『アハはははハ!』
「はあああッ‼︎」
少女が剣を振るタイミングに合わせて刀を振るう。レミリアがメイドを連れてくるまでは、時間を稼がなければ…!
「散符【エレメントパーティクル】!」
水の魔力を込めてスペルを唱える。積極的に少女は狙わない。時間稼ぎとして前方へ撒き散らすが、
『アハは、これじゃ全然足りナいわ!』
少女の炎の前に全て蒸発してしまう。そのまま剣を振る少女から距離を取ろうと後ろへ飛んだが、それを待っていた様に少女がスペルを唱えた。
『逃さナイよ? 禁忌【カゴメカゴメ】!」
俺の周囲を小さい弾幕が取り囲む。だが、取り囲んだ位置のままこちらには向かって来ない。構わず上に行こうとした所で、でかい玉が目に入った。
「あっぶね何だよそれ!」
でかい玉と俺を取り囲んだ玉が接触した瞬間、全ての玉が俺に向けて殺到した。上に行こうとしたお陰で大した密度にはならず、いくらか刀でさばいた程度で抜け出した。だが、
「またかよ畜生が!」
今度はより密度の高い弾幕が俺を囲んだ。何とか刀で弾幕を切って出ようとするがー
『逃サないって言っタでショ!アハはハハは!』
少女の手から先程より大きな弾幕が放たれる。先程より速いそれを、勢いを殺さずまともにくらった。
「がふっ…!」
くらったそのままの勢いで床に激突する。刀を支えに立ち上がるが、その場に膝をつく。同時に俺は悟った。
このままでは俺は間違いなく死ぬ。
この館に来てから何度か戦い、それなりに危険もあった。
だがアイツらとの戦いはあくまで「弾幕ごっこ」だった。弾幕を撃ち合うものの殺す気は無い。純粋な決闘としての戦いだった。
だが、あの少女は違う。
今のスペルも今までの剣も、全て相手を殺す為のものだった。しかも本人に自覚が無い分タチが悪い。
少女が降りてくる。剣を携えたまま。
『まだ壊れテない!アハは、もっと遊ビましょウ!』
「ぐっ…!」
体に鞭打って何とか躱す。そのまま距離を取り、刀を仕舞う。追撃を仕掛けてくる少女に向かい、一閃。
「壊符【リベリオン】!」
斬撃を放つのでは無く、魔力を込めた刃をそのまま少女の剣へぶつける。魔力によって強化された刀と剣が火花を散らす。
そして、少女の持つ剣に、一筋のビビが入った。
「……!」
いける。更に魔力を込め、剣のビビが増えていく。
「う…おおお‼︎」
俺の刀が少女の剣を分断する、その寸前に。
『あアア…アアアアアアアアア!!』
「!!」
尋常では無い量の炎が少女から立ち上る。床の一部ごと吹き飛び、刀を突き刺して何とか静止する。顔を上げた時には既に少女は剣を振りかざしていた。
『ウアアアアッ‼︎」
刀で受けるが、直ぐに吹き飛ばされてしまう。さっきまでとは力もスピードも段違いだ。変化は少女の外見にも現れていた。
七色だった羽は全てどす黒い紅になり、両目も紅く爛々と暗く輝いている。ビビが入っていた剣は元へ戻り、鮮やかな赤から不鮮明な青色へ。
少女が飛ぶ。俺を見据えて叫ぶ。
『禁弾……【スターボウブレイク】‼︎』
少女の背後から大量の弾幕が降り注ぐ。どこまでも暗い光を纏ったそれは館の一角を破壊し、俺もろとも地面へと叩きつけられた。
「ぐあッ…」
弾幕の威力は凄まじく、全身がぼろぼろになっている。地面にもいくつも大穴が出来、刀は何処かへ吹き飛んでしまった。
「う…」
どうにか立ち上がる。だが、もう体が動かない。動いたとしても、直ぐに殺されてしまうだろう。スペルも、この状況を覆す程の力を持ってはいまい。
手に、スペルカードが当たる。一度も使わなかった、使えなかったスペル。
「まだ、ここで死ぬ訳には行かない…」
約束も果たせず、元の世界にも帰れずに死ぬのは嫌だった。せめて、何も出来ずに死ぬのは御免だった。
少女が俺へ突っ込んで来る。それを見据え、俺は、スペルを唱えた。
「反符ーー
ーー【オーバーライド】」
刹那、俺の全身から炎が吹き出した。魔力が溢れ、辺りを破壊して行くーー。
「⁉︎グ、がああああッ‼︎」
ーー止まらない。溢れた炎が俺自身をも燃やし、喰らって行く。
意識が遠のく。その中で、俺はまた、声を聞いた気がした。
『ー未だ死なれるのは困るのでな。今回のみ、私自ら出るとしようー』
俺の足元から、黒い焔が巻き上がる。それは俺の炎ごと俺を飲み込み、狂った様に燃え盛る。
焔が止む。視界が晴れると同時に、俺は意識を失った。