって負けられません」
「その意気だ。お前の潜在的な能力はかなりのものだ。俺がそれを引き出してやる」
「お願いします」
祐斗を見る。
「わかってると思うが、『騎士』は『王』を守護する存在だ。つまりお前は腹心の朱乃以外の誰よりも強くなければならない。いや、朱乃よりも強くなることを求められると思え。幸い、俺は剣にも心得がある。剣術の基礎はしっかりしてるだろうから、後はそれを俺が伸ばせるところまで伸ばしてやる」
「頑張ります」
「そしてイッセー」
「はい!」
「お前は最終日まで『神器』を封印しろ。最終日に徹底的に『赤竜帝の籠手』の使い方を教え込んでやる。と言っても、俺は所有者だったわけじゃないから、できる限りだが。今までの修行と違って、これからは目と回避だけじゃなく、攻撃も教え込む。当然だが、他の誰よりも厳しいメニューになることを覚悟しろ」
「了解です」
「それとリアス」
「何かしら?」
不思議そうに俺へと視線を向けるリアス。
「イッセーとアーシア。この二人に悪魔世界を含め、今の三大勢力の情勢なんかを教えてやれ。さすがに、そこまでの面倒は見れんからな」
「そうね、教えておくべきね。じゃあ、明日の朝に時間をちょうだい」
「わかった。さて、それじゃ地獄の集中合宿を始めるとするか」
☆☆☆☆☆☆
「何となく理解してたと思うが、修行は俺と実戦形式でしてもらう。最初は白音、お前だ。いいな?」
「はい」
白音が構える。隙は一切なかった。が、隙があろうとなかろうと関係ない。白音の防御力を上回る攻撃をすればいいだけのことだ。
「行くぞ」
間合いを詰めると、俺は拳をまっすぐに突き出す。腕をクロスさせて防御する白音だったが、耐え切れずに後方へと吹っ飛んでいく。しかし、それほどのダメージはないようだ。
「さすがです、ウィルさん。でも私も強くならないといけないので」
「その通りだ」
イッセーと祐斗はと言うと、俺が白音を教えている間は与えたメニューをこなしてもらっている。
祐斗は素振り。それだけでも十分に強くなれる素質がある。だが、それをさらに伸ばすなら、直接強い相手と戦うに越したことはない。
イッセーにはアーシアと共に、シバのもとで魔力の修行を受けてもらっている。
アーシアはグレイフィアに見てもらうことになっているが、おそらくはシバが中心的に教えることになるはずだ。
時間になったら戻ってくるようにイッセーには言ってある。
「今度はお前から打ち込んで来い」
「行きます。――えいっ!」
強烈な拳が打ち込まれるが、それをあっさりと片手だけで防ぐ。体の芯にまで響く重い一撃は、周囲の大地の様相を変えるだけの圧力があった。
だからこそ白音は驚愕している。さすがに片手で防がれるとは思いもしなかったのだろう。
ムッとした表情を浮かべ、更にもう一撃。それも防ぐと、蹴りを放ってきた。しかし、ことごとくを俺は防いでやる。
「お前を『戦車』にしたのは、どうやら間違ってなかったみたいだな。筋はいい。けど、その程度じゃまだ俺に攻撃を届かせることはできない!」
片手で防いだ白音の足をそのまま掴むと、近くにあった木めがけて勢いよく投げつける。バキッと大きな音を立てて木は砕け散り、白音の体は後方の木々をも薙ぎ倒していった。
「白音、お前はもっと強くなれる。仙術を併用してみろ。お前は基本的に素の腕力に頼るきらいがある。だが、お前は仙術を扱えるんだ。だったら、使うべきだろ」
「私は私の力だけで強くなりたいんです」
俺のところまで傷つきながらも戻ってきた白音が言う。
「だから、仙術もお前の力だろ。黒歌は格闘に仙術を用いることを躊躇うことはないはずだ。格闘でも黒歌に負けることになるぞ」
俺がそう言うと、白音は意を決したような表情を浮かべる。
周囲の気がはっきりと目視でき、白音の体へと集まっていく。そして集まった気を、白音は両手に凝縮させる。白音から感じる力が飛躍的に増大した。
「それでいい。お前はもっと強くなれる」
「えい――っ!」
また片手で防ごうとするが、さすがに今回はそうもいかなかった。さきほどよりも鋭く、そして重い一撃が体の奥底まで響いてくる。
片手では耐え切ることができずに吹っ飛ばされるが、すぐに体勢を整えた。
そんな俺たちの修行の様子を見ていた祐斗は小さく、「凄い……」と漏らしていた。
「白音。ここからは少し本気を出すからな」
「はい」
その意味を白音がきちんと理解しているかはわからない。
間合いを詰めて五割程度の加減で拳を放つが、横に移動して白音は避ける。ここまでは計算の範疇だ。
空いていた左手に魔力で炎を生成して白音めがけて放つ。おそらくフェニックスと同等以上の炎であろうという自負はある。
実際に相手取ったことないため、真偽のほどはわからない。
その炎は白音の全身を覆い、半径三十メートル四方を焼け野原に豹変させた。
表情から察するに、白音はこの攻撃をまったく理解できていなかったということだろう。
白音は俺の「少し本気を出す」を、格闘戦における本気と受け取っていたらしい。しかし俺はすべてを含めた攻撃での本気という意味合いで言った。
「相手が同じ土俵で戦うとは限らないんだ。それを常に頭に置いておけ。修行だからと、油断するな。わかったか?」
「はい」
俺は白音へと近づくと、頭を撫でてやる。すると、ぴくっと耳と尻尾が反応した。顔もどこか嬉しそうだ。
「まあ、急ぐことはない。お前のペースで頑張れ」
最後に俺は優しい言葉をかけてやり、白音の修行を一旦終了させる。
☆☆☆☆☆☆
「次は祐斗。お前だな」
「よろしくお願いします」
律儀にも頭を深く下げながら言ってきた。
俺と祐斗は揃って木刀を手にしている。真剣で相手してもよかったが、最悪それだと殺しかねない。さすがにまずいと思い、木刀での修行へ変更した。
「祐斗。一応聞いておくが、まさかただ素振りしてたなんて言わないよな?」
「はい。僕が今まで戦った中で最強と思える剣士を相手に想像して、振っていました」
「それならいい。まあ、その最強の相手が塗り替えられる可能性もあるけどな」
俺が二ッと笑むと、爽やかなイケメンスマイルを返してきた祐斗が、すぐに真剣な表情で間合いを詰めてきた。
さすがに『騎士』のクラスを与えられた転生悪魔なだけあり、そのスピードは速い。一瞬で背後を取られ、木刀が振り下ろされる。
しかし背後から振り下ろされる木刀を、前を向いたまま防いだ。魔力など一切使わず、木刀を頭の上くらいの位置にまで動かし、祐斗の攻撃を防ぎきる。
「さすがですね……。この一撃は取れると思っていたんですけど」
「そんなに甘いと思われてたとすれば、その期待には添えないな」
「そのようですね」
祐斗の攻撃を防いでいる木刀を振るい、宙へと大きく飛び退かせる。翼で宙に滞空する祐斗は、じっくりと俺の様子を窺っていた。
何も考えずに突っ込んでこないだけ、状況判断ができているということだろう。
「どうして攻撃してこない?」
「僕から攻撃すれば、間違いなく返り討ちに合いますから。だからと言って、防御に徹してどうにかできるとも思っていませんよ、先輩」
「ふんっ、それをわかっているだけよしとしよう。が、『騎士』としてはダメだってのはわかってるだろ? お前はリアスを守る盾となり、剣ともならなければならないんだからな」
「……」
祐斗は押し黙る。しかし、心の中では理解しているはずだ。
俺は翼を器用にも二枚だけ出して宙に浮き、祐斗との間合いを詰めていく。
祐斗は逃げようともせず、隙のない体勢で待ち構えている。上段から力任せに、容赦なく木刀を振り下ろす。祐斗の木刀をへし折るつもりだった。
「隙ありですよ」
俺が攻撃のモーションにある中、大きく空いている上半身に祐斗の振るう木刀が迫る。
「あるわけないだろ」
その祐斗の攻撃を、俺は右足で防いだ。
一撃を取ったと思っただろう祐斗はいつもの爽やかフェイスではない。表情は驚愕に塗り替えられていた。まさか、そんな方法で防いでくるとは思っていなかったとでも言うかのように。
「なんて言うか、先輩の剣術は自由ですね……」
「当然だ。俺を縛れるのは、俺だけだ! ……いや、グレイフィアがいるか……」
と、俺は勢いよく言った後に、幼馴染にして『女王』でもある女のことを思い出して訂正する。
それに祐斗は何とも言えない表情を浮かべていた。
俺たちは意図したかのように、二人して同時に地上へ降り立つ。五メートルほどの距離を取って陣取る。
「……仕切り直すか。それと祐斗。強くなる一番手っ取り早い方法を教えてやるよ。それはな、自分よりも格上の相手と戦い続けることだ。それも中途半端な格上じゃない。圧倒的な格上だ。そういう意味では俺との修行は最高のものだ」
「そうですね。存分に役立たせてもらいます、先輩」
今度は祐斗は自分から攻めてきた。
高速のスピードを生かし、俺の背後へと回る。そこでスピードを殺すことなく、ゼロ距離まで肉薄して木刀を振り下ろす。
普通に考えれば、この攻撃は間違いなく直撃する。が、俺は素早く逆手に木刀を握り直すと、そのまま弾き飛ばす。
右手から振るったのでは間違いなく間に合わなかったが、左なら防ぐことは可能だった。
「……一撃が遠いです」
「簡単に取らせるわけないだろ。祐斗、お前の修行での目標は、俺から一撃取ることだ。それができるようになれば、とりあえず及第点だ」
まあ今回はという言葉が、前につくが。それは口に出さなくてもいいだろう。
「そろそろイッセーの修行の時間か。まあ、俺から一撃を取りたかったら、イメージトレーニングを欠かさないことだ。そうすれば、取れるかもしれんぞ」
「かも、ですか……。本当に遠いですね」
笑いながら祐斗は言った。
☆☆☆☆☆☆
「さてイッセー。修行をはじめるわけだが、まずは一発殴らせろ」
「何で!?」
「そんなの、お前がシバをエロい目で舐め回すように見てたからに決まってるだろ。わざわざ言われないとわからんのか」
俺の言葉を受けて、全身を震わせるイッセー。
「そんなの仕方ないじゃないですか!! あんな魅惑の体をした女の子がいたら、エロい目で見るのは男として当然のことでしょっ!!」
俺は頭をポリポリと掻きながら、大きなため息を一つ吐く。
そしてゆっくりとイッセーに近づくと、とりあえず一発殴り飛ばす。
「ぐは……っ」
と呻き声を上げているが、知ったことではない。
「本当にどうしようもないな、お前は」
「先輩はいいですよ!! 自然にかわいい女の子が寄ってくるんですから……っ!! でも、俺は……っ!!」
「アーシア嬢ちゃんがいるだろ」
「そうですけど……。俺の夢はあくまでもハーレム王ですから!!」
またそれかと言いたくなる。
まあ、イッセーはドライグを宿しているわけで、ハーレムを実現できる可能性は十分にあると思う。
その後が大変だろうことを、今のイッセーは全然わかっていない。女という生物の厄介さ。おそらく、それをイッセーはまったくと言っていいほど理解していないはずだ。
女が厄介なのは、人間も悪魔も、あらゆる種族において共通している。
「まあいい。お前は悪魔全体で見ても、最弱かもしれん。子供に負けてもおかしくない。あくまで素の状態でなら、な。だが、お前には『神器』がある。それを用いれば、かなり力を補強できる。が、それじゃ意味がない。素を強化してこそ、『神器』は輝く」
「……」
俺が言っていることを理解しているのかいないのかよくわからない表情だ。
「とりあえず修行開始だ。攻撃してこい」
拳を握ってイッセーが俺へ突き出してくる。
しかしあっさりと避けられた。当然だ、素人同然の拳を避けれないはずもない。
それでも諦めずイッセーは俺へと拳をひたすらに向けてくる。が、どれも素人に毛が生えたとも言えない程度のものだ。
俺はイッセーの突き出された腕を掴むと、背負い投げで地面へ叩きつける。
「くっそーっ!!」
「まだまだだな。まあ、お前がこの修行期間の間に、俺に攻撃を当てられるようになることはないだろうな。祐斗なら可能性は微かながらにあるが、今のお前がいくら成長してもたかが知れている。『神器』を使っても、おそらく無理だ」
「……」
自分の力量は理解しているのか、「そんことはない」と反発してくることはなかった。
イッセーの構えはお世辞にも、隙がないとは言えない。いや、隙しかなかった。攻撃を通そうと思えば、おそらくどこからでも可能だろう。
戦いを知らない素人の構え。そうとしか形容できない。
早朝修行の時は力を抜いていた俺だったが、今は全力に近い度合いで攻撃を仕掛けていた。
その攻撃を避けるのではなく、イッセーは無我夢中で逃げている。まあ、それも一つの生き残る方法ではあった。
「おいおいおい。そんなことを俺が許すと思ってんのか」
俺はイッセーのほぼ足元に魔力を放つ。爆発が起こってイッセーが吹っ飛んだ。
「お~、相変わらずよく飛ぶな。絶景かな」
と、俺は額に手を当てながら、吹っ飛ぶイッセーを眺める。
爆発によって上半身の服はほとんど破れ、煤で汚れていた。
「げほ……げほっ」
地面に転がるイッセーが咳き込む。まだ時間がそれほど経っていないというのに、息も荒げていた。
体力などの基礎ステータスを向上させたとは言っても、本来の能力からして低い。すぐに長時間の戦闘に耐えられる肉体を作ることなど不可能だ。
今のイッセーでは、このあたりが限度。普通なら、そう思って休ませる。しかし俺は違う。休ませることなく、追い込んでいく。
「立て、イッセー。こんなところで死にたくないならな」
言って魔力を放ち続ける。十や二十じゃない。千に迫ろうかという魔力の群がりが、空高くに展開された魔方陣から流星の如く降り注ぐ。
このすべてから逃れることは、今のイッセーにはまず不可能だ。
「先輩。俺を殺す気ですか!!」
「言ったろ。死ぬなよって」
「鬼が!!」
「残念だったな。……悪魔だ」
二ッと笑んで俺は言う。
息も絶え絶えに逃げ回るイッセーだが、俺の放った魔力のことごとくが直撃する。死なない程度に加減している。
それでも大量の隕石が激突したかのように、大地に大量のクレーターを穿ちながら爆発を起こす。
その渦中にあるイッセーの身がただではすまないだろうことは容易に予測できた。
爆風が全身を襲い、衝撃も一身に受けている。イッセーにとっては、これだけでもいい修行になるかもしれないとさえ思えてしまう。
白音や祐斗には初日の今日は軽めだったが、普段から修行していることもあってイッセーには飛ばし気味なところがあった。しかし一番弱い以上、これくらいでいいのかもしれない。
「まだまだ行くぞ」
黒と銀が混じったような色の魔力が、俺の右手の上で巨大な球体の形を形成していく。その巨大さはすでに俺の百八十センチある身長の優に十倍はある。
球体から滲み出るオーラは不吉そのもの。
「…………マジで……」
それを見たイッセーは、体の疲労など吹っ飛んだかのように一目散に逃げ出した。
もちろん許さん!!
「喰らっとけ!!」
イッセーに向けて放つ。
必死に逃げるイッセーだが、それよりも魔力の球の方がスピードが速く、一気に距離が縮まっていく。
「うがあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――っ!!」
今までにないほどのとてつもない破壊がもたらさられる。
周囲一帯が一瞬にして、廃墟と化す。
すでに焼け野原となっていた場所だが、微かに残っていた木々や、その残骸は例外なく消え失せ、大地は広大に広がる深いクレーターに穿たれ、無事だったところも砂に埋め尽くされている。
そんな中に一人、ぴくぴくと震える男が倒れていた。――イッセーだ。
あの攻撃をまともに受けながら、生きているとはさすがに予想外。加減したとはいえ、死んでいるのではと思っていたほどだ。
「……さすがにやり過ぎたか。今日はこの程度にしておいてやるよ」
近くで俺たちの修行を見守っていた白音と祐斗は、うまく避難しているだろうと勝手に決めつけ、二人を探す。
それからしばらくしてイッセーたちと様子を見に行った別グループは、まさに地獄絵図だった。
グレイフィアがもう加減なしに、徹底的にリアスと朱乃を相手取り、魔力攻撃によって圧倒していた。
周囲も原形を留めておらず、俺が最後に放った攻撃と同じく、大地を荒らしまくっていた。
黒歌も戦闘に参加していたようではあったが、地面で目を回して伸びている。
そんな中、別荘だけが無事だったのは奇跡と言っていいだろう。
第8話です。
とりあえず、フェニックス編は完結させちゃいたいと思い、ペースよく書いています。
そこからまた不定期投稿になるかもしれません。
本編ですが、もう少し徹底的に鍛えられたのではとも思いますが、何分まだまだ拙い部分がありますので、これが今できる精一杯でした。
改稿などでもう少しうまく直せるようになれば、いずれはしてみたいと思います。
次回もまた修行編の予定です。多分、間延びしてるなと思えば、すっ飛ばしてレイティングゲーム突入ってなるかもしれません。
そこは一度書き上げてみないとわかりません。
では、次回も早めに投稿したいと思います。
一応は土曜日の7時投稿の予定です。それより早くなることはないと思いますが、遅くなる可能性はあります。
その時は申し訳ありません。